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9-34(242) ひっちゃかめっちゃか

すいません、第246部分と第247部分ですが、なんだか上手く読めない感じでしたので、意味内容はそのままに、誤字脱字、ほか主語の有無や行間などを適当に変えました。

 翌朝、マーレライの護衛を辞めたことをタケシに伝えた。


 彼に断りなく辞めちまったことが彼としては面白くないようで、少し説教を喰らったが、いやいや、断りを入れるだなんて、そんな暇があったかよってんだ。


 ま、事情が事情なだけに彼もそこまで怒りはしなかったが。


 そして、気になるオレの借金だが、なんと完済まであと一〇クランだっていうじゃないか。


 もう完済目前!


 炭坑だと永遠に減らないはずだった元金までもが、みるみるうちに減っていってる!


 こんな感動的なことがいまだかつてあっただろうか!?


 タケシはオレに、いま一〇クラン持ってたら受け取ってやると提案してきたが、オレは持っていないと答えた。確かに即金で払ってしまえば、今後の給金から抜かれることはなくなるのだが、手元にあるお金と、将来手に入る予定のお金の価値は等価じゃないからな。手元にお金がないと、いざってときに汽車にも乗れないんだから。


「次の仕事はまたすぐ用意しちゃるけえ、二、三日待っとれや。」


 とタケシは言った。


 それから、たまには一緒に飯でも食おうってんで、お昼をご馳走してもらうことになった。


 さすが、社長は違いますな!


 お昼を食べながら、タケシにだけは、と思って、ニコラがマーレライ暗殺を企んでいることを伝えた。知っていれば、相手の言葉の端々に滲み出る思惑にも敏感になれるだろうと思ってね。タケシへの小さな恩返しだよ。


 すると、タケシも


「聞かんかったことにするわ。」


 だってさ。


 たぶん、いま、この言葉が流行ってんだよ。



 危険な護衛の仕事も終わり、懸念していたタケシへの報告も無事に完了して、さらに借金も減ったとあって、本当、久しぶりにルンルン気分でフロア市のアパートに向かって歩いてたんだ。


 ルンルン気分ついでに、久しぶりに教会にでも入ってお祈りでもしてやろうかという気になった。たまにははした金を寄付するのも悪くないってな。


 フロア市フール町にある古くて名のある教会の門をくぐり、神に祈った。


≪どうか、オレにお金に困らない生活を……。≫


 愛だとか友情だとか、そういったものはお金のあとにくっ付いてくるんだから。


≪神様、借金を完済した暁には真っ当な人間になりますんで、どうかお願いしまさぁ。≫


 ゴーン、ゴーン……と響き渡る鐘の音色に呼応させるように、思いを強く、祈りよ届けと、胸の前で握り合せた手にギュッと力を込める。


≪贅沢はしません、博打にも手を出しません、危ない橋を渡って誰かを悲しませるようなこともしません、ささやかな生活を営むだけのお金でいいんです。お金を、お金をください。もしこの祈りを反故にされるなら、もしオレが落ちぶれて、誰かを犠牲にしてお金を得たって、見逃してください。≫


≪どうか、どうか、お頼み申します。≫


 お祈りを終えると、財布から五クー取り出して教会に寄付した。


 神様も今日はこれで一杯やってくださいって感じ。


 教会内の厳かな雰囲気の余韻に浸りつつ外に出ると、雲間から差した太陽の光がまるで天上と地上を繋ぐ架け橋のような形になっているのが見えた。いまにも神様がその光に導かれて降臨しそう。それはオレの幸先の良さを示すサインのように思えた。


 ああ、これは絶対良いことあるわぁ……。




 いいことしたなぁもう、とか思いながら、ルンルン気分で北へ向かって歩いていると、特徴的なシルエットをした女、カレンと出くわした。丸顔で背と手足はスラッとしてるのに、おなかがポッコリ出た陽気な仔熊さんだ。


「ダニー、なにしてるの? ケルン市に行ったんじゃないの?」


 人の顔を見るなり、まるでオレのケルン市行きが嘘だったんじゃないかと疑うような言い回し。まったくッ。


「ふん、ケルンにはもう行ってきたんだ。なにごともなく、無事に帰って来たところよ。」


 本当はいろいろとあったけど、一言では言い尽くせないし、誤解を招いても厭なので本当のところは黙っておく。


「あら、それはよかったね。」


「だから言ったろ? なにもなけりゃ、別に危ない仕事じゃなかったんだ。でも、もう辞めたけどね。」


「ふ~ん。そうなんだ。じゃあ、遊ぶ?」


 あんなに厭な別れ方をしたってのに、カレンときたらあまり引き摺っていないよう。これじゃ、オレの方が勝手にダメージを喰らってただけみたいで、馬鹿みたいだな。


 別れた日からずっと、カレンのことを考えなかった日なんてなかったってのに。


「遊ぶっつって、なにすんだよ?」


「いまどこに住んでるの?」


「フール町さ。こっからまだ結構歩くけど。」


「へえ、近いんだ? じゃあ、ダニーんチに行きたいわ。」


 陽気なカレンと話してると、なぜかフワフワと彼女のペースに持ってかれるんだよな。


「いいけど、なにもないぜ?」


「いいわよ、お酒買ってこ? あと、マッサージしてね。最近肩が凝っちゃって。」


 別れたのが嘘みたいなふつうの会話。いや、むしろ別れたから……かな?




 アパートの二〇三号室では、カレンの新しい就職先での話を聞いたり、ケルン市の様子を聞かせたり、按摩したりしながら一緒に過ごした。そして、夕方になる前に彼女は部屋をあとにした。


「ご飯作って持ってくるね。」


 と、彼女は帰る前に言った。


 同棲以前はそんな感じで世話を焼いてくれることも多かったが、もう別れたのに、と思うと遠慮しないわけにはいかなかった。それでも彼女はオレが無事に帰って来られたお祝いだからと言うんで、夜、改めてウチに来るって約束をした。


 彼女にかかると、事あるごとにそれがすべてお祝い事になるんだな。ああ、だから彼女の就職祝いもしなきゃいけないんだ。




 とりあえず部屋ん中を片しとこうと思い、さっきまで使ってた食器を洗ってたんだ。


 そこへドアをノックする音が聴こえてきた。


 カレン? 忘れ物かな?


 と思いながら、ドアを開けると、そこには呼んでもいない強面の兄さん二人が立っていた。


「どうも、ニコラさんの使いで来たんですが、よろしいですか?」


 昨晩の続きかなと辟易しながら、オレは二人の客人を部屋へ招き入れた。


 用件は案の定、マーレライ暗殺の件だった。当然、オレは断った。そもそも、あの話は聞かなかったことにしてんだから。ところが、オレの無碍な対応に相手もお怒りなのか不穏な気配を発し始めたので、


「なんだ? もしかして、協力を断るとオレ、殺されちゃうのかな?」


 と軽く尋ねてみた。


 すると、


「不本意ながら、そうなります。」


 だとよ。


 話の途中からヤバい雰囲気はあったんだ。処刑台の上に立たされて裁判されてる感じ。下手すればすぐにでも殺されちまうってね。丸腰なのもオレを弱気にさせたし、鉄板も今日は仕込んじゃいなかったし。


 だが、オレは相手のその言葉を聞いて、マフィアの中にもこんな間抜けがいるんだなぁと思った。標的に対して殺害予告とか、狂ってやがる。冷や汗滲ませながらも、腹ん中じゃ大笑いさ。いや、尤も、相手にしてみれば、いまの殺害予告はあくまで脅迫手段の一つでしかなかったのかもしれないが。


 だとすれば、相手はオレの答えを待たずにオレを殺せない。


 それがいまのオレの最大のアドバンテージ。


 相手の位置取りを確認する。


 小さな四角いテーブルの横手にオレ、両脇の長手に各一人。


「ふむ、これは長丁場になりそうですな。」


 そう言ってオレは席を立って、ワインの瓶を持ってテーブルに戻る。椅子には座らず、いままで知らん顔してた相手の前にそれぞれグラスを置いてやった。


 そして、グラスにワインを注ぎ終えたところで、ワインの瓶を素早く振りかぶって男の頭を殴った。


 ガシャン! パリン!


 音を立てて瓶が砕け散る。

 男の頭と衣服が赤ワインでビッショリになる。


 そいつがどんなダメージを負ったかを確認する余裕はない。


 殴ったのとは別の方の男のももに牽制のための蹴りを入れる。


 男が椅子から転げ落ちる。


 素早くそいつの背後に回り込んで、両腕で首を抱えてやって、頭と首から下の繋がりを断つつもりで、グッと捻り上げる。


 ゴキ……ゴキ……。


 厭な音が腕と耳に伝わる。


 視線の先にいる、瓶で殴られた方の男が拳銃を取り出している。


 咄嗟に男の死角になるテーブルの下の方に身を滑り込ませたとき、同時にバアンッと銃声が鳴った。直後、テーブルを蹴り上げる。同時にまた銃声が鳴り、ガシャンと窓ガラスかなんかが割れる音。


 視線を上げれば、男が飛んでくるテーブルを避けているところだった。まだ弾倉に薬莢は残っているはず。息吐く間もなければ、相手の懐に飛び込んでいる間もない。下手すりゃ二秒後には銃口がオレの心臓に狙いを定めているかもしれないんだ。


 体勢を整えた男がゆっくりと銃口をこちらに向ける。


 その動作は、とても緩慢に見えた。


 それがオレを殺す動作であることをオレ自身が認識しているから、走馬灯のようにゆっくりに見えるのか?


 男の銃口が完全にオレに向けられ、ピタリと止まった瞬間を狙って、オレは横に跳んだ。


 バアンッ。


 床に転がりながら、身体に痛みがないことを意識する。


 男がまた銃口をオレに向けようとする。やはり、その動きは緩慢としたものだった。


 まるで銃声の残響が耳を塞ぐように、いつまでも耳の奥に貼り付いていた。耳がイカれたかと思い、一瞬、恐ろしくなった。 


 男の手元を注視しながら、もう一度跳ぶと、着地と同時に、ガランッとなにかが床に落ちたような音がした。


 が、いまはそんなこと気にしていられない。男の方をジッと見てると、いま、男は目を見開いて、まるでオレを見失ったかのようにキョロキョロしていた。


 なんだこいつ?


 その隙に音のした方を確認すると、そこにはなぜか太刀たちが転がっているじゃないか!?


 オレの姿を認めた男が、再びオレに銃を向けつつあった。


 オレは咄嗟に太刀を拾うと、男の足元に滑り込んだ。そして、腹を抉るつもりで男の股下目掛けて太刀を突き上げてやった。これで即死してくれなけりゃ、頭上からの銃撃でオレの頭が吹き飛んじまう!


 太刀の先から血は出てた。だが、やったという感触に乏しかったから、間髪入れずに男の足を抱え上げてやった。とにかく、相手の体勢を崩すのが最優先。狙いを定めさせてはならないんだ。


 ガンッ、と男の頭が床に強打する音が響く。


 今度こそ、やった、と思った。




 二人の倒れている姿を見て、ひええ、と思った。部屋がひっちゃかめっちゃかになっているのを見回すと、ああ、と溜め息が漏れた。それから改めて死体を見て、吐いた。たぶん、カレンと一緒に飲んだお酒のせいだ。


 部屋の中に忽然と現われた不思議な太刀はといえば、死体の一つに突き刺さったまま縮んでゆき、卵になった。だから、それがいままでずっと温めていた仙八宝せんのはっぽうだったのだと判った。まるで雛を産んだ母鳥の心境。でも、武器に変化するならピンチになる前に変化してほしかった。


 一通り状況が飲み込めたところで、オレは二人の死体に声を掛けた。


「またえらく難しい仕事を請け負ったもんだな。今回の仕事は、難しいよ。」


 同情したんだよ。


 オレだったら、二人が請け負ったような仕事は遠慮しただろうと思うから。だから、二人の死体にはその言葉のあとにもいろいろと声を掛けた。


「主よ。この憐れな男たちにどうかご慈悲を。ついでに、オレにもご慈悲を。」


 最後にオレは神に祈った。これはケジメだ。冥福を祈ってやればこそ、現世の死体は名を失い、ただの肉と骨になったんだと、オレなりに定義した。でないと、死体に触れるのも恐れ多かったから。


 こいつらはニコラに命じられただけだし、個人的には恨みとかなかったし。


 それに、なにしろ神様には寄付した五クー分の幸せをオレにお届けしてもらわなければならないのだ。なのに、まだあれからオレには不幸しか訪れてないじゃないか! だから、いまの祈りには神様に幸せを催促する意図もあった。




 改めて部屋の惨状を見回してみた。


 目眩がしそう。


 滅茶苦茶過ぎて、なにから手を付けたらいいのか判らない。死体とか、大した粗大ゴミだよ。これがケルンの街だったら、荷車にシートでも被せて、船着き場に持っていきゃあ、勝手にカラスが処理してくれるってなもんだが……、と冗談染みたことも頭に浮かんだが、それがフロア市となると、どうしていいか勝手が判らない。


 警察に届ける?


 はは、そうしたら殺人犯の処理も一緒にしてもらえるから一石二鳥……って、それこそなんの冗談だってんだ。


 割れた窓からは容赦なく風が入り込み、カタカタと窓ガラスがいつも以上に揺れる。吊り下げた電球もギィ、ギィと揺れている。血の匂いが外に出てゆきやしないか気になった。床の血溜まりは染みになりそう。銃弾の痕も補修しないと……ああ、どうしたら。


 やるべきことが一挙に増えて、途方に暮れた。


 だが、それもニコラの仲間による復讐とか口封じだとかの予感に囚われてしまうまでのことだった。




 オレは急いで遠出の準備に掛かった。


 フロア市とポポロ市はマーレライ商会の目があるからダメだと思った。ケルン市もすぐに発見されてしまいそうだったから、ダメ。


 結局、誰もオレを知らない、まだ行ったことのない土地に行くよりほかに選択肢はなかった。


 五〇クランもあれば、自棄っぱちな逃避行も実現可能に思えた。


 最低限の衣服、下着に拳銃、身分証など必要な物を選別しながら、それほど大きくない鞄に詰めているときだった。


「わ~お。」


 という女の間抜けな声が割れた窓の方から聞こえてきた。


 通路に面した窓とはいえ、ふだん、その窓の前を人が通ることはなかった。


 血の匂いを怪しんで来たのか?


 キッと割れた窓の方を睨むと、なんと葵さんが目を丸くして部屋を覗いているじゃないか。


 って、なぜ、葵さんが!?

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