9-18(226) 靖と話した
久しぶりすぎてどんな感じに文章を書いていたか、よく覚えていないので、多少違和感あるかもしれません。
よろしくお願いします。
オレが靖に質問をした分だけ、靖もオレに同じ質問をしてきた。ま、相手の情報だけ聞き出してこちらのことは秘匿しておくなんて、ふつうの会話じゃあ、なかなかできないからな。
ところが靖の野郎ときたら、オレが当り障りのない質問をしているというのに、
「ところで、ダニーってふつうの子なん?」
っていう、ヘンテコなことを尋ねてきやがった。なんだその質問は? オレに対する疑念が丸判りじゃないかッ。
「いや、ふつうだよ。なんスか、それ? もしかして、イカレてるようにでも見えましたか?」
そんな質問をしたこと自体をやや咎める感じで言うと、
「うん、イカレてるね。ダニー自身は、そのことに気付いてないのかい?」
と靖、ニヤリと笑みを浮かべる。きっと靖はオレの周囲が獣人だらけだってことを知ってるのかどうかを聞いてるんだ。ここで気付いてると言うと、良からぬ疑いを抱かれるかもしれない。
「いや、そんなこと言われたの初めてですよ。ま、っつっても、人生の方は大概イカれてきてますがね。」
「ふん、人生……か。」
そう言ってグラスを傾ける靖。
「自分、何歳なん?」
「16歳。」
「ふふん、16歳のクソ餓鬼が人生を語るか。いいねえ。」
「16といったらもう大人さ。そういう靖さんこそ、何歳なんだ?」
「僕は……24歳、だけど、精神年齢は30歳だね。」
「24歳なら靖さんもまだ若造じゃないッスか。」
「だあッ、ダニーの1.5倍生きてんだから、充分でしょ。」
それから靖はこう続けた。
「ちなみに、僕の人生も大概イカレてるからね。あんまり人のことは言えないんだ。なんか、人生の設計図って、作るのは自分だとするじゃん?」
「はあ。」
なんかありがたいお説教が始まりそうな予感。
「ああしよう、こうしよう、こうなりたい、とかね。そうやって画を書いていくのは自分なんだけど、承認するのは神様でさ。僕の場合、ここ6、7年くらい、ずっと一つの目標に向かって、ああでもないこうでもないって、何度も何度も設計図を書き換えてたわけ。」
「へえ。」
「でも、どんなに書き換えても、神様からの承認が下りなくってさ、もうそっぽを向かれたんだ。で、今度は悪魔に設計図を見せてみると、こういう人生設計大好きですってさ、あっさり承認が下りるっていうね。」
「はあ。」
「ああ、悪いね。ちょっと酔い過ぎたみたい。」
よく分からないけど、自分で画を書いてるだけ偉いんだよなぁ。オレときたら、設計図なんて賭場でお金と一緒に捨てちまってるからな。
「いえ、気にしないでください。ちなみに、靖さんの人生の設計図ってどんな具合なんですかね?」
「それが、もう仕上がってるんだ。」
「はい?」
「今日、ここに来て、タケシたちに確認すべきことを確認することもできて、僕のやりたかったことは仕上がったんだ。このあとの設計図は用意してないから、僕にはもう明日が見えないってね。」
???
「それってあっちに戻るとかなんとかって言ってたヤツですよね?」
果たして、靖とタケシの秘密の話の内容に踏み込めるか。
「そう、それ。だけど、ダニー自身がまだまともだってんなら、話せない。それから……。」
靖はそう言うと周りの目を警戒しながら、オレに耳打ちした。
「できればタケシとは早めに縁を切った方がいい。タケシはまともな奴じゃないんだ。」
そう告げてまた元の姿勢に戻った靖の表情は、オレがいまの言葉をどう受け取ったかを窺おうとしているような感じだったから、オレはとりあえず間抜けっ面を晒しておいた。
「だから、できればダニーは僕ともあまり関わらない方がいいね。」
と、笑ってみせる靖。
しばらくすると、タクヤから仕事に出掛けるぞと声が掛かり、オレは慌ただしく部屋を出ることになった。暗くなりかけの空からはまだ雪が落ちてきていた。薄らと道に雪が積もっている。シャク、シャクと雪を踏みしめながら、オレとタクヤは最後の仕事をこなすために店に向かった。
結局、靖は謎の多い人物のままになってしまったが、お菓子屋に行けばいつだって会えるしな。




