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1‐9(22) ダンスパーチー③

今回ちょっと長いです

4000字オーバーです

しょっちゅう4000字とか超えてますかね?

 警官の登場により、ダンスパーチーは中止になった。



 ホール内にいた全員が集められて、警部からの事情説明を受ける。その説明によれば、どうやらこのパーチーを主催していた牡牛の午睡のオーナーが殺害されたらしい。殺害状況については現在捜査中で、犯人の特定はまだ。そして、今後の捜査への協力依頼を目的に、僕たちは全員が氏名、住所、オーナーとの関係を聴取されることになった。



 捜査への協力依頼とか言っているけど、要はこの場の全員が容疑者候補ということだろう。遠回しな言い方はおそらく貴族や軍人など地位の高い人たちへの配慮。ま、僕たちには関係のないことだからいいんだけど。それよりパーチー会場には何十人と招待されてたから、僕たちに順番が回ってくるまで長らく待つ必要があった。その間にパーチーに来ていた“ 牡牛の午睡 ”のメンバーとも合流して、今回の事件についての話に花を咲かせた。ひそひそ話だから、花といってもかすみ草くらいの慎ましやかな花だけどね。



 話題に上るのはオーナーが殺された理由やオーナー一家の今後など、親族にはとても聞かせられない類のものだ。オーナーは帝政復権をめざして軍閥と深く関わっていたから、共和制派の貴族に殺されたのだとか、オーナーの父母が健在だから、長男が家督を継ぐ日までは父母の支援を受けて未亡人が家を切り盛りするのだろうだとか、親類縁者も一枚岩ではなかろうから、その動向次第では今後も一波乱あるかもしれない、だとかね。



 オーナーはよく“ 牡牛の午睡 ”を訪れては店員ともコミュニケーションを取る人物だったらしく、みんなから慕われているようだった。ただ、政治活動に積極的に関わり始めたころから、店を訪れる頻度も少なくなっていたらしいが。



子供たちはパーチーで疲れてしまったのだろう、夫人の腕の中でスヤスヤと寝息を立てていた。



ホールにはいま、バイオリンとピアノの二重奏が流れている。誰かが、この演奏は未亡人の指示だろうと話していた。



 しばらくして店員たちが警官に呼ばれた。僕との三人と店舗の店員一人が残される。だがその店員もまもなく聴取を受けに行ってしまい、テーブルにはいつもの三人が残った。

 


「やっぱりこっちの世界にも仙八宝せんのはっぽうや術みたようなのがあるのかな?」

 僕たちだけになったのを機に玲衣亜が言った。

「どうだろう。オレたちのは利かなくなっちまったけど、この世界にも仙八宝のような物はあるかもしれないな。ま、ふだんは隠してるんだろうけど。」

「でも、仮にこっちに術や仙八宝なんかがあったとしても、今回のオーナー殺害とはあまり関係ないんじゃない?」

 僕もとりあえず思ったことを言ってみる。

「なんで?」

「ていうのが、もし仙道やなんかが術を用いてオーナーを殺害したんだとしたら、現場やオーナーの身体に術の痕跡が残るはずじゃん? そうじゃなくっても、どんな術を使えば今回の殺害が成立するかを考えれば、かなり犯人候補を絞れる気がするんだけど。」

「まあ、一概には言えないけど、そういう見方はあるかもな。」

 あら、ま、仙八宝や術にもいろんなのがあるんだろうね。とはいえ、この際だから思ったことをすべて話してみる。

「なのに、警官は屋敷内の全員を容疑者に見立てて、氏名、住所を書かせてから帰らせてるでしょ? つまり、今回の殺人事件は仙道であるなしにかかわらず、さらに老若男女問わず誰もが犯人である可能性を秘めている、と警官は考えているはず。」

「この世界の人間は道士だろうが一般人だろうが術を使えるとかだったら? そして、警官は誰がどんな術を使うのかを把握していない、とか。」

 と伊左美。

「それも可能性の一つだね。」

「いずれにせよ、この世界の人たちが術を使えるか否かは重要な問題だから、早めにはっきりさせときたいとこだね。」

 と玲衣亜。

「そうだな。相手は使えるとなれば、こちらの出方も考えなけりゃならんしね。」

 伊左美が玲衣亜の言葉に同意する。

「ホンットにッ。」

 そう言って大きく欠伸する玲衣亜。

 そこへ、玲衣亜の背後から声がかかる。



「あら、まだ待たされてるのね。」

 玲衣亜が欠伸をしながら仰け反って見上げた先にあったのは店員の一人、ポーラさんの顔だった。

 大口を開けたまま固まる玲衣亜。

 その顔を見て吹き出すポーラさん。

「ふふふ、玲衣亜さんって愛嬌あるよね。」

 玲衣亜は一度口を閉じると下唇を噛んだ。間抜け面を見られたのが悔しいみたい。そして、今度はきちんとポーラさんの方を振り向いてから、「だって可愛いいんだも~ん」とおどけてみせたが、ポーラさんは失笑を漏らす。

「ちなみに、いまの私たちの話って聞いてた?」

 玲衣亜が確認する。

「え? いまの術がどうのと話してたヤツ?」

 わお、バッチリ聞かれてるねッ。

「ん、ちなみにどこらへんから聞いてたわけ?」

「どのへんって言われてもよく判らないけれど。」

 困り顔のポーラさん。

「ちなみに、ポーラさんは術ってものに興味あったりするの?」

 ええ? 玲衣亜なに言ってんの? もしかして探りを入れているつもりなのかな。

「まあ、多少は。」

「心得はあるん?」

「ええ、玲衣亜さんは?」

「ええ? ないよッ?」

「あら?」

「ちなみに、ポーラさんはどんな術を使えるの?」

 こっちの人も術を使えるのかぁ。まずいなぁ。

「いえ、たいしたことないんだけど。ただ、遠くの音や小さな音を聞き取れるというだけで。」

「あら、すごいじゃないッ。」

 うん、すごいと思うわ。

「地獄耳だねってよく言われるわ。」

 ポーラさんはそう言って微笑んだ。ああ、そっちですかって、え?

「そりゃすごい術じゃんって、ちょっとッ。それただのアレじゃんッ。」

 玲衣亜がツッコミを入れると、ポーラさんは歯を見せて笑った。おいおい、ただの冗談かいッ。もうッ、心臓に悪いわッ。



「でも、アレね。あれほどみんなから慕われていたオーナーが殺されるなんて。まるで悪い夢でも見ているみたい。」

 ポーラさんが沁みじみといったふうに言う。

「だね。」

「玲衣亜さんたちが術だなんだとファンタジーに解を求める気持ちも判る気がするわ。」

 ん? どういうこと?

「と、いいますと?」

 思わず口を挟んでしまった。

「ほら、アレでしょ? 最近、とは言えないかもしれないけど、一時期魔女が現われたとかって噂があったじゃないですか?」

「え?」

「え?」

 あ、聞き返しちゃった。これにはポーラさんもビックリしたみたいね。でも、え? なに? そんな噂あったっけ? 伊左美と玲衣亜の方を見ると、玲衣亜が「うん、あった、あった」と相槌を打っていた。あッ、思い出した。子供たちの噂話のことかッ?

「いえ、てっきりこの事件が人の手によるものでなくて、魔女による犯行じゃないかって話しているのかと思ったの。だって、あんな素敵なオーナーが誰かの恨みを買ったりなんだりで殺されたなんて考えたくないじゃない?」

 話をよく理解していない僕たちのために、ポーラさんが一生懸命に解説する。

「ああ、はいはい。なるほど。」

 ようやく合点がいった。

「でも、あいにく私たち勤めて日が浅いから、オーナーがどんな人だったのか全く知らないんだよね。」

「ああ、そう言われればそうだね……って、え?」

 再び怪訝な表情を浮かべるポーラさん。

「はい?」

 その反応に疑問符を浮かべる玲衣亜。

「え? 魔女が関係ないとすると、玲衣亜さんたちのさっきの会話って、一体、なんの話だったの? あらヤダ、まさか真面目に術がどうのと話していたの?」

 ポーラさんが驚いたように片手で口元を押さえ、恐怖と憐れみを湛えた視線を僕たちに向けている。いや、まあ、こっちの世界の人が術を使えなけりゃ、そりゃこんな反応になるよね。いいんだよ? どんなに嘲笑ってくれても。返す言葉も見つかりゃしないんだから。



 わずかな沈黙。いま、玲衣亜はたぶん、頭をフル回転させて起死回生の回答を求めてるんだろう。ここで変な誤解を生んでは、玲衣亜も責任を感じちゃうだろうし、僕はそうならないように、天に祈りまくるよッ。

「誤解よッ、ポーラさん。実は私たちの故郷には仙人といって術を使う人の伝説があって。」

 おおっと玲衣亜選手、ここでストレートを選択するのか? ポーラさんは先程の表情を継続中だけど、聞く耳はもってくれてるみたい。

「警官が犯人を特定できてないってんで、もしかすると仙人による犯行じゃないかって。それで、術を使ってんなら仙人の仕業だってすぐ判るはずだとかって話になったんだ。」

 伊左美が玲衣亜に助け舟を出す。ナイスフォロー、伊左美ッ。

「仙人?」

「そうなんだッ。ウチらの地元じゃ有名なんだよッ。仙人が誰それに罰を与えて殺したとかって噂が数年に一度は流れるん。」

 玲衣亜さん、ここで罰を与えてって理由はまずいんじゃないですかね?

「そ、そうなんだ。」

 ポーラさんはなんと応じていいたのか判らないといった様子。これじゃ、誤解が解けたのかどうなのか判らないね。



「ところで、魔女っていうのも術を使うもんなんですか?」

 魔女は魔術を使うって話だったじゃない? だから、僕たちが仙人とか術を話題に会話をしていたって、なんら可笑しなことはありませんよ、あなたたちが魔女の噂をするのと同じですよ、と暗に臭わせたいがための質問だ。だけど、ポーラさんはその質問に対し一瞬怪訝な表情をみせた。うはッ、明後日の方向に話題を変えた方がよかったかな? 早速襲ってくる後悔の念。ところが、まもなく要領を得たといった明るい顔をみせるポーラさん。ああ、たぶん僕たちが田舎者の世間知らずだということを思い出したのね。便利だわぁ、無知っていう設定。ていうか、ホントにこっちの世界のことについては無知なんだけどねッ。

 ポーラさんは咳払いを一つ挟むと、魔女についての説明を始めた。



「魔術ですか? そりゃあ恐ろしそうだね。」

 伊左美が大袈裟に怖がってみせる。

「ええ、人を呪ったり、得体の知れない毒や薬を調合してみたり、恐ろしいなんてもんじゃありませんよ。」

「魔女が現われたって噂だったけど、ふだん、魔女はどこに隠居してるの?」

 玲衣亜が尋ねる。

「はあ?」

 ポーラさんは一瞬唖然としたようだったが、大笑いして玲衣亜の言葉をやんわりと否定する。

「隠居だなんてッ。まあ、魔女は老婆だって相場が決まってるからね。大人しく隠居してりゃ世話ないけど。はあ、隠居はいいねッ。」

 なになに? 玲衣亜はいまそんな面白いことを言ったの?



「ちょっと、なに大笑いしてんの? 不謹慎じゃないッ。」

 ポーラさんが大笑いしてるとこへルーシーさんが戻ってきて、開口一番、僕たちをたしなめた。



 うう、申し訳ないですぅ。

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