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8-28(206) カード作り①

 仙人の泉の畔、辺りは深い森に覆われていて、頭上の月明かりがゆらめく水面を照らしている。火は起こしていない。小夜さんが屋敷から逃げ出してきたもんだから、周りを警戒してるんだ。

 時間がないと小夜さんが言うから、爺様によく確認もせずに「じゃあ、行ってくるね」とだけ言って出てきた。別れ際、爺様は難しい表情をしていた気がする。カードの作製方法を私に教えることに関して、小夜さんはすでに爺様には話をしていると言った。



「葵がカードを作れるようになれば、異世界へ行くのに爺さんのところに行かなくて済むからな。それが爺さんには寂しいんじゃないか?」



 私の漠然とした不安に小夜さんはそう答えてくれたけど、なんか違う気がする。爺様は私がカードを作ることについて、どう思ってるんだろう。



「カードの作り方を教える前に……」と前置きして、小夜さんは術のカードの危険性について話してくれた。誰かに悪用される可能性、社会不安を招く可能性、自分を変えてしまう可能性……。

 なんでも小夜さん、初めて異世界へ行ったとき、転移の術で異世界に現われる瞬間を警官に見られてしまい、連行される羽目になったらしい。



「術も使い方次第でいくらでも悪さができるからな。多くの他人は相手が持つ異能に対し、あの術があればこんな凶悪なこともできるぞってな、悪い方悪い方へ想像力を働かせるんだ。」



 確かに転移の術を使って泥棒とか私も考えたことくらいはあるしね。実行に移したことはないけど……それをしてしまうと、転移の術を使えるからってだけでツベコベ言うなって、例えば誰かに私が術師であることがバレてしまったときに言えなくなっちゃうもんね。

 自分を変えてしまうというのは、カードがあれば異世界内で異世界へ転移できるようになるから、これまでより術の利便性が高まるのに伴って私自身に欲が出てくるんじゃないかって憂えてるみたい。うん、カードを作れたとしても、あまり調子には乗らないよう肝に銘じとこうね。



 一通りカードを持つ者、作る者の心構えを説かれたあと、いよいよ話はカードの作り方に及んだ。小夜さんがまず見せてくれたのは縞々模様のある石だった。

「天眼石といってな、カードにはこの石を砕いた物が混ぜられている。」

「天眼石って、装飾品とかになってたりするヤツですか?」

「ああ。だが買うと高く付くからな。北の山に行けばすぐ見つかるさ。山肌が削られたりしてるところを見れば、天眼石の模様になってる部分とかあるから、そこから切り出せばいい。」

「紙は?」

「そこらへんに転がってる藁でも使えばいいさ。」

 藁?

 そこから紙の作り方について多少の問答があり、私にも紙が作れるんだということが判った。ちょっと面倒そうだけど、カードのためなら仕方ない。

「で、これがそのカードの原紙なんだが。」

 そう言って小夜さん、白紙のカードを鞄からたくさん取り出した。この白紙のカードが天眼石の混ざった厚紙ということだろう。そして、次の工程に移る。術師の血をカードに塗布し、術を血に溶かすイメージではなつとのこと。いや、放つ……と言われましてもぉ。術を放ったことがないんですが。

「葵は術師としては三流だな。」

 私がちんぷんかんぷんになってるところへの小夜さんの厳しい一言。

「ふだん術を使うときに気が流れてるだろ? それをいまはカードに付着した血に流し込むんだよ。」

 出た……気だよ。気ってなに? 魂だっていうんでしょ? 思い返せば以前、黄さんから仙八宝せんのはっぽうを渡されたときに私はこの問題から目を背けてきたんだ。マーカスさんはよくがんばったよね。改めてマーカスさんのことを凄いと思うわ。



「一つ試してみようか?」

 小夜さん、私に術を掛けるとか言い出した。なんでも、私が小夜さんの術に抗えるかどうかを見たいんだそうな。



「どう?」

 小夜さん、施術中。

 ……、う~ん、ちょっと頭にモヤが掛かった感じ。

「なんだか頭がぼ~っとしたような気がします。」

「なるほど、少しは施術されてるのを意識できるみたいだな。」

「はあ。」

 よく判んないけどね。

「じゃあ、次はもっと強めに術を掛けるよ。といっても、施術は完了させない。完了一歩手前の状態を敢えて維持するから、抗ってみせろ。」

 あ、また頭ん中があやふやになってきた気がする。うう、どうすればいいのか。力んでみても深呼吸してみても変わりなし。ホントだったらもう小夜さんの術中に嵌ってるとこなんだよね?

「どう? 抗えてる?」

「いや、よく判らないんですが。」

「じゃあ、そのまま本チャン行くぞ。」

「え?」

 次の瞬間、頭のモヤがキレイに晴れた。

 ただ、同時に目の前が真っ暗になった。一体、なにをされたの?

「目は開くか?」

「え? え? 開きません。」

 なんで?

 あ、開いた。

「いまの、小夜さんの術で?」

「ああ、目を開かないようにした。」

「小夜さんの術ってやっぱ怖いッスね。」

「私の術なんてたいしたことはないさ。それより、早いところ気の流れを掴むんだな。夜明けまでに葵の魂を見せてみろ。」

 魂を見せろという言葉に、いつかのマーカスさん絞殺未遂事件の光景が頭をぎる。

「あ、あのぉ。」

「なんだ?」

「魂って、つまり、その、成仏間際というか、三途の川を渡ってる途中に見えるんですかね?」

「は? なに言ってんだ?」

「いえ、なんでもないです。」

 それから小夜さんにアドバイスなど貰いながらがんばってみたのだけど。



 空が明るくなってきた。

 時間切れだ。

 結局、カードを作ることはできなかった。

 小夜さんキレちゃう?

「ふう、もう夜が明けるな。場所を移そう。」

 うう、徹マンよりキツイよぉ。

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