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8-25(203) 帰した

短め。


もう少し書いておこうかとも思ったのですが、夜も遅くなったんでとりあえずアップしました。



 昨日は結局徹夜だった。日が昇り、最後の半荘が終わったあとはみんなそれぞれテーブルに突っ伏したり床に板を敷いたり思い思いの恰好で眠った。私は熱い熱い紅茶を入れた。眠気を覚まそうと思ったんだ。でも、日が高くなるのを待たず、私もいつしか眠りに落ちた。



 爺様が起こしてくれて、こうさんが迎えに来たぞと言った。いま何時? 部屋の中が薄暗いのは、爺様がまだ眠っているほかの三人に気を遣ってのことだろう。一〇時か。一応、さっきよりは若干頭が軽くなった気がした。

 寝癖も直さず、ひとまず黄さんに挨拶してから、身支度を整えた。爺様の家を出てまもなく、「昨日は徹夜だったのかい?」と黄さんが心配してくれたが、どう答えようと“じゃあ休んでな”とはならないだろうから、麻雀ってやっぱ楽しいですねと返しておいた。

 白帝虎はくていこの背に四人は乗れないから、黄さんが二往復することになった。

 そして、黄泉よみさんと異世界人二人の面会。二人は拉致犯に連れられてる途中に逃げ出して、その後は連邦領内でサバイバルしてたことになってるから、基本的になにを聞かれても判りませんで通させた。実際、事件のこととなると二人が知ってることなどほとんどないのだ。

 質疑応答が終わると、黄泉さんが最後に二人に謝罪して、それから二人を異世界へ帰すことになり、黄泉さんから転移の術のカード二枚を受け取った。私はここぞとばかり意識を覚醒させて、マーカスさんとケビンさんにお別れを告げた。ケビンさんにはマビ町に偵察に行けなかった旨、こっそりと謝罪した。二人と握手する。パワーアップしてることを抜きにしても、二人の握手は力強く、感謝とか別れるのが惜しいとか、そんな感じが伝わってくるようだった。私も負けまいと力を込めたんだけど、きっと弱々しくてなにも伝わってないよね?



 転移の術のカードの使用方法の説明を受けて、じゃあ黄さん、二人をお願いしますとなったとき、黄さんが「向こうの世界に行くのは葵さんだよ?」と言った。もちろん、私は渋った。いまでも十分微妙な立場なのに、さらに“ 異世界へ行ったことがある女 ”という肩書が付くのは御免だった。それにマーカスさんもケビンさんもすでに黄さんが引率することに同意してるしね。だから断りつつも黄さんに異世界へ行くことを勧めてみたのだけれど、黄さんはなにがなんでも向こうへ行くつもりはないのだという。

「ケビンから向こうの世界の話は聞いてるから。」

 だからなんだってのよ? 百聞は一見に如かずって言うでしょぉ?

「聞くと見るとは大違いってこともありますよ?」

 なぜ黄さんが頑なに異世界へ行くのを拒否してるのかが判らないんで、もしかすると私が試されてるのかと変に勘繰ってしまう。本当なら、わあ、異世界なんてぜひ行ってみたいわッ、と反応しなければならなかったのかもしれない。ま、いまさらだけど。



「確かにね。いや、だからこそ、私は行きたくないんだ。目を閉じれば、瞼の裏にはすでにケビンから聞いた異世界の街の様子が広がっているんだ。それはとても美しかったり、汚れていたり、暗澹としていたり、洋々としていたり、ね。想像の世界は夢見てるうちが花。それをわざわざ壊したくないんだよ。」



 黄さんはケビンさんの話に酔ってるようだった。「葵さんも長く生きてりゃ判るよ」と黄さんは言ってたけれど、あいにく私は仙人様のように長生きするつもりはありませんので。

 結局、やむなく私が二人を連れてくことになった。私であれば、○印付きのカードでリリス市へ転移しなくても直接マビ町に行けるのだが、爺様に召喚も頼んでいないし、カードは○付きと無印の二枚しかない。なので、先立つ物を黄泉さんに要求してから、異世界へ転移することになった。



 到着したのはリリスの街だった。黄泉さんから渡された金の板を質屋に持ってって換金し、一路ケルンの街へ。私はマビ町まで行くことなく、二人とは駅前で別れた。駅前から伸びる大通りを歩く二人の姿が次第に小さくなる。



 ここから先は二人のこっちの世界での人生なんだ。



 しばらくリリス市でプラプラして、それから白くま京の宮廷内、黄泉さんの離れに戻り、二人を帰した旨を報告。それから黄泉さんに爺様の家まで送り届けてもらった。



 爺様は元気がないようだった。麻雀で大負けしたのが響いてるのだろうか? いや、そんなことじゃないな。きっと黄さんにカードのことを愚痴ぐち言われたことを気にしてるんだ。案の定、爺様は今後は異世界への行き来を必要以上に行なわないようにと私に釘を刺した。向こうへ出入りしてる獣人たちのこともあるから、ある程度は仕方ないにしても、確固たる用事がなければ転移することは許さないのだという。少なくとも、異世界へ出入りしている獣人たちの件が片付くまではってね。



 あ~あ、面倒なことになってきたな。

 これからは爺様の審査も厳しくなりそう。気が向いたら向こうへ行って、ショッピングとかカフェを楽しむなんてこともできなさそう。これまでだって頻繁にそんなことしてたわけじゃないけれど、禁止されると生活に張りがなくなるような気分。私はこれからなにを楽しみに生きていけばいいのよ?



 だから思い付いてしまった。小夜さんに頼み込んで術をカード化する方法を教えてもらえばいいんだと。一人で行くと気遅れしちゃいそうだから、玲衣亜れいあさんか伊左美いさみさんでも誘ってみようと思った。この二人なら、私が転移の術のカードを作ることにも協力してくれるはずだし。

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