8-22(200) 黄泉さんと交渉
もう200話ですね
ここまで長くなるつもりはなかったのですが(汗
黄さんによれば、黄泉さんはふだん、白くま京の宮廷内に詰めていて、しろくま京の守護を司っているのだという。宮廷内とか私には一生縁のない所だと思っていたけど、今回は黄さんに付いてくだけだから、場違いだとか、怒られやしないかだとかの心配は不要だよね?
黄さんの霊獣である白帝虎に相乗りして宮廷上空を旋回しながら、どこに降りようかと思案しているところへ、宮廷の方から一匹の霊獣が現われて私たちの方へ駆け上がってくる。霊獣の背には黄泉さんの姿が。おそらく私たちを叱りに来たんだわ。でも、一緒にいるのが黄さんだとやっつけられるっていう緊張感がなくていいね。いざとなれば黄さんの方がやっつける側に回れるんだもの。
「蓮さんッ?」
黄泉さんが訝しげに大声を出す。
「やあ、ちょうどよかった。どう入ったものか迷ってたんだよ。」
さすが黄さん、黄泉さんの怒気など意に介していない様子。
「ちょうどよかったじゃありませんよッ。宮廷上空を霊獣で飛び回るなんて、聖・ラルリーグの天子様に対する反逆だと疑われても反論できませんよッ。」
黄泉さんカンカンの巻、だね。
「ま、落ち着け。殊、私に関しては反逆など意味のないことをするわけがなかろう。なに、今日は黄泉に用があって来たんだよ。ささ、中に案内してくれ給え。」
「私がいたからよかったようなものの、知らぬ者が対応していれば一悶着あっておかしくない場面ですからねッ。おおふ、葵さんも……。はあ、ま、付いて来てください。」
黄泉さん、心中お察しします。
宮廷内の小さな離れに通された私たち。この離れは黄泉さんと弟子たちで使っていて、女性である折戸朱鷺だけは官舎で寝起きしているのだという。
さて、本題に入る前の様子見か、黄さんは異世界産の銃が発見された五年前の事件を振り返り、そこから異世界人拉致事件、異世界人に扮した仙道たちの捜査状況などの話を黄泉さんに振った。
これまでまったく手掛かりが掴めなかった異世界人に扮した仙道たちに関しては、連邦で転移の術のカードが見つかったことから、彼らは聖・ラルリーグ側の仙道ではなく連邦側の仙道なのかもしれないと黄泉さん。これからブロッコ国に聖・ラルリーグ軍と仙道の駐留が始まれば、同時にカードの捜索と悪戯をした仙道の炙り出しも進める予定なのだとか。とはいえ、カードは連邦で発見されたものの、異世界人拉致事件には元十二仙の六星卯海が絡んでいたことから、聖・ラルリーグ側の仙道への疑念が完全に晴れたわけではないと考えてるらしい。
「ま、嫌疑を掛けた当日、連邦内で行方を晦ましていることから考えてみても、事件の黒幕は連邦側の仙道と見て間違いなさそうですが。」
虎さんたちが活動自粛したいまとなっては犯人探しも難航するだろう。なのでいま一番の不安要素は黄泉さんたちが異世界へ行くつもりがあるのかどうか、というとこなのだが。私がここでそんなことを尋ねるのも出過ぎた真似だと思うし、下手に目立ちたくもないから、ずっと大人しく座ってるに如くはない。
「やれやれ、異世界が絡んでくるとやはりこちらの世界は慌ただしくなるね。あの世で相楽一がほくそ笑んでる姿が目に浮かぶようだ。」
「ああ、一さんですか。」
黄さんの言葉の意味することをすぐ理解したかのように、感嘆を漏らす黄泉さん。きっと黄泉さんも一ちゃん存命のころから仙道をやってたんだろう。
「ところで、連邦から取り上げた異世界行きのカードだが、もうどうするか決まったかい?」
それよッ。それが私も気になってるのッ。
「いえ、まだなんとも言えません。なにしろニューリーグ城塞で保護していた連邦の女も攫われてしまいましたし、連邦側も異世界のことについては異世界滞在組が帰ってからでないと判る者がいないとシラを切ってますし。いえ、こちらの世界に統括者を置かないのもありえない話だとは思っているのですが、奴らのことですから、本当になにも考えずにことを進めている可能性もないとも言い切れませんからね。まだ、情報が全然足りません。下手に私たちが異世界へ進出すれば、また連邦側が競って異世界へ進出しないともかぎりませんし。聖・ラルリーグが異世界へ行くなら、連邦が異世界へ行っても咎められる謂れはなかろう、とかね。相手に異世界進出を是とする口実を与えることにもなりかねませんので。」
「要するに、すべては連邦への駐留が始まってから、というわけだね?」
「そうですね。そういうことになります。」
「だけど、基本的なこちらの姿勢としては、カードはすべて破棄する。ということでいいんだろう?」
「それはもちろんです。」
「うむ。よろしい。いや、私もその点が気になっていてね。本来ならこうした政治的な話には口出ししないんだが、なにぶん異世界が絡んできてるし、私も女が攫われた件については容疑者候補に挙がった身だから、少々ことの成り行きが気になってるんだ。」
「異世界絡みだから、というのは私たちも同じです。異世界の件がなければ、聖・ラルリーグと連邦との間の問題など人間の官吏と軍隊に任せてしまうのですが。」
「そうだね。基本的に我々が表舞台に出ることはないはずだから。」
なるほどね。そう考えると黄泉さんは約五年もの間、異世界の件に悩まされてるわけか。いやいや、黄泉さんにとっては五年なんて瞬く間だったのかもしれないし、私が気に病むことじゃないか。いずれにせよ、基本姿勢としてカードは破棄するという言質が取れただけでもよかったわ。
「で、だよ? カードを破棄する予定だというので頼むんだが、一枚……いや、二枚か。カードを二枚、譲ってはもらえないか。」
話はついに本題に入った。
当然、黄泉さんは黄さんの申し出を突っ撥ねる。そこで黄さんが用意していたカードはマーカスさんとケビンさんの異世界人二人だった。
異世界人拉致事件で全員死亡と伝えられていた異世界人だが、昨日、連邦との国境付近を白帝虎でツーリング中に生存者二名を発見したという話を拵えて、二名を無事に異世界に帰還させるためにカードが必要なのだと。
黄泉さんが黄さんの話の信憑性に疑問を呈したところで、私の出番。私も異世界人を発見した現場に居合わせたから、黄さんの言うことに間違いはありませんと証言する。なぜ居合わせたのかって? そりゃ、黄さんと一緒にツーリングデートしてたに決まってるじゃないですかぁ……って、その言い訳には素直に同意しかねたんですが、同意せざるを得ず。で、私たちのそもそもの関係は爺様を通じて知り合い、天さんのお見舞いを通じて仲良くなった、と。
いろいろ脚色されてはいるものの、各所に真実が散りばめられているので、黄泉さんが違和感を覚えることもないだろう。“ 白帝虎で連邦との国境付近をツーリング中に異世界人を発見 ”の部分からして真実だからね。時期は異なるけど。
黄泉さんはマーカスさんとケビンさんとの面会を求めた。これに関してはさすがの黄さんも円満にことを進めるために応じざるを得ず、明日のお昼前に二人を黄泉さんに引き合わせることになった。
帰ってから二人とは十分にロープレしとかないと、ボロを出すと黄さんと私が危ないからね。でも、これでカードを二枚入手できるのなら、悪い条件じゃない。
「そうそう、さっきの話で判ったと思うが、葵さんは蒼月さんとも友達だった人だから、あまり無碍に扱うでないぞ。」
帰り際に黄さんが黄泉さんになんか念押ししてた。良かれと思っての言葉なのかもしれないけれど、そういう嫌がらせ、やめてもらえるかしら? 私、あまり目立ちたくないんですけど。虎さんの屋敷のおさんどんの葵でたくさんだよ。




