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8-17(195) 黄さんと爺様の話

 こうさんは先日招集された議会に爺様の姿がなかったので、心配になって爺様を訪ねたらしい。爺様は呼ばれなかったから行かなかっただけなんだけどね。黄さんにはそれが信じられないみたい。



 自分も容疑者として呼ばれたのだから、爺様も容疑者として呼ばれていなければ道理に合わない……というのが黄さんの見解だ。



 黄さんはふだんの素行がよろしくないので、靖さんのメモからの容疑者洗い出しに見事引っ掛かってしまったみたい。で、爺様は兵士の証言の方で引っ掛かるじゃないか、と黄さん。あいにく爺様には槍も刀も通るわけだが、問題は爺様自身ではなくて、爺様の召喚できる人物に兵士の証言の条件を満たす人物がいるだろうというわけ。ま、いるにはいるけど、そのへんは日頃の行ないの差なのでしょう。



 だけど黄さん、ブー垂れながらも実はそんなことどうでもよかったみたい。肝心の用件はまったく別だったのだ。



「異世界へ転移できるカードというのを、連邦が持ってたというんだ。話によれば、そのカードは転移の術と同じように作用し、且つ術師でなくても使えるというんだよ。」

 そう、黄さんの用件とは異世界へ転移できるカードの件だったんだ。

 黄さんはカードの制作者が相楽さがらはじめだろうと推測しており、爺様にその推測を突き付けるも、爺様はカードのことなんて知らんと惚ける。ただ、惚けてはいるものの、異世界と転移の術の両方と接点があるのは一ちゃんだけだから、黄さんの推測どおりであろうと、爺様も黄さんの推測に同意を示す。



 それから丁寧にカードの見た目などの詳細を話す黄さん。どうやら黄泉よみさんはカードを議会にてお披露目したようだ。ただ、使い方までは議会では明らかにしていない模様。これは使い方を知らないのではなく、議会の連中が面白がってカードを使用しないようにするための黄泉さんの機転だろう、と黄さんは推察してるみたい。



「カードは七〇枚あるらしい。それもいま見つかっているものだけ、でだからね。まだ発見されてないだけで、もっとたくさんのカードがあると見た方がいいだろう。」

 ここまで黄さんは淡々と転移の術のカードについての概要を爺様に説明してるだけど、その目的はなんだろう?

「オレも異世界への出入りが禁止になってからは兄貴とほとんど会ってないからな。オレが召喚しなくなってからも異世界とこっちを行き来してたのは知ってるが、カードを使ってとか、その方法までは知らなかった。」

「うん、おそらく方法は誰も知らなかっただろう。一は口を割らなかったし、私たちの言うことにも耳を貸さなかったから。それに、カードという形にして異世界とこちらを行き来する手段を遺しておくなんて、まさか誰も思いつきやしないし。一さえいなくなれば異世界との接点はなくなるものだと、当時は誰もが思っていたからね。」

「処刑の前に、方法を追求しておけばよかったと?」

「いや、あの場でカードの存在を知らずに追及するなんて無粋な真似、誰にもできやしなかったよ。だから、別に過ぎたことについてとやかく言う心算つもりはないんだ。」

 爺様を問い詰める気はないってこと? 実は下手したらマーカスさんより先に爺様の命運が先に尽きてしまったんじゃないかとか思ってたりしたんだけど、杞憂だったってことでいいのかしら?



「で、爺さんに聞いてみたいのは、連邦にばら撒かれているこのカードについて、爺さんはどう思ったかってとこなんだけど。」

「む、兄貴は異世界の調査を続けたがっていたからな。聖・ラルリーグでは調査続行が困難と見て、連邦側に異世界の調査の継続を託したんだろう。もしくは、連邦側に転移の術師が誕生した、とも考えられるが。まだそのカードの制作者が兄貴と決まったわけではないんだろう。」

「前者の方に関しては、なるほどそういう解釈の仕方もあるかと頷けるが、後者の方は爺さんの希望的観測にすぎないね。どうしたってカードは一にしか作れんよ。なにしろ異世界ってのは、あいつが酔っ払った挙句に偶然行き着いた場所だからね? 転移の術師だからといって、ホイホイ行ける場所じゃないんだよ。それは爺さんも知ってるだろう?」

「まあな。」

 ああ、その話なら前にてんさんに聞いたことがあるわね。



「自分の夢を後世に託して世を去るなんて、なかなかロマンのある話じゃないか。ただ、私の解釈は爺さんとは違ってね、私的にはこのカードは一の呪いだと思ったんだよ。」



「呪い?」

 なんかまたオカルトめいたことを言い出したわね。

「聖・ラルリーグ側で異世界行きを禁じたもんだから、一はその腹癒せにカードを連邦にばら撒いたんじゃないかと思ってね。いずれカードの存在に気付いた連邦が異世界へ行き、軍備を整えて聖・ラルリーグに戦を仕掛け、聖・ラルリーグに大勝するという未来を夢想したのかもしれない、とかね。異世界との交流を開始した連邦に大敗を喫する聖・ラルリーグ……そんな有様を見て、一は草葉の陰から私たちのことを嘲笑いたかったんじゃないかって。」

 この黄さんの考察は案外ありえるかもしれないから怖いわね。そう、すべては議会への復讐なんだわ。

「まあ、実際連邦としてはそのように動く手筈だったんだろうが、ニューリーグ城塞から連れ出された女の証言のおかげで未然に計画を阻止できたってとこかもな。」

「そうだね。で、だよ? 爺さんとしてはこのカードをどうしたいとかある?」

「そんなのオレの知ったことじゃねえ。議会が決めるこったろう?」

「それはそうなんだが、一応、爺さんの個人的な意見も聞いておきたいと思ってね。」

「オレの意見は前と変わらねえ。異世界との行き来は禁止になったんだ。だから、当然、カードも即刻処分されるべきだ。」

 うう、この会話は聞いてるとハラハラするわ。

「判ったよ。では、私もそのように動くとしよう。」

「ええ? そらぁどういうことだよ?」

「なに、どうってことはない。私はただ、暇潰しがしたいだけだよ。」

「オレの考えを聞きに来た意図が判らないんだが。」

蒼月そうげつさんがいなくなったからね。誰かに相談したいとか、話をしたいとか思ったら、相手が爺さんしかいなかった。それだけのことだよ。」

「ああ。」

 黄さんの言葉に小さく呻く爺様。

「それで、そのように動くとは、具体的にどうしようと思ってるんだ?」

 爺様が黄さんに尋ねる。

「それは内緒。」

 黄さんのろくでもない返事に、爺様は変なことはするなよと釘を刺すに留まる。



「ああ、でもカードが処分される前に、一枚はくすねといた方がいいかな。ケビンとマーカスの二人にもいずれは故郷に帰ってもらってもいいんだし。」



 そう言いながら、黄さんが目を爛々と輝かせて私の方を見る。

 あ、ついにマーカスさんが天に召されるときが来るわ。

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