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8-14(192) 留守がち

 ダニーに教えられた住所に幾度となく足を運んでみたが、ダニーはいつも留守だった。

 住所の聞き間違い?

 メモの書き間違い?

 あるいは仕事先で下宿を世話されたとか?

 ダニーの住むアパートを訪れてもう三日目になる。そしていまの時刻は午後九時。まったく、どこほっつき歩いてんのやら。それとも怪我で入院とか? 病気とか? マーカスさんは「仕事を始めたばかりで、大方兄貴分なんかに夜の街を案内されてんのさ」と事もなげに言う。みんなが働く職場ってそんなもんなのかな? じゃあ、気長に顔を出してればいずれは会えるだろうか。

 ダニーに獣人のことを伝えることについて、爺様は賛成してくれてるからいいのだけれど、問題は父さんの方だ。マーカスさんの貸借が頻繁すぎて、そろそろ父さんの堪忍袋の緒が切れないともかぎらない。うう、あまり気は進まないけど、一度胡麻を摺っといてもいいかも。



 そうこうしてるうちにとらさんたちが仙人の里から戻ってきた。議会が招集されてからすでに丸四日以上経っている。帰宅が遅くなった理由は、はぐれの仙道や術師に関する資料を整理していたからだという。

「議会の決定でさ、私がはぐれの証人喚問を行なうことになったんだ。」

 虎さんはさもウンザリといった様子。なんでも議会が関知していない仙道と術師を合わせるとその数は約六〇名になり、全員に声を掛けるだけでも雲を掴むような話らしい。

 なんで私がこんな面倒なことを……、と嘆く虎さんに「師匠が小夜さよさんやロアさんと親しくしてるからですよ」と伊左美さんが答える。なんでも議会に参画している仙道で“はぐれ”と交友を持っている人は珍しいようで、だから虎さんは“まともと異端の中間くらいで変人”と言われてたりなかったりするらしい。一応、いままでほとんど意識してなかったけど、考えてみれば私も分類上は“はぐれ”ってことになるんだろうし、その“はぐれ”と交友関係にあったら変人とか、割かし失礼だよね。あ、そういえば小夜さんの姿がないんだけど?



 尋ねてみると小夜さんは自分チに帰ったらしい。自分チといってもセント・ラルリーグのだけど。なんかしばらく自宅にて謹慎という沙汰が下ったらしく、監視員まで付けられたみたい。小夜さん、なにもしてないのに……ってことになってるはずなのに。実際はしたけども。疑われてたけども。疑わしいから警戒されたってことだね。おお怖い。明日は我が身かもしれぬ。まったく、やすしさんのおかげで事態がまた急激に展開していってる。



 興味深かったのは犯人=靖さんと接触した警備兵の証言。

 犯人には槍も刀も通じず、組み伏せようにも物凄い力を発揮して警備兵をまるで寄せ付けなかったという。その犯人の特徴について、背は一六〇~一六五センチで中肉中背、男、そして全身がほんのりと光っていたのだという。おそらくその光ってるっていうのが靖さんの仙八宝せんのはっぽうで、槍や刀が通じないというのとおそらく関係しているのだろう。たぶん、よく判んないけどね。



 “はぐれ”を証人喚問する理由は獣人の女を連れ出した犯人候補の一角に“はぐれ”が挙がってるからとのこと。

 この犯人についてだけど、議会でいくら議論を尽くしてもこれといった犯人像が固まらないのだという。遺されたメモを鵜呑みにするのも癪だからというので、では獣人の女を聖・ラルリーグから攫うことで誰が最大の利益を得るか、というのも考えてみたらしいが、すでに女がすべてを吐露していることを鑑みれば、いまのタイミングで女を攫ってもリスクばかりがあってリターンがない。女がさらに情報を漏らすという可能性があるとするなら、情報漏洩を未然に防いだという意味でブロッコ国も怪しいが、すでに聖・ラルリーグ軍の駐留まで決定しているブロッコ国が敢えてリスクを冒してまで女を攫うだろうか。他方で、女が攫われたというのはニューリーグ城塞、ひいては聖・ラルリーグの醜聞にほかならない。だから、容疑をブロッコ国に問い質すのは自分チの恥を隣近所に吹聴するに等しい行為に相当する。となれば、ブロッコ国をこの件で問い質すのは難しかろうと、犯人はここまで考慮して犯行に及んだ可能性もある。ただ、それにしたってブロッコ国の利益などたかが知れてるように思われるし。

 じゃあ、聖・ラルリーグに恥を掻かせるのが目的の愉快犯の犯行?

 いや、それよりもブロッコ国が主導しているという異世界からの武器の調達に、数年前に現われた異世界被れの連中が関わっており、連中が仲間の窮地を救ったと見るのが自然ではないか? いまだに異世界人を拉致してきた犯人の消息も六星むつほし卯海うかいの消息も掴めていない現状では、その線もありえる。



 というように、強引であるものの犯人候補とその理由がいろいろと挙げられてゆき、結局ちんぷんかんぷんになった挙句、以下の三点が決まったそうな。

 


・連邦に対する施策は現行を維持。

・はぐれの仙道、術師を証人喚問する。

・聖・ラルリーグによる異世界の調査の検討



 つまり、異世界被れの連中と“はぐれ”に見当を付けたみたい。

 ま、目の着けどころは悪くないが、そもそも議会は異世界被れの連中に辿り着けてないからね。身内を……特に虎さんを疑ってみる、という発想がないかぎり、議会は異世界の案件に関しては後手後手に回りそう。

 いや、回ってくれてていいんだけど、ちょぉっと待ってよ。聖・ラルリーグによる異世界の調査ってなんですか? 自分らあれだけ異世界ダメって言っておきながら異世界に行く心算つもりなの? カードを入手したからかッ? 議会に異世界に来られたら私が異世界に行けなくなっちゃうッ。なにしろ私もちょこちょこ議会に顔を出してるから、“知ってる人は知っている”くらいには面が割れちゃってるし。これは困ったわ。



 それにしても、誰も異世界の調査の検討について、誰も反対しなかったのかしら? 仙道といったって向こうじゃただの人だからね? 虎さん、伊左美さんとしては、反対する理由を伝えるのも面倒だし、検討くらい好きにさせればいいんじゃない?って考えたらしい。おそらく検討段階で誰かが異世界へ転移することも予想されるが、向こうの世界は広いから検討中に獣人と遭遇してやっつけられることもなかろうってさ。ま、反対したら反対したで怪しまれるしね、仕方ないのかも。

「それよりも異世界に行って、向こうに学ぶべきことがたくさんあるってのを実感して帰ってきてもらえりゃ言うことはないね。」

 伊左美さんにはあまり一等であることにこだわりはないようだ。それはたぶん、玲衣亜さんも同じなんだろう。靖さんばかりは一攫千金という裏の目的があったから……。いやいや、靖さんの抱えてた問題は複合的なんだ。獣人への同情とかも絡んでくるし、女を守ってやりたいっていう男心もあるし、獣耳好きっていう性的嗜好もあるし……って、最後のは伊左美さんの方か。ふう、靖さんも伊左美さんもダメダメだね。中でも虎さんたちを裏切る形になることが判っていながら実行に移した靖さんは最悪なわけだけど。



 これは本格的に参ったちゃんだわ。

 靖さんの能力の一端と議会の動きについて、改めてジークさんにお伝えするのと、あとはダニーにも伝えなきゃ。



 その夜、午後九時、四日目となるダニー宅訪問。

 おお、今宵は部屋に明かりが灯っているッ。



 コンコン。

 ガチャ。



「夜分遅くにごめんなさい。ちょっと話があって来たの。」

「ええ? 葵さん? あ、マーカスさんも、こんばんはぁ。は、話って……。」

「中入っても大丈夫? 素敵なガールフレンドとか来てない?」

「来てないけど。」

「彼女おるんッ?」

「いや、まだそんなのいないよ。」

「まったく、驚かせないでよ。」

「葵さんが勝手に驚いたんじゃん。」



 そんな話をしながら部屋へ入り、ダニーに獣人と靖さん、そして議会の話を聞かせた。ダニーは靖さんの名前になんか聞き覚えがあるようなないようなことを言ってたけど、まさかもう会ったなんてことはないよね? とりあえず、ダニーもジークさんと同じく「気にはしとくよ」という返事。仙八宝は変化したかと問えば、まだだってさ。意外と時間かかってるわね。ダニーが言うには、仙八宝は自分には使い道がないからとのこと。

「仙道になっていろいろと助かってるけど、でも、力があったってなかなか思うようには力を発揮できないからね。前、ジークさんが言ってたんだけど……仕事は楽にできるようになったのに稼げる額は変わらない、すごいだろ?って。それさ、最初はなんで儲けが同じなんだよッて思ったけど、実際働いてみて納得したよ。あんまり人より目立つのもアレだし、オレが人より多く仕事をこなしちゃうとさ、ほかの人が手を抜いてんじゃないかって金出してくれるとこから勘繰られちゃうじゃん? そこんとこ考えてると、結局少し楽するくらいが精々になっちゃうんだよな。」

 なるほど、そういう理由があるわけね。

「でも、これからまた変な奴らが増えるってんなら、オレも仙八宝にもう少し魂入れてみるわ。」

「ん? オレって言うようになったん?」

「うん。ちょっと変えてみた。おかしい?」

「ううん、おかしくないよ。むしろその方がいいわ。」

 靖さんが僕だからね。



 なんにせよダニーも真面目にやってるようでよかったわ。と思ってたら、この三日間夜更けまで帰宅してなかったのは、やっぱり遊び歩いてたからだってさ。ちょっと自由になるとすぐこれだからね。実家に言いつけてやろうかしら。

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