8-8(186) 別れる ①
※サブタイのみ変更しました (数字に間違いもあったので)
靖は暗黒面に落ちました。
と、いいますか、話を急いで進めようとして話がいつもながらに予期しない方向に進んでしまってます(汗
これタイトル回収できるかどうかも怪しいですわ。まあ無理にでも回収するんですが。
ところで大決戦ってなんなのでしょう? ゴジラVSガメラというイメージなんですが。なんとなく雲行きが怪しくなってきました!
翌朝、虎さんの屋敷から靖さんの姿が消えた。
屋敷からは靖さんの衣類と私物がなくなっており、靖さんの寝室からは一枚の置き手紙が見つかった。
『申し訳ありません。この度、一身上の都合により皆様とのお菓子屋開業を断念し、新たな人生を歩むことになりました。皆様にご迷惑を掛けることになるかと思いますが、どうかご了承ください。誠に申し訳ありません。探さないでください。靖』
虎さんたちは靖さんの蒸発発覚からすでに結構な時間が経っているというのに、いまだに現実を受け入れられていないというか、信じられないといった様子で靖さんの蒸発についていろいろ話し合っている。
一身上の都合により……という文句が様々な憶測を生み、玲衣亜が苛めただの伊左美が苛めただの、異世界と聖・ラルリーグ間の問題に何度も首を突っ込んだからかも、とか、口ぐちに靖さんが蒸発した原因を言い合っている。そんなに思い当たる節があるなら、特に驚くべき事態でもない気がするが。というか、そんな話を耳にすると、靖さんもよくいままでがんばってきたものだと感心するくらいだ。
このままでは埒が明かないので、とりあえず証人喚問を実施することになった。場所は虎さん屋敷で、ゲストに爺様を呼んでいます。では、爺様、よろしくどうぞ!
「逃げてる者を呼び出すのは気が進まないんだがな。」
と、爺様は申しておりますが、実は爺様も靖さんが家出した理由には興味津々で、ホントは召喚したくてしたくてならないのだと思う。
爺様が気張ると、靖さんがみんなの前に現われた。
「おはよう。」
靖さん、薄らと笑みを浮かべながら私たちを見回して、まずはご挨拶。
「おはよう。」
虎さん以下、爺様まで一同ハモる。私だけ一拍遅れて「おはようございます」と会釈する。案外みなさん、余裕がおありのようで。
「書き置きは読んでくれた?」
と靖さん。
「読んだ。」
また一斉に答える一同。み、みんな今日はやけに足並みが揃ってるじゃない?
「探さないでって書いてなかった?」
と靖さん。
「書いてた。」
答える一同。
そして靖さん、額に手を当てて溜め息を吐く。
「キミたちは面白い人たちですね。」
と靖さん。
「お前ほどじゃねえよ。」
そう一斉に答えてニヤニヤ笑う一同にズッコケる靖さん。靖さんが前面に出てくるといつもこんな調子だ。
「私たちのお菓子カンパニーをこんな紙切れ一枚で辞められると思ったん? ちょっと理由を話してみ。」
敢えて冗談っぽく言ってるのか、本気なのか判然としない玲衣亜さんの問い掛け。
「一身上の都合ですので、それ以上はちょっと。」
抗う靖さん。
「そんな水臭いこと言うなし。」
伊左美さんから援護射撃が入る。
「いや、実は僕ももういい歳だから、いつまでも異世界のお菓子屋をこっちに出すなんて夢を追ってる場合じゃないなぁって思ったんだ。」
おお、意外と切実というか、なんとなく判る話だわ。
「これからどうすん?」
玲衣亜さんが尋ねる。
「特に決めてはないけど。」
「じゃあ一緒にがんばろうよ。」
「がんばったってさ、たぶん、無理なんだよ。」
「なんでぇ?」
「この国が異世界アレルギーだからさ。店出すにしたってお菓子の一つ作るにしたって、その都度この国とか議会の顔色を窺いながらになるんだから、この国で向こうのお菓子を販売するにはあと五千年くらいかかるんじゃない?」
やっぱり、さっきの玲衣亜さんたちの話にも出てたけど、靖さんはお菓子作り以外の脇道に逸れっ放しの現状に辟易してるようだ。
「だから、ちょっと別の生き方を探そうと思って。」
「なにするか決めてるの?」
「特に決めてはないけど。」
「じゃあ一緒にがんばろうよ。」
リプレイ、リプレイ。
「いや、だからいま言ったじゃん。一緒にはがんばらないよ? 僕は僕でがんばるし、玲衣亜らは玲衣亜らでがんばって。」
「ほ、本気で言ってんだね?」
ああ、玲衣亜さんがちょっと泣きそうになってるッ。ちょっと靖さんッ、いつものように冗談なら冗談だって言ってよッ。
「ああ、本気だよ。もう、決めたことだから……。」
玲衣亜さんの潤んだ瞳に気付いたのか、靖さんも語気を和らげてる。
それから虎さん、玲衣亜さん、伊左美さんの三人と靖さんはしばらく話したのち、靖さんには靖さんの人生があるから、無理強いはできないっていうんで、結局、靖さんは虎さんたちとは決別することになった。
「なにも言わずに黙って出て行き、みなさんにご迷惑をおかけしたのは、全く私の不徳の致すところでございます。申し訳ありませんでした。この数年間、仙人様方とともに過ごしてきましたが、これからは一般社会に立ち戻り、新たな人生を歩んでゆく所存です。みなさん、これまで、本当にありがとうございました。」
靖さんがみんなの前で丁寧に頭を下げて、別れの言葉を告げる。
虎さんたちは言うまでもなく、爺様も小夜さんも沈鬱な面持ちで靖さんの言葉を聞いてた。だって、爺様は靖さんのことを応援してたし、異世界に住んでる小夜さんにとっても聖・ラルリーグの話題を共有できる数少ない人だったろうし。それは私にとっても同じで……。
!!
っていうか、靖さんったらもしかして仙道になったもんだから、お菓子屋じゃなくって仙道の力を利用して一般社会で一攫千金とか考えてんじゃない? 超ありえそうじゃない? だってその方が手っ取り早そうなんだものッ。表面上は申し訳ありませんとか言いながら、腹の中では“この靖、目的のためには手段を選ばぬ”とか言ってほくそ笑んでるんじゃない? ああ、ダメよ、葵。こういうことを疑う私の性根が一番腐ってんだから。
「虎さん。一度は断った仕事の斡旋の話だけど、なんだったらアレ、復活させてもいいよ。」
「ふ、考えとくよ。」
そんな軽口を叩き合いながら、いよいよお別れというときだった。虎さんの屋敷に議会の使者が訪れ、ニューリーグ城塞にて保護されていた獣人の女が何者かによって連れ去られたことを告げた。




