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8-6(184) 一蓮托生

 黄泉よみさんと松山、江精明こうせいめい祖丘そきゅう朱鷺とき雷田らいでん乃湖のっこが武器庫の表に出てからもう何分ほど過ぎたろう? 案外、外は静かなままだ。

「おそらく、連邦軍が使節団の勝手な行動を咎めに来たんだろうけど、逆に武器庫内の銃について聞かれて対応に困ってるんじゃないかな?」

 と、とらさん。

「でも、その逆に銃の存在を知られたからこそ自棄になって襲ってくるって可能性もありますよね?」

 伊左美いさみさんが虎さんに尋ねる。

「うん、私も最初はそう思っていた。だけどまあ争ってる感じでもないし、いまのところ話し合いができてるんじゃないかな?」

「だといいんですが。」

 伊左美さんがそう言いながら、銃を片手に撃てるかどうか試している。片腕が利かないから、ちょっと照準を定めるのが苦しそう。チッと伊左美さんが舌打ちして「ダメだな」と呟く。

「伊左美は怪我人なんだから大人しくしてなよ。」

 黄泉さんの弟子の雷翔らいしょうが伊左美さんに言う。なんか腹立つけど、そのとおりなんだよね。

「そういうのはオレらがやるからさ、ちょっと使い方を教えてくれよ。」

 おお、雷翔が伊左美さんに教えを請うているではないかッ。特別厭な奴ってわけでもないのかな?

「すんません、オレも使い方知らんのです。」

「なあッ、いまなんか構えてたりしたから知ってんのかと思った。」

「だってこれ銃っスよ? 異世界産っスよ?」

「ああ、そうだった。」

 あのぉ、天然でカマ掛けるのやめてもらえますかね?



 灯火の薄暗い明りの中、争いが起こるかもしれないっていう不安を抱きつつじっと待つのは辛い。獣人の女の方をチラっと見ると、いつものようにしゃがみ込んで顔を伏せっている。仙道たちは扉の方を警戒はしているが緊張感を持続できているかどうかは怪しいものだ。セント・ラルリーグのお偉いさんたちも当初は散々連邦に対する愚痴を零していたが、いまは黙って項垂れている。

 ああ、誰か外に様子見に行ってくれないかしら?



 しばらくして武器庫の扉が開き、庫内に陽が射す。仙道たちが一斉に立ち上がり、出入り口を警戒。だが、扉の前に立っていたのは黄泉さんだった。

「待たせたな。すまん。」

 カツカツと歩を進める黄泉さん。みんなが彼の次の言葉を待つ。

「三日後、午後からニューリーグ城塞で連邦の代表者たちから話を聞くことになった。」

「と、いうことは連邦は非を認めたんですね?」

 誰かがそう尋ねる。

「認めたかどうかは判らんが、私たちと争いたくないというのが本心だろうと思う。」

「連邦もまだ懲りぬようですから一回ガツンとやった方がいいですよ。」

 誰かが軽口を叩けば、「三日後の連邦の出方次第では、こちらとしてもやり方を考えた方がいいかもしれないな」と黄泉さんが応じる。連邦に干渉するのは協定違反だし、かといって目を光らせておかなければまだ合戦後の混乱状態からさえ満足に脱却できていないというのにもう聖・ラルリーグとの戦に向けての準備を始める始末。己を殺すための刃を隣人が研いでいるというのに、それを黙って見ているわけにもいかない。連邦にどのレベルまで干渉するか、そこが問題だと、黄泉さんは言った。



 それから使節団はニューリーグへ行って聖・ラルリーグ軍を連れてくる組とブロッコ市の庁舎で待機する組の二手に分かれることになった。武器庫に積まれている大量の銃を接収するために軍を率いてこようというのだ。みんながそれぞれ準備を始め、武器庫から出てゆく。私たちは庁舎に残ることになったが、武器庫周辺に陣を敷くという黄泉さんを置いて、武器庫を出ようとしたときだった。

小夜さよさんは残ってくれるかい?」

 私たちの背に、黄泉さんから声が掛かる。

「あ? なんだよ。」

 小夜さんが振り返り、黄泉さんを睨む。

「いや、たいしたことじゃないんだが、ちょっと聞きたいことがあってね。」

「小夜さんにだけ……ですか?」

 虎さんが尋ねる。

「ああ、虎たちは庁舎に戻ってみんなの出立の準備を手伝ってくれ。」

「だとさ。行けよ。」

 小夜さんが顎で出入り口の方を示す。

「じゃあ、行きますわ。」

 虎さん、黄泉さんに視線を向けたまま扉への一歩を踏み出す。私も虎さんの背を追って歩を進める。武器庫の出入口前で少し違和感を覚え、ふと振り返ると武器庫の奥にまだ留まっている伊左美さんの姿。

「虎さん。」

 虎さんを小声で呼ぶ。

「伊左美さんが……。」

「んん?」

 虎さんが小夜さんの隣に立ったままの伊左美さんを見て、疑問符を浮かべた。



「どうした? 伊左美。虎たちはもう出てくぞ。」

 黄泉さんの言葉に伊左美さんが逆に「小夜になんの用があるんですか?」と尋ねれば「大人の話があるんだ」と黄泉さんもはぐらかそうとする。それに対し伊左美さんは「オレもここに残ります」と応じた。きっと小夜さんの身の危険を感じて、小夜さんを守るために傍を離れないんだ。ここまでの行程で小夜さんがなにか咎められるようなことをしたかといえば、私にはまったく思い当たらないけれど。放っておいても大丈夫だろうと思う反面、黄泉さん傍には弟子四人が控えているので、いざというときに分が悪いから、だったら私も二人の傍にいた方がいいんじゃないかと考えてしまう。

「は? なにを言ってるのか判らないな。伊左美も早く虎たちと一緒に行きなよ。」

 黄泉さんが不満を露わにしている。

「伊左美、師匠はこの狐とサシで話があるんだそうだ。オレたちは出よう。」

 雷翔が伊左美さんの肩に手を置く。

「雷翔さんたちは出てってください。オレは二人と一緒にここにいます。」

「伊左美。」

 伊左美さんの頑なな態度に雷翔さんも困り顔。

「伊左美、私のことはいいから行きな。」

 そんな二人のやりとりを見兼ねてか小夜さんまで伊左美さんに退出を促す。

「小夜、黄泉さんは甘い人じゃないんだ。」

 そのとき、黄泉さんが虎さんの方をジロっと睨んだ。虎、お前の監督不行き届きじゃないのか? と言ってるみたいに。いや、ホントはなんて訴えてるのか判んないけど。きっとたぶん、そんな感じよ。

「伊左美は……小夜さんの術について知っているのかい?」

 黄泉さんが虎さんを睨んだまま伊左美さんに尋ねる。

「知ってます。」

「昔、小夜さんがどんなことをしてたかは? 聞いてる?」

「一応、触り程度は。」

「じゃあ、話してもいいか。伊左美は残るがいい。ほかの者は外に出ろ。」

 伊左美さんは居残りを許され、弟子たち四人がぞろぞろと扉の方へ向かってくる。その様子を見て、私と虎さんも踵を返して表へ出た。



 ニューリーグに戻る一団を見送り、その晩、小夜さんと伊左美さんに黄泉とどんな話をしたかを聞いてビックリッ。なんと黄泉さん、小夜さんが獣人の女に術を掛けたのじゃないかと疑っているっていうんだ。術を掛けたんでなけりゃ、獣人が聖・ラルリーグの人間に直訴なんてするはずがない、というのが疑惑の根っこにあるみたい。当然小夜さんは術の使用を否定したわけだけど、獣人と付き合いがあるのかとか使節団に付いてきた目的が獣人の女の直訴を手助けするためじゃないかとか、いろいろ聞かれたんだって。

 獣人の女と小夜さんとの繋がりには疑念を抱いてるみたいだけど、それと虎さんとの繋がりにまで勘付いているかといえば、どうもそうではないみたい。結局、黄泉さんは小夜さんに対して術の政治利用をするなと説教するに留まったみたいだから、黄泉さん自身、小夜さんが獣人の女に施術していようがいまいが、この一件を大袈裟な事件にする心算つもりはなかったのだろうと小夜さんと伊左美さんは話す。

「でも、最初は小夜が黄泉さんに殺されるかと思って焦ったわ。」

 伊左美さんが心底安堵して言う。

「ふん、そんな簡単に殺されてたら命が幾つあっても足んねえよ。」

 小夜さんがさも伊左美さんの居残りは余計なお世話だったとばかりに言う。

「なにげに私が一番肝を冷やしたからね。もう本当に勘弁してよ。」

「へ、なに言ってんですか。師匠もオレらと一蓮托生ッスからね。ま、天国まではオレがご案内しまさぁ。」

「いえ、いいです。」

 伊左美さんの言葉が、議会との接触がいかに危険かを物語っている。みんな一蓮托生。でも、私はただの脱出要員として請われて来ただけだから……い、いざとなったら私は逃げますよ?

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