7-25(175) 長いッスよ
頭の中に材料がないと5W1Hとか入れるの無理です。
アキちゃんから聞き取りした話の要約の続きですよ。
とりあえず、獣人たちが異世界へいた理由と目的を、経緯も含めてざっと。
合戦後、秩序の失われたブロッコ国に四ヶ国で編成された連邦軍がやってきたが、しばらくは各地で局所的な衝突が繰り返された。だが、そうした動きも組織化した野党への拷問とそれに伴う芋づる式の逮捕劇、さらに見せしめ目的の処刑が行なわれて、次第に治安は安定へと向かっていった。とはいえ、貧困と飢餓の問題が解消されたわけではない。ブロッコ国の獣人はひもじい思いをしながらも、次の季節の収穫を待ち望み、細々と野良仕事などに精を出す。仕事にあぶれた人たちは俗世を捨てて野に下る。
ブロッコ国にとって誤算だったのは、連邦軍がいつまでも駐留して、自分たちこそブロッコ国を壊滅の危機から救ったのだと得意になって、収穫があるごとにブロッコ国の財産ともいえる収穫物を搾取してゆくことだった。一年経っても搾取は続き、もうほとんどブロッコ国は連邦内の三ヶ国に占領されたような状態。このままブロッコ国は国家としての体裁を失い、連邦の都合のいいようにされるんだろうな……と誰もが考えていたそんなとき、獣人を率いた仙道たちが転移の術のカードを持ってアキちゃんたちの前に現われる。
仙道とその連れである獣人たちは、アキちゃんたちの前で演説を打つ。
荒廃したブロッコ国を再興するために異世界へ行く有志を募っていると、仙道は言った。しばらくは仙道の言葉になんか聞く耳を持たぬという調子だった聴衆たちも、異世界の可能性についていろいろと語られてゆくつれて、次第にその気になっていった。
もちろん、異世界へ行くことについては多くの疑問があった。住む場所はあるのか、仕事はあるのか、なにをするのか、無事にまた帰ってこれるのか、転移の術のカードは何枚あるのか、などなど、聴衆からは様々な疑問がヒソヒソと語られるが、それを仙道に尋ねる者はいない。なにしろ現状に疲れ切っていたし、明日食べるものにすら困る始末だったから、いまの状況より酷くなることはあるまいとタカを括っていたのだ。もしなにかの弾みで仙道たちの機嫌を損ね、話を御破算にされては目も当てられない。そんなだから、ある者は家族を伴い、またある者は一人で、それぞれの新たな生活を瞼の裏に描きながら、仙道たちにくっついて異世界へと旅立った。
これがいまからおよそ一年前、合戦から二年の歳月が経ったころの話。
転移先は長閑な丘の上だった。数百人単位での大移動だったが、そんなことは気にならないくらいに周りには人の足跡というものがなかった。
到着後、仙道の指示で獣人たちは数班に分けられ、それぞれに先達の獣人たちに率いられて移動した。延々と走り続けて、夜になり、先からいた獣人たちの手引きにより街へと入った。街の中にはアキちゃんたちも含めて一〇〇人以上の獣人がいると、そのあとで聞かされた。また、先からいる獣人たちがブロッコ国の獣人ではなく、ほか三ヶ国の獣人であることも、その後の彼らの態度から窺い知ることができた。
というのも、アキちゃんたちが街に入ってまもなくは歓迎ムードだったのだけど、いつしか先から異世界にいる獣人たちが、あとからきたブロッコ国の獣人たちにいろいろと指図するようになったのだ。明言こそされなかったものの、そこにははっきりとした上下関係があった。支配層はすでに異世界に精通していて、アキちゃんたちは住む所と仕事、すべてを彼らからあてがわれた。つまり、完全な管理下に置かれたわけだ。
彼らがブロッコ国の獣人に向けて、異世界での自分たちの目的を表明する。
ブロッコ国の再興には聖・ラルリーグに奪われた土地を取り戻さなくてはならない。そのためには武器が必要だ。獣人はその身体能力の高さ故にこれまでほとんど武器を使用してこなかったが、最早武器なしに戦える時代ではないのだ、と。ここ異世界で入手できる銃という武器を大量に配備できれば、聖・ラルリーグ軍どころか仙道すら赤子の手を捻るようにやっつけられるはずだ、と。その言葉を俄かに信じられなかったが、翌日、実際に銃という武器とその威力を見せられて、なんとなくその武器を手に聖・ラルリーグ軍をやっつける自分たちの姿が見えた気がした。だからアキちゃんたちも、聖・ラルリーグに奪われた土地を奪還するのだと決意を新たにした。
アキちゃんたちは武器を大量に購入するための資金稼ぎに従事した。ブロッコ国の獣人の中には、連邦主導で推し進められているこの計画を訝しむ者たちもいた。とはいえ、集団の目的、というか在り方の是非を問うことができるような雰囲気ではない。転移の術のカードは支配層が握っているし、いざ異世界へ来て、当初は個々人でもなんとかやっていけると思っていたのに、いざこうして組織的に動こうと言われると、そちらの方が楽だし安全なのではないかと思えてくる。極めつけは、獣人に共通する目標を掲げられたこと。ここから抜け出す、あるいは非を唱えるということは、即ち獣人を裏切る行為にほかならないという気にさせられていた。
資金稼ぎは、リヴィエ一家というマフィアのしのぎである煙草の販売の一部を委譲される形で行なわれた。煙草は連邦領域内で栽培されているものを使用して、ほどなく異世界でも栽培を開始。香りの良さ、ほどよい渋み、癖になる味などの特徴が相まって、アキちゃんたちが製造した煙草“ アナザーワールド ”は半年ほどでエルメスの首都・リリス市での好評を得て、まもなくエルメス北端の地域に流通するまでになった。
組織にお金は備蓄されていくものの、アキちゃんたちの暮らしは楽にはならなかった。だけど仕事があり、明日食べるものに困らず、ちゃんと雨風を凌げる屋根がある、というだけでもブロッコ国での暮らしよりは数段マシだった。アキちゃんたちはなにも考えずに、ただ自分たちの仕事がのちのブロッコ国再興の役に立つのだと信じて働いた。三ヶ国の獣人たちのことは好きにはなれなかった。いつも威張りくさって、彼らへの反感を露わにした者たちには殴打して、アキちゃんたちには我慢を強いるくせに自分たちだけは贅沢をするものだから、どちらかといえば嫌いでさえあった。一方、ブロッコ国の獣人の中にも彼らにおべっかを使って取り入る者たちが出る始末。だが、ブロッコ国の獣人たちはそれを特に気にしなかった。いま、おべっか使いをやっつけたって、また第二第三のおべっか使いが出てくるだけだからだ。といっても、アキちゃんにかぎっていえば、おべっか使いに批判的なことを言って目立つのを嫌ったというだけなのだけど。
アキちゃんたちが異世界へ行って一年ほど経ったころのこと。入手した武器をブロッコ国に届けに行くというので、仙道と三ヶ国の獣人たち、そして彼らにおべっかを使って取り入っていたブロッコ国の獣人たちが一緒になって向こうの世界へ転移していった。だが、戻ってきたのはブロッコ国の獣人だけだった。聞けば、仙道と三ヶ国の獣人は異世界関連のことで向こうの世界でやるべきことができたからと言って、向こうに残ったのだとか。こちらに戻ってくる日時と場所は聞いているから案じることはないと、戻ってきた獣人たちは話したという。
最も、アキちゃんがその情報に触れたのはもっと状況が変化してからだった。
ある日、向こうへ行ったままになっていた仙道たちが戻ってくるというので、ブロッコ国の獣人たちが三ヶ国の獣人たちを案内していった。そして、そのときも戻ってきたのはブロッコ国の獣人だけだった。
いつのまにか異世界におけるブロッコ国とほか三ヶ国の獣人の立場は逆転していて、しばらくすると三ヶ国の獣人たちの姿は消えていた。仮にも仲間だった者たちだから、彼らがどうなったのかは知りたくもなかった。だが、人の口に戸は立てられず、まもなくアキちゃんも彼らが殺されたのだと知る。なんでも、彼らを生かしておくと、いまの自分たちのようにいつか反乱を起こすことが予想されたから、というのが殺害の理由らしかった。その噂に触れたブロッコ国の獣人に悲しむ者はなく、むしろ、同じブロッコ国の獣人の中にも偉いことを考える者がいるもんだなと感心したのだとか。
元はといえば、彼らがブロッコ国の獣人との間に上下の関係を作ってしまったのがいけなかった。ブロッコ国再興を標榜しながら、作戦を主導するのが作戦完遂に対して一片の情熱さえ持たない人物となれば、当然疑いが生じる。ただ、疑いが疑いであるうちはまだよかった。どんなに怪しかろうと、実際の行動がブロッコ国再興という目標達成に向けてのものでありさえすれば、アキちゃんたちにもそこまで不満はなかったのだ。とはいえ、いざというときに備えて、彼らの取り引きのノウハウおよび転移の術のカードの所在は早い段階で把握しておく必要があった。ブロッコ国の獣人の幾人かが彼らに媚を売っていたのは、そのためだったわけだ。
そして、武器を運ぶためにブロッコ国に転移したとき、彼らの嘘が白日の下に晒された。彼らはブロッコ国に武器を供与するのではなく、ブロッコ国に駐留している連邦軍に武器を与えたのだ。それでは連邦軍のブロッコ国支配が強まるだけで、国の再興どころではない。むしろ亡国の危機だと考えて、ブロッコ国の獣人たちはついに反乱におよんだのだ。
これがいまから三ヶ月前、合戦が終わってから三年三ヶ月後のこと。
改めてブロッコ国の現状を確認した獣人たちを発起人として、アキちゃんたちの目標は変更された。聖・ラルリーグから土地を奪い返すのは生半可なことではない。奪還を実現するには、最新の銃火器を配備するだけではなく、連邦の総力を結集する必要がある。そこで第一にブロッコ国にいる連邦軍を追い出し、その後、連邦体制を破棄して四ヶ国の統一を図り、それらを成してようやく聖・ラルリーグとの戦いに臨むのだ、と。
うん、結局のところ聖・ラルリーグと応戦するのが目的なんだよね。




