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7-20(170)

 アパートの出入り口に再び姿を現わした僕たち。アパートの三階へ上がってゆくと、三〇二号室のドアを挟んで通路側に警官、部屋内側にアキちゃんの姿が見えた。ヤバいッ、と階段を数歩下りて身を隠す。もうッ、ご丁寧に部屋に上がらず御用聞きか。ま、警官もそのうち問答無用とばかりに部屋へ押し入るのだろうが、まだタイミングが早かったみたい。ここは出直すしかないね。



 階段で一分経過するのを待って爺さんチへ。

「なかなかさんたちのお部屋まで遠いですね。」

 葵ちゃんが笑みを零しながら言う。ちょっと自虐も入ってるのかな?

「いや、ここからは簡単よ。変装して行けばいいんだわ。」

「変装?」

 また玲衣亜がなんか言い出したぞ。

「変装っていうか、さっきまでの服を着替えるの。そうすれば、あの警官たちも私たちがまさかさっきの四人組だとは思うまいて、っていう。むしろ三〇一号室の住人として堂々と部屋へ入っていけるし。しかも三〇二号室のアキちゃんたちは警官に聴取を受けてるとこだし、無暗に私たちに襲いかかってこれないと思うの。どう? よくない?」

 ああ、いいような気がする。玲衣亜にしてはまともな意見だわ。みんなもこの意見に異存はないようだ。

「爺さん、疲れてない? 大丈夫?」

 何度も召喚を繰り返してる爺さんに尋ねてみる。術を使う感覚は判らないけど、気になったからね。

「ああ、大丈夫。ありがとう。でも、さすがにこう何度も繰り返すと、ちょっと老体には堪えるようなわ。今日は焼き肉でも食べて元気をつけないと、明日の朝日を拝めるかどうかこれ判んねえな。」

 おお、爺さんがなにげに焼き肉をご馳走しろと言っていらっしゃる。

「エールも飲まないと、回復しないかも。」

 さらにエールまでご所望か?

「おじいちゃん、エールは昨日飲んだでしょ?」

 葵ちゃんが爺さんを諌める。

「ああ、確かに昨日も飲んださ。だが、今日も飲む。それだけのことよ。」

 むうう、と唸る葵ちゃん。こちらを向いて、「と、いうわけです」だって。ま、そういうわけですよね。いいさ、爺さんにはホントに助けてもらってんだ。感謝の気持ちを形に変えて、今夜はおもてなししましょうねぇ。



 そうして転移したのは葵ちゃんの家。変装するなら異世界らしい恰好しないと恰好が着かないってんで、現在、異世界の服装を所持している人物といえば葵ちゃんを置いてほかにいないからね。ただ、男物っぽい服があるのかどうかが不安だけど。

 異世界の服は葵ちゃんの家の地下室にあるという。地下室への出入り口は厳重に閉ざされていて、まず本棚を避けて、本棚の背後、壁を隠すように貼られた布を剥がすと、釘で打ちつけられた数枚の板材が現われる。それをバールでバリバリと引き剥がすと、ようやく背の低い扉が登場した。ま、世情を考えると警戒し過ぎるということはないのかもしれないけど、これじゃ異世界へ出かける度に大変な苦労を伴いそう。

 扉を開けると地下へ延びる秘密の階段がッ。なに? この少年の心をくすぐる造り。

 その地下室には所狭しと異世界産の物品が置かれていた。床にはいつ発刊されたか判らないような色褪せた雑誌やら埃を被ったかつらとかが散乱していて、とてもじゃないが所有者以外が立ち入れる雰囲気じゃない。そこで僕たちは葵ちゃんにピックアップをお任せして、一旦上の階に戻った。

 そして、上を着替えたわけだけど、葵ちゃんと玲衣亜は問題ないとして、もまあ男が着ても問題なさそうな上着を羽織ってイイ感じなんだけど、なぜ僕が余り物をあてがわれたのかッ。いや、実際には余り物じゃなくって、女の子っぽいピンク色のちょっとキラキラ系の上着ってだけなんだけど、葵ちゃんとか玲衣亜が着る分には問題ないが、僕が着ると犯罪臭いんだけど、大丈夫? ってそうじゃない。僕の男としての誇りにいま、確実に傷が付こうとしているんだッ。

 周りのニヤついた笑みが腹立たしい。

「意外と似合ってんじゃん?」

 玲衣亜にそう言われると、煽られてるようにしか聞こえないんだけど。

「こういう服着た人いるよッ。」

 伊左美がフォローしてんのか、僕にこの服を受け入れさせるために嘘を吐いてるのか、もう判んない。

 そして、葵ちゃんの痛い物を視るような、なんともいえない表情が胸に突き刺さる。

 そんなに迷ってる時間も惜しいし、早く決断しなくちゃッ。

 どうする? どうする? これでいく?

「ふッ、よお、ファッションリーダー。そろそろ行きましょうぜ。」

 ウジウジ悩んでる僕に玲衣亜のこの一言。

 もう吹っ切れた。もういいッ。旅の恥は掻き捨てだッ。



 爺さんチを経由して、再びポポロ市へッ。

 僕たちの部屋へ入るまでは、様子を探りさぐりにの行程になるかもしれないから、召喚までの時間はやっぱり三分にしてもらった。

 そして、先程と同じように階段を上がると、まだ警官が廊下に突っ立ってアキちゃんと話をしている。

 今回はさっきの四人組と僕たちとは別人であるという設定だから、堂々と階段を上がり切り、三〇一号室のドアへ向かう。

 警官が僕たちの方を見る。気にするな。足音の方を向いただけだ。警官に会釈して、伊左美が鍵を開けるのを待つ。

 カチャッ。

 デッドボルトの動く音。

 ドアノブを捻り、ガタガタとドアは動くものの開かない様子。

「靖、最後にこの部屋を出るとき、鍵はかけたか?」

 伊左美の質問を受け、ちょっと記憶を探る。どうだったっけ?

「いや、そういやかけてないわ。」

「ああ、そういうことか。」

 カチャっとまた音が鳴り、今度はドアが開いた。



 そこには驚きの光景がッ。なんということでしょう? 眼前に広がる部屋は、以前は割かしキレイに片付けられてたのに、いまや無惨に荒らされた姿に変貌してるじゃないかッ。

 布団からは羽毛が飛び出し、衣服はそこらへんに散乱し、本も床に投げられ、とにかくひどい有様だ。

「うわぁ、これは家探しされてますねぇ。」

 葵ちゃんが辺りを物色しながら言う。

「とりあえずカードと仙八宝と拳銃が無事なら、ほかはあとからでもなんとでもなるんだけど。」

 伊左美がカードなどの隠し場所へスタスタと向かう。一方、玲衣亜は衣類を一々拾いながら腕一杯に抱え込む。玲衣亜の無表情がやや怖いが、よく考えると僕たちの衣服ってほとんど玲衣亜が買ってきてくれたものだからね。僕と伊左美があまりに無頓着だったからってのもあるけど、玲衣亜は僕たちをコーディネートするのを楽しんでた節もあったし。衣類に対する思い入れも人一倍あるのかもしれない。そう思うと、ちょっと切なくなるね。

「三〇秒~、あと残り三〇秒です。」

 葵ちゃんが残り時間を告げる。

「よしッ。」

 部屋の奥の方から伊左美の声が響く。

 どうやらアキちゃんたちも引き出しを底上げして作った空間には気づかなかったらしい。

 これで一応、目的は達成されたわけだ。あとは爺さんの召喚を待つばかり。



 バーン!!! 



 !!!

 心臓がひっくり返るかと思うくらいビックリしたッ。

 リビングの窓ガラスが粉砕されて、そこには大柄な男が一人。

「どうしたぁッ? 忘れ物でも取りに来たかぁッ?」

 男が部屋の様子を一瞥して吠えた。その一言でなんとなく、男がアキちゃんの仲間なんだろうと察する。頭に巻かれたバンダナは、おそらく耳を隠すためのもの。

 男の近くには衣類を物色していた玲衣亜がいる。まずいッ。玲衣亜が襲われちゃうッ。伊左美が部屋から飛び出し、リビングに戻ってくるが、伊左美が来たところで状況は変わらない。

 玲衣亜は男の言葉を意に介さずといった感じで、抱えていた衣類を男に向かって放り投げると同時に男に突進して、いつのまに抜いたのか、刀を男のももに突き立てた。そこから玲衣亜は刀に体重を乗せて男の腿を半ば切断。男はバランスを保てず、そのまま倒れた。大切な衣服が男の血で汚れてゆく。男の歪んだ顔は口惜しさと苦痛の両方からのものだろう。玲衣亜は倒れた男の無事な方の足にも容赦なく追加の一撃を見舞う。

「葵ちゃん、カウントしてッ。」

 肩で息をしながら、玲衣亜が葵ちゃんに向かって指示する。

「は、はいッ。九、八、……。」

 召喚されるまでの時間を葵ちゃんがカウントし始めたとき、玄関の方から何者かが猛然と駆け込んでくる音が響く。

「くっそッ。」

 玲衣亜がそう吐き捨てる。

 誰だッ? あと少しなのにッ。

 廊下を覗くと、アキちゃんとナツミちゃんの姿が見えた。

「五、四……。」

 部屋の惨劇をまのあたりにしたアキちゃんが近場にいた伊左美に躍りかかる。

「クソがッ。」

 伊左美は避けるでもなくただ飛び込んでくるアキちゃんに刀を突き出した。ところがアキちゃん、刀を恐れもせずに腕で弾くと、そのままの勢いで伊左美に体当たりをかまし、伊左美が吹っ飛ぶとこまで、僕は見てました。伊左美が吹っ飛んだ先は、爺さんチだった。

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