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7-17(167) 真面目な話

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「ん、どうしたん? なんか変なモノでも食べた?」

「ん、どうしたんやすし? なんか変なモノでも食べた?」

 その晩、僕は重大発表があるからという理由で、とらさんとの三人に集まってもらった。いまのいままで話す機会を逃していたお菓子屋をクビになった旨を伝えると、伊左美も玲衣亜もとても悔しがっていた。店長も同僚もみんないい奴ばかりだったからね。厭な奴がいないっていう珍しい職場だったよ。現状を伝えたところで、さあ、今後の展望について語ろうか。

「僕としては今度のクビは僕たちが次のステップに進むいい機会だと捉えてるんだけど、どう?」

 ここで悲観に暮れてるんじゃなく、このズッこけたところから前を向いて歩こうっていうね、我ながら驚きのプラス志向なわけ。伊左美が、次のステップといいますと? って尋ねてきた。玲衣亜もそれに対する回答を待っているよう。次のステップ……これが難しい。僕たちはこれまでお菓子作りの修業してきたわけでありまして、お菓子屋開店への計画となるといまだに一つとして練っていない。だから、まずは僕たち三人の意識の統一のための確認作業から入ろう。



「まず、キミたちはこっちの世界でお菓子屋をオープンさせることについて、どう思っているのかね?」

 ちょっと尊大な態度で尋ねてみた。

「ん、どうしたんやすし? なんか変なモノでも食べた?」

 玲衣亜が怪訝な顔を見せる。

「シャラップッ。いまは僕のことはボスと呼びなさい。」

 いまは真剣なのだ。慣れ合いは厳禁なのだッ。

「おおッ、ちょっと懐かしいんだけど。そういえばやすしってボスだったね。」

 うん、なんかこの二年ちょいくらい二人からボスって言葉聞いてない気がする。

「んふ、ま、いいから、いまだけ僕のことボスって呼んでね。」

 ちょっとトーンを下げてみる。

「それで、次のステップってなんなん? ボスさん。」

 こら、伊左美。その小生意気な態度はなんだ?

「ちょ、ボスにさんとか付けんなよ。」

「ああ、で、なんなんっスか?」

 むむ、さっき言ったのに。

「いま言ったばっかじゃんッ? こっちでお菓子屋をオープンさせることについてどう思ってんのかって。」

「あらら、靖の話し方が変だったから、そっちばっかに気が行ってたわ。」

 玲衣亜もか~いッ。って、これは驚くに値しないな。いつもの玲衣亜さんだわ。

「ああ、ごめん。ちょっと肩に力が入ってたのかもしれない。」

「ま、大丈夫だよ。それより、まずはボス殿の考えを伺いたいところですな。」

 だから伊左美、ボスの語尾になんか付けるのやめろしッ。

「いいでしょう。まず、私の意見を述べさせていただきます。」

「プッ、述べるとか。」

 玲衣亜~ッ。

「シャラップッ。こっちは真面目なのッ。」

「そりゃあ、ボス。私らはみんな真面目でさぁ。だからそんな肩肘張らずに、いつもどおりに話しなよ。そうじゃないと、こっちも肩が凝るわ。」

 それは一理あるかもしれない。

「むむ、採用します。」

「ありがとうございやす。」

 ニヤリとしながら言う玲衣亜。絶対ありがとうとか思ってないよッ。ん、話し方を変えるって案外いたしいな。



「ゴホン、あー、えー。」

 発声してると二人から失笑が漏れる。ボスの貫録ゼロッ。カリスマの神様降りてきてッ。

「では、いきます。まず、私たちのお菓子屋のオープンに関して、その目的ですが、まずあっちの超美味しいお菓子をこっちの皆さまにお届けするっていうのがあるわけ。これ確認ね。いまのっけから一番大事なところを話してるからね。よく聞いててよ。」

 無言で頷く二人。よしよし。

「それプラス、利益ッ。私たちのお菓子屋は利益を得てこそ、恒久的にお菓子を作り続けることができるわけ。だから、平たく言えば儲けないといけないん。オッケー?」

「うん。」

 よしよし。

「つまるところ、私たちはみなさまに超美味しいお菓子をずっと提供して、みなさまに喜んでいただこうという立派な会社なんです。」

「へえへえ。」

「そのために僕たちは最大限の利益を追求しなくてはいかんのです。」

「うん。」

「スヤスヤ。」

 !!! 玲衣亜が……寝てるぅ!?

「い、伊左美さん、いまの玲衣亜さんの状況を解説してもらえますか?」

「ふふ、寝ておりますな。ボス殿。」

「そのようですね。」

 ペチペチと玲衣亜の頬を叩いてみる。ちょい、起きろや。

「ほあッ。」

「寝たらダメッ。」

「おう。」

 おう、じゃねえし。



「では、玲衣亜さん。ここでちょっと聞くんですが、私たちがお店を開くに当って、現状の課題はなんだと思いますか?」

「ええッ? ここで質問ブッ込んでくるんですか?」

 タイミングや質問内容はあまり考慮してなかったけど、とりあえず玲衣亜が寝ないように牽制球を放っておかないとって思ってね。

「ふう、ええ~、まず、この国が異世界との行き来を禁じている問題が一点。異世界へ行く手段がカードしかなく、さらにそのカードの枚数に限りがあるという問題が一点。設備投資などの初期費用の不足が一点。原料調達、店舗の場所、集客方法、運営方法、等々(とうとう)、課題は山積してまさぁ。」

 おうふ、意外にもたくさん列挙してきたな。でもホントに開店までにクリアしなきゃならない問題が多いわ。

「ではボス、いまの私が挙げた課題を復唱していただけます?」

 え?

「さ、どうぞ。」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ? か、紙。筆記具を持ってこようか。」

「っていうかさ、あんまり意味のない質問をしないでくださいよ。」

 あら、思いのほかブチギレてるんですが……。どこが地雷だった?

「そんなん、細かいことまで言い出したらキリがないんだからさ。靖は一体、どんな答えを期待していまの質問をしたの?」

 おおお……、答えるのが超怖いんですが。なんでキレてんの? 僕が期待してた答え……強いて言えば……連邦の異世界への介入を受けてセント・ラルリーグの人たちが異世界にやってきて、異世界産のお菓子の価値が下がること、とか? そんな内容を玲衣亜に伝えると、さらに玲衣亜から追撃が入る。

「だったらさあ、どんな馬鹿に聞いても、たとえ子供に聞いたとしてもさあ、その一つの回答しか得られないような聞き方してくれないと。私は質問ってのはそうあるべきだと思います。はい。……ま、それは場合によってはすごく難しいことだけどね、でも、工夫した努力の痕跡くらいは伺える質問をしてくれないと、回答する側としては付き合ってらんないよってなるじゃん?」

 な、なるほどぉ。それがご立腹の原因でしたか。

「以後、気をつけます。」

 シュンってなっちゃった。

「ボス殿、ボス殿。」

 ここで伊左美さんから声がかかる。

「はい、伊左美殿。」

「あ、ちなみにさ、いまの場合、最初から紙とかに一々メモ取ってくれてたら、私もなにも言わなかったのね。たださ、あんなふうに羅列されると、私だったら絶対その場で覚え切らないんだよね。だから、靖は覚えられてんのか心配になったわけ。覚えられるんだったら別にいいんだよ? でも、覚えられないんだったらメモしてよっていう。それだけ。」

 おうふ、伊左美に発言を促したのに、玲衣亜が割り込んできた。玲衣亜は僕が厭で言ってんじゃなくって、ちゃんと理由があって厳しく言ってんだよってことだよね。無暗に委縮することないよって。ただ、やることはしっかりやってよねっていう。言いたいことは判ったよ。でもね、もうマジムリ。帰っていいかな? メンタルヘルスクリニックに行かなきゃッ。



「休~~憩~~ッ。」



 伊左美がやや大きめな声で言った。

 第一ラウンド終了って感じ? なぜか安堵の息が漏れる。ここで両者リングアウト。僕はセコンドの伊左美殿に袖を引っ張られて部屋の外へ連れ出されてしまった。なんか助言を、次のラウンドから上手く立ち回るための助言をプリ~ズ!!

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