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7-8(158) いろいろあった

 は一度向こうに戻って、連邦の動向や獣人について調べる必要があると主張している。とらさんにアキちゃんたちの件について話すか否かは伊左美が伝える派、玲衣亜が伝えない派で対立している。なお、僕は連邦も獣人もくそくらえ派だ。つまり、ほっとけよっ、てね。



 連邦がカードを発見して、興味があったから異世界にやってきて、なにをしていようが僕たちが口出すことじゃない。だって、僕たちがやってるのと同じことをアキちゃんたちもやってるだけなんだよ? それに対してとやかく言うのって筋が違うじゃん?

 でも、僕が気にしてる部分に対しても二人はそれぞれ意見を持っていて、なかなか自分の意見を通すのも難しい。二人の言うことも判るしね。確かに僕の意見は、相手も僕たちと同じだというのが前提にあって……そりゃ楽天的だの理想と現実は違うだの文句を言われるわ。思考停止は議論の放棄と同義だと? まさしくッ。そうさッ。二人はいま、連邦と獣人の異世界絡みの動向調査の方針について話し合ってるんだろうが、僕はその話し合いの必要性について話しているんだからね。擦れ違いは仕方ないよ。そもそものテーマが違いますからな。



 二人が心配しているのは連邦が異世界でなにかよからぬことを企んでいるのではなかろうかという点なのだろうけど……もっと言えば異世界を通じてセント・ラルリーグに損害を与えようとしているのではなかろうか、というところまで考えているんだろうけど……僕に言わせればそのどれもどうだっていいんだよ。僕たちが異世界で健気にお菓子屋で修業している隣で、獣人が異世界人を傷付けようがなにしようが、好きにさせておけばいい。それは、僕たちがなんとかしなけりゃならない問題なのか?

 そんなの僕たち以外で気にする奴がいるとした場合に、その気にしてる奴が勝手になんとかすりゃいいんだ。おそらくその気にする奴ってのは、異世界の知識を得た連邦の奴らにやっつけられた聖・ラルリーグの誰か、になるのだろうけれど。

 結局、伊左美も玲衣亜も、過去に焔洞人たちと獣人たちが行なった異世界人の人体実験染みた一件があるから、いろいろ考えてしまうだけなんだろう?



 なに、違うって? とにかく情報がほしいだけだって?

 伊左美が言うには、連邦が異世界へやってきているとなると僕たちの安全も脅かされる可能性が高いとのこと。仮に獣人が僕たちのことを聖・ラルリーグの人間だと認知していなくとも、なにかの偶然で獣人にやられるケースだって考えられる、と。で、僕の言い分を通せば、僕たちはなにも知らないまま危険に晒されることになる。なにも知らずにやられるなんて御免だ。せめて、状況を把握したうえでやられたい、ということらしい。加えて、情報が集まれば、リスク回避のための対策も打てるかもしれないって。



 まったくそのとおりさ。その論に対する反論なんて一つも思い浮かびやしない。いいさ、僕の考えは早々に引っ込るよ。いいんだ、別に。僕だって僕の意見を無理に通そうとするつもりはないんだから。だって、自分で判ってんだ。僕の提案の根っこには常に“面倒臭い”ってのがあるからね。大体信用ならないことしか言えないんだよ。この世で一番信用ならない奴を挙げろと言われれば、僕はまず間違いなく自分だと答えるだろうさ。モノがなくなって誰かに見てません? とかどこにやりました? とか尋ねてみても、結局それを隠してた犯人は僕でしたッ、みたいなことが多々あるからね。

 うん、こっちに来てる獣人たちをやっつけるためじゃなく、あくまでリスク回避のために情報収集するっていうんなら、僕は二人に賛成だよ。



 久し振りの肩が凝るような話題。話が一段落したところで、少し伸びをして肩を回す。伊左美も首を回したり伸ばしたりして、玲衣亜は欠伸している。ふだんならもう寝てる時間だから、ちょっと長く話し過ぎたかな。

 すぐに聖・ラルリーグに戻ってはアキちゃんたちが不審に思うかもしれないから、近日中に戻るわけでもないんだと、僕たちは向こうへ戻ることだけ決まったところで眠ることにした。



 ベッドに横になり目を瞑って考える。

 それにしても、アキちゃんたちの厄介な点は身体が丈夫なところだ。獣人は身体が丈夫というが、馬に蹴られたケンちゃんが無傷だったのも運が良いというだけでなく、獣人特有の頑丈さがあってのことなのだろう。なぜ仙道は異世界に来て力を失ってしまうのに、獣人は力を失わないんだ? なんか、いろいろあるんだろうけども。これじゃ異世界で活動するには連邦の方が有利ってことか。はあ、散々だな。ふう。……zzz。



「……さん、やすしさん。」

 なんか、声が聞こえる。

 背中がゴツゴツして痛い気もする。

 んッ?

 んんッ?

 はあ?

 寝付いたと思ったら、そこは夢の世界?

 目の前には懐かしい爺さんの顔があるじゃないか。

 ふッ。

 じゃあ、おやすみ~。

 今度はもっといい夢見なきゃッ。

「靖。や~す~しッ。」

 あ、今度は玲衣亜の声がする。

 ということは玲衣亜とムフフな展開になる夢かな?

 っていうか、僕まだ爺さんの顔を見てから寝てないんだけど。

 パチリ。

 目の前には玲衣亜の顔と爺さんの顔が並んでいた。

 ん、古い夢と新しい夢が同居してるみたい。

 もう一回寝て、古い方を破棄しようね……って、夢じゃないだろぉこれッ?

 パチリ。

「おはようございます。」

 ムクっと身体を起こし、少し辺りを見回すと、爺さんチだった。部屋には爺さん、玲衣亜のほか伊左美と虎さんもいる。

「ここはどこ? 僕は誰?」

「ここは聖・ラルリーグ、仙人の里、葵の祖父の家だ。」

 爺さんがわざわざ回答してくれた。いや、知ってますが。

「そして、あんたは靖さんだ。」

 うん、知ってる。

「それはいいんですが、どうしてここに?」

「それは私から話すよ。」

「虎さん、久し振りだね。」

「うん。」

 あら、虎さんなんか浮かない顔だ。爺さんの顔もなんだか暗い印象。なんだか厭な予感。僕の第六感が只事ではないと警鐘を鳴らしている。

「伊左美、玲衣亜。実は、今日の午後、蒼月さんがお亡くなりになられたんだ。」

「それは、間違いないのですか?」

 伊左美が聞き返す。玲衣亜は目を見開いて固まっている。蒼月さんといえば、仙道のお偉いさんだったっけかな? 面識ないからアレだけど、亡くなっちゃったのか。僕あまり関係ないのに、なんで召喚されちゃったんだろ? 伊左美と玲衣亜のついでに、みたいな? あ、そうか。人手が足りないのか。お偉いさんが亡くなったとなると、準備も大変だろうしね。

 そのあと、しばらく虎さんたちの会話を聞きながら、寝落ちしないようにがんばった。

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