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7-1(151)

 や、やすしです。二四歳です。前回、ちょっと遅めの反抗期を迎えてしまったために、お見苦しいところを晒してしまい申し訳ない。ふだんの僕は真面目くんですから、もうあのような醜態は晒しませんッ。

 ではでは仕切り直して。



 なぜ、僕は店の裏手にいるんだッ?

 事件現場である店の表に急行しなきゃッ。

 なので、とりあえずいろいろな説明はすっ飛ばしますよ?

 早く行かなきゃ、僕がブッ飛ばされちゃうッ。



 というわけで、事件現場である店の前にやってきました。

 まばらではあるものの人だかりができている。

 おそらくあの人垣の中で事件が起きているか、もしくはその痕跡があるんだろう。

 はいはい、どいてどいてぇ、通してね。うんしょ。



 見れば、小さな男の子が道に手と膝付いて項垂れているのと、その子の傍に上等な服を着た男が一人。その男の背後にはこれまた上等な馬車が停まっている。馬車には旗が掲げられていて、その旗の詳細までは判らないけど、とにかくこの馬車が貴族のものであろうことは推測できた。

「貴様ッ、アロア家の馬車の前に飛び出てくるとはどういう了見だッ。そこへ直れッ。手打ちにしてくれるッ。」

「ごめんなさいッ、ごめんなさいッ。ちょっと余所見してただけなんです。」

「黙れッ。小汚い餓鬼めッ。大人しく首を出せいッ。」

 貴族の家の者とおぼしき男が、男の子に喚き散らしている。なるほど、状況としては男の子が貴族の馬車と接触事故を起こして、お命頂戴と脅されているわけか。このご時世にまだ貴族風を吹かせているなんて、時代遅れもいいとこだ。それでも、まだ貴族の既得権益の一部はそのまま残っているから、この男の子も処刑は免れまい。奇跡的にこの馬車の貴族の気が変われば、話は別だが。っていうかこれ、事件じゃなくて事故現場じゃないかッ。



 男の子が斬られるのも時間の問題かと思われたときだった。

「すいません。」

 人垣の間から青い軍服を着た男が貴族の方へ歩を進める。

「なんだねキミは?」

 男に問いかける貴族。

「いえ、名乗るほどの者じゃありませんが。この子はまだ年端もいかない子供じゃありませんか。どうか、この軍服に免じて、この子を許してやっちゃくれませんか。」

 貴族と軍人は特に反目し合っているわけではないが、市民革命後、力を失った貴族に代わって対外的軍事力として創設されたのがいまの軍部であるため、貴族はちょっとした嫉妬心を軍人に対して抱いている。もちろん、貴族で軍人という人もいるが、大多数はそうではない。貴族といえども威張り腐されるほど優遇されるわけではなく、上には平民出の上官が山ほどいるからね。わざわざお金持ちの貴族が軍人になりたがったりしないんだ。ただ、軍部が活躍すると面白くなかったりね……いろいろと思うところはあるみたいだけど。っていうのが、一般的な話なわけだけど、この貴族と軍人のやり取りはどう決着するやら。

「ふん、勲章か。キミの階級はなんだね?」

「あんたたちそういうの好きですよね。……中尉。私の階級は中尉です。」

 地べたに這っている男の子の前に立ちはだかり、軍人が答える。

「ほう?」

「お言葉ですが、私個人の話はこの際どうでもいいんです。ただ、我がエルメス国陸軍はおもに国外での戦争を生業としていますが、それがエルメス国内の安寧に繋がるとも考えていて、そのために皆、命を懸けて戦っています。だというのに、ふと国内に目を向ければ、いたずらに幼い命が散ろうとしている。こんな皮肉ってありますか?」

 軍人が淡々と言葉を紡ぐ。

「判ってるよ。キミに免じて、この場はなにもせずに退散するとしよう。」

 思っていたよりもあっさりと引き下がる貴族の男。

 あら、もう事件解決じゃない?



 貴族の馬車が去っていく。

 人垣もなくなり、いまは男の子を特に心配する人たち五、六人だけ居残っているという感じ。軍人は男の子を立たせて、怪我の有無を尋ねている。どうやら男の子に怪我はないようだ。

「はあ? お前、馬に蹴られてただろ? ホントになんともないのか?」

 軍人が顔をしかめている。そりゃそうだ。馬に蹴られて怪我一つ負ってないって、ギャグ漫画かなにかかな?

 それから説教を始める軍人。馬車の前に飛び出す奴が一〇割悪いと、男の子に厳しいことを言っている。あッ、軍人が今度は男の子を殴った。頭上から頭のてっぺん目掛けて振り下ろす形の拳骨……名付けて“愛情パンチ”。これで男の子の頭からお餅のようにタンコブが生えてきたら、ギャグ補正がかかっている人物だってことになるんだけど……んなわけないか。



 ま、いいや。店に戻ろっと。

「あの、すいません。」

 踵を返そうとしたとき、軍人から呼び止められた。念の為、僕の後方も確認してみるが誰もいない。さらに念の為に自分を指で示してみると、軍人が頷く。あら、なんか面倒臭そうなことに巻き込まれそう。

「すいません、私、訳あって急いでまして。申し訳ないのですが、この子を家まで送っていってもらえないでしょうか。なにしろ、馬に蹴られてるので、いまはなんともなくても途中でなにかないともかぎらないので。」

 うっは、そんなこったろうと思ったよ。

「ああ、そうしたいのは山々なんですが、なにせ僕の方も訳もなく急いでいるものですから、ほかを当ってみてもらえます?」

 僕の言葉を受けて軍人が周りを見回すが、さっきまで居残っていた連中もそそくさと退散していく始末。

「大丈夫だよ。一人で帰れるから。」

 男の子がそう主張すると、軍人がしゃがんで男の子に言う。

「大丈夫、この兄さんはいい人だから、きっと付いて行ってくれるから。」

 子供の期待を高めておいて断りにくくする作戦って嫌い。

「いいよ、別に。」

 おおっと、別に期待されてもなかったね。

「子供が遠慮すんな。それに、万が一ってこともある。」

 あの、言いながらチラチラ僕の方を見るのやめてもらえます?

「あ、あ~。ちょっと待ってて。店の片付けだけしたら送ってってあげるから。っていうんで、いいですかね。」

 なんだかんだ僕っていい人なんだよなぁ。



 軍人は礼を言って去っていった。ふ、馬鹿めッ。そもそもあの軍人、なぜ素性の知れない僕なんかを信用して子供を預けたのか。白い粉にまみれたエプロンがお菓子屋の店員であることを臭わせたか、それともいい人オーラが全身から溢れてしまっていたのか……。そこのところが謎だが、さて、どうしたものか。

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