4-13(122) 葵ちゃんご乱心④ (R15)
R15
子供は外で遊んでね
月の光が射し込む閉め切った部屋の中。
蝋燭の淡い光がゆらゆらと揺れている。
遠くから宴会真っ只中のみんなの話声がボソボソと聞こえるけど、気に障るほどじゃないし、宴会もまだまだお開きになる様子はない。
誰も私たちを見咎めやしない。
「玲衣亜さんがこんなになるのって珍しいですね。」
玲衣亜さんの横に座って、しなだりかかりながら尋ねる。
「うん、まだ全然飲んでないはずなんだけど。」
「は? 結構飲んでなかったですか?」
「まだ一〇杯くらいなもんよ。」
「もっと飲んでたし、ペースも速かったんですよ。あと、向こうの酒とこっちの酒を同時に飲んだのがいけなかったのかもしれませんね。おなかの中で混ざっちゃったんですよ。」
言いながら玲衣亜さんのおなかに触れる。
「え? 意外とおなか平べったいですねぇ。もっとタポタポ言ってるかと思ったんですけど。」
結構筋肉質なおなかにややビックリ。鍛えてるとこなんて見たことないのに、どうしてこんなに引き締まってるの? っていうか、お酒とか食事とかちゃんと胃に入ってるのかしら?
「玲衣亜さんって身体鍛えたりしてるんですか?」
「仙道の嗜み程度には、ね。え? やだッ。葵ちゃん、なにしてるのッ。」
「鍛え過ぎちゃって、胸も引き締まっちゃったんですかねぇ?」
胸に手を這わせると、玲衣亜さん、ビックリしたみたい。
「玲衣亜さんの小さな胸が、こうしてると大きくならないかと思って。」
「それこそ大きなお世話だからやめてッ。」
「やです。」
「どうしたの? 葵ちゃん。」
「さあ? 自分でも判りません。でも、たぶん、玲衣亜さんに参っちゃってるんですよ。」
「なに言ってんの?」
「あは、乳首が固くなってきた。」
「お前、あとで殺してやるから覚悟しとけよ。」
突然、降ってきた穏やかでない言葉に、一度、触れるのをやめて、玲衣亜さんと膝を突き合わせる。といっても、玲衣亜さんは両足投げ出してる状態だけど。玲衣亜さんの口が悪いことは知ってたけども、ここまで殺意の籠った言葉は初めてかもしれない。蝋燭の火を反射してキラキラしてる玲衣亜さんの瞳。固く結んだ唇。正直、ちょっとビビっちゃった。どうしよう……。
「お前、自分がいまなにしてたか判ってんの?」
どうする? 冗談でしたってことにしていつもの楽しい玲衣亜さんに戻ってもらう? それとも転移の術で逃げるとして、続ける?
「判ってます。判ってますけど、止められないんです。」
玲衣亜さんの伸ばした足を避けながら、膝立ちで玲衣亜さんに這い寄る。玲衣亜さんがキッとした視線で私を見上げる。ダメなの、どんなに凄まれたってなに言われたって、もう玲衣亜さんのなにもかもが愛おしいんだもの。
「お前、一服盛りやがっただろ?」
盛ったのは自分でしょぉ? と返せばバレるから、知らないと惚けておく。
「惚けんのかよ。」
「別に、惚けてなんて……。」
だって盛ってないんだもん。
さきほどからの玲衣亜さんの吐息交じりの言葉。苦しそうでいて、妙に艶っぽくて色気がある。それに、こんな状況なのに泣き喚くでもしょげるでも絶望するでもなく、怒りを燃やす姿にキュンとして、胸が苦しくなる。やっぱり玲衣亜さんは玲衣亜さんだ。こんなときまで私の中の理想を忠実に体現してるなんてッ。
愛おしくってたまらなくなって、気づけば玲衣亜さんの首の付け根に吸い付いていた。痕が残ってはまずいと思い直し、首筋に舌を這わせる。そのまま耳の裏、耳まで到達したところで耳元に囁く。
「す……。」
ドキンッと一瞬、胸が痛いほど高鳴る。この期に及んで、まだこの言葉を発するのが怖い。
「んッ。」
私から漏れた吐息に感じたのか、玲衣亜さんが短く唸り身体を小さく震わせる。耳で感じてくれるのねッ?
「玲衣亜さん……玲衣亜さんッ。」
耳に当てた舌先を転がしながら、囁きながら、我ながらなんて甘ったるい声が出ることだろうッと赤面しつつも、却ってもう玲衣亜さんにすべてを曝け出してみたくなって、受け入れてほしくって、欲望はますますエスカレートする。
「……ッ、好きです。好きなんですッ。」
感極まって左腕で玲衣亜さんを抱き締める。
「ええッ?」
耳元に響く玲衣亜さんの素っ頓狂な声。そこに怒りの色はなくって、ただただ不可解であるといった調子。背中に回した左腕を放して、相対してまっすぐ玲衣亜さんの目を覗き込む。その瞳は少し潤んでいるよう。もしかすると、怯えてた? 怖かったの? 玲衣亜さんなのにッ? やっぱりやってはならないことをしちゃったかも……。そう思う反面、ふだんお茶目でクールな玲衣亜さんの弱っている姿を見て、ますます愛おしくなる。久しぶりに純粋に可愛いと思った。
「好きたぁどういうことよ? ふざけてんじゃねえよ。」
そして、相変わらずの口の悪さ。
「ごめんなさい。そんなに怯えないでください。」
「はあ? 怯えてんじゃねぇよ、気持ち悪りぃんだよ。」
はう、散々な言われよう。そこまで言われると、ちょっとくじけそうになっちゃうな……。目頭が熱くなる。ダメ、泣いちゃダメッ、って思ってみても、ついに涙が頬を伝う。気持ち悪いってのは私が女だから? 女同士でこういうことするのはふつうじゃない? それとも私だから?
「泣いてんじゃねえよ。泣きたいのはこっちだよ。」
ごめんなさい。ごめんなさい。でもね、もう止まれないの。もっと玲衣亜さんを直に感じたいって身体が言ってるの。求めてるの。
「玲衣亜さんは、感じませんか?」
「……な、なにも感じねぇよ。」
束の間の逡巡。その数拍の間が、いまの言葉が嘘だっていう証拠じゃないか? そうであってほしい。
「玲衣亜さんももっと素直になってください。肌と肌を重ね合わせてお互いを感じ合うのって、男女の間だけのことじゃないと思うんです。女々(じょじょ)の間でだって、同じだと思うんです。」
玲衣亜さんの濡れた目頭をそっと拭い、掌で玲衣亜さんの片頬を包む。
「私は玲衣亜さんで感じるんです。玲衣亜さんで……濡れるんです。」
唇をキュっと噛み締め、湿らせてから玲衣亜さんの唇に重ねる。特別な思いを込めてキスしてみたけれど、唇が触れ合うだけだと、特になんとも感じないみたい。
「寒かったら言ってくださいね。」
断ってから玲衣亜さんの肌着に手をかける。
「寒い、寒い。」
「あ、残念ですがフライングは受け付けておりません。」
「は? どういうことよ?」
「そういうのは脱がされてから言ってください。」
「馬鹿言ってんじゃねえよッ。」
肌着をたくし上げていくと、玲衣亜さんの肌が露わになる。月光と蝋燭の火に照らされた影のある上半身。
「綺麗。」
何度見ても、溜め息が漏れるほど美しい。
胸を優しく撫でて、愛撫する。どんどん乳首が固くなっていく。もう片方にも同じことを繰り返す。次に腋、肩、鎖骨、首の付け根へと愛撫と頬擦りをしていき、キスを迫ったところで玲衣亜さんが抵抗する。唇を噛んで、キスを許さないんだ。くっ、私は玲衣亜さんと濃厚なキスがしたいのッ。
畳の上に玲衣亜さんを押し倒して、左手を伸ばして玲衣亜さんの股を探る。右手が効かないから、ちょうどいい具合な姿勢を取れないのが口惜しい。いまさらながらリアさんへの怒りを湧き上がらせたところで、あることに気づく。
玲衣亜さんも濡れてるッ?
指先に感じる湿り気。指を柔らかいところへ滑り込ませて動かすと、ピチャピチャと音が鳴る。その音は二人きりの静かな部屋の中、はっきりと聞こえる。
「玲衣亜さん、これ、なんの音っスか?」
なにも答えない玲衣亜さん。ただ、顔を覗き込むと、唇を噛み締めながら感じていることが露見するのをひた隠そうとしているようにも見える。ゾクッとした。
ひょっとすると、もう少しで玲衣亜さんを征服できるんじゃないかッ?
指の動きをより巧みにしてみる。私は玲衣亜さんに鳴いてほしい。恥も外聞も過去も未来もなにもかも忘れて、いまは私だけを見てほしい。私だけを感じてほしい。そう願うと、少々草臥れてきていた左腕にもまた力が戻ってきた。




