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4-9(118) 帰した

字が多くてなんか全体的に黒いです

 リアさんの手により解放された私たち。トトさんは“戦闘モード”に変化していて腕の出血も止まっている。大丈夫か尋ねてみると、数ヶ月すれば少し傷跡は残るかもしれないけど元どおりになるとのこと。自然治癒力ぱねぇッ。それに比べて私の腕ときたら、リアさんに治療はしてもらったけれど、こちらも一ヶ月ほどで元どおりになるんじゃない? というから、案外似たようなもんか? いや、骨折と腕がほぼ切断された状態とは比較にならないよね。やっぱトトさんは化物だわ。

 そして、爺様はリアさんに延々と説教されている。どうやら召喚するタイミングが癪に障ったらしい。いつものような召喚される側、今回はリアさんだけど、そっちの方の都合じゃなくって、私たちの置かれていた状況が気に入らなかったみたい。なにせリアさんにとっては、どっちが正でどっちが誤か判らない中、自らの判断で焔洞人をやっつけたわけで、もし手違いで爺様の仲間をやっつけちゃったりとか、そもそも爺様と敵対する相手をやっつける必要があるのかどうかを判断する材料が一切なかったとか、そうしたいろいろな理由からご立腹なわけ。そういった意味では、リアさんが特に指示もなくほむら洞人どうにんをやっつけてくれたことに感謝しなくては。



 異世界人拉致犯五人の遺体は庭で焼いた。彼らを選出した人物についても虎さんの方でもう対応済みらしく、この件についてはもうなにも心配いらないとのことだった。

 異世界人拉致犯も煙になり、いまやチームやすしのことを知っているのは私と爺様だけになった。あ、トーマスさんとアオも、か。

 この件が片付いたらチーム靖から距離を置くつもりだけれど、とらさんとは慎重に付き合っていかなければ。拉致犯五人は殺されて当然の人たちだったから考え過ぎかもしれないが、三人を閉じ込めておくと言いながら秘密裏に殺しておいて悪びれもしないところなど、情け容赦なく、冷酷非道。ふだんの優しい喋り方、笑顔の絶えない表情、ときどきクスッと笑わせてくれる間抜けな言葉に、つい騙されてしまうけど、虎さんは十二仙の一人であり、二人の仙道を育てた一門の長たる人物なんだ。油断はできない。

 そんな私の気持ちを読み取ったのか、余程顔に出ていたのか、虎さん、五人をボスにさえ断りなく殺めてしまったことについて、その理由を細かく話してくれた。



 又八またはちや焔洞人を騙す恰好になったが、大前提として本来なら五人をまとめて処刑すべき案件だった。とはいえ、異世界人救出のための案内役としても戦力としても五人のうちの幾人かは必要だったから、まとめて処刑できなかった。揃って反抗されても困るから三人は二人に先んじて処刑した。処刑することを事前に二人に伝えれば案内役として機能しなくなる懸念があったから、伝えなかった……ということらしい。また虎さんは大前提の処刑に言及して、組織から罪人が出た場合、組織内で事を収めることができなければその組織は周囲からやっつけられることになる、と言った。自浄作用が働かない組織は碌なモノじゃないって。

 話としてはよく判るのだけど、それを言うなら、私たちが聖・ラルリーグ内の罪人なんですが……。私たちを捕えられない聖・ラルリーグは碌な組織じゃないってことね。聖・ラルリーグ側の立場で大局的に見れば、私たちが異世界とこちらを行き来して連邦との関係をギクシャクさせたうえに異世界人を拉致して、連邦との戦争の引き金にまでなったのだから、早く浄化しなきゃだよね。ま、虎さんもその点は承知してると思うけど。ホントに、人が絡むと予期しないこととかいろいろ起こるんだから。なにも虎さんばかりに嫌味を言うつもりはないんだ。私だって、この一連の騒動に関しては爺様が絡んできたばかりに思い付きもしなかった方に流されてきたわけだし。



 というわけで、虎さんに同情する点もあるけれど、やっぱり油断しない方がいいという結論は変わらない。虎さんは情より理屈が勝つってイメージが付いちゃったからね。なにかヘマすると消されそう。でも、さんとさんにはまだ情がありそう……そして、靖さんは人畜無害っぽいけれど、なにを考えているのかあんまり判らない。靖さんはいまのような状況に置かれて、どう思っているんだろう? 連邦に行くときでさえ何度も逃げようとしてくらいだから、きっとウンザリしてるんじゃなかろうか。いや、リアさんと又八の決闘を前にして無駄話に興じてたくらいだから、意外となにも苦に感じていないかもしれない。私はもう疲れたよ。さっきもまさか私が一等先に死にそうになるとは思わなかったし。転移の術が使えてもどうしようもない場合ってあるんだね。それに、爺様もちょっとしんどそう。口では大丈夫だって言ってたけど、疲れが顔に出てんだから。



 私と玲衣亜さん、伊左美さんの三人で異世界人二人を帰還させることになった。ともにケルン市マビ町在住で知り合いでもあるらしいから、話が早くて助かる。先程まで眠っていた少年も目を覚ましたけれど、男の話によれば少年は満足に動くこともできないようで、調子の悪い時などは下の世話も誰かが面倒見なくてはならないとのこと。これも仙人の桃の副作用か。二人のほかに桃を食べた者は死んだというし、この男は平気なんだろうか? 男は特に身体に変化はないという。なんか、靖さんも特に変化はないって言ってたけど、仙人の桃ってただの毒桃ってだけで、仙人になる作用とかはないんじゃないのかな? 超怪しいよね。

 少年がそんな状態だから、彼については男に家に送り届けてもらうことになった。私たちがご家族に姿を見せても門前払いというか仇のように思われるかもしれないし、無用な混乱は避けるに如くはない。ただ、やっぱりこんな形で家に帰すことになってしまったことは残念でならないけれど。八名は死んでしまった。二名は無事なのに帰ることもできない。そんな中で、この少年はまだ帰れるだけ運が良いといえるのかもしれない。



 異世界へは拉致犯五人の遺体が骨と灰だけになるころに出発した。

 時刻は午後六時。辺りはすでに真っ暗で、空には星の天幕が広がっている。二人が住んでいたというケルン市マビ町にはピンポイントで行けないんで、ケルン駅に転移する。リリス市ほどではないけれど、ケルン市も電灯の光で夜の街が彩られている。駅から徒歩三〇分ほどの所に、二人の家はあった。夜道を辿って、まずは少年の家を訪れ、男が少年を送り届ける様子を物陰から見守る。男に応対した家族は少年と男の帰還に大層驚いていた。当然ながら十二人の失踪者を出した拉致事件はマビ町でも大きな事件になっていたようで、事件の真相を知りたがった家族が男を家に招き入れる。こうなると私たちもこの町で事件がどのように扱われているのか知りたくなったので、男が家から出てくるのを待つことに。

 人の出入りを待っていると、ふとデジャブのような感覚に襲われる。以前、玲衣亜さんを尾行していたころを思い出す。あのときはまだ夏で、寒さに身を縮込ませながらってことはなかったけど、一人だったから心細かったし、退屈だった。いまは玲衣亜さんと伊左美さんがいるから、心強いし退屈もしない。二人はいつものように悪態吐きながら会話してるし。一時期は伊左美さんが玲衣亜さんのことを好きだとかなんとか子供染みたことを言ってたから、二人が恋仲になるのを阻止するために伊左美さんの気を惹こうとしたこともあったけれど、そんな必要ないくらい、玲衣亜さんは恋愛感情が欠落しているというか、無関心というか。まだ男じゃなくって世界を相手に生きてる子供って感じ。ま、私も彼氏とかいないから人のこと言えないけども。そのへんのことは伊左美さんについてもよく判らないけれど……。



 少年の家に入ってから二時間ほどして、男は出てきた。ほろ酔いなのは、おそらく少年の家で少々お酒をご馳走になったからだろう。

 事件に関しては四ヶ月間の捜査でなんの進展もないため、被害者家族の間では半ば諦める人たちもチラホラ見られるようになったとのこと。それでもどこかの街で劣悪な環境下の労働に従事させられているのでは? とか、人身売買されたのでは? とか、身代金目当ての誘拐でないからこそ被害者は生きている可能性はあるとして、大抵の家族は希望を捨て切れていないのだという。そこへ死亡八名、行方不明二名の報を届けるのは結構キツイ。それに少年の家族も少年の生還を喜びはしていたものの、その衰弱した様子を見ては複雑な心境に違いない、と男は言った。

「なあ、これからみんなに帰ったと挨拶して、事件のことについていろいろ聞かれると思うんだ。実際、さっきもいろいろ聞かれたし。なのに、オレはこの件についてあまりになにも判っちゃいない。自分が一体どこに連れて行かれてたのかさえ知らない。どうやってここまで来たのかさえ、知らないときてるッ。そんなんじゃあ、オレも説明しづらいよ。家族を失った人たちにもどう話しゃいいのか。」

 男が途方に暮れたように話す。私たちはなにも言えない。

「みんなに話す、話さないは別としてさ、事件の概要を教えちゃくれないか。あなたたちは知ってるんだろう? 犯人のこととか、犯人の目的とか、オレたちがどこにいたのか、だとか。」

 男の弱々しい笑みが、胸に刺さる。

「残念ですが。」

 伊左美さんが短く断る。

「すいません、詳しくはお話できないんです。」

 玲衣亜さんが伊左美さんに続いて言う。

「そうか。いや、いいんだ。オレは、あなたたちが命懸けでオレたちを助けようとしてくれたことを知っている。だから、恩人を困らせるようなことは言わないよ。本当にありがとう。本当に感謝してる。」

 男はそう言って踵を返すと、歩き始めた。

「あのッ……。」

 私はたまらず、やや遠のいたその背中に声をかける。

「トーマスさんとケビンさんは生きてますッ。ご家族に伝えるかどうかはお任せしますが、一応。」

 男は一度振り返り頭を下げると、また背を向けて歩き出した。

 やがて男の影が建物の影に消える。

 見送って息を吐いたところで、玲衣亜さんに頭をワシワシと力強く撫でられたから、無言で玲衣亜さんの肩におでこをピタリと寄せると、これまた力強く肩を抱かれた。

 感情移入なんてしてなかったのに……もうッ、涙腺を引き締めなきゃッ。

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