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4-2(111) 助けに行きます

さん。異世界人の生存者を無事に向こうへ帰したら、そのあとはどうするんですか?」

 部屋で異世界の服に着替えているときに、玲衣亜さんに尋ねてみた。やすしさんたちと一緒にいるのもあと少しだから。

「ううん、そうね。こっちでお菓子屋を開くか、また異世界へ行くかってとこだろうけど、どっちだろ?」

「あ、まだどうするか決めてないんですね。」

「うん、私たちが異世界から戻ってきたと思ったら今回の異世界人拉致事件が起きちゃったし、連邦は攻めてくるしで、あまり先が見えなかったからね。」

「ああ、そうですね。」

 不意に、てんさんの屋敷で爺様がこうさんを召喚したときのことを思い出した。思い返せば、アレがこっちの世界で玲衣亜さんたちと再会してから最初の修羅場だった。あのときの黄さんは本当に怖ろしかった。確か九月に入ったころだったから、あれからもう四ヶ月経つわけか。

「まあ、異世界人を帰せたら、またみんなでどうするか話し合うわよ。靖も暇みたいだしね。」

「暇っていうか、ボスですよね?」

「そうよ。でも、ウチのボスは目を離すとすぐにゴロゴロし始めるから。」

「それ、玲衣亜さんもじゃないですか?……って、私もですけど。」

「ふ、若いわね、葵ちゃん。」

「え、どういうことですか?」

「時間には限りがあるからね。」

「仙人様でもそんなこと言うんですね。」

「あっちの世界に行ったらね、なんかね、そう思ったの。」

「確かに、あっちだとあっという間に時間が経っちゃう感じですもんね。」

「ね、世の中がめまぐるしく変わってくもんね。」

 そんな話をしていると、アオがブー垂れる。

「私も行きたいよぉ。一回連れてってよぉ。」

 アオが異世界に行った場合、どうなるのかが判らないから、まだアオを異世界に連れて行ったことはない。あっちで私たちと同じように存在できるならいいのだけれど、もしかすると異世界へ行った途端に消滅しちゃうんじゃないかって気がして。

「ごめんね。アオがあっちに行っても大丈夫だって判ったら、そのときは連れてったげるから。もうちょっと待っててね。」

「あたし、最近がんばってんだから、もうそんなに待てないからねッ。」

 プイッとそっぽを向くアオ。確かにこの子はビラ撒きのころからすごくがんばってくれている。直近だと拉致犯の髪の毛を抜いてきたりとか。アオがいなければ、いまごろ虎さんがお尋ね者になっていたはずだ。とはいえ、この子の要望に応えるためには、ホントにどうしたらいいか判らない。一か八かで連れて行って、居なくなっちゃうのも厭だし。はあ、どうしたものか。

「あーッ、溜め息吐いたッ。もうッ。」

「溜め息じゃないよ。深呼吸だよ。」

 悩みの種である一方で、やたら元気なアオが可愛くて微笑ましくて、頭を撫でる。

「気配を絶つと居るか居ないのか判らなくなるほどなのに、居ると賑やかだね。」

 玲衣亜さんがやれやれといった感じで言う。ホントにそのとおりだわ。



 とらさんたちと合流するなり、靖さんが玲衣亜さんに絡んでくる。

「ねえ、さっきの話に仙人の桃って出てたじゃん。アレなんだけど、前から僕が飲まされてるのも仙人の桃って言ってたよね?」

「おッ、ついに気づきましたか。」

「ついにじゃねえよッ。始めっから仙人の桃だって教えられて飲んでんだよッ。つっても、効果効能はさっきの話で知ったんだけど。」

 若干、声量を抑えて文句を言う靖さん。でも、靖さんも仙人の桃を食べてたのッ? 、んで、死んでないし。じゃあ、靖さんも仙道になったってことッ? 

「世の中には知らなくていいこともあるんよ。」

 いつもの調子で明るく言ってのける玲衣亜さん。

「いや、これは事前に言っとかないとマズイ内容だと思うんですが。」

「だって、話しちゃうと無暗に怖がっちゃうでしょ?」

「無暗にじゃねえだろぉ? そういうのを怖がるのはふつうだから。」

 おお、靖さんはなにも知らされずに食べてたのね。怖い、怖い。

「なにしろ統計によれば、少量を口にするだけなら死ぬことはないという結果が出てるからね。だから一個丸々なんて食べさせなかったでしょ。大丈夫。」

 大丈夫じゃないと思うんですが。

「大丈夫かなんか知らないけどさ。で、どうなん? 死にもしてないけど、仙人にもなれてないと思うんだけど。」

 なんだ、まだ仙道になったかどうか判んないんだ?

「どうなのかしらね。私も人から仙道になる感覚って判らないからなんとも言えないけど、いまのところ問題もないみたいだし、もう少し続けてみよ? そうしたら絶対に仙道になれるからッ。」

 玲衣亜さんの強気の発言に引き下がる靖さん。なんなんだろう? 説得力の欠片もないのに、すっごい背中を後押しされてる気にさせてくれるんだよね、玲衣亜さんって。無駄に頼もしいというか。

「玲衣亜さんには靖さんが仙道になれるっていう確信があったりするんですか?」

「確信とまでは言わないけど、少量ずつでも桃を食べて平気なら、イケるんじゃないかとは思うよ。」

「ちなみに、いままでにその桃で仙道になった人っているんですか?」

「うん、いるとかいないとか。でも、師匠も信じてるくらいだから、きっといるはずよッ。」

「虎さんが言うんなら間違いなさそうですね。」

「またそういうことを言うッ。」

 いまの話が聞こえたのか、又八またはち焔洞人ほむらどうにんの二人が靖さんの方を凝視している。

「じゃあ、準備はいい?」

 虎さんがみんなに確認する。

 いつもどおり、私たちは異世界の恰好をして、又八と焔洞人は特に変化なし。

 そして、私たちはブロッコ国ケモン市の外れに転移した。



 高台にポツンと建てられた小屋の傍。周囲には段々畑があり、その麓に街がある。

「ケモン市ってビラ撒いたよね?」

「ああ。」

 靖さんが虎さんに確認する。

「実際さぁ、僕たちが撒いたビラに対して獣人たちはどういう反応してたの?」

 靖さんが今度は又八に問いかける。

「獣人たちは驚きはしたものの、“異世界”という言葉の意味もよく判っていなかったようで、すぐに平静を取り戻しました。ただ、仙道たちの方が大騒ぎになってましたね。」

「大騒ぎ、というと?」

「ビラ撒きをしているのがセント・ラルリーグの仙道だというのは判ってましたから。まず、聖・ラルリーグの仙道が連邦上空で好き勝手しているというので騒ぎになり、さらに異世界を調査しているということで、連邦の敵か、もしくは味方となり得るのかと騒ぎになりました。僕たちもビラ撒きをしている人たちについて聞かれましたが、当時はみなさんのことを知りませんでしたので、聞かれてもなにも答えられませんでした。ただ、確かに一緒に異世界に行った人たちだろうということだけは話しましたが。」

 そうこうするうちに異世界人の幽閉場所に到着する。地上五階の建屋の門の前には二人の歩哨が立っている。爺様が戦闘に備えてトトさんを召喚。トトさん、あらかじめ臨戦態勢に入る。こちらは総勢九名だけど、拉致犯二人と私、靖さんは戦えないから、実質五人みたいなもんだ。もちろん、戦闘にならなければそれが一番いいのだけど。



 建屋の周りをぐるりと囲む塀は高さ三メートルほどと高かったけど、仙道ともなれば霊獣に乗って楽々越えられる。どの辺りに異世界人が捕えられていたのかを又八から聞き出し、アオに敷地内を偵察してもらって、とりあえず屋内に侵入できそうな二階のバルコニーに移動する。

 屋内へ入ると、目に飛び込んできたのは複数の獣人だった。

 戸惑うみんなを余所に、トトさんがみんなをかくまうように一足飛びに前方に飛び出す。相手も一瞬怯ひるんでたけど、案の定、何者かと問うこともなくトトさんに牙を剝く。それはほんの一瞬の出来事だった。獣人がトトさんに飛びかかったかと思うと、トトさんは身体を捻り相手の拳を避け、そのまま回し蹴りを見舞う。蹴りを喰らった獣人は吹き飛び、壁にぶつかり倒れるとそのまま動かなくなった。

 改めて対峙する私たちと獣人たち。

 バルコニーから侵入したのがあだになったか?

「おどれらなんならぁッ?」

 部屋中に響く獣人の怒声。そんなに怒鳴らなくってもいいのにッ。これは質問じゃなくて、ただの咆哮に過ぎない。不法侵入してしまった以上、私たちが何者であろうともう戦闘は避けられないんだろう、という気がした。

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