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4-1(110) 五人の聴取

特に区切りがよかったわけではありませんが、4章にしてみました。

3章は10話程度で終わらせるつもりだったんですが。

4章はすぐ終わります。

 異世界人がすでに殺されていて、生存者ゼロ。

 津山つやまなにがしの証言により、いままでの努力が水泡に帰した気がした。異世界人拉致犯の五人の奪還に成功したとはいえ、当初の目的はあくまでも異世界人を元の世界に帰すということだったのだから。この報に触れて、さんとさんはどれほど落胆するだろう? 

 黄泉よみさん、泰山たいざんさん、こうさんと別れたところで、爺様の家に転移する。



 爺様の家には拉致犯五人が後ろ手に縛られたままの恰好で転がっていた。玲衣亜さんと伊左美さんが姿を現わした私たちにお礼と労いの言葉をかけてくる。まだ、お礼を述べるには早いよ、と思うけど。私は爺様に頭を下げる。そして、もうこの先は爺様を巻き込まないと誓う。靖さんたちがこの先どうするかは知らないけど、私の役目はもう終わったんだ。あとは拉致犯五人をどうするかってことと、私としては天さんと二人きりで、腹を割って話す機会を設けなければならない。この二点だけが、今回の事件に関連して私に残された課題だ。

 拉致犯については黙っていても虎さんたちがなんとかしてくれるだろう。みんな彼らを許すはずがないんだ。彼らの勝手な行動の末に何万の命が散ったんだから。となると、問題は天さんばかりか……。あ、トーマスさんもいたッ。本当に、疲れちゃうわね。



 虎さんが焔洞人ほむらどうにんと気安い感じで言葉を交わしている。二人は知己の間柄のよう。

「断っておくけど、縄は解かないから。判るでしょ?」

 その言葉にやや渋い顔をする焔洞人。

「キミたちが本当に僕たちの仲間なのかどうか、確かめる必要がある。」

「まさか、連邦が別人を刺し向けたと考えているのか?」

「いや、焔さんと海藤さんに関してはなんとも言えない部分もあるけど、六星むつほし卯海うかいの弟子の二人もいるんだ。だからキミたちが卯海に頼まれた人たちだってことは疑ってないよ。」

「では、なぜ……。」

「なぜもなにも、とにかく仲間であることを態度で示してほしいものだね。」

 むむ、これはきっと彼らから情報を引き出すまでの方便なのだろう。



 粗方挨拶が終わると、いつまでも爺様の家にいたのじゃマズいというので、虎さんの屋敷に転移することになった。拉致犯五人の奪還に尽力した爺様も、この件については最後まで見届ける責任があるからと、私たちについてくる。巻き込むなと言いながらも、なんだかんだで途中で放り出さない爺様には、本当に申し訳なかったと思う。先にも言っていたが、爺様ももう訳が判らなくなっているのかもしれない。拉致犯五人の責任を問うだけでいいのか、それとも虎さんの監督不行き届きまで追求するべきなのか、そもそも二年前に異世界で玲衣亜さんたちを見逃した爺様自身に非はないのか……などなど、客観的に考えれば、関わりのある全員に対して文句を言いたくなる感じなのだから。仮に異世界を是とした場合においても、その構図は変わらない。じゃあ、異世界の探索はほかの誰かに引き継ぎましょうねと、私が大将ならそうするだろう。

 でも、そんなのいまさらだ。もう爺様も私もチームやすしに肩入れし過ぎてしまっている。ならば仲間として、チーム靖側に付くよりほかに道がないんだ。ふう、頭が痛い。未解決の問題が積み重なるごとに、気持ちが擦り減っていく。

 この五人への聞き取りは程々にして、虎さんにはぜひ一刻でも早くこの五人を始末してほしいものだ。



 以下、五人の供述をまとめる。

 五人が暮らしていたのは北エルメスの港町で、ポポロ市ローン町で、玲衣亜さんたちの引っ越し先からそう遠くない場所に拠点を置いていたようだ。そこでそれぞれブリキ屋、ペンキ屋、製鉄屋、鍛冶屋として働き生計を立てていた。仕事に必要な資料や道具は持ち帰ってきたそうなのだが、ブロッコ国に接収されてしまったみたい。

 拉致した異世界人は、北エルメスからやや南に下ったケルン市在住の十二人で、研究のサンプルとして男、女、子供まで揃えたという。うち二人は黄蓮が連れ去っている。なお、五人が連邦に亡命した理由は、異世界人とセットではセント・ラルリーグで暮らしにくいと判断したためだ。

 研究はこちらの世界でのパワーアップについてや、彼らから知識を得ることに重点が置かれていたが、戦争が始まったことにより事情が変わり、彼らを戦場での戦力にするべく仙人の桃を食べさせたらしい。仙人の桃というのは、虎さんによれば、食した者を仙人に変貌させるが、身体に合わなかった場合は死に至らしめるという言い伝えのある桃とのこと。で、まず始めに、パワーアップの兆候の見られなかった七人に桃が与えられたのだが、七人とも死亡。次にパワーアップしている特別な者たちであればもしかすると、という期待から残る三人にも桃が与えられ、そのうち一人は死亡、二人はまだ死んでいないが、桃を食してから身体は衰弱し、歩くこともままならない状態になったのだという。

 戦争に負けて五人がブロッコ国に身柄を拘束されるまでは生きていたというから、異世界人が全員死んでしまっているという津山の情報は嘘だった可能性がある。もう死んだことにした方が手っ取り早いと思っただけ? いや、手に入れたサンプル、それも仙人の桃を食べて生き続けている者を手放すのが惜しかったのだろう、というのが五人の見解だ。

 そして、五人は異世界で見聞した内容と、相楽一が作った転移の術のカードで行き来できることも連邦に話している。連邦は異世界に興味を示し、少なくとも戦争が始まるまでは研究にも協力的だったという。



「聖・ラルリーグが異世界と関わることをよしとしていないことは判っていた。だから連邦に亡命する必要があったんだ。考えてみてほしい。私たちの目的は、異世界の素晴らしいモノをこの世界に広めることだろう? そのための過程で、研究の成果がお釈迦になるような真似は論外だが、それ以外にアレがこうでなければならないだとか、協力者がこうでなければならない、ああでなくてはならないといったルールはなかったはずだ。だから、一早く成果を上げるためにも連邦を利用した、というだけなんだ。」

 この期に及んで、まだ裏切り行為はしていないとアピールしている。そのうえ、仲間であることを前提に話しているからなのか、謝罪も救助に対する礼もまだ口にしていない。本当に虫酸が走る連中だ。

「いまはそのことはいい。まだ異世界人に生き残りがいるというなら、彼らを救出するから、案内してくれ。」

 虎さん、相手の言葉に構わず冷たく言い放つ。

「そういうことなら急いだ方がいい。連邦は黄泉さんに異世界人は死んだと報告していて、そのやり取りはブロッコ国にも伝わっているはずだ。もしかすると、連邦が有言実行とばかりに生き残った異世界人を殺してしまうケースも考えられる。」

 自分たちが必要とされているという事実に活路を見出したのか、焔洞人の表情に生気が宿った感じ。

「それは考えにくいけど、ま、生存者を隠されてしまってもかなわんからな。」

 それから虎さんは又八またはちと焔洞人を案内役として指名する。そして、残る三人を逃げ出さないように蔵の方へと、玲衣亜さんと伊左美さんを伴って連れて行った。



「葵、ちょっと顔が怖いぞ。ブチ切れてんの丸判りだから、もう少し感情を抑えた方がいい。ま、気持ちは判るがな。」

 虎さんたちが出て行った間に、爺様から注意を受ける。

「おじいちゃんは異世界人救出作戦にまでは参加しないんでしょ?」

 努めて笑顔を作って、爺様に尋ねる。

「乗りかかった船だ。この件に関しては最後までお供すらぁ。」

 ニヤリと笑う爺様。その返事に、思わず顔が綻んでしまう。

「なんか最後までおじいちゃんの手を煩わせることになってしまって、本当にごめんなさい。結局、私一人じゃなにもできてないよね。」

「葵は葵でがんばってると思うぜ? いまは余計な心配はせずに、自分の思った道を進めばいい。」

 肩を落とす私の背中をバシバシと叩く爺様。

「ちょ、痛いってッ。」

「ふふん。」

 この悪ふざけ? のおかげで、少し気が楽になった。



 そして、虎さんたちが戻ってきてから、私たちは異世界人を救出に向かうべく準備を始めた。

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