3-31(108) 増えすぎ
固有名詞増やしたくないのですが、人の名前が増えてきてます。
コマツナ連邦を構成する四国の中でも聖・ラルリーグと国境を接するブロッコ国。同国のテーム高原の三本杉にいま、僕たちはいる。この場所はビラ撒きのビラに記した場所だったけど、なにを思ったのか議会は異世界人拉致犯の引き渡しにこの場所を指定したんだ。その理由は判らない。もし理由に気がつけば、僕たちはすっごい屈辱を感じたりするのかもしれないけれど、判らないものは判らないので別にいいやっていう。
太汪軍黄泉さんとその弟子数名、あと六星泰山もこの場にいる。その後ろにはなぜか黄蓮が控えている。なんでも拉致犯の顔を拝んでおきたいとのこと。ただ、「なにがあっても無用な手出しはしないでいただきたい」とか黄泉さんに釘を刺されてたから、黄泉さんや泰山と同じく、この場に拉致犯の仲間が現われると予想しているのだろう。野次馬が増えるのは好ましくないけれど、その分、僕たちが目立たなくなると思えばいいか。
ちなみに黄泉さんからの情報により、拉致犯の素性はすでに割れている。六星卯海の弟子で又八、桂馬の二名に加え、一二仙の大和公康の弟子で慎一、はぐれの海藤と焔洞人の三名で計五人。うん、出立したときの人数と同じだ。どうやら誰一人欠けることなく、こちらに戻ってきたみたい。いまは亡き卯海さんも、いろんな人に声をかけたもんだなと思う。ま、そんなこと言ったらチーム靖にも小夜さんや葵ちゃんがいるから、人のこと言えたもんじゃないけど。
三本杉の周りには連邦側の仙道も三人いる。おそらく、彼らは現場監督みたようなもんで職人が来る前にとりあえず現地に入りましたっていうポジションなんだろう。で、ウチらはお客様だから、監督にちゃんと時間どおりに拉致犯を連れて来るの? とかいろいろ尋ねた挙句、いまは話すこともなくなり無言タイムに突入してるってわけ。殺し合いをするうえでの敵味方だから、商売上での敵味方とは根本的に違うというか……いや、知らないけどね。
虎さんは黄泉さんと話してたり、葵ちゃんは黄蓮に絡まれてたりして、僕だけはぶられてる気分。仙道の輪に入るといつもこう。あ、でも黄蓮の近くで一人遠くを見ている男がいて、彼からは僕と同じオーラを感じるッ。もしかすると、彼が噂のケビンさんかもしれないッ。黄蓮に連れ去られた不憫な異世界人にしてトーマスさんの友達ッ。黄蓮はちゃんとケビンさんを連れてるのに、ウチの葵ちゃんときたらッ。トーマスさんをお父さんに丸投げして遊び呆けてるんだから、これじゃお父さんも頭にきますよッ。といっても、実際、お父さんはそんなの気にしてなくて、トーマスさんがいると逆に助かるみたいなこと話してたけど。
「ハーイ。」
同類相憐れむで、蚊帳の外のケビンさんに声をかけてみる。
「ハァイ。」
訝しそうに僕を見ながら、短く返事するケビンさん。
「僕靖っていうんだ、キミは?」
「ケビンだ。よろしく。」
そう言って手を出してくるケビンさんの手を握る。なんか異世界流って感じ。
「ケビンさんもやっぱり異世界人拉致犯の姿を拝みに来たのかい?」
「ん~、話せば長くなるんだけど……短く言えば蓮さんの付き添いかな。」
「ワオッ、あの蓮さんのッ? 凄いじゃないかッ。」
「はッ、凄くなんかないさ。オレはただただ、彼に振り回されてるだけなんだから。」
「おぉぅ、そうか。毎日楽しいかい?」
「あんまり。」
「ま、楽しいとか楽しくないとかって、気の持ち様だからね。」
「ふん、そればかりじゃないさ。ま、仙人ってのはもう悟ったもんだから、オレとは感覚が違うのかもしれないけどね。」
「ああ、あいつらは人にあって人に非ず、だからね。ちなみに僕はただの一般人だけども。」
「獣人なのかい?」
「いや、聖・ラルリーグの人間だ。」
「聖・ラルリーグの人間がこんなとこに来るかよ。靖さんはただの一般人じゃなくて、変人だな。」
「ふ、案外、変わってるのかもしれないね。最近は家にも戻ってないし。」
「なんで帰らないんだ?」
「数ヶ月前に家に帰ったら兵役だっつって連行されてね。いまは除隊したけど、まだほかにちょっとやらないといけないことがあってさ。」
「そりゃ、大変だな。」
「大変なのはみんなだよ。特にケビンさんなんかは、割を喰ってる方になるのかな。」
「さあ、どうだろ? それは、みんなの様子が判らないと、なんとも言えない問題だ。」
「みんなって?」
「オレの同郷の仲間さ。いまは蓮さんに連れ回されてるから、仲間の安否も判らないし。」
「お里はどこなん?」
「さあね、忘れちまったよ。」
結局、異世界に関することは一言一句、言い出せなかった。元々、そんなつもりで話しかけたわけじゃないけどね。黄蓮も近くにいるし、僕が異世界人拉致犯の仲間だと思われても困るし。
で、そろそろ約束の時間が近づいてきているのか、みんなの雰囲気に変化があったんで、話を切り上げて虎さんたちと合流した。
三本杉の向こうに人影が見え始める。だんだん近づいてくる。馬に乗った男が三人。馬車の御者が一人。三本杉の前で馬から降りて、御者が馬車の荷台に顔を突っ込むと、そのあと馬車の荷台から五人の男がぞろぞろと降りてきた。後ろ手に縛られていることから、彼ら五人が拉致犯なんだろう。一端の仙道も、ああなっちゃあお仕舞いだ。
五人の引き渡しは難なく終わったけれど、拉致された異世界人がいないってことで黄泉さんが怒り出した。連邦の奴らは異世界人はすでに全員死んでしまったと弁明している。それを聞いてさらに怒り狂う黄泉さん。
「この期に及んでまだそんなことを抜かすかッ。ならば死体でよいから連れてくるのが筋というものだろうッ。こちらは異世界人を元の世界に帰すと言ったんだッ。 おおッ。無為に殺害したことも言語道断だが、そのうえさらに人を愚弄するようなら、本気で連邦を潰すぞッ。」
あ~あって感じ。
なにやってんだろ? 連邦の奴らも、拉致犯のクソ野郎共も。
「申し訳ありませんッ。しかし、すでに死体のない者も多数あり、その要望に応えること甚だ難しく、されば、ここは不肖、津山兼行の命にてご容赦願いたく……ッ。」
「お前の命にどれほどの価値があるのか、ロッチで答えてみろよ。」
膝をついて謝罪する津山さんの肩に、黄泉さんの剣が突き刺さる。その衝撃のためだろう、津山さんは黄泉さんの問いに答えられず、俯いて歯を喰いしばっている。剣が抜かれると、津山さんの吐息に交じったような呻き声が漏れ、もう一方の肩を突かれたときには声を飲み込んだのか、荒い息遣いだけが響く。
「他国の使者に対し、度が過ぎているのではありませぬかッ。」
連邦側の男が黄泉さんを責める。
「は? 使いもできないのに使者って言うの? こいつは一ロッチの価値もないただのゴミだろ。」
黄泉さんの剣幕に男も黙る。
「おい、なぜ異世界人を殺したのか言え。」
痛みを堪えるのに精一杯といった様子の津山さん。答えるのは無理じゃない?
「私は、知りません。」
「ホント、馬鹿にしてるな。」
黄泉さん、そう言うと今度は津山さんのお尻に剣を突き刺す。
「なんでなにも知らない奴を、連邦はここに寄越したわけ?」
「と、特に考えあってのことでは、ないと思われます。」
「なんでお前は、自分の命一つで許されると思ったわけ?」
「いえ、自分が浅はかでした。」
「自惚れてたんだろ?」
「いえ。」
「やはり、連邦とは話ができぬ。」
黄泉さん、尻から剣を抜くと布で血糊を拭き取り始めた。特にトドメを刺すとかしないみたい。眼前には血まみれの津山さんが這いつくばっている。もう生きてるのか死んでるのかさえ判りゃしない。
あとのことはこいつらに聞くさと言って、黄泉さんは連邦の五人を引き揚げさせる。黄泉さんの傍に異世界人拉致犯を残し、連邦の奴らは去っていった。異世界人拉致犯の方を見れば、彼らは顔を青くして黄泉さんを見ている。異世界人を殺しておいて、自分たちの命は惜しいってか? 連邦の奴らもこいつらも、本当にくだらない奴らだよ。




