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アオイロソウビ  作者: 青波零也
Chapter 4:Sailing against the Wind
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少年と少女と聖ライラの日

 セイルは目覚めてすぐにカーテンを開け放った。

 空は久々に曇に覆われていて、外を吹く風は冷たそうだ。しかし、眼下の熱気には目を見張るものがあった。寮の前の道も既に何処から湧いたのかもわからない人に埋め尽くされていて、奇妙な仮面が道いっぱいに咲いている。

 その仮面を被った一団は、魔王イリヤが操ったと言う巨人の張りぼてを担いで、町中を練り歩くと聞いている。

 今日は聖ライラの日。

 聖ライラ祭の最終日である、聖女ライラが魔王イリヤを倒したとされる日。

 そして――スノウが旅立つ、日。

 今日も、セイルは青い薔薇の夢を見た。その中に立つ少女、スノウの姿を見た。スノウは何かを伝えようとしていたみたいだったが……何を伝えようとしていたのかは、思い出せない。少しだけ悔しかったが、夢よりも今は現実だ。自分は、スノウを青い薔薇の咲く場所まで連れて行かなくてはならない。

「よっし!」

 頬を叩き、気合を入れて。セイルは部屋を飛び出した。

 既にスノウは起きていて、リムリカと一緒に朝食の準備をしていた。セイルはリムリカに「今日でスノウは神殿に帰る」と嘘をつき、リムリカはその嘘を信じている様子で「今日でお別れかい、寂しいねえ」とスノウに語りかけていた。

 スノウは小さく頷いて、階段を下りてくるセイルに気づいたのか、顔を上げた。

 青い瞳が、柔らかく笑みの形になった。

「おはよ、セイル」

「おはよう、スノウ、リムリカさん」

 今日も三人の朝食だ。クラエスは、楽団の仲間と共に既に城址へ向かっているらしい。それを聞いて、セイルもクラエスの所属する楽団が、城址で上演される劇の舞台演奏を担当することを思い出した。ここ数日スノウのことばかり考えていて、今の今までそのことをすっかり忘れていたのだった。

 スノウと一緒に城址に行けばクラエスの演奏も聞けるだろうか。それとも、そんな余裕も無いだろうか……そんなことを考えながら、朝食を済ませて外に出る準備をする。スノウはほとんど荷物を持たず、その代わりにセイルから借りているマフラーをそっと首に巻き直した。返そうとするスノウに、「今日は寒いから」とセイルが無理やり巻かせたのだ。

 そして二人は寮を出た。

 窓の外から見たとおり、風は昨日よりもずっと冷たい。スノウが空を見上げて、小さく呟いた。

「晴れてないのが、残念だね」

「スノウは、晴れてる方が好き?」

「うん。空の青は、幸せの色だもの。きっと、魔王イリヤも、聖女ライラも空の色に憧れたのね」

 何処か夢見るように微笑んで「あなたに、幸せの色が咲きますように」と呟くスノウ。幸せの色が咲く、というのは青い薔薇が咲くことなのだ、とセイルはやっとのことで思い至った。

 それは、スノウが何よりも求めるもの。魔王イリヤが咲かせた薔薇は、スノウにとっては本当の、幸せの色をしているのだ。

 セイルは小さく頷いて、そっとスノウの手を握った。

「行こう」

「うん」

 スノウも頷いて、手を握り返した。セイルとスノウはお互いの顔を見合わせて、微笑んで頷きあう。

 呼吸を合わせ、いち、にの、さんで二人は駆け出した。

 通りに咲き乱れる青い薔薇の飾りに見守られ、二人が目指すのは聳え立つ黒き城、魔王イリヤの夢の址。

 ――青色薔薇の咲く庭へ。

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