第70.5話 姫がいなくなった舞踏会で side樹生
行ってしまった……
俺はあげていた手を力なく下して、陽の姿が消えて行った会場の入口の方をぼんやりと眺めていた。
「行っちゃいましたね」
俺の心の声に被さるように声をかけられて、俺は内心、心臓が飛び出しそうなほど驚いてたが動揺を表には表さず、ちらっと視線だけを横に向ける。
そこには陽の友人、確か……安部さんがいた。
ってか、いつの間に!?
安部さんは藍色の体のラインが出るスレンダーラインのドレスで、腰に共布の大きなリボンと、綺麗にそろえられたボブヘアにも同色の花のコサージュがつけられている。
グラマラスとは言い難いけど、知的な雰囲気を醸し出して彼女に似合うドレスだった。
しかし、お互い顔を見知っている程度だと思っていたら、突然、声をかけられて多少戸惑っていた。
いつもの俺だったらへらっとした態度で難なくあしらえるのに、さすがに今は傷心中だから、そっとしておいてほしいっていうか……
そう考えて、今まで考えないようにしてきた自分の気持ちに気づかされてしまい、はぁーっと内心で盛大なため息をつく。
そうなんだよな……
俺は――……
「あの二人、ちゃんと上手くいくといいですね」
そう言われて、俺は返答に困る。
俺を斜めに見上げてくる瞳は鏡のようでいて、それでいて心を見透かすような鋭さを持っていて、俺の気持ちに気づかれているのではないかと。自分ですら気づいていなかった気持ちを見透かされていそうで、困る。
俺は視線を安部さんから会場の入り口に向ける。
安部さんの口調からすると、多少なりと陽の複雑な事情を知っているのだろう。友人だから俺よりも詳しく知っているかもしれない。だから。
「そうだな、上手くいくといいな」
俺はそう言って、いつもの笑みを浮かべる。
陽が笑っている方がいいもんな――




