第60.5話 挑戦状ですか!? side千織
他高に進学した中学の友人と一緒に回っている時、三階の廊下から階段にふっと視線を向けると、二階と三階の間の踊り場に異様な光景を見つけて足を止めた。
お祭り騒ぎの中、そこだけがピリッと張りつめていて、バチバチと火花が散っていそうなただならぬ空気。
その空気に気づかず階段を登ってきた生徒がキャハハっと笑って私の横を通り過ぎていくのを、ちょっと信じられないものを見るような視線で流して、私の視線は踊り場に注がれている。
そこにいたのは葉若先輩と宇野君だった。
あと数段下りれば踊り場という位置に葉若先輩の後姿があり、階段を半分登り切り踊り場を回ったところで宇野君が止まっている。
あの二人って知り合いだったっけ……?
そんな疑問が浮かんで、でもすぐにそれが愚問だと気付く。
ああ、陽ちゃん関係か。
一人納得するように頷きかけて、私はえっ!? と大きく目を見開く。
葉若先輩は後姿だったからいままで気づかなかったけど、なにか抱えてる……?
っていうか、陽ちゃんだよね!? しかもお姫様抱っこって……
なに!? どういうことぉ――!?
体中から沸き立つ好奇心に絶叫したいような気分だったけど、張りつめた空気にごくっと喉を鳴らして固唾を飲みこむ。
陽ちゃんをお姫様抱っこした葉若先輩と宇野君がなに話してるんだろう。
好奇心に駆られて一歩踏み出して階段に近づくと、葉若先輩の甘やかで軽い調子の声が聞こえた。
「一つ、クラスメイトの君に忠告をしてあげるよ。本当に好きな子には優しくしなきゃダメだよ。そんな不機嫌オーラばしばし出して、優しくないんじゃ、気持ち誤解されるだけだから」
まるで挑戦状のような言葉を、最後まで言い終わる前に階段を下りはじめた葉若先輩。
踊り場に残された宇野君が、悔しそうに奥歯をギリっと噛みしめているのを見て、自分のことじゃないのに背中がひやりとする。
実際に宇野君が陽ちゃんに誤解されていることを知っていてそう言ったのだ。
挑戦状みたい……じゃなくて、挑戦状じゃないっ!




