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第46.5話  俺が好きなのは… side翼



 俺はなににイラついているのだろうか――

 夏休み前から胸に溜まった重いものが消えずにどんどん蓄積されていく。

 あいつが春馬を好きなことも、俺のことを友達以下にしか見ていないことも初めから分かっていることなのに。

学祭の買い出し係が陽と春馬に決まった時。陽のすがるような目線から、逃げていた。

 いつもだったら、その視線を遮って、切ない表情を隠してやるのに、それができなかった。

 チャイムが鳴ると同時に教室を出て、無意識に足が向いたのが武道館の横の中庭だった。それなのに、さほど時間を空けずに追いかけてくる足音が聞こえて、それが誰なのか俺には見ないでも分かって、心地いい浮遊感と体の奥底から痺れるような感覚とイライラの矛盾した気持ちが湧き上がってくる。

 陽は知らないようだが、春馬と杏樹が別れ話でもめてるのを俺は知っていた。

 原因はくだらない噂話だけど、そんな単純なことじゃないのはなんとなく分かった。

 そんな時に、春馬と二人きりで出かけるなんて陽にとって絶好のチャンスじゃないか。単純にそう思うのに、それを詰る自分がいて、どうにも感情を上手く抑えることができなかった。


「酷い……、どうしてそんなふうに言うの……?」


 目尻に涙をためて、ぎゅっと苦しげに唇をかみしめる陽。

 見てるこっちが痛くなるような、切なさと苦しさが混じった悲愴な表情。

 いつも、春馬を見つめる時にする表情――

 俺を責める言葉を言いながら、陽はいまも春馬を想っているのか。

 そう思っただけで、胸がちぎれそうなくらい苦しくて、ぎりっと奥歯を噛みしめた。


「陽こそ――、酷いのは陽のほうだろ。そんな春馬を好きですって顔して、俺と付き合っている振りし続けるとか。俺は――」


 俺()好きな子にしか優しくしないんだ……


「俺を好きな子にしか優しくしないんだ。俺に惹かれてくれるなら、裏切り合う関係でもいい――」




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