第42.5話 降り積もる… side樹生
夏休み後半の部活最終日は、毎年恒例の百射回。一日がかりでひたすら矢を打ち続ける。
集中力や体力づくりが目的ではあるけど、自分の射型を見直すというか自分自身に向き合う時間だと思っている。
とにかく八十本を超えたあたりからの疲労感の中で引く弓は重く、集中力も途切れてくる。その中でいかに自分を甘やかさずに引くか、いつも葛藤している。
今日はその百射会の日で、一・二年で仕事が回るように立ち順が組まれる。的前に上がっている一年も含めて三十五人がそれぞれ百射するわけだから待ち時間も長くて、その時間をどう使うかも重要だと思う。
お盆休みを挟んだ夏休み後半の初日、休み惚けなのか弛んだ空気とミスを連発する一年にみせしめるために陽を怒鳴ったことが、ほんの少し胸にわだかまっている。
怒鳴る俺に対して、陽はいつも低姿勢で従順な後輩を演じている。まあ、普段もいい後輩だけど。
多少でも「自分を利用して」とか愚痴ってくれれば俺も謝りようがあるのに、陽はそのことについていつも何も言わない。
それがなんだか、俺が鬼副主将を演じてるって見抜かれているみたいで居心地が悪いというか、恰好がつかない。
そのもやもやを抱えながら、集中力を切らさないようにしなければならなくて、ちょっと厄介だった。
昼休憩を挟んでやっと八十射が終わった頃、自分の立ちが終わって道場の端に座ってカケを外しながら、ふっと視線を道場内を向けて陽の姿がないことに気づく。
看的と黒板係以外は道場内で見学、もしくは外で巻き藁練習をしていてもいいことになっている。
一日がかりの百射会、立ちの順番以外ずっと正座でいるのも窮屈なのでそういうことになっているが、陽が巻き藁やっているというのはなんとなく違和感がある。それに陽の立ち順は俺の次の次だ。外にいるならもう戻ってきて準備をしないと立ちに間に合わない。
俺は居ても立ってもいられない気持ちを抑えて、目の前で行われている立ちが早く終わることを切望した。
立ちと立ちの間でなければ道場の出入りはできない。だからこそ、陽もさっきのタイミングで戻ってこないといけなかったはずだ。
立ちが終わった瞬間、表に出れば巻き藁のところに陽の姿はなくて、そこよりさらに奥の桜の木の根元に座り込んでいる陽を見つけた。
俺がすぐそばに近寄っても陽は気付かず、何をやっているのかと手元を覗き込めば、的中ノートを必死に見入っていた。
勤勉な陽らしくて、ふっと笑みがこぼれる。
「陽、こんなとこにいていいのか?」
俺が声をかければ、ひどく驚いた様子で陽が振り仰いだ。
「…………っ、樹生先輩……?」
「もう、陽の立ちの番だぞ」
俺がそう言ったのと同時に、道場の扉が開いて二年の真田が顔を出した。
「ひなたー、あんた立ちの番だよっ! 早く戻ってきて」
「えっ、あっ……」
勢いよく立ち上がった陽は膝の上に載せていた的中ノートをばさっと落として、それを慌てて拾うと俺の横をすり抜けて道場の入り口に駆けていった。
その後姿を見て、ほっとすると同時にもやっとしたものがまた胸に積もっていく。
これは罪悪感なのか、独占欲なのか――
そう考えて、くしゃっと前髪をかきあげて自嘲気味な笑みを浮かべる。
こんなのは自分らしくない――
だから、胸にちょっとずつ積もっていくもやもやをいつもの微笑で隠して、残り二十射を打つために道場へと戻った。




