第29.5話 たぶん気まぐれ side翼
完結から約3ヵ月。
翼のヘタレぶりが暴露されてしまう翼視点…
放出してなかった拍手お礼小説を載せます。
「おい、ずっとそこに突っ立ってたのか?」
シャワーを浴びてリビングに戻ってみれば、陽は俺がリビングを出た時と変わらない場所で立ち尽くしていた。俺の声に驚いてビクっと肩を震わせ、振り返った陽はさらに悲鳴を上げた。
「きゃっ!? なんで裸なのよっ!?」
言いながら陽は真っ赤な顔を素早く俺から背けた。そのあからさまに嫌がる素振りが癇に障った。
陽とは偽の恋人同盟ってヤツを結んでいる仲でお互い特別な感情はない。というか陽は春馬のことが好きで、なぜか俺が杏樹を好きだとか勘違いして「片思い同士だね」とか言ってへらっと笑ってた。その笑顔が俺には重かった。
見てるこっちの方が苦しくなるような切なげな瞳と泣きそうな表情の先にはいつも春馬がいて。初めて陽を見た時から――陽の視線の先には春馬がいた。春馬を見つめるそのあまりに悲愴な表情が俺の脳裏に焼き付いてしまった。
ただ、単純に気まぐれだった。到底叶いそうもない相手を想いつづけている陽に興味を持って、切なげな表情を見るたびなぜだか胸の奥がイラついた。
この日も、嫌なら初めから断ればいいのに春馬と杏樹と四人で出かけて、結局、泣いていた。
馬鹿なやつ……
そう思うのに、こいつの泣き顔は見たくないとも思う。
男に免疫がなくて、俺の下の名前を呼ぶだけでも顔を真っ赤にさせていた陽は俺にとって格好のおもちゃでもあって。
裸といってもシャツを着てないだけなのに、大騒ぎする陽に呆れる。免疫なさすぎにもほどがあるだろ……
「自分の家なんだからいいだろ。シャツ持ってくるの忘れたんだよ」
「なによ、開き直って……」
口調は強気でも、顔を背けて絶対にこっちを見ようとしない陽の拒絶するような仕草がもどかしくて、俺は二人の間の距離を詰める。
床の軋む音で俺が近づいてきたのに気づいた陽が素早い動きで後ずさるから、また胸の奥が苛立つ。
陽が一歩下がれば、俺はその二倍の距離を一歩で縮め、あっという間に陽を壁際に追い詰めた。
「逃げられると追いかけたくなる、って知ってるか?」
口元に不敵な笑みを浮かべて俺は静かな口調で問いかける。
ほんのちょっとの好奇心。たぶん気まぐれ。
こいつが泣くのも笑うのも、いつでもそこには春馬が関係していた。俺に向けるのは怒った顔くらいで。
泣かせてみたいと思った――
「そんなっ、知らな……」
かすれた声で言った陽が顔を背けたから、俺は陽の両腕をそれぞれの手で壁に縫い止めるようにして、一気に陽との距離を詰める。瞬間、反射的に振り仰いだ陽の火照った瞳とぶつかって、俺の心臓が大きく波打つ。さっきまでのイラつきとは違った痺れのようなものが一気に全身を駆け巡って、頭が熱でやられそうだ。
上目使いは反則だろ――
直前で止めてからかうつもりだったとか、そんな考えは吹っ飛んでしまって、俺は細めた瞳で驚きに目を見開く陽を見つめ、陽の唇にそのまま自分の唇を重ねた――
※ 実際は電話がかかってきてキスは未遂でした。




