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第58話  恋のカタチ



 頭の中がぐるぐるするのは、きっと考えすぎたから。

 春馬のこと、杏樹のこと、それから翼のこと。

 本当はとっくに私の中に答えはでていて。

 自分がどうしたいか、どうするべきか……

 分かっているんだけど、気持ちがついていかないっていうか。

 私ははぁーと重苦しいため息を漏らして額に手をあてて、体育座りした膝を抱え込んでその上に顔を伏せた。

 ちらっと視線をあげれば、机の脚とそこで作業する生徒の足、さらにその向こう側で忙しく駆け回る生徒の姿が見えた。まるで、真っ暗な劇場で一人、スクリーンの向こうの情景を眺めているような気分。

 今日はもう学園祭一日目の土曜日。学祭開始まであと数分ということで、最後の準備に追われているのだろう。

 私はなにやってるかというと――

 今いるのは有志実行委員のブースの奥の壁際の床に座って壁と同化中……

 クラスの出し物は迷路で、当日の当番は中の仕掛けを動かすのと受付があるけど、私は明日の午後受付担当だから今日はまる一日空き。学祭実行委員とかクラス委員とかじゃないし、何かあったらメールがくるだろうから、クラスにいなくてもいいから、樹生先輩のいる有志実行委員のブースの奥に居座っているというわけ。



  ※



 数日前、春馬からメールが来て部活帰りに小学校の時住んでいた最寄駅にむかった。


「ごめんっ」


 待ち合わせの公園に行ってみれば、突然、春馬が地面に頭がつきそうな勢いで頭を下げて謝ってくるから、驚いてしまう。


「春馬?」

「俺のせいでいろいろ噂されてるみたいでごめん。俺と杏樹のことに陽は関係ないのにな……」


 決まり悪そうに唇を噛みしめて視線を落とした春馬に、私は苦笑する。

 関係ない――

 その言葉の意味は“巻き込んでごめん”ってことなんだろうけど、ちょっと、ほんのちょっとだけ胸が切なくなって困る。


「今日遊んでたやつらから、文系のほうでなんか俺達のことで変な噂になってるって聞いて、いてもたってもいられなくて……、もしかしてこの間、陽がびしょ濡れだったのって……」


 だんだんと語尾が小さくなってくる春馬は、伺うように上目づかいでこちらを見てくる。私はなんともいえない微妙な表情で首をかしげる。


「春馬のせいではないよ?」


 ほんと、バケツの水をかけた子達が杏樹の友達なのか翼を好きな子なのかわからない。もしかしたら全然関係なくい子が、噂を聞いて面白半分にやったのかもしれない。

 だから春馬のせいではないよ――っていう意味でいったんだけど、春馬は納得いかないように首を横に振る。


「ううん、俺がいけないんだ。杏樹に別れようって言った時、「ひなちゃんを好きだから?」って聞かれて、俺、答えなかった……。杏樹に嘘つかれたことが許せなくて、中条とはほんとに何もなかったのかもしれないけどそう言った杏樹の言葉を信じられない自分が許せなくて、杏樹と別れようって決めたのは陽のことは関係ないのに。どこかで、陽ならこんな嘘つかないのにとか比べてる自分がいて……」


 切なげに眉尻を下げて、掠れた声で話す春馬の言葉を静かに聞いた。


「もっと早く自分の気持ちに気づけばよかったとか、やっぱり後悔してる部分もあって、陽は関係ないって杏樹にはっきり言えなかった。それくらい俺には大切な想いだったんだ」


 まっすぐに私を見つける春馬の薄茶色の瞳の中に一筋の憂いの影があって、自分の瞳が泣きそうに揺れたのが分かった。


「俺の大切な初恋なんだ……」


 何かをこらえるように歪められた表情が、私の心をついた。

 だから私は俯いてきゅっと唇を噛みしめて、それから勢いよく顔をあげて春馬をまっすぐに見上げる。


「噂なんか別に平気、私のことは大丈夫だから。だから、春馬はもう一度だけでいいから杏樹と話してみて。お互い、見栄とか意地とかで隠し事しないで正直な気持ちを話した方がいいよ」


 小首をかしげて見れば、春馬がゆっくり頷くのが見えた。


「私の初恋も春馬だったんだよっ! だから、春馬にはいい恋してほしい」


 目一杯の笑顔を浮かべてそう言ったら、春馬が息をのんだ。

 瞳を大きく見開く春馬に私がほんのわずかに笑ってみせれば、春馬はやりきれないほど切なげな一筋の光を帯びて困ったように微笑んで、でもそれ以上は何も言わなかった。

 きっと、これで伝わっただろう……

 私がずっと伝えたかった想いも、ずっと伝えられなかった想いも。

 一番伝えたいことは、ちゃんと言葉にしないと相手には伝わらないと思ってる。どんなに親しい中でも言葉にしなければ誤解やずれが生じる。でも、言えないこともあるんだ。

 春馬が好き――

 私の想いは、言えない想い。だけど伝えておきたかった想い。


『私の初恋も春馬だったんだよ』


 含みを持たせて過去形で言った言葉に、春馬はちゃんと気づいてくれた。だからちょっと困ったようななんとも言えない微笑を浮かべていたんだろう。



  ※



 女子に翼と春馬のことで色々言われても、鋭い視線で睨まれても、別になんとも思わなかったけど、親友だと思っていた杏樹に彼氏をとらないでって言われたのはけっこう胸にぐさっときた。春馬を疑った杏樹の行動は理解できないけど、杏樹が不安になる気持ちは分かるっていうか、私のせいだっていう罪悪感はある。

 あれ以来、杏樹とは話せてないけど、春馬はちゃんと杏樹と話し合ったかな……?

 杏樹は納得してない、諦めないって言ってた。

 二人が少しでも納得して、これから進む道が違ったとしてもいい関係でいれたらいいと願って、瞼を閉じた。




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