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第53話  宣戦布告



 嵐のような三人組が去っていって、私は一人ぽつんと体育館裏に立ち尽くしていた。

 顔を伏せたまま後ろに一歩下がると、とんと背中に壁が当たってふぅーっと吐息を漏らす。

 杏樹の友達だという彼女達の言いたいことはなんとなく分かった。

 けど、そんなことを彼女達に言われる筋合いはない。

 誰が誰を好きかなんて、他人が口を挟むことじゃない、まして他人が。

 確かに私は春馬を好きだけど、その気持ちを面に出してないし、春馬と杏樹の中を引き裂こうとか微塵も思っていない。

 いままでの嫌がらせは、翼と仲良くしていることが原因だと思っていたけど、違ってたのかな……

 千織ちゃん曰く、私の“友達の仮面”は時々外れてるっていうし、翼にも同じようなこと言われたことあるから、もしかしたらどこかで杏樹に私の気持ちに気づかれてしまったのかもしれない……

 今のとこ、嫌がらせっていってもそんな実害はないし、半分仕方ないかとため息をついた。

 それが逆に彼女達が気に食わないとは思いもしなかった。

 さすがにクラスメイトは春馬関係の噂はしないけど、なんだか好奇の視線を向けられるし、廊下とか校内ではひそひそ話す女子の声が鬱陶しいし、鋭く刺さる視線も痛いけど、そんなこと気にしていませんって顔で過ごしていたら、なんだかだんだん嫌がらせがエスカレートしていっている……?

 噂話と視線とぶつかられるくらいだったのが、下駄箱にゴミが入ってるとか、そのゴミに「人の彼氏にちょっかい出すなっ!」とか殴り書かれてたり……

 って、小学生レベルのいらがらせに呆れていたら。

 やられた……っ

 いつも通り、その日もいつもと同じ電車に乗っていたら、背後でジョキンって鋭い音がした。

 振り返ろうとしても満員電車だからうまく動けなくて、やっと吐き出された学校の最寄駅で、スカートの後ろ寄りの横が切られていた……

 ちょうどひだの間だったから、なんとか学校までは鞄で押さえて行ったけど、これも杏樹の友達のいやがらせだっていうの……? ってか、もういやがらせの範疇超えてるでしょ!?

 今までのは許してきたけど、さすがにスカート切られたことには苛立つ。

 あと一年以上履かなきゃならないのに、どうしてくれるのよぉ――!!

 お弁当箱の中のブロッコリーにフォークを突き刺したら。


「怒りどころはそこじゃないと思うけど……?」


 相変わらず陽ちゃんってずれてるよね、ってあきれた口調の千織ちゃんに言われてしまった。

 ただ今お昼時間で、千織ちゃんと二人のランチタイムです。


「でも、証拠がないから彼女達とは限らないし……」

「まあね。でも、痴漢ならスカート切る余裕あるなら触るでしょ」


 その発言に、ぞわぞわっと嫌な寒気が体中を襲って、私はフォークを持ったまま両手で体を抱きしめる。


「やめてよ、あえて考えないようにしてたのにぃ……」


 痴漢より嫌がらせって言われた方がましかも……

 痴漢だったら、なんだか明日から電車に乗るのが憂鬱になってくるよ……

 げっそりしている私を見て、千織ちゃんはなにかに納得したみたいに、ぽんぽんって手のひらを叩いてる。


「普通の嫌がらせじゃ反応薄いから、あえて痴漢っぽい嫌がらせして怖がらせるのが目的だったか」

「やめてよ、一人で納得するの」

「いままでの嫌がらせには無反応だった陽ちゃんがマジでへこんでるから、そんなとこ見せたら彼女らの思うつぼでしょ」

「それはそうかもしれないけど」

「ってか、なんでそんな普通にしてたのいままで、もっと早くキレてもよかったんじゃない?」

「キレるって……、私そこまでイラついてる?」

「んー、そんなでもないけど」

「いままでのは、なんとなくだけど、彼女達の気持ちも分かるから。方法はいいとは言えないけど、友達を思ってやってることでしょ?」

「そこまで崇高とは思えないけど……」

「えっ、なに?」


 ボソっと漏らした千織ちゃんに聞き返したら、なんでもないと流されてしまった。


「それにしても、スカート、手芸部の子が上手く直してくれてよかったね」

「うん」


 そうなのだ、学校まではなんとかたどり着いたけど、切られたスカートをそのまま履いているわけにもいかず困っていたら、クラスメイトの手芸部の子が直してくれたのだ。ほんと助かりました!

 スカートを切られたことは、手芸部の子にスカートを直してもらっているとこに担任が通りかかって漏れちゃって、学年主任にまで話がいってしまった。まあ、電車にスカート切る痴漢がいるって話でだけど。

 帰りのホームルームで、名前は伏せてそういうことがあったから気を付けるようにという話がされて、私はこれでちょっと彼女達への牽制になればいいなと眉根を寄せる。

 直しては貰ったけど、さすがにまた切られるのは避けたかったから。

 そんなことを考えながら荷物をまとめて部活に行こうとしたら、真後ろから耳に甘く響くバリトンボイスが聞こえて、私はビクッと肩を震わせた。


「陽」


 振り向かなくても声をかけてきたのが翼だって分かって、驚きに微動だにできない。

 翼とは喧嘩っぽい言いあいをした日から、ギクシャクしたまま。必要最低限のことは話すけど、挨拶もしないしメールも来なくなっていたし、金曜日のランチタイムも杏樹が八組に来なくなって余計に翼とは接する機会がなくなっていた。

 それなのに、突然声をかけられて、どうしたらいいか反応に困ってしまう。

 いつまでも黙り込んでる私に、翼が回り込んできて、いつもの無表情の顔で見下ろしてくる。その表情からは不機嫌オーラは感じとれなくて、私はなんとか笑顔を張り付けた。


「なに?」


 よしよし、いつも通りに話せたよね。


「今日、部活か?」

「うん、そうだよ?」


 久しぶりに話したっていうのに、あまりに普通に翼が話すから、私もつい普通に返してしまう。


「じゃあ、終わるの待ってるから、終わったらメールして」

「えっ、なんで? バイトは……?」

「バイトはシフトずらしてもらったから平気。それよりも相部線に一人で乗せて帰す方が心配だから……」


 そう言って視線を横にそらした翼の耳がわずかに赤くなっているのに気づいて、胸の奥がトクンっと脈打つ。


「どうせ路線一緒だし、朝も迎えに行くから」


 ボソボソっと喋って、私の返事を待たずに教室を出て行ってしまった翼の後姿を私は呆然と見つめてしまった。

 帰りのホームルームで相部線でスカートを切る不審者が出たって担任が言ってたけど、だれが被害にあったかは名前は出さなかったんだよ……?

 ただ私が乗る電車に痴漢が出るって聞いただけで送り迎えしてくれるとか、偽物の彼女の心配をしてくれるなんて――

 ついさっきまでは私のこと無視じゃないけど、向こうからは話しかけてこなかったのに。

 翼ってよくわからない……

 冷たかったり、優しかったり、翻弄されて、その度に私の心がどんなに弾んだり、沈んだりしているか、分かってるのかなぁ……

 今だって、心臓が壊れそうなくらい鳴り響いてること。




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