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第52話  不吉な忠告



 無事に春馬との買い出しを終えたと思ったのに、これはどういうことなのだろうか……

 購買にパックのジュースを買いに行こうと階段を下りている時、すれ違った生徒と肩がぶつかって、私は階段を踏み外して数段滑り落ちてしまった。

 くすくすと頭上から笑い声が聞こえれ、反射的に私は階段の上を見上げたけど、私からは階段の上は見えない。

 誰かとぶつかるような歩き方はしてなかったし、これってわざとぶつかられた……?

助かったのは手すりにしがみついてなんとか踏ん張ったからで、もし手すり側を歩いていなかったら打ち身とかじゃ済まなかったかもしれない。そんなことを想像して、ゾクっと背筋が震えた。

 そもそも、今朝、家を出る直前に見た今日の誕生月占いが最悪だった。

 普段、占いなんてあなり信じないけど。自転車は走ってたらいきなりバンッて風船が割れるような派手な音がしたと思ったらパンクしてるし、なんとか駅まで自転車を押してたどり着いて、駆け込んだ電車の車両はめちゃくちゃ混んでて上半身と下半身がまっすぐ立てなくて腰が痛くなるし、誰かとぶつかって階段から落ちそうになるし……

 運勢最悪……?

 朝の占いが当たってるんじゃないかと思うようなことが続いていて、はぁーっと重いため息が漏れた。

 階段に座り込んでいた私は、立ち上がりながらスカートの埃を後ろ手で払って、急いで購買部へと向かった。

 その間もすれ違う女子が私を見てひそしそとなにか話しているような気がするし、視線を感じるっていうか。

 教室に帰る廊下で、またすれ違った女子と肩がぶつかってしまって。


「ごめ~ん」


 て、謝ってるのか謝っていないのかわからないようなくすくす笑いで謝られて、私は首をかしげる。

 これは新手のコミュニケーションとか……?


「そこは普通に嫌がらせと考えるべきじゃない?」


 昼休み、私の向かい側の席で、パックジュースをじゅじゅじゅーっと音を立てて飲み干した千織ちゃんが呆れた口調で言う。

 あっ、やっぱり……?


「でも嫌がらせされる覚えないし」


 そう言った私に、千織ちゃんは間髪入れずに疑問をぶつけてくる。


「本当に?」

「…………」


 正直にいえば、なくはない。

 この間、昼休みに翼を呼び出しに教室まで来た四組の石井さんだったかな。一瞬だったけど、鋭い視線で睨まれた気がしたんだよね。

 きっと、私が翼と一緒にいることが多いから勘違いして睨まれたんじゃないかなって思うんだけど。

 それを話したら、千織ちゃんはなにかを考え込むように視線を動かして、それから私をまっすぐに見て真面目な口調で忠告してきた。


「まあ、それもあながち間違いじゃないかもしれないけど。もっと自体は複雑でややこしいのよ。とにかく身の回りには気を付けた方がいいわよ」


 あまりにも不吉な言葉に、私は口の端を引きつらせる。


「気をつけるって、なにによぉ~!?」


 どもりながら問い返した私に。


「いまどんな噂が流れてるか知ってた方が対処しやすいだろうけど、陽ちゃんには噂とか余計な情報で判断を誤ってほしくないし、でも女の嫉妬って怖いからね~、ほんと何もないといいけど……」


 千織ちゃんはなんか一人でぶつぶつ言っていて私にはよく聞こえなかった。

 気をつけろなんて、これから何か起きますっていうような不吉な忠告はやめてよねぇ……

 心臓に悪い……

 でもさ、実際、そういう状況に陥るのって自分で気づかないうちっていうか、気付いたらピンチ! みたいな……?

 ええっと……、なんで私はこんな状況になっているんだろうか……?

 目の前には話したことない女子が三人、かろうじて同じ学年だっていうのは分かるけど。

 放課後、掃除のゴミ捨てに裏庭に来たら、この女子三人に囲まれて「ちょっと話があるから来て」って言われて「えっと、私には話はないんだけど……?」って言ったら、「うちらが話あるって言ってんだから、あんたに拒否権はないのよ」とか訳わからない理由で凄まれて、連れてこられたのは体育館裏。

 ベタですよ……

 もとは白かたんだろうけど今では薄汚れて灰色の壁を背に立つ私のお前には、ギラッと鋭い視線を向ける女子三人、その後ろには鬱蒼と生い茂る木々。

 こんなとこ、呼び出されでもしなければ誰も来ないよね……

 千織ちゃんに「気をつけろ」って忠告されたのはつい二時間ほど前なのに、迂闊な自分い内心ため息を漏らす。


「えっと、話ってなにかな? 早く教室戻りたいんだけど……」


 苦笑気味に言いながら、視線を傍らのゴミ箱に向ける。

 帰りが遅いって千織ちゃんが気づいてくれるかな、でもこんな場所じゃ気づかない?


「あんたの都合なんて関係ないわよっ」


 刺々しく吐き出される言葉に、私はため息を内心だけにとどめて、すっと視線を目の前の、三人組の真ん中のロングヘアの子に向ける。


「わかった、話を聞くから。その前に、あなたは誰? 名前くらい名乗って」


 そっちはどうやら私のことを知ってるみたいだけど、私はあいにく去年転校してきたばかりだから知らないのよ。


「……っ、名前なんてどうでもいいのよ、うちらは杏樹のことであんたに文句言いにきたのよっ」


 一瞬呆気にとられたロングヘアの子は、それからまくしたてるように言いいだした。


「あんたのせいで、杏樹と彼氏、いま喧嘩してるんだからね」

「小学校の時からの知り合いらしいけど、飛鳥君は今は杏樹の彼氏なんだから慣れ慣れしくしないでよね」

「友達の彼氏に手を出すとか最低っ」


 杏樹の友達ってことは、一組の子か……

 うん、顔は覚えたから、後で千織ちゃんに名前聞いてみよう。

 そんなことを考えて俯いている間にも三人組は口々に文句を言って、私がずっと黙っていることに気をよくしたのか。


「とにかく、飛鳥君の周りをうろつかないでっ」


 そう捨て台詞をはいて去って行った。




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