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第48話  幼い恋の行方



 朝ごはん食べたのが遅かったけど、もう十三時すぎだからお腹がきゅるきゅる言い始めてて、ファミレスの席に案内されて荷物を置くと、すぐにメニュー表を広げた。


「陽はなににするの?」

「んー、日替わりランチかなぁ」


 ギリギリまだランチ時間に間に合ってよかったって心の中で思いながら、メニューに視線を向ける。かなりお腹ぺこぺこだから、がっつりハンバーグとか食べたい気もするけど、お財布とも相談しなきゃいけないからやっぱ日替わりかな。

 なににするか決めてメニューから顔をあげると、向かいの席に座った春馬は手元に開いたメニューを見ずに私の方をにこにこした顔で見ているから、内心首をかしげる。


「春馬はもう決まったの?」

「うん」

「じゃー。ボタン押すよー」


 各テーブルに設置された呼び出しボタンを押すと、ほどなくして店員さんがやってきた。


「はーい、ご注文をお伺いします」

「えっと、日替わりランチ一つ」

「二つで」


 注文する私の語尾に被せて春馬が言うから、驚いて店員さんから春馬に視線を向ける。その間にも店員さんは注文を確認しててきぱきとメニューと回収して去っていく。


「春馬も日替わりにしたんだ」

「うん」


 何気ない会話なのに、なんともいえない違和感を感じて、私はじぃーっと春馬を見た。


「ねえ、杏樹とは仲直りしたんだよね?」


 仲直りって表現は間違っているかもしれないけど、なんとなく今、聞かなければならない気がして、つい口から言葉が出ていた。

 瞬間、それまで春のお日様みたいなふわっとした笑みを浮かべていた春馬の表情が消える。

 ええっと……、このタイミングで聞いたのはまずかったのかも……

 いきなり地雷を踏んでしまったっぽいことに今更気づいて慌ててみても、もう後の祭りなのかな。


「杏樹とは……話をしようとは思っているよ、でも杏樹が話しを聞こうとしないんだ……」


 話ってなに――とか、聞いてはいけない気がして、私はぎゅっと唇をかみしめた。

 二人がギクシャクしているのは知っていたけど、私が思っている以上に深刻な状態なの――?

 たかが杏樹が男子と買い出しに行ったってだけで?

 そんなこと言ったら、いま私と春馬だって二人っきりで買い出しに来ているのに。それとも、春馬には噂以上に杏樹を疑うだけの確固たる証拠を持っているのだろうか……?

 不安が胸を襲い、私はわざとらしいのは分かっていたけどいきなり話題を変えた。


「そっ……そういえば、お盆前に水族館行ってきたよ」


 春馬は落としていた視線をすっとあげて数回瞬くと、直前までの苦しそうな表情からをわずかに和らげて苦笑した。


「なんだ、一人で行ってきたんだ。誘ってくれると思って楽しみにしていたのに」


 頬を膨らませて拗ねた口調で言う春馬はなんだか子供っぽくてかわいくて、くすくすと笑いがもれる。


「朝、急に行きたくなって行ったから連絡できなかったんだ」

「別に朝でもいいのに。昔も朝思いたったら行くって感じだったじゃん」

「そうだね~」


 懐かしい小学校の頃を思い出して、胸がほかほかとしてくる。


「平日だったけど夏休みだからそれなにり混んでたけど、じっくり回ってきたよ。配置は昔の記憶のままですごく懐かしかった。入ってすぐのサメの水槽もマグロの大水槽も渚のヒトデもペンギンもっ!」

「あー、俺も小学校以来行ってないからなぁ、行きたくなってきた」

「マグロの水槽とか、昔見た時は見上げるほど大きくて、マグロも食べられちゃうんじゃないかってくらい大きかったのに、「あれ~、こんな大きさだったかな?」って首かしげちゃった」

「あっ、なんかそれは分かるかも。昔はすごく大きく見えたものが、今みるとそうでもないとか」

「うんうん、でもぜんぜん変わってなくて癒されたよ~」


 水族館の話で盛りあがっている途中で注文していた料理が運ばれてきて、そのまま水族館の話や小学校の同級生の話に広がっていく。


「……でさ、博貴が一桁間違って発注かけた牛肉を買ってくれてメールよこしてきて」

「あはは、それは大変だったね」

「冷凍だけど自宅の冷蔵庫には入らないし、近所の小学校の同級のやつらに片っ端から声かけまくってさ、烝はおやじさんが飲食店やってるから結構な量引き受けたらしくて」


 大橋 博貴と宮部 烝っていうのも小学校の同級生で私がこっちにいる時はけっこう仲良く遊んでいた男の子だった。転校ばかりで昔の思い出話を友達とすることがなかなかできないから、こうやって小学校の時の友達の名前を久しぶりに聞くのは懐かしいし楽しい。

 烝はうちの高校に通っているらしいけど、一学年八クラスもあるから校内であったことはまだない。もしかしたらすれ違っているかもしれないけど、もう六年も会ってないからなぁ、すぐには分からないかも。

 でも、春馬は一目で春馬だってわかっちゃったんだよね――

 そんなことを考えて、頬に熱が集まってきて、誤魔化すように頬に指先で触れた。


「麻衣も押し付けられたみたいで、すっごい文句言ってたよ」

「確かに、牛肉って家庭によってはあまり使わないしね。うちは肉じゃがも豚肉だし」

「あっ、うちも」

「あーでも、久しぶりにみんなの名前聞いたら会いたくなってきたなぁ。宮部君はうちの学校だけど、他には小学校の同級生っている? 違う学校でも時々会ったりしてる?」


 昔は宮部君のことも烝って名前で呼んでたけど、だいぶ間が空いていてなんとなく苗字呼びしてみる。


「四季ヶ丘に来てるのは小学校からは俺と杏樹と烝だけかな。博貴は男子校だし、麻衣は女子校。まあ、学校違うと前みたいにはしょっちゅうは会わないけど、近所だから偶然会うってことは結構あるかな」


 私がいま住んでいるところは、小学校の時住んでたとことは少し場所が離れてるから小学校の同級生にばったり会うということがないのは少し残念。


「そうなんだ~。あれっ、麻衣ちゃんと宮部君違う学校なんだ?」


 驚いて尋ねると、春馬はなんで私がそんな顔したのか不思議そうに首をかしげる。


「なんとなく同じ学校に行っているイメージっていうか……」


 麻衣ちゃんと宮部君はいとこ同士で幼馴染で、昔から一緒にいることが多かった。特別仲がいいっていうわけじゃないんだけど、でも一緒にいることが多かった。それに、麻衣ちゃんは宮部君のことを好きだと言っていた。だから高校も一緒のとこに行ってるんじゃないかって勝手に思ってたんだけど、小学校の想いがいまも続いているかっていったら、絶対じゃないのかな……?

 微妙な表情で黙り込んでいたら、春馬は私の考えていることが分かったように優しい笑みを浮かべる。


「あー、あの二人なら今も付き合ってるよ」




爆弾回避…と思いつつ、実は雲行きが怪しいことに気づいていない陽(笑)


ちなみに、我が家の肉じゃがは豚肉で作ります。

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