表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/82

第47話  気持ちの天秤



『俺に惹かれてくれるなら、裏切り合う関係でもいい――』


 強い眼差しで言い切った翼の言葉が、脳内にこだまする。

 この言葉が杏樹に対するもので、杏樹への想いの強さを思い知らされただけに、胸が切ない。

 あの後、何を話してどうやって翼の前から部活に行ったのか、記憶が曖昧だった。

 なにか言葉を交わしてそれから部室に行って、気がついたら部活が終わっていた。部活中の的中率が散々だったのは言うまでもない。

 帰り際、樹生先輩が心配そうに声をかけてくれたが、自分の頭の中でも気持ちの整理がつかないのにうまく人に説明できるはずもなく、心配させないように大丈夫というのが精一杯だった。

 家に帰ってきてからも頭をよぎるのは、瞳をギリッと光らせていまいましそうに舌打ちした不機嫌な表情と突き刺すような鋭い眼差しを向けた翼の表情だった。

 第一印象は最悪だった。その出だしを考えれば、メールをしたり、休みの日に出かけたり、それなりに友人として仲良くやっていたと思う。それが全部、自分一人の思い込みだったと思い知って、胸にもやもやしたものが溜まっていく。

 結局、一晩じゃ気持ちの整理なんかつかなくて、もやもやしたまま週末を迎えてしまった。

 私はぱんっと勢いよく手のひらで両頬を叩いて、頬を挟んだまま鏡に映る自分を覗き込む。

 今日は学祭の買い出しで春馬と出かける。

 こんな浮かない顔していたら、春馬を心配させてしまう。だから、ちゃんとしなければと、気合いを注入する。

 あの日以来、春馬と杏樹がギクシャクしているうえ、私と翼の間にも険悪な空気が漂っていた。教室で顔を合わせてもなんだか居たたまれなくて視線をそらしてしまうし、いままで当り前のように毎日やりとりしていたメールさえ止まっていた。

 翼が杏樹のことを好きだってことは、初めて会った時から分かりきっていたことなのに、そのことに酷く動揺している自分にもどかしくなる。

 とにかく今日は学祭の買い出しなんだから頭を切り替える努力をして、家を出た。

 買い出しをする場所は、学校から数駅隣の駅前にある大きな画材店。その上には広いワンフロアまるまる百円ショップが入っていて、ここならなんでもそろうだろう。


「わぁ~、久しぶりだね、ここ来るの」

「そうだね」


 店内を見回して嬉々とした口調で言った私に、横に並ぶ春馬はちょっと呆れたように苦笑する。

 ここには去年よく春馬と杏樹と三人来ていた。


「でも、陽が見たいのは本屋のフロアだろ?」


 くすっと笑って図星をつかれて、私はへらっと笑い返す。

 実は……そうなのだ。

 この画材店、地下一階と一階、二階が画材店、で三階が百円ショップ、そのさら上の四階が本屋になっている。画材や百円ショップも見ているだけでも楽しいけど、さらにその上を行くのが本屋。なんといってもここの本屋はめちゃめちゃ広くて、専門書もかなりの種類を取り揃えているから、一日いても飽きない。この本屋に入り浸る人は多いのか、書架の間には椅子が置いてあったりもする。


「学祭の買い出しが終わったら……行ってもいいかな……?」


 おずおずと尋ねると、春馬はふんわりと優しい笑みを浮かべた。


「ダメって言っても行きたいんだろ? あー、買い出しの後だと荷物あるし、先に本屋行くか?」

「それはダメ、今日の目的は学祭の買い出しなんだから、それは先にしなきゃ」


 確かに荷物持って本屋を回るのは大変だし、私のためを思って提案してくれたのは嬉しかったけど、そこはちゃんとしなきゃいけないと思ったからきっぱり言い切ると、春馬は一瞬目を見開いてから、くしゃっと破顔させた。


「はは、ほんと、陽って真面目だよな」

「えっと……、そうかな?」


 なぜか褒められて、私はきょとんと首をかしげた。

 それから、学祭実行委員から預かってきた買い出しリストを取り出して、リストに書かれたものを片っ端からかごに入れていく。でもそのリストっていうのが、結構アバウトに書かれているから、春馬と二人して首をひねりながら買い出しをした。


「風船いっぱいって書いてあるけど、どのくらい買えばいいのかな……?」


 風船っていっても、丸やハート型、大きさもいろいろだし、単色売りや複数の色が詰めあわされているのもある。


「んー、この大きさで、色はいろんな色があった方がいいよな。四袋くらい買っとけばいいんじゃん」


 風船売り場の棚の前でしゃがんで尋ねた私の横に腰を折って覗き込んできた春馬が、てきぱきと風船を手に取りかごに放り込んでいく。

 あんまり悩んでていても時間がかかるばかりで仕方がないけど、買いすぎだったらどうしようとか足りなかったらどうしようとか迷う私とは対照的に、春馬の決断力のよさに惚れ惚れしてしまう。

 じゃんけんで負けて買い出し係が春馬と一緒って分かった時は、春馬と二人きりなんてって杏樹に後ろめたいしいろいろと憂鬱だったけど、来てしまえばそんな風に思ったことが馬鹿らしくなるくらい普通に春馬と接している自分がいて自分でビックリする。

 これは学祭の買い出しなわけでやましいことじゃないっていうのもあるし、少しずつ胸の奥に閉じ込めていた気持ちが変わり始めているからかもしれない。

 春馬を好きっていう気持ちは変わらないけど、前みたいな、一緒にいて辛いとか苦しいとかいうのはなくて、ただ単純に楽しく買い出しが出来た。こんなふうに、春馬の前で取り繕わないで振舞えるのが久しぶりのように感じて、スッキリとした気分だった。

 画材店と百円ショップでかなりの量を買い出し、私も春馬も大きな紙袋とビニール袋を両手いっぱいに抱えて、本屋を回ってから遅めの昼食をとりに駅前のファミレスに入った。

 ファーストフード店もいくつか駅前にはあるけど、たくさん歩いて喉が渇いていたからドリンクバーを頼めるファミレスにしてみた。

 もう十三時を過ぎていたけど、日曜日ということもあって店内はそれなりに混んでいたけど待たずに席に案内された。

 四人掛けのボックス席で、荷物をソファーの上においてふぅーっとやっと一息ついた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓コメントいただけると嬉しいです!↓

↓ランキングに参加しています。ぽちっと押すだけです↓
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ