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第44話  恋のスクランブル



 教室内はお昼ご飯を食べながらお喋りをする生徒が半分ほどいて、話し声や笑い声で賑やかなのに、窓側の一角はそこから切り離したように静まり返ってた。

 なんか話題はないかと口を開きかけた時、ほんの少し教室内のざわめきが揺れる。顔をあげれば、教室の入り口のとこで見かけたことのない女子三人組が中を覗き込んでいた。

 教室内に視線を巡らせていた女子と視線が合った気がして、でもその視線の先が自分ではないことにすぐ気づいた。私は教室の中に入ってきた女子三人組から、横に視線をずらす。そこには黙々とお弁当を食べる翼がいて。

 私は完全にお箸を持つ手が止まって、翼と彼女たちを交互に見てしまった。

 彼女たちはまっすぐに窓側に向かってくると、翼のちょうど横で止まって声をかけてきた。


「宇野君、ちょっといいかな?」


 彼女達の出現に気づいていなかった翼は、その声にすっと鋭い視線を斜め横に流して、お弁当を食べる手を止めない。


「なに?」

「話があるんだけど、いいかな?」

「いま、弁当食べてるんだけど」


 言外に忙しいんだよって言って、翼の周囲にピリピリした空気で放たれている。それなのに、彼女達は怯んだりせず、強気な口調で言う。


「お願い、すぐ終わるから」


 なら、ここで話せよ――そんな苛立ちを視線に滲ませて、はぁーっとあからさまなため息をついて翼はお箸を机に置いた。


「分かった」


 そう言って立ち上がった翼の背中越しに、三人組の真ん中をずっと陣取っていたボブヘアの女子が一瞬、鋭い視線を私に向けた気がしたけど、彼女の顔も名前も知らないのだから勘違いだろうと思う。

 立ち上がった翼の前を先導して女子三人組が教室を出ていき、その後を翼がついていく。

 その姿を、私だけでなく教室内のクラスメイトも視線で追っていた。四人の姿が消えた瞬間、また教室内が賑やかな会話が始まった。口には出さないけどクラスメイトも突然の彼女達の襲撃に、聞き耳を立てていたのだろう。

 すごい注目を集めていたけど、翼になんの用事があったんだろうと内心首をかしげていたら。


「さっきの四組の石井さん、きっとダンパの申し込みだよ。こんな堂々と翼君に声をかけるなんて自信があるのかな。さすがはモテモテの翼君って感じだけど、翼君にはひなちゃんっていう彼女がいるのにね」


 彼女達の襲撃に無関心だと思っていた杏樹が、お弁当を食べるペースを崩さずに、そんなことを言うから、私は言葉に詰まってしまう。

 だって、私と翼は本当は付き合ってないし。同盟を結んだ時は、私、ダンパのこと知らなくて、パートナーとかそういうのは話したことないんだよね。だから、翼が私以外をパートナーに選ぶ可能性は有りだし、そうなっても私に口出しする権利はないから、曖昧に笑うって誤魔化すと。


「もー、二人が付き合っていること隠してるから、翼君狙いの女子がたくさん声かけてくるんじゃない」


 唇を尖らせて、自分のことのように不満を漏らす杏樹を私はぽかんと見つめる。


「ぜったい、この機会に翼君と付き合ってるってみんなに言った方がいいよっ」


 普段のぽややんとした杏樹とは違い、強い口調でそう薦めてきたのだけど、私の頭の中は「ああ、なるほど」って違うことに納得していた。

 二学期になってから翼がやたら女子に声かけられてるなぁ~、なんて思ってたけど、あれも全部ダンパのパートナーの申し込みだったんだ。

 翼は無表情で無愛想で、俺様で突然不機嫌になるとこを除けば、カッコイイもんね。モテるのも納得。

 普段はその放つ不機嫌オーラに近づいてくる女子はいなかったからなにがあったのかなって不思議に思ってて、なんか疑問が解けてすっきした気分。


「もー、聞いてるの? ひなちゃんっ」


 呆れたような怒った口調で言われて杏樹を見れば、杏樹は頬を膨らませている。

 そんな表情すら“女の子”ってかんじで可愛いのだから羨ましい。


「うんうん、聞いてるよ」


 さっきの石井さんって子、気は強そうだったけど美人だし、翼も声かけられて悪い気はしないよね。本当は翼が好きなのは杏樹だけど、杏樹とパートナーになることは無理だし、可愛い子に声かけられたらパートナーの申し出を受けるのかな。そうなった時のために、私も誰かパートナーになってくれる人探しておいたほうがいいかな。そう考えて、胸の奥にチクンっと小さな痛みが走った……気がする。


「みんな積極的だね~、ダンパは興味あるけど私はそこまでパートナー探しに必死にはなれないよ。杏樹は春馬っていう彼氏がいるから問題ないしね」


 そう言ったら、杏樹がきゅっと唇をかみしめて泣きそうな複雑な表情を浮かべた。

 えっ、なに……? どうしたの?

 そう聞こうとした時。


「ごめん……」


 春馬が戻ってきて、杏樹の隣の席にお弁当の包みをトンっと置いた。

 杏樹は春馬から顔をそむけるように体ごと窓側を向き、春馬も杏樹の方を見ようとはしない。二人とも目を合わせなくて、気まずい雰囲気のまま、口に運んだお弁当の味もよく分からないまま昼休みが終わった。




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