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第40話  噛みあわない歯車



 杏樹に会う前に、私は千織ちゃんに電話して杏樹の噂について何か知っているか聞いた。

 学校内に幅広い人脈と情報網を持つ自称人間観察が趣味の千織ちゃんは、知ってて当り前という口調でさらっと噂について教えてくれた。

 うちの学校は一学年八組もあるマンモス校だけど、誰と誰が付き合っているとか色恋沙汰の噂は結構流れやすいらしい。

 杏樹の噂の相手の男子は同じ一組の中条君っていう男子で、杏樹とは同じ調理部らしい。クラスも部活も一緒なら一緒にいてもおかしくない。休みの日にその男子と出かけていたというのも、調理部つながりの用事なのかなと想像できる。


「陽ちゃんが知ってるなんてビックリね。ソースはどこ?」


 私が噂を知ってたことに相当驚いたように芝居がかった言い方をする千織ちゃんに苦笑が漏れる。

 まあ、自分でも噂には疎い方だとは自覚しているけど。


「春馬。そういう噂を聞いて不安になったみたいで相談されたの」

「へぇ~、飛鳥君がねぇ~」


 含みのある声音に、私は僅かに眉をあげる。


「なにかあるの?」


 よく考えてみれば、春馬だってそんな噂を気にするような性格じゃない。あっでも、実際に春馬はその浮気現場を目撃したって言ってたっけ……


「その篠山さんと中条君の噂さ、噂といってもほんの一部の文系クラスで流れているだけなんだよね~」


 飛鳥君が知っていることにもビックリよ、と千織ちゃんは軽い言葉とは裏腹に慎重な声音で付け足した。

 杏樹は一組、私と春馬と翼は八組。

 文系クラスは一組と二組で、理系クラスの七組と八組。横長の校舎で一組と八組は後者の端と端で休み時間の間には行って帰って来るだけで精一杯。そのくらい離れている。

 間に六クラスもあれば噂の内容も異なるし、流れ方も違うらしい。


「きっと飛鳥君は去年同じクラスで文系に進んだ友達に聞いたんじゃないかな」


 そう言いながら。


「でも、火のないところに煙は立たないっていうしね~」


 含みのある口調で付け足した千織ちゃんの言葉が胸にわだかまっている。

 千織ちゃんから聞いた噂の内容と杏樹の話は辻褄が合っている。杏樹が嘘を言っているとは思えない。でも、なんだか引っかかる。

 千織ちゃんはまだなにか噂について知っていそうだし。

 同じ調理部で出かけたところをたまたま見かけた人が噂したとか、そんな単純なことじゃないのかもしれない。私の勘がなにかを訴えている、気がする。

 それでも春馬に杏樹の噂がデマだと伝えたのは、きっと春馬のためじゃなくて自分のため。

 二人が仲良しじゃないと、この想いを忘れられそうもないから。

 杏樹が別に好きな人が出来ても、春馬が好きなのは杏樹であることに変わりはなくて。それなら、二人が仲良くてその間に立ち入る隙間すらない方が忘れられると思った。

 でも、気付いていなかった。

 そんなふうに考えて始めている時点で、私はもうこの恋を手放す一歩を踏み出していたことに。




今回、短くてすみません。

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