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第23話  ネット越しの彼氏と彼女



 カーテンの隙間から差し込む朝日の眩しさに私はゆっくりと目を開けた。

 先輩に話を聞いてもらって、幾分、気持ちがすっきりした。

 出かけるって決まってしまっているものはもうどうしようもないし、なるようにしかならないんだって若干諦めの感情が胸を支配している。

 だって、仕方ないんだよ……

 なるべく普段通りに出来るように頑張るしかない。

 それで、ゆっくりと、春馬への気持ちを諦めていくしかないんだ……

 一晩悩んで、出たのがその答えだった。

 打ち明けるか、打ち消すか。選択肢がその二つなら、私は後者を選ぶしかない。どんなに時間がかかっても、自分にはその選択肢しかないんだってことだけは確かだった。

 ここ数日悩み続けて、樹生先輩にも話を聞いてもらって、突き詰めて考えて出た答えが“打ち消す”なら、ある意味すっきりした。結局、その答えを選ぶ自分がいる。それが分かっただけでも心がだいぶ落ち着きを取り戻した。

 そんなことをぼんやりと考えながら、私は手早く着替えを済ます。

 もともとおしゃれとかにはあまり興味がなくて服もそんなに持っていないから服を選ぶのに迷うこともない。

 中学から高一の春までは女子校に通っていたけど、部活三昧で休みの日くらいしか私服って着ないのにその休みの日も部活で制服のことが多かったから、可愛いなって思った服でも買いたいって思うよりも眺めていたいっていうか、私の購買意欲はなかなか湧かなくて、服の数はぜんぜん増えない。

 それでも前回着た服とはなるべくかぶらないチョイスをする。白地に小花柄の丸襟の半袖シャツにローズグレーのショートパンツ、それにニーハイソックスを合わせた。

 もう蒸し暑い時期だから裸足にサンダルがいいんだけど、今日はあいにくの曇り空。天気予報では夕方から土砂降りだっていうから、ニーハイにスニーカーで行く予定。忘れないように折りたたみ傘を鞄の中に忍ばせた。



  ※



 今日はおもいっきり遊ぼうってことで、室内複合型アミューズメントパーク・Boxワンってとこにきている。カラオケあり、ボーリングあり、ゲームセンターあり、ダーツあり、そのすべてが揃っていてなおかつ他にもいろんなスポーツができる“スポッシャ”って場所もある。

 春馬と杏樹と出かける時はショッピングが多かったから、久しぶりに運動しようってことになった。

 私は毎日部活があるけど弓道って運動してるって感じじゃないし、春馬と翼は高校では帰宅部、杏樹は運動は苦手な部類で、提案者は春馬。

 いちおう杏樹の誕生日祝いってことだけど、誕生日はもう少し後で、当日は二人でちゃんと出かける約束をしているらしい。今日は、みんなでわいわい騒いで、誕生日祝いはついでで、プレゼントを用意しているのは杏樹には内緒にしているらしい。

 スポッシャで受付を済ませて、まずなにから遊ぶか相談する。

 スリーオンスリー、ミニサッカー、テニス、バドミントン、バッティング、ゴルフ打ちっぱなし、アーチェリー、ポケバイ、ローラースケート、ダーツ、ビリヤード、卓球エトセトラ。あまりにもたくさん種類がありすぎて迷ってしまう。

 Boxワンの施設自体七階建てで、スポッシャは七階と屋上の二フロア。一フロアでもかなり広いのに、二階分だから一日いても遊びあきなさそう。

 はじめてスポッシャに来た私は、まだなにもしてないのにそんな感想を持った。

 とりあえず雨が降る前に屋上で遊んじゃおうってことになって、まずは屋上へ向かう。

 屋上は野外スポーツ系が揃っていて、グリーンのネットでいくつもの区画に区切られていて、緑の人口芝の通路がちょっと迷路みたいに張り巡らされている。

 屋上あがってすぐのパターゴルフを通り過ぎると、バドミントンのコースがあって、ちょうど空いていたのでまずはバドミントンをすることになった。

 日曜日だから館内はそれなりに込んでいて、それぞれの遊びには制限時間が指定されていて、次に待っている人がいたらその時間で交代するようにという注意書きのプレートとその下にはストップウォッチまで用意されていた。

 一つ一つの時間が多少短くても、ルールさえ守ればたくさんのスポーツで遊べそうで安堵する。

 私達はグリーンのネットの切れ目からバドミントンコートに入る。入ってすぐ横にはこれまた準備よくベンチが置いてあって、そこに荷物を置いて、それぞれがラケットを握りしめる。

 チーム分けは暗黙の了解っていうか、当然、春馬と杏樹、翼と私……

 別に文句はないけど。

 ネットを挟んで春馬達と反対側のコートに行くと、横から視線を感じる。振り向くと翼が何か言いたげな視線で見ているから、私はわざとべぇっと舌を出してみた。

 それを見た翼は片眉をあげて訝しげにして、すぐに無表情に戻ってしまった。

 なんなんだ?


「じゃ、いくぞ」


 春馬の掛け声で、シャトルがポンっと軽快な音を立てて飛んでくる。

 ますは様子見なのか、ゆるい放物線を描いてゆっくり飛んでくる。余裕で打ち返せるスピードに私はシャトルを目で追いかけて、そしてシャトルはポソっと芝生に落ちた。ちょうど私と翼の真ん中。

 私はてっきり翼が打つんだと思っていて動かなかったんだけど、どうやら翼は翼で私が打つと思ったのか、さっきの場所から一歩も動かずに私を睨んでいた。

 お互い、同じ考えだったことに気づいているからなおさらばつが悪い。


「おーい、打ち返さないとゲームんなんないぞぉ?」


 そんなこと分かっているけど、ゆるい声音で春馬に言われたら怒る気にはならない。


「ごめん……」

「…………」


 誤る私に対して、翼は無言でズカズカ歩いてくると腰から上半身だけを綺麗に折り曲げて床に落ちているシャトルを拾うとぽんっと放って投げるから、私は慌ててラケットを握る右手で受け取った。


「打ち返すのは交互な」

「えっ……?」


 ツンっと言い放った翼に私は怪訝に眉根を寄せる。

 近い方が打ち返すんじゃないの? って言い返したかったけど、さっきみたいにどちらも同じ距離の時はどちらも動かないことになりそうで、渋々頷く。


「わかった……、いくよ」


 前半は翼に、後半はネットの向こうの春馬と杏樹に言って、私はぽんっと宙に投げたシャトルを思い切りラケットで打った。

 実は、中学生の時一時期バドミントンにはまったことがあって毎日昼休みにやっていた。さすがにバドミントン部よりは下手だけど、それなりに上手な方だとは思う。

 っといっても、最初だからそんなスピードが出ないように力加減する。

 ちょうど目の前にいた杏樹のすぐ上に飛んでいって、おろおろとラケットを振る杏樹に春馬が声をかける。


「ほら、杏樹、頑張れっ!」


 その瞬間、胸の奥がチクンっと痛んだ。

 杏樹はなんとか打ち返して、ヒョロヒョロした軌道を描きながらネットをちゃんと超えてきた。

 パンっと乾いた音を立てて翼が打ち返し、今度は春馬が打ってくる。それを私が返して、杏樹が打って、また翼がって感じにだいたいは交互に打っていくんだけど、春馬と杏樹は自分の番じゃなくても自分の近くにシャトルが来たときは声を掛け合って臨機応変に打ち返してくる。

 自称うまいと思っている私と予想通りバドミントンも上手な翼は、多少遠いところに飛んできても、コートを素早く移動して打ち返すことができるから、交互に打つことも苦じゃないんだけど。

 声を掛け合って、視線をかわして。

 たったそれだけのことをやっている春馬と杏樹の姿がまぶしかった。




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