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第22話  大事な気持ち



 現在片思い中のこと、でもその人には彼女がいること。明日、その人とその彼女とその親友と四人で出かけること――

 つまり、私が何に鬱々としていたかっていうと、明日春馬と杏樹と翼と私の四人でまた出かけることになったこと。

 もともと春馬と杏樹と一緒に出掛けるのは月に一回の恒例行事と化していて、翼と付き合うことになってもその回数は変わってなかったんだけど。明日はちょっと違うっていうか、私の気持ちの問題なんだろうけど……

 この間の土曜日のことがあって以来、翼とは一見普段通りなんだけど翼が時々すっごいピリピリした空気をまとってて怖いし、春馬とは好きって再認識したからすごく意識しちゃうし、杏樹にはそれがばれないかハラハラしっぱなしだし、内緒で春馬と出かけようとしていたことが後ろめたいし。

 とにかく四人で出かけるのが憂鬱で仕方ない。

 いままで必死に春馬への気持ちを隠してきて、ばれてない自信はあるけど。ここのところ、しっかり閉じたはずの蓋がグラグラ揺れるし、鍵が何かの拍子に簡単に外れてしまいそうになる。


『陽ちゃんって、クールな仮面で気持ちを上手く隠してるつもりだけど、結構、ぼとぼと仮面落としてるじゃん?』


 そう言った千織ちゃんの言葉が胸に痛い。客観的な言葉だからこそ、それが真実なんだって思い知らされる。

 いままで私の気持ちを隠してこられたのは、春馬と杏樹が天然で気づかなかっただけで、いつでもばれてもおかしくない危うい状況なんだって認識させられた。

 本能が、四人で出かけるのはダメだって訴えているんだけど、どうしても断れなかった。

 だって杏樹の誕生日祝いだって言われたら、親友として断れないよ。

 初めに予定も確認されているから、今更用事があるとは言えないし。


「はぁ~~……」


 隣に樹生先輩がいることもすっかり忘れて大きなため息をついてしまった私は居心地悪くて肩をすぼめる。


「ふ~ん……」


 先輩は意味深にそう言ったっきり、顎に手を当てて考え込んでいる。

 名前を伏せてかなり簡潔に説明したつもりけど、先輩なら、私が誰を好きなのか分かっていそうでなんだか怖い。

 やっぱり相談なんかするんじゃなかったかなって思ったけど。


「……それで、陽はどうしたいかわからなくて悩んでるのか」


 答えを求めてっていうよりは、言葉に出して状況整理しているような先輩の言葉に私はコクンと頷いた。

 みんなに優しくて、太陽みたいに眩しい笑顔の春馬のことが好き。

 その想いは確かなもの、だけどそれを伝えることはできないし、気付かれるのもダメで、今まで必死に気持ちを押し隠して親友の仮面をかぶってきた。

 春馬にも杏樹にも気づかれちゃいかない。私は二人の親友でいなきゃいけない。

 そう言い聞かせてきたのに、最近、うまく二人の前で笑うことができない。

 春馬に「誰か好きなヤツいるの?」って聞かれた時も、嘘をつくしかなかった。もしいるって答えたらそれが誰なのか聞かれるのが分かっていたから。

 仕方ないことだって分かっているけど、嘘をついていることが後ろめたい。

 それに、隠すことに限界を感じ始めている。

 仲良さそうにしている二人を見ればどうしようもなく胸が苦しくなるし、手作りのお弁当を好きな人のために作ってあげられる杏樹が羨ましいと思ってしまった。

 でも、「じゃあ、どうしたいの?」って聞かれればまた答えに詰まる。

 気持ちを隠すのがもうどうしようもなく無理になったら……?

 千織ちゃんには告白しないのかって聞かれたけど。


「それでもやっぱり、私は告白はしないと思うんです……」


 自分の事なのに、どこか他人事のようにつぶやいた私を樹生先輩は静かな瞳でじっと見降ろした。それから、ふっと瞳に甘やかな光を浮かべて、いつのもちょっと勝気な笑みを浮かべる。この笑顔が女の子を無駄にメロメロにするんだろうな……なんてぼんやり思っていたから、先輩から言われた言葉に驚いた。


「答え、出てるんじゃないか?」

「えっ……?」

「気持ちなんてさ、自分でこうしようって思ってできることじゃないだろ?」

「はい……」


 春馬を好きって気持ちは、なかったことにしようって思っても出来なかった。ずるずる、もう一年も想い続けている。


「好きなら仕方ないと思う。その気持ちを否定できる人間はいないよ」


 その言葉は、いつかの翼の言葉と重なる。


『好きになっちゃいけないヤツなんて、いないだろ』


「でもやっぱり、好きになっちゃいけない人なんです……、親友の彼氏なんて一番タブーじゃないですか……」


 あまりにも胸が苦しくて、声が掠れてしまう。瞬間、ぽんっと頭を撫でられた。


「ダメじゃないから、泣くな」

「えっ……?」


 先輩が痛々しそうに目元をくしゃっと歪めていて、その時になって私は自分が泣きそうな表情になっていたことに気づいて慌てて俯いた。


「伝えないって決めてるならダメじゃない。隠しきれなくなってきた想いを抱えてるなら、選択は二つだ、打ち明けるか、打ち消すか」

「そんなの、どっちも無理じゃないですか……」


 打ち明ける、つまり告白はできない。でも、打ち消す……なかったことになんかできない。だから苦しんでるのに。

 先輩だって気持ちは思い通りにならないっていったばかりなのに、矛盾した言葉に、ちょっと頬を膨らませると。


「なにもすぐに消せとは言ってないだろ。それだけの想いなら時間がかかるのは仕方ないんだよ。まっ、もっと効率的な方法があるけど」


 挑戦的な笑みを浮かべた先輩の言葉に、私は思わず飛びつくように顔をあげて尋ねる。


「そんな方法あるんですか?」

「あるよ、よく言うだろ? 失恋を忘れるには新しい恋――って」


 そう言った先輩に、私は胡乱な眼差しを向ける。

 胡散臭い……

 そんなふうに思ったのだけど。


「陽にはその選択肢もすぐ近くに転がってんじゃないか?」


 くすりと妖艶に微笑まれて、思わずドキっとしてしまった。

 もしかして、先輩は私と翼が恋人同盟を結んでいるのを知っている……とか?

 ふいに気づいたその考えに、背筋にひんやりした汗がにじむ。


「えっ、えー、そんなのないですよ?」


 すっごい棒読みになっちゃって、絶対誤魔化せなかたっと思った。最高に面白いおもちゃでも見つけたようなにやにやした顔で、先輩が遊んでくると思ったけど。


「陽は、その男も親友だっていう女子も大事なんだな」


 静かな声音で言われて、突然の話題転換に首をかしげながら答える。


「はい」


 それは大事に決まってる。


「相手の気持ちを大切にしているから、告白できないって思ってるんだろ? それってすごいことじゃないか」


 そう言った樹生先輩はからかい口調じゃなくて、優しい眼差しで私を見つめているから心にすぅーっとその言葉が浸みこんできた。

 春馬も杏樹も、私にとってはどっちも比べられないくらい大事だっていうのは当たり前の感覚だったから、すごいって言われて胸がくすぐったかった。

 でも。

 誰かに、それでいいんだよって言ってもらいたかったのかもしれない。




なかなか話が進みませんが、次話からデートです!

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