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第2話  親友の親友



「おかえり、翼」


 春馬の懐かしむような優しい笑顔を見て、それから視線の先にいる黒髪の男子を見た。

 おかえりってどういうことだろう……?

 不思議に思って首をかしげている私に気づいた春馬が、引き寄せるように男子の肩に腕を回して私を見やる。


「紹介するよ、宇野 翼(うの つばさ)。高一の時クラスが同じで、二学期からついこの間まで学校の制度で留学していたんだ」


 その言葉に内心納得して頷く。

 春馬と私は一年の時クラスが違ったけど春馬の教室には何度か行ったことがある。でも、紹介された宇野君を見かけたことがなかったから不思議に思ったけど、留学していたのなら見かけたことがなくて当然だった。

 二学期っていえばちょうど私が転校してきた時だから、きっと入れ違いで宇野君は留学していたのだろう。


「ついこの前っていうか、今朝、成田に着いたばかりだけどな」


 そうぼやいた声は甘く耳に響くバリトンボイスでドキっとしてしまい、改めて宇野君を見る。少し長めのさらさらの黒髪、斜めに分けられた前髪の下には意志の強そうな切れ長の瞳があって、通った鼻筋と形の良い唇の端正な顔、そしてほどよく筋肉のついた長身。モデルだっていわれても納得するような抜群のスタイルと容姿、おまけに声まで素敵なんて完璧じゃない。

 でもその表情は感情をのぞかせず、口調も淡々としている。初めて会う人に紹介されているっていうのに、笑みの一つも浮かべない。こういうのをクールっていうのかな。

 いままで友達付き合いしてきた子は春馬や杏樹もそうだけどふわっとした雰囲気の子ばかりだったから、新鮮だと思う反面、どうしたらいいか戸惑う気持ちもある。

 私も名乗った方がいいのかなとか考えて宇野君を見ると、端正な顔に香るような笑みを浮かべて、視線が私から杏樹に向けられる。

 それを見て、ああ、やっぱり……って一人で納得して頷いてしまった。


「……それでね」


 宇野君と話していた杏樹は私の視線に気づいたみたいで、宇野君との会話を止めて私を紹介してくれた。


「こちらは逸見 陽(いつみ ひなた)ちゃん。小学校の同級生で、五年生の時に転校してしまったんだけど、去年の夏からこっちに戻ってきたの」

「逸見です」


 視線を受けてぺこっと頭を下げたんだけど、宇野君は無表情で私を一瞥しただけで、杏樹とまた話し始めてしまった。

 む……、なんかヤな感じじゃないですか……?

 初対面で挨拶しているのに一言も話さないとか、態度悪すぎ。

 イラっとしていたのが表情に出てしまったのか、春馬が私の耳元でこそっと囁く。


「悪い、翼はさ、見た目とっつきにくいカンジだけど、打ち解けるとすっげーいい奴だから」


 それって人見知りするってこと?

 私も元々は初対面の人とはいきなりフレンドリーに話したりできない性格だけど、転校生って宿命で、苦手でも克服するしかなかったのよ。建前でも愛想ふりまいたほうが新しい環境に馴染めるってもんじゃない。


「翼とは中学入って知り合ったんだけどすぐに意気投合して、俺の大事な親友だからさ、陽にも仲良くしてほしいんだ」


 片目をつぶって、顔の前に手をかざしてお願いされたら、嫌だなんて言えないじゃない……


「うん……」


 とっつきにくいってレベルじゃない気もするし、打ち解けるってお互いの歩み寄りが必要でしょ? って突っ込みどころは満載だけど、春馬の親友だと言われてしまえば、私に拒否権はない。なんとかいつもの笑みを作って私は春馬に笑いかけた。



  ※



 いつまでも駅前にいるのもなんだからと、目的地のショッピングモールまで移動する。

 前を杏樹と宇野君、その後ろを私と春馬が並んで歩く。

 なんかおかしくない……?

 杏樹と春馬は付き合ってるんだから二人が並んで歩くべきだと思うけど、そうすると私が宇野君と並ばなくてはいけないわけで……

 そんなことになったら一分と会話が続く自信がなくて、おかしいと思いながらも突っ込むこともできない。

 春馬と春休み中の出来事や部活の話など他愛もないことを話しながら、私は前を歩く宇野君がなんとなく気になって、すごく姿勢のいいその背中を眺めた。

 まだ宇野君と会って一時間も経っていないけど、彼があまり感情を出さないんだってことは分かったつもり。

 それが、あんなににこやかな笑みを浮かべて杏樹と話していたら、宇野君の気持ち駄々漏れじゃない……?

 初めて見た時から宇野君は杏樹を好きなんだって気づいてはいたけど、これじゃ春馬も気づいちゃうんじゃないの……?

 春馬が宇野君と中学で知り合ったっていうことは、杏樹とも中学が同じだったんだよね。つまり、その頃から好きだってことなのかな……?

 どんどんと宇野君への好奇心が膨らんでいって、私は慌ててその思考を端に追いやる。

 だめだめ、人の恋愛事に首を突っ込んだらよくないよ。

 私だって、そのことに触れられたら困るもの。

 好奇心とやるせない想いに、気付かれないようにそっとため息を漏らした。




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