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第18話  背徳の天使



 結局、翼が帰ってから私の思考の中は「どうして?」「なんで?」の疑問符ばかりがぐるぐる回って、考えすぎて、熱が出てしまったのだろう。

 馬鹿みたい……

 声には出さず、口の中で呟く。

 翼が急に不機嫌になるのなんていつもの事じゃない。理由なんて考えたって、私には分かるはずない。

 そもそも、私と翼は付き合っているって言っても同盟上の話で、好きで付き合ってるわけじゃないし、私が春馬を好きなのは初めから分かっていることで、きっと明日学校に行ったら、翼は何もなかったような無表情で私を見るはずだ。

 そこまで考えて、はっと気づく。

 そうだ、春馬に出かけられないってメールしなきゃ……

 サンドウィッチを作るために早起きしたからまだ待ち合わせの時間までぜんぜん余裕だけど、「行けない」って連絡しなきゃ。

 私は慌てて布団から顔を出して、ヘッドボードの上に手を伸ばして携帯を引き寄せる。

 メールを送るために受信ボックスから返信しようと受信ボックスを開いて、私の手がピタッと止まる。

 受信ボックスの中はさらに細かくフォルダ分けしてあって、「家族」「友達」「部活」それから、「翼」……

 同盟を組んでから日に何通もメールをするようになったからフォルダ分けしてあったんだけど、今日はまだ一通も翼からメールが来ていないことに気づく。ううん、今日じゃなくて、昨日帰ってから一通も。

 翼は態度は無愛想なのにメールは頻繁に送ってきて、いつもなら「おやすみ」「おはよ」って必ず送ってくるのに……

 やっぱりまだ怒ってる……?

 胸に押し寄せてくる不安に囚われそうになって、私は慌てて首を振って意識を戻す。

 今は翼の事じゃなくて、春馬にメールしなきゃ。

 基本私は翼のメールに返信するって感じで、返信が必要じゃない内容ならそのままにしちゃうから、私から「おはよう」とかメールすることはない。

 春馬にメールして布団にもう一度もぐりこんでからも、メール来ないなとか、どうして……って翼のことばかり考えて、私は眠りに落ちていった。



  ※



 日曜日に熱を出して薬を飲んだけど熱はなかなか下がらなくて、私は月曜、火曜と二日間も学校を休んでしまった。

 四日ぶりに登校すると、なんだか新鮮な感じ。

 翼からは月曜日の昼頃「大丈夫か?」ってメールが来て、教室でも普段通り接することができて、さんざん悩んだのにやっぱりっていうちょっとむかつく気持ちが大きかった。

 翼の怒りポイントは私には理解できないし、私がどうにかできるものじゃない。翼は翼でちゃんとその気持ちを処理して、次に会う時に持ちこしたりはしないってことを改めて実感させられた。

 やっぱり翼は俺様だ……

 人のこと振り回すだけ振り回して、事後処理は自分でやっちゃうんだもん。

 でも、熱で寝込んでいた時はあんなに翼の事ばかり考えていたのに、いざ学校に来てしまえば、私の心をとらえるのは春馬だった。

 登校してきた春馬は教室に入ると一目散に私のところに来てくれた。自分の席に座って友達と話していた私は、視界の端に春馬をとらえた瞬間から胸がそわそわしだす。


「おはよ、陽」

「おはよう、春馬」

「風邪はもう大丈夫なの?」


 穏やかな表情で挨拶した後、春馬は茶色い瞳に心配そうな光を浮かべて尋ねた。


「うん、三日も寝てたから、寝すぎで体がなまっちゃったくらいだよ」


 笑いながら答えても、春馬はまだ心配そうに私の表情をうかがっていて、その優しさに胸の奥から言い知れぬ熱いものが湧き上がってくる。


「顔赤いぞ、まだ熱あるんじゃないか?」


 そう言った瞬間。

 コンっと額がぶつかって、息が触れそうな距離で視線と視線が絡まった。

 春馬が私の額に自分の額を当てて、私はその状況に完全に思考がショートして、一気に自分の頬が赤く染まるのが自分でも分かった。ぼっと音を出して頭から湯気が出ているかもしれないし、頬は緩みきっているかもしれない。

 春馬は「う~ん、熱はないかな……」とか言って視線を天井に向けているんだけど、顔が近すぎる。テンパる頭の中で、私は必死に緩んでるであろう表情を引き締めるために意識を表情筋に集中させる。

 なんとか眉間にぎゅっと力を入れて、真面目な表情を取り繕ってみたけど、きっと顔はまだ真っ赤なのだろう。

 私の前の席に座って一部始終を見ていた千織(ちおり)ちゃんは訳知り顔でにやにやしている。


「陽、さっきより顔赤いけど大丈夫? 熱上がった?」


 額を離しても、かなり至近距離から顔を覗き込まれて春馬に聞かれて、私はなんとか真面目な表情で頷き返した。


「大丈夫だよ、ちょっと着込みすぎて熱いだけだから」

「着込みすぎてって、何枚着てるの?」

「五枚? あっ、ブレザー入れたら六枚だ」

「六枚って着すぎだろ、あはは」


 太陽のような眩しい笑顔で笑う春馬に笑い返しながら、私は話題がそれたことに内心で安堵のため息を漏らした。

 それから他愛もない会話を少しして、春馬は自分の席に戻っていった。

 その背中を私はぼんやりと見つめながら、胸をぎゅうぎゅう締め付ける気持ちを無視することができなかった。

 やっぱり、私は春馬のことが好き。

 あのお日様みたいにキラキラ輝く笑顔が大好き。




※ 安部千歳の名前を安部“千織ちおり”に変更しました。 2013.1.28

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