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第11話  仲良しの定義



 斜め前を向けば春馬、横を向けば翼がいる教室にはすっかり慣れてしまった。二ヵ月も経てば。

 衣替えでダークグレーのブレザーを脱いで爽やかな白やブルーのシャツ姿の生徒が教室内でお喋りに夢中になっている。

 今はお昼時間で、杏樹がうちのクラスに来て一緒にお昼を食べる週一回の恒例のランチタイムでもある。

 席が隣同士だから私と翼の席をくっつけて、春馬はそのまま自分の椅子を後ろに向きだけを変えて座り、杏樹は私の前の席の安部さんの椅子を借りて座る。

 いつも通り、席をセッティングし終えた頃に杏樹がやってきて、みんなが席に座って一緒にいただきますをして食べ始め、今日あったクラスの出来事など他愛もない会話を楽しむ。

 相変わらず、翼はほとんど会話には加わらないけど、話しかければ答えるし、始めて会った頃のように私が話しかけても返事しないとかいう無愛想ではなくなったかな。

 まあ、偽だけど付き合っている相手に話しかけられて無視したら、偽だってすぐにばれちゃうものね……

 そう、翼と偽の恋人同盟を始めてもう一ヵ月が経ってしまった。

 同盟を交わしたときはやっと暖かくなり始めた頃だったのに、すっかり季節はからりとした空気の夏、半月もすればしとしとと雨の降り続ける梅雨を待ち構えている。

 だけど梅雨よりも先に待ち構えているのは、中間試験だったりする。週末を挟んで来週の火曜日から試験が三日間あって、試験一週間前からは部活も休みでその時間を試験勉強にあてている。まあ、試験に出題される範囲のまとめノートは作ったから、それを見直すくらいだけど――

 考え込んでいたら、向かいに座った杏樹が可愛らしく小首をかしげて話しかけてきた。

 膝をくっつけて、やや斜めに置かれた足。その上にはお弁当を包んでいたナプキンが広げてあって、杏樹を包む雰囲気自体が小花が散っていそうな女の子らしくて羨ましい。


「――でね、ひなちゃん今日も部活は休みなんだよね?」

「試験一週間前だから今日も休みだよ」


 調理部に所属している杏里は試験一週間前から全部活が休みになることは知っているはずだし、この会話をするのはすでに今週何度目かだから、なんで今更そんなこと聞くの? と思いながらも、その思いを顔には出さずに静かな口調で頷く。


「じゃあ、一緒にカフェ・アジュールに行かない?」


 カフェ・アジュールは私のお気に入りのガーデンカフェで、従兄が経営しているお店でもある。学校から近くだから、一度、杏樹と春馬を連れて行ったことがあるんだけど。


「んー……」


 私は苦笑して言葉を濁す。

 今の時期はガーデンの緑も綺麗に生い茂って木漏れ日の下でお茶なんて素敵だし、癒される。杏樹と春馬がカフェ・アジュールを気に入って誘ってくれたのは嬉しいけど、だからこそそんな場所に二人とは行けないと思った。

 今の私では、きっと二人の仲のいい姿を目の当たりにして木漏れ日に癒されるなんてできそうにない。

 言葉にはできなくて曖昧に返事を渋っていたら、ふいに横から腕が伸びてきてぐいっと肩を抱き寄せられた。

 突然の事に体が斜めに傾いで、おしりは半分椅子から落ちそうになっていて、私は瞠目して翼の顔を見上げた。目の前には翼の顎、そこからのアングルでも翼の顔立ちが端正なのがはっきりと分かってなんだか悔しくなる。だけど、続いて発せられた翼の言葉に、私は瞳に驚きの色を濃くした。


「悪いな、今日は陽は俺とデートだから」


 ぜんぜん悪いとは思っていない不遜な口調で、さらっと翼が言う。

 いままで全然会話なんて興味なしって顔で黙々とお昼の牛丼大盛りを食べていたのに、しっかりと会話を聞いていたことに驚く。

 いや、そっちじゃなくて!

 デート発言にも驚いたし、なにより近すぎる……

 私の頬は翼の胸に当たっていて、制服の白いシャツ越しでもその胸が鍛えられてほどよい筋肉がついて逞しいことが分かって、私の顔はどんどんと赤くなっていく。

 その様子を翼がちらっと視線だけを下に向けて確かめるようにほくそ笑んだ。

 ヤな感じぃー!

 私は顔を真っ赤にしたまま俯いて、翼から視線をそらすのが精一杯だった。


「あっ、そうなんだ……。翼君とひなちゃんすっかり仲良しねー」

「やっぱり二人は相性いいんだよ」


 とか言って、驚きながらも微笑ましいものを見るような視線の目の前の二人のことはもう気にしないことにしている。だって、このやりとりも、今週に入って何度目かだから……

 翼と私が恋人同盟を組んで偽の恋人を演じてるってばれるよりはいいけど、仲良しとか相性がいいと言われるのは微妙。

 確かに翼は最初の私に対しての失礼な態度はなくなったし、私も翼に対して第一印象最悪とか苦手とか思っていた意識は薄れてはきたけど、仲は良くないよね……?

 いまだって、いきなり肩を抱き寄せたら私が真っ赤になること分かっててわざとやったんだよ!?

 私は内心げっそりとしたため息をついた。




今回短めですみません。

滑り込みでなんとか更新…

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