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第1話  視線の先には

 


 気がついたら、いつも視線の先には君がいた――

 目で君を追ってしまうようになったのは、いつからだろうか……



  ※



 にぎやかな声でざわめく駅前。大きな円形の花壇の中には赤や黄色、オレンジなど色とりどりの花が咲き乱れ、そよそよと吹く穏やかな風に楽しそうに揺れている。その中央には時計塔が立ち、待ち合わせ場所としてここを利用する人は多い。

 花壇の淵に腰かけている私の周りには、同じように待ち人を待って座っている人で埋め尽くされている。

 四月になったばかりだというのに肌を突くような寒さはなく、春らしい麗らかな陽気に上着を着ているのも暑いくらい。

 長袖一枚でいいくらいの陽気の中、私は一人、憂鬱な気持ちで小さなため息を漏らした。

 日曜日、いかにもな待ち合わせ場所で、こんな沈んだ顔をしているのはきっと私くらいだろう。

 だって、来たくなかったし……

 っていうのは嘘になるかな……

 何日も前から、今日はどんな服にしようかってすごい悩んだりして。そんなことにいちいち悩んでしまったことが今更恥ずかしくなる。

 普段はワンピースなんて着ないけど、今日はジーパン、白地の小花柄の長袖カットソー、その上に春らしいオレンジの肩紐タイプのワンピースを合わせて少し可愛くまとめてみたんだけど……

 ちょうど視線の先、改札を出てきた男女の姿を見つけて、やっぱり来なければよかったとすぐに後悔する。

 改札まではまだ距離があるから二人は私には気づいていないけど、私には二人が仲良さそうに手を繋いでいるのがはっきりと見えてしまった。こういう時、視力が良すぎることを呪いたくなる。

 女の子は小柄で白いレース地のマキシワンピースを着ている。スカート部分はティア―ドになっていて、何段にもレースが重なって可憐で、肩までの長さの髪の毛もパーマをかけてふわふわと揺れていて砂糖菓子のような女の子。

 男子はダメージジーンズにえんじ色のカットソーというシンプルな格好だけど、長身ですらっとした体、甘い顔立ちに揺れる茶色の癖毛。特別イケメンってわけじゃないのに柔らかい雰囲気が醸し出されていて、周囲の女子の視線を引きつけている。

 いますぐこの場から逃げ出したいのに、視線の先の男女が私に気づいて手を上げ笑顔を向けてくるから、私は浮き上がりかけた腰を諦めて落とし、答えるように片手をあげて微笑を浮かべた。


「ごめん、ひなちゃん、待った?」

(ひなた)、お待たせ」


 それぞれに言われて、私は待っていないと告げるように首を横に振って笑顔を向ける。


「大丈夫。それより今日も仲良しね」


 ちょっと皮肉気に言っても、二人は顔を見合わせて照れたようにふわりと微笑むだけで、こっちの方が毒気にやられてしまいそうで私は横を向いて気づかれないようにため息をついた。

 この二人、飛鳥 春馬(あすか はるま)篠山 杏樹(しのやま あんじゅ)は私の小学校の同級生で今は高校の同級生でもある。

 私の父親は建設会社に勤め工事現場で指示を出す現場監督っていう仕事をしてて転勤が多い。一つの現場に半年しかいないこともあれば五年もいることもある。で、小学校まではこの辺りに住んでいたのだけど小学校五年生の夏に長崎へ転校し、去年の夏、五年ぶりにこの街に帰ってきたというわけ。

 転校は慣れたものだけど、転校先の高校に小学校の同級生の二人がいて懐かしさに安堵したのはほんの少しだけ、二人に再会したことが私をずっと苦しめ続けている――

 春馬と杏樹は私にとって小学校からの同級生で、大事な親友で、そして二人は彼氏と彼女――

 付き合っているのだからから二人で出かければいいのに、二人は私のことを大事な親友だからといって出かける時にはたいてい私に声をかけてくれる。

 断れば、「じゃあ、その日はなしにしよう。陽が都合のいい時にいこう」って言われてしまうから、こうして渋々三人で出かけるのだけど、私の気分はいつだってどんより曇り空。

 溢れそうになる気持ちを隠して、親友の仮面をかぶって、二人に笑顔を向ける。


「じゃ、行こうか?」


 自分の思考に囚われていた私はそれを振り切るようにわざと無邪気に言って立ち上がる。

 今日はショッピングに行くと引っ張りだされて、さっさと済ませ帰りたいという気持ちも少しは会ったのだけど、立ち上がった私におっとりとした口調で杏樹が言う。


「ひなちゃん、待って。あのね、今日はもう一人来るの」


 もう一人……?

 私はその言葉に、訝しげに眉根を寄せて首をかしげる。

 この珍妙な関係に、まだ人数が加わるというの……?

 内心うんざりした気分で俯き、ぱっとあげた顔は平静を装って問いかける。


「ふ~ん、そうなんだ。待ち合わせ時間までまだ少しあるし、ぴったりに来るのかな?」


 何気ない口調で言ったのは、私も杏樹と春馬のことを親友として好きだから。二人に嫌われたくないし、親友として愛想を振りまいてしまう。デートの保護者を断れないのもきっとそのせいなんだ、と自分に言い聞かせた。


「あいつは時間にはキッチリしてるやつだから、遅れたりしないと思うけど」


 春馬が視線を上げ、私が座る花壇の中央に立つ時計塔の文字盤を見てそんなふうに言う。

 あいつ――って言い方をするってことは、春馬の友達とかなのかな?

 今まで三人で出かけることはよくあったけど、このメンバー以外の誰かが誘われるということは今回が初めてで、なぜだか胸に嫌な予感が湧き上がってくる。

 ふっと横に視線を向けると、私の横に座った杏樹とその前に立つ春馬が楽しげに会話をしていて、仲良しな二人の姿を見た瞬間、喉の奥がきゅーっと締め付けられた。

 こんな姿を見るのはいつものことなのに、やっぱり慣れないな……

 私は二人から視線をそらして、自傷気味に苦笑して唇をかみしめる。

 なぜだか目の奥がじんじん痺れてきて、それを誤魔化すように目をしばたいて顔を上げると、ちょうど視界の先にこっちを見ている男子の姿が目に入った。

 皺のきいた白シャツに黒のジャケットを羽織り、ダークグレーのジーパンを履き、さらさらの黒髪、斜めに分けられた前髪の下には意志の強そうな切れ長の瞳、通った鼻筋と形の良い唇の端正な顔の男子だった。

 モデルだっていわれても納得するような抜群のスタイルと容姿に感嘆のため息が出かかって、私は首をかしげる。

 すごく整った顔なのにその額にはわずかに皺が寄り、漆黒の瞳が切なげに揺れていることに気づいてしまったからだ。

 見ているだけでこっちまで胸が締め付けられるような切なさと苦しさの入り混じった表情に、ああ……って思わず納得してしまう。

 彼の視線の先を追えば、そこには砂糖菓子のようにふわっとした笑顔を浮かべて春馬と話す杏樹の姿。

 私は一瞬にして、彼が杏樹に片思いをしていることに気づいてしまった。

 待ち合わせしたこの駅は高校から近いから、同じ高校の生徒がいてもおかしくはない。もしくは、高校は違うけど杏樹と同じ通学路とかなのかもしれない。

 ああ、あの人も報われない片思いに苦しんでいるんだ。私と一緒、抜けられない迷宮でいつまで彷徨ったらいいのだろうか……

 あまりにも切ない表情が身につまされて、締め付けられる胸に手をあてる。ぼんやりとそんなことを考えていたらいつのまに歩いてきたのか、黒髪の男子がすぐ目の前まで来ていた。

 もしかしてここでいきなり告白ですか――……!?

 一人挙動不審で黒髪男子と杏樹に視線を交互に向け、おろおろしている私の目の前で、杏樹がぱっともともと大きな瞳を見開き、可憐に微笑む。その表情につられて振り返った春馬は黒髪男子の姿を見つけ、くしゃっと無邪気な笑顔を浮かべた。


「おかえり、(つばさ)




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