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4章

蒼太の家の前に着きポケットから携帯電話を取り出した。




ためらいがちにその折りたたみ式の携帯電話を開く。




正直、絢人も怖いのだ。




今までにも落ち込んでいる蒼太を慰めてやった事はあったが


今回の話は次元が違う。




これまでにも真剣な相談はあったが、


今回は答えはもう出ている問題だ。




蒼太の彼女が今日死んだという事実を


まだ絢人ですら受け入れられてはいないのだ。





ジッと2階の蒼太の部屋の明かりを見つめていたが


視線を下ろし、ようやくボタンを押す決心をした。




だが、20秒ほど鳴らしても出ない。




絢人の鼓動が少し早くなった。




「まさか‥」




しかしそのすぐ後に絢人の不安は杞憂に終わった。




少しこもった声の蒼太が出た。




「着いたんだけど、どうしようか‥?」




「入ってもらうからちょっと待って。」




1分も経たないうちに玄関のドアが開いた。




「ありがとう。」




蒼太は言った。




その顔には微かに笑みが浮かんでおり


絢人は少し安心した。





2階に上がると蒼太はコーヒーを出した。




心なしかその手が震えているようにも見える。




絢人は携帯を触りながらその手を見ていた。




携帯は開いてはいるが何をしているわけでもない。




ただ触っていた。




それが沈黙に耐えられなかったからなのか、


第一声に悩んでいるのかは分からなかったが


蒼太はその行動に理解を示し、特に気にはしなかった。




長年の友人である絢人が同じ空間にいてくれる。




その事が妙に蒼太を落ち着かせた。



ついに絢人が携帯を閉じ真っ直ぐ蒼太を見つめた。




蒼太は少し動揺したが


絢人の口から言葉が放たれるのを待った。




「大変だったろ。」




「あぁ、ほんとに頭が回らん。」




弱々しい蒼太の声に絢人の胸が痛んだ。




「こんな時に聞くようなことじゃないんだけど


 一つだけ先に聞いてもいいか?」




絢人の唐突な申し出に蒼太は少し戸惑った。




しかし軽く頷くことしかできなかった。




「なんていうか‥


 さやかちゃんの死を知ってから‥


 ん~‥なんて言えばいいのかわからないけど


 こんな日に不謹慎にも思っちまった事、


 頭に浮かんだりしなかったか?」




絢人は今の今までこんな質問をするつもりはなかったが


いきなり重い質問をするよりはいいと思い切り出したのだった。




一瞬、蒼太は何を聞かれているのか分からなかった。




絢人の突拍子もない質問は、


長い沈黙の中で


蒼太が用意していたどの答えにも当てはまらない問いだったからだ。




だが、絢人にかけた最初の電話中に頭を過り


すぐに後悔したあの感情を思い出した。




そのことを絢人に言っても良いものか少し悩んだが


そんな事を考えてしまった罪悪感を少しでも減らしたくて口を開いた。




「これを言うと、ほんとに軽蔑されるんじゃないかと思うし


 絶対誰にも言わないでほしいんだけど


 ほんの一瞬だけ‥


 理沙と付き合えるんじゃないかって考えちゃったんだ。」




蒼太は少し俯きながら言った。




「やっぱりすごいな。


 予想通りの答えだったよ。」




「え?」




蒼太は顔を上げ目を見開いた。




「こんなときって‥あんまりないだろうけど‥


 誰でもこんな事思うもんなのかなぁ?


 自分が冷たい人間だって‥


 あんなこと考えてから‥ほんと後悔してて‥」




「誰でもっていうと違うかもしれないけど


 お前は冷たいやつなんかじゃないよ。


 これまで散々さやかちゃんの事で悩んでたし


 大事にしてきたじゃないか。


 その辺のちゃらちゃら遊びで付き合ってるようなやつならともかく


 お前は違う。


 ずっと相談にも乗ってきた俺が言うんだから間違いないよ。


 なんで予想通りの答えだったかって言うとな‥


 来る途中理沙ちゃんに伝えるために電話したんだけど


 切る間際に今お前が言ったのと同じこと言うんだよ。


 すごい後悔しながら。」




「え?」




「だから俺からすればほんと相性いいなって。


 後悔なんてしなくていい。


 お前は充分にさやかちゃんを大事にしてた。


 ただ、少し別れを告げるのが遅かったかもしれないけど。


 だけどさやかちゃんも薄々お前の気持ちの変化に勘付いてたんだろ?


 多少悲しむかもしれないけどきっと分かってくれるさ。」




その言葉を聞いて蒼太はまた涙を流した。




こんな形で別れるなら


せめて最後まで目一杯愛してやりたかったと思った。




「だけどさぁ、


 ちょっと不謹慎だけどもし昨日とかに彼女を振ってたら


 お前のせいだとかなってたかもしれないな。」




「それはちょっと不謹慎すぎるよ。」




「そうだな。悪い。」




そう言って絢人は頭を掻いた。




「とにかく他の人たちに電話しなきゃいけないんだろ?」




「あぁ‥」




「来る途中考えてたけど


 そんなに気負わなくても


 話してれば伝わるし、


 あんまり詮索してくることもないだろうから


 普通にかけて大丈夫だと思うよ。」




「そっかな‥」




「いいやつばっかなんだろ。


 お前は考えすぎ。


 とりあえず一人掛けてみろよ。」




「あぁ。」




「俺がいたんじゃ掛けにくいか‥」




「掛けるよ。」




「分かった。」




蒼太は携帯を取り


一人ずつに涙を堪えながら今回のことを伝えた




絢人の言うとおりずいぶんあっけなくその電話は終わった。




「な?言っただろ?」




「ほんとに。何悩んでたんだろうな。」




「まぁ友達なんてそんなもんさ。」




それから1時間ほどその場で話した。




たまに涙は出たが、


絢人のおかげで少しだけ心が晴れていくのが分かった。


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