表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

羊の三題噺。

【三題噺】涙味の飴たちが降る窓。

作者: シュレディンガーの羊
掲載日:2011/08/02

昼休み。

中庭のベンチで携帯を拾った。


「誰のだろ」


親指と人差し指でつまみ上げた、それは鮮やかな青色。

シンプルなフォルムに、黒いスニーカーのキーホルダーが付いている。

これでは女子か男子かも分からない。

辺りを見渡し、持ち主らしき人間がいないか確認する。


「これは、しょうがないよねー」


わざとため息の様に独り言を呟く。

他人の携帯を勝手に見るなんて、本来なら人間失格並だ。

でも、これは例外。

持ち主に届ける為だから、正当な動機がある。


「ごめんねー。でも、許して」


適当な断りをして携帯を開く。


「……え?」


口から零れたのは純粋な驚きと戸惑い。

携帯の画面に現れたのは、沢山の窓の写真。

程なくして、これが写真のフォルダ内だと気づく。

罪悪感なんて吹っ飛んだ。

スクロールした画面にも、窓、窓、窓。

種類は全部違う。

何これ、という呟きは大声に遮られた。


「それ、俺のっ。俺のですっ!」


慌てて走って来たのは一人の男子。

口を開く前に、携帯を引ったくられた。

彼は、ひどく狼狽して携帯画面と私とで視線を行ったり来たりする。

そして、ぎこちなく首を傾げた。


「見た?」

「……見た」


遠慮がちに頷けば、彼は瞬く間に顔を青くさせた。

そして、言い訳じみたマシンガントークが始まる。


「いや、これはなんて言うか、自由研究?うんそう、自由研究なんだ。あ、いや違うんだ。これはえっと、将来建築家になりたくてその参考っていうか」

「……もしかして、複数の女性をストーカーしてるんですか?」

「それは違うよっ!濡れ衣だっ」


叫んだ彼に、少し興味が湧いた。

ニッコリと笑ってみせる。

いきなりの笑顔に、彼が目を瞬く。


「じゃあ、納得のいくお話を聞かせてくださいな」


私の台詞に彼の表情が青を通り越して、白くなった。




坂本 由澄。

高校2年。

帰宅部。

聞き出したプロフィールに驚く。

てっきり、私と同じ1年だと思っていたのに。


「えーと、あのさ……」

「納得できることを聞かせて貰えれば、先輩をストーカーだなんて言いませんって」


心配そうな顔が可笑しくて、苦笑する。

由澄とベンチに並んで座り、私は好奇心に胸を躍らせた。

彼はどうみても、ストーカーをする人種ではない。

だからこそ、写真の真相が気になる。

引かないでよ――――ため息をついて由澄は思い切ったように口火を切った。


「俺、閉所恐怖症なんだ」

「閉所恐怖症って、あの密室にいられない病気みたいな?」

「まぁ、簡単に言えばそうだね。俺の場合は小さい頃よりはまだ良くなったけど」

「でも、それがなんで窓の写真と関係?」


告白の意図が分からずに、私は足をぶらつかせながら問う。

由澄は苦笑いでそれに応じた。


「格好悪いながら、密室にいると呼吸困難になったり、パニックを起こすんだよね。例えば、エレベーターに20秒だけでも」

「20秒……」


そう――――驚きで反芻した呟きに由澄は軽く頷いた。

それから、空を仰いで自嘲気味に笑う。

私もつられて見上げる。


「だから、気休めのつもりで密室にいる時は窓の写真を見てる。思い込みって案外いいんだよな。それで、毎回同じ写真だと飽きるし、効き目なくなるかなーって」


青空を飛行機雲が2つに分けていく。

由澄の声は静かだった。

青空みたいな声だな、なんて勝手なことを思う。


「そしたら、病み付きのち趣味みたいな」


空から、視線を由澄をもどす。

目があうとくしゃりと顔を歪めて、彼は笑った。

泣き笑いみたいな表情だった。


「綺麗だなって思ったよ」


すんなりと言葉が出た。

由澄が突然の台詞に目を瞬く。


「窓の写真。綺麗だなって思った」


始めはその量に驚いた。

教室の窓。

図書室の窓。

丸い窓。

窓枠に装飾のある窓。

青空の見える窓。

どれも綺麗な写真ばかりだった。


「ありがとう」

「……べつに」


不意にお礼を言われて、そっぽを向く。

照れ臭さで、顔が熱い。


「あ、お礼に、これやるよ」

「お礼?」


手の上に乗せられたのは飴玉。

青い包みを解けば、白い丸が姿を現す。

ありがと――――そのまま自然に口に入れ、


「うわ、しょっぱいっ」

「あははっ」

「あ、でも、ちゃんと甘い」

「塩飴っていう飴だからな」


由澄も飴を口にほうり込む。

ころころと、口の中で飴が動いている。


「泣きたくなると食べたくなんだよな、この飴。泣き虫防止剤な感じ」

「今、泣きたいの?」

「いや。昔はよくお世話になったから、今もお気に入りなだけ」


おどけた返事に被るようにして、チャイムが鳴った。

あと10分で、5時限目が始まる。


「さぁて、俺は正直に話したから、変な噂をばらまかないよーに」


立ち上がった由澄は、そう念を押した。

私は、はーい、と気のない返事を返す。

踵を返した由澄。

このまま、もう会えなかったら嫌だな、と思った。

学校って狭いようで広いから。


「ねぇ、またその塩飴ちょうだい。あと、窓の写真送って」


立ち去ろうとした背中に叫ぶ。

振り返った由澄は、少しびっくりしてから笑って叫び返す。


「なら今度、携帯のメアド教えて」

「りょーかい」


私は大袈裟に敬礼の真似をした。




窓の写真を見て、泣かないようにと涙味の飴を食べる人。

今日出会った人はそんな人だった。


三題噺として書きました。

携帯、飴、窓。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ