ACT-7 ~守護せしもの~
いまだにイベント一つ目、消化のみ…
でも、本当にこちらは、楔、より短いんですよ?
起こるイベントも数が限られていますので。
ともあれ、投稿がかなりおくれました。
こちらは基本、楔の合間をぬって(気がむいたら)ちまちまと打ち込みしております。
ゆえに投稿間隔はかなりランダム、です(容量たまったら投稿になるので)
ともあれ、ようやくいくのですv
ティンの名前の由来…すこしばかりラストにでてきてますv
前回までのお話し:
世界神セレスタインによって創られた、という様々な種族が共にいきる世界。
しかし、全ての命が平等に、という神の願いもむなしく、
いつのころからか、人類は自分達こそ選ばれた種族、と他種族をないがしろにした宗教概念を生み出した。
世界を守っていたはずの精霊王の加護もいつのまにか消えてしまい、はや数百年。
セレスタイン宗教の総本山、ともいわれているとある国家より聞こえる不安要素。
そんな中、ティン・セレス、と名乗る少女の姿をした旅人があらわれて?
彼女は、とある海賊を行っていた頭領ともう一人とともに旅にでることに。
旅の中、立ち寄った村はなぜか物々しい雰囲気で…?
WOLD GAME ~守護せしもの~
ざわざわ……
「?何かあったのかしら?」
目が覚めると、何やら外が異様に騒がしい。
ゆえに思わずつぶやくフェナス。
窓から入り込む日差しはいまだにきつく、どうやら日が昇ってまだ久しいらしい。
この地は東に湖があるがゆえに、日の出は早く、そしてまた日没もまた早い。
背後には高い山脈が連なっていることから日は早く沈んでゆく。
ここで気にしていても仕方がない。
とりあえず、二人部屋と一人部屋しかない、というので、ティンのみ別の部屋にとまり、
そしてフェナスとレニエルが同じ部屋にという割り振りになった。
ふとみれば窓際にたち、朝日を全身に浴びているレニエルの姿が目にはいる。
「あ、おはよう。フェナス」
そんな目覚めたフェナスに気がついて、にこやかな笑みを浮かべるレニエルの表情は、
こころなしか昨日よりも輝いているようにも垣間見える。
「おはよう。よくねむれた?」
「はい!人の寝床ってこんなものだったんですね」
そういう彼の言葉におもわず心がちくり、とする。
仕方がなかったとはいえ、彼がいまだに身動きとれないときから船上で育てるしかなかった。
陸に上がってしまえばいつ危険が及ぶかわからなかった。
ようやく自力で動けるようになった彼が自由に動き回りたい、とおもうその願いは彼女とてわからなくはない。
しかし、しかしである。
彼の存在は、彼女の…否、一族にとっての希望。
このたびのことでも、本当ならば彼には安全な場所にいてほしかった。
しかし、彼の決意は固かった。
自分が動かなくて何とする、と。
クラリスの襲撃より偶然に助けてもらった謎の魔術師。
こちら側に敵意がない、というのは今のところの動向をみていればわかる。
わかるが油断はできない。
自分達のことを森の民だ、と見抜いていたことからも油断は許されない。
どこまで知識を知っているのか知らないが、もしかしたら、もしかしたら、である。
レニエル、と名乗ったその名の真実に気づいている、とも限らない。
宿屋は至って簡単にできており、
部屋の中には竹でできた二つの寝具にこれまた草木にて編みこんだ敷物がひかれている。
枕もまた竹細工であるらしく、人によってはその固さに不満があるであろうが、
逆に竹で編みこんでつくられているゆえに、隙間も相まってちょうどよい弾力性をかもしだしている。
小さな木を彫ってつくられたのであろう机とこれまた竹で作られた椅子。
部屋の中をぐるり、とみわたしても、ほぼ竹細工物がかなり目立つ。
さすがは、竹細工の村、として有名なことだけのことはある。
そう素直に関心するフェナスとは対照的に、
「それより。フェナス。外が先ほどからにぎやかなんですけど。何かあったんでしょうか?」
ざわざわと朝から人々が騒がしい。
窓からみているだけでも、数名の村人らしき人々が村の裏口のほうにむかって走っていっている。
「さあ?」
そんな会話をしている最中。
コンコン。
部屋を叩く音が二人の耳にと聞こえてくる。
と。
「二人とも、おきてますか~?とりあえず朝食をとったらすぐに出発しますよ?
あまり遅くなったら野営地に付く前に森の中で野宿、となりかねませんから」
部屋の外から二人にむかって声が投げかけられてくる。
がちゃり、と扉をあけてみれば、そこにはにこやかにすでに支度を整えているらしきティンの姿が。
扉があき、中にいる二人の姿を確認したのち、にっこりとほほ笑み、
「おはようございます。よくねられましたか?
とりあえず、私は食堂でまってますので。用意ができたらきてくださいね。
あ、あまり遅くなったら本当に野営地にする予定の泉にたどり着く前に野宿になってしまいますから。
なるべく早くしてくださいね?」
とりあえず二人の足並みを考えて、早く出発するに越したことはない。
もっとも、早く出発するのは面倒事に巻き込まれないため、という理由も大半をしめているのだが。
しかしそんなティンの事情は当然、フェナスもレニエルも知るはずもなく、それゆえに、
「あ、ああ。わかった…というか、泉?」
この先に泉がある、というのであろうか。
こんな山脈が連なるふもとに?
ゆえに思わず眉をひそめてといかける。
そんなフェナスに対し、
「ああ。あのアダバル湖はこの地下にその水脈を伸ばしてますからね。
それゆえにところどころその地下水が湧き出ている場所があるんです。
かの湖の力の作用も相まって、このあたりの木々は異様に成長してるんですよ?
…まさか、知らなかった、とはいいませんよね?」
まがりなりにも、森の民。
そのくらいのことは把握しているはず。
それゆえにきょとん、と首をかしげてといかけているティン。
…もっとも、そこまで詳しく他に知っているものがいるのか、といえば答えは否。
異様に早く育つ木々は昔からなので、人々はそのようなものだ、と思いこんでしまっている。
それが現状。
「むろん、それは知っている。…というか、そのあたりまで詳しい、となると地理学者か何かか?」
まあ、国に使える魔術師となればそのあたりの知識も嫌でも身につけねばならないであろう。
魔術師とは文字通り、様々な知識が必要とされる職である。
魔道士に至ってはその知識が偏っていたりする場合が多々とあるらしいがそれはそれ。
いまだにティンをどこかの国に所属している魔術師だ、と疑っているがゆえにそのような結論に達するフェナス。
「最近はそういったこともあまり知ろうとする存在がいなくなってるんですよね。
さみしいですよねぇ。真理をしればおのずと自らの在り方もわかってくる、というのに」
それは本音。
真実をしり、世界の真理を知る。
そうすればこの世界はよりよく発展してゆくであろう。
しみじみつぶやきつつも、にこり、と再び笑みをむけ、
「では、私は先に食堂でまってますね。それでは、また後で」
いいつつも、二人に対してかるく会釈をし、その場を後にしてゆくティン。
そんな彼女の後ろ姿を見送りつつも、
「…とりあえず。私たちも準備をしましょうか」
「ですね」
自分達はあくまでも彼女に案内してもらう立場である。
彼女が一人でいくところについていっているに他ならない。
本当に彼女がいうような抜け道のような洞窟があるのかは不明だが、
その言葉に嘘はないように感じられる。
互いに顔を見合わせつつも、それぞれがそれぞれに旅立ちの用意をすることに――
しぃん……
文字通り、静寂。
そういっても過言でない。
というかこの宿に他の客はいなかったとはおもうが、
ここまで静寂に満ちている、というのもかなり不気味といえば不気味。
「すいません。何かあったんですか?
少し考えても朝ご飯とか食べにくる村人も少しはいるとおもうんですけど」
ここの自給自足体制がどうか、はわからないが。
すくなくとも、全員が全員自分の家で毎日のように自炊をしているわけではないであろう。
それゆえの問いかけ。
実際問題として、最近旅人がやってこない、と見張りの村人がいっていたにも関わらず、
いまだに宿屋がこうして健在でいられる、ということはすくなくとも、誰か客がいるから成り立っているに他ならない。
…もっとも、それ以外に趣味なので収益がなくても続けてます。
という可能性もなくはないのだが。
ティンの感覚からしてみれば朝から別の場所でご飯を食べたりするのは当たり前。
しかしティンの感覚がここに住まう存在達と同じ、と思うのはかなり間違っている。
一応ティンもそのあたりのことは十分に把握している。
いるが、それでも問いかけたのにはわけがあり……それは……
「ああ。旅人さん達は朝、そとが騒がしかったのに気がついただろう?
それがねぇ。今まで盗賊団に誘拐されていた村人や、行方不明になっていた人々が、
つい先刻、ふらふらと歩いているところを発見されてねぇ。
彼らは皆、なんか夢うつつ、のような状態になっていて。怪我も何もないようなんだけど。
村人の姿をみて安心したのか全員が全員、その場で気絶してしまってねぇ~……
気絶する前に意識がかろうじてまともだったとある男性がこういったんだよ。
『盗賊団は壊滅した』と。今はその確認と、それと保護した人達の対応で大騒ぎになってるのさ。
ゆえに、朝からこんな宿に食事をとりにくる暇はないんだよ。
もっとも、朝ご飯をたべないと力がはいらないので、きちんと差しいれはしているがね」
ティンの質問に、戸惑いつつも、しかし隠しておくこともできない、とおもったのであろう。
丁寧に今、この村におこっている現状を説明してくる宿屋の主人。
「盗賊?ああ、それで森側、というか山脈側の柵がしっかりとした作りになってたんですか?」
昨夜、自分がさくっと盗賊達を壊滅、そして撃退したことを表情に微塵もあらわさず、
今初めてきいた、とばかりにそんな宿の主人にと問いかける。
「ここしばらく、その盗賊団にいろいろとこのあたりは被害をうけててね。
何しろどうしてなのか、彼らは魔術師様や精霊の加護をうけた存在でしか使えないはずの術。
それらを多様して悪事をはたらいていてね。おかしなことだよ。
普通、悪事などに自らの力を使用する場合、精霊様の力は絶対に貸し出されないはずなのに」
噂ではかの帝国が素人でも術を扱える品をつくり、それの実験をさせているのではないか。
という噂がまことしやかに飛び交っている。
しかし、悪人が術を使用できている、という不可解な現象を考えれば、
その噂も馬鹿にはならない、とおもう。
彼らの認識には、いまだに精霊石、というものは存在していない。
ゆえに盗賊達がどのようにして術を扱っていたのかしるはずもない。
その説明をうけ、一人顔色を悪くしているフェナス。
「…まさか……」
そのまま小さくつぶやく様は何かおもいっきり心当たりがあります、といっているようにしかみえない。
実際、彼女もこれまでの経験上、精霊石を目の当たりにしたことがある。
否、彼女の両親がその石の材料にされていた。
たまたま彼女がかかわったとある事件にその精霊石がつかわれていたのだが……
石の形にされてしまった魂を解放するために泣く泣くその石を割ったことは記憶に新しい。
ゆえに顔色を悪くするフェナス。
「ほんと、世の中どうなってるんですかねぇ」
「いや、まったくだよ。それはそうと、お前さん達はすぐに出発するのかい?」
しみじみというティンの言葉にうんうんうなづき同意しつつ、ふと気がついたようにと問いかけてくる。
そんな主人の言葉に、
「はい。あまり長いをするわけにも」
少し申し訳なさそうに答えるティン。
「そうかい。まあ、先ほど盗賊団が確かに壊滅している、
という確認にいったものが戻ってきてたみたいだし。
遠回りでなく森をつっきっていけば港町にたどり着くのもかなり早いよ」
かの盗賊団が壊滅したのならば、森の道も安全が保障される。
もっとも、盗賊の残党がまだ残っているかもしれないが、
昨夜の今日で残党達が組織だって仕掛けてくる、とはおもえない。
それゆえに、早めに森の道を抜けて港町にたどり着いたほうが遥かによい。
何しろまだ見たところ小さな子供をつれての旅である。
どうみても少年の歳はまだ十歳にも届いていないであろう。
わざわざ遠回りするよりも、二日で通り抜けられる森の街道を通ったほうがはるかによい。
森の街道沿いには途中、休める小屋なども存在している。
それらの小屋には簡易的な結界も施されているので魔獣が入ってくる心配もない。
実際、盗賊の本拠がある、とおもわれている場所に行ってみれば、
なぜかそのあたりは氷づけになっており、
しかも地面に盗賊らしき男たちが閉じ込められている状態となっていたらしい。
水の精霊の眷属である氷の精霊でも怒らせたのであろうか?
というのは村人たちの意見。
しかし、精霊が傍目にわかるほどに干渉してくる、というのはかなり珍しい。
ゆえに朝からしばし村全体がざわざわとしているのだが。
よもや、彼らは知るよしもない。
それが一人の少女の手によってもたらされている現象だ、ということに。
しばしたわいのない会話を二言、三言かわしつつも、簡単に朝食を済ませてゆく――
「何かざわついてますね」
言われるまでもなく、実際、宿の外にでてみればざわざわとした空気が伝わってくる。
幾人もの村人がせわしくなく走り回っており、声をかけるのもはばかられる雰囲気。
「とりあえず、村長さんのところにいって、ご挨拶してから出発しましょ」
周囲をみつつ、すっぽりと体を覆わんばかりのローブに身をつつんだレニエルが周囲を見渡しつつぽそり、と呟く。
そんな彼とは対照的に、さくさくと村長の家にむかって歩きはじめているティン。
ざわめく村人たちをほぼかきわけるようにと進みつつ、やがて前日立ち寄った、
ちょっとした大きめの建物にとたどり着く。
「うん?なんだ。昨日の旅人か?」
ふとティン達に気づき、昨日、村長に取り次いでくれた青年が声をかけてくる。
「はい。昨日はありがとうございました。とりあえず今から出発するので、
村長さんにお礼を言おうとおもいまして立ち寄らせていただきました」
そんな青年にかるくお辞儀をし、ここにきた用件を完結に述べるティン。
「そうか。それは殊勝な心がけだ。少しまっていろ。村長に取り次ぐのでな」
いって、そのまま建物の中にはいってゆく見張りの青年。
待つことしばし。
「村長がお会いになるそうだ。くれぐれも粗相のないようにな」
この忙しい中、時間を割いて旅人に会うと判断している村長の人柄の大きさに感動しつつも、
ティン達にむかっていってくる見張りの青年。
「はい。ありがとうございます」
いいつつ、背後にいる二人に視線を向け、そのまま建物の中へとはいってゆく。
中にはいると数名の村人がどうやら重要な会議でもしていたらしく集まっており、
一斉に彼らの視線がティン達三人にと向けられる。
彼らは全員、床に敷かれた小さな人一人分ほどの敷物に座っており、
どうやらみたところ、その敷きものもまた竹を編んでつくられているらしい。
「おお。昨日の湖よりの難民、じゃな。ゆっくりねれましたかの?」
どうやら湖から避難してきたと勘違いしているままらしく、ティン達の姿をみてそんな声をかけてくる村長。
ざっとその声にその場にいた人々も振り向きざま、
「ああ。昨日やってきた、という湖からの。…小さいこもいたというのに災難でしたな」
「しかし、不幸中の幸い、というか。今ならおそらく森の街道もとおれますし。
森の街道をとおれば港町にも早くつけますからよかったとおもいますよ?」
まだ幼い、どうみても十にみたない子供、見たとろの年齢はおそらく七歳か八歳そこら、であろう。
ゆえにレニエルをみて気遣った言葉をかけてくる女性に、湖からの難民、と
信じているがゆえに何ともいえない表情をむけてくる数名の姿。
湖を航行していて、船が難破する、というのは今に始まったことではない。
それでもまだ岸にたどりつけた、というだけ幸運とおもうしかない。
何しろかの湖には多々と肉食生物がすみついている。
中には人肉を好むのか船を主に襲う生物もいる、という現状は誰もが知っている。
ゆえに、三人だけでも無事に岸にたどりつけ、あまつさえこの村までたどり着けた。
そのことすらが奇跡、ともいえる。
さらに、昨夜、どうしてかわからないが、このあたりを荒らしまわる盗賊達が壊滅した。
それにより、今まで使用不可能となっていた森の街道もおそらく普通に使用できるはず。
幸運、といわずこれを何というのであろう。
「はい。先ほど宿の方にそのことはお聞きしました。
それで森を抜けてなるべく早くに出発しようとおもいまして。
こうして一晩お世話になったお礼を、とおもい参上した次第です」
彼らが勘違いしているのは一目瞭然。
しかしその勘違いを訂正する気はさらさらない。
どうして勘違いしているのを訂正しようとしないのか、不思議にはおもうものの、
かといって自分達の目的をここでいうわけにはいかない。
もし下手に『帝国』に不法侵入しようとしている、というのが判れば、
彼らの中から報告がいき、つかまりかねない。
それだけは何としても避けなければならない。
ゆえに、フェナスとしてもその勘違いを訂正する気はさらさらない。
「それはまた、ご丁寧に。宿の主人に聞かれたようですが、
なぜか昨夜、このあたり一帯を荒らしまわっていた盗賊団が壊滅したようでしてな。
とはいえ残党共がいない、ともかぎりません。しかしすぐにすぐに行動が起こせるわけでもないでしょう」
頭領が逃れているかどうかはわからない。
しかし、頭領が逃れていたとしても、おそらく事態の収拾にしばらくはかかるであろう。
おそらく事がおこったのは昨夜。
少しでも早い方が無事に森の街道を抜けられる確率が高い。
「そうですね。でも、助かりました。おかげでゆっくりと休むことができましたし。
また御縁があれば今度は客としてお伺いさせていただきますね」
にこやかにいうティンの言葉に笑みを浮かべつつ、
「何の。こまったときはお互いさまですじゃ。…では、お気をつけて」
「ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
ティンが頭をさげたのをみて、あわてて同じく頭をさげてお礼をいっているフェナスとレニエル。
そんな三人をほほえましくみつつも、
「本来ならば誰か護衛でもつけてあげたいのですが…」
「いえ、おきになさらず。それでは、これにて失礼します」
今の状態で護衛をだせるほど村に余裕はない。
それでなくても、残党がいないか、もしくは盗賊団の状態がどうなっているか。
動ける若者はこぞって森に視察にでているのが今の現状。
ティンからしてみても、わざわざ村人についてこれらてはたまったものではない。
何しろ、彼女が向かう先は森の街道沿い、ではない。
むしろその奥。
ゆえに付いてこられても説明にこまるというのが本音。
ひとまず一晩の宿を提供してくれた村の村長にとお礼をいい、
ティン達はそのまま、村の裏口へとむかい、そのままその先にと広がる森の中へと出発してゆくことに。
どこぞの要塞か、とおもえるほどの頑丈な柵。
もはやこれは、柵、という代物ではなくむしろ、壁、といってもいいであろう。
それほどまでに幾重にも竹で組まれた壁が背後に広がる森すらみえないほどに覆い尽くしている。
見送り、という見送りは別になく、その場を守っている見張り番の村人が軽く挨拶してきたのみ。
別れつげ、そのままその先にある森の中へと進んでゆくことしばし。
「あれ?街道はこっちですけど?」
森の中に続いている、どうみても人の手がくわわっている街道らしき道。
その道から外れてゆこうとするティンに首をかしげてといかけてくるレニエル。
「レニー。そっちにいったら、それこそ普通の街道につづいているわよ?
私たちが向かうのは、山脈のふもと。この道をたどってもたどり着けないわよ?」
実際、この道をたどっていくと再び湖の近くに出ることになる。
「しかし、道はない…のか?」
ティンが進もうとしている先にみえるのは、鬱蒼と茂る竹林と、そしてそれに連なる森の木々。
この地は竹林と森が共同に生えている場でもあり、場所によっては竹林のみの場所と、
木々だけの場所とに分かれている。
ティンが進んでいる先は、奥すらもみえない鬱蒼と茂る森林のほう。
「まあ、方向は木々の葉っぱでわかりますし。とりあえずいきますよ?」
そんな二人の戸惑いをさくっと無視し、すたすたと歩きはじめるティン。
この場でのんびりとしていても意味がない。
むしろ、逆に村人にみつかれば面倒なことこの上ない。
おそらく、彼らが覚醒すれば、ティンが盗賊を壊滅した、ということが伝わってしまうであろう。
それまでに何としてもこの場から少しでも遠くに離れておきたいのが本音。
すたすたと迷いなく歩きはじめるティンに遅れてはまちがいなく迷子になる。
そう確信し、あわててついてくるフェナスとレニエル。
鬱蒼とした木々は太陽の光すら通さないのか周囲はかなり薄暗い。
それでも迷いなく進んでゆくティンに対し、
「ティンさんは暗闇でも目がきくのか?」
自分達はどちらといえば暗闇は苦手といえば苦手である。
それゆえの問いかけ。
とはいえ、完全に見えないほどの暗さではない。
うっすらとした暗闇なので明るくもなく、暗くもなく、といったところであろう。
これが夜になればどこまで深遠なる空間が広がるのかは想像に難くないが。
「まあ、一応。あまり暗くて見えないようでしたらいってくださいね。
光源の確保くらい何でもないですし。でもあまり明かりの多様はお勧めしませんけどね。
ここにも魔獣は存在してますし。明かりがある、ということはそこに獲物がいる。
というのを暗に示しているようなものですし」
事実、明かりをつかうような存在は限られている。
ゆえに、あまり抵抗できない餌がそこにいる、と思う野生動物もすくなくない。
彼らにも彼らなりの知性がある。
動物に知性がない、とおもっているのは愚かな存在の考えでしかない。
しかしそのことに下手に文明をもった輩はなかなか気づかない。
「たしかに……。余計な戦いはしないに限る、からな」
そんなティンの言葉に思い当たる節があるらしく、しみじみとうなづくフェナス。
「それはそうと。どれくらい歩くようになるんだ?」
何しろ道なき道。
それでも迷いなく進んでいることをみれば、目的地とする場所の方向はしっかりと把握しているのであろう。
それゆえの問いかけ。
「そうですね。とりあえず、私は別に疲れとかあまり関係ないんですけど。
というか、フェナスさん達、空はさすがに飛べませんよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そういや、ティンさんは空…とんでたな・・・・・」
始めてあったときに空中に浮かんでいたことを思い出し、どこか納得したような声をだす。
「私たちはさすがに飛べはしないな」
とはいえ、レニエルが完全に成長した暁にはそのあたりもどうにかなるであろうが。
そのことは口にはださず今の現状のみを答えるフェナス。
「まあ、休憩する場に決めている箇所まではさほどかからないとおもいますよ?
今日の夕方くらいまでにはつけるとおもいます」
にっこりと、そんなフェナスに対していいきるティン。
空から行けばさほどかからない距離ではあるが、歩きだとそうはいかない。
かといって、二人に飛行の術をかけて飛んでゆく方法も出来はするが、なるべく目立ちたくはない。
そもそも、第三者に術をかける方法など、いまだにここでは認識されていないはず。
もっとも、少し目を離していた間にそのあたりの研究が発展しているのならば話しは別、だが。
「そういえば、どうしてあの村をそうそうに立ち去ったのだ?」
気になっていたのはもう一つ。
あれだけ何やら騒がしかったのだから、もう少し現状をきちんと確認しておきたかった、というのもある。
しかし、ティンはその騒ぎを気に留めることなく、出発のほうを優先した。
「あのまま手伝ってたら、まちがいなく、他の村や町などの連絡係りや、警備隊。
それらの事情聴取にかかわるはめになってどれだけ日程がつぶされるかわかりませんし」
しかも、盗賊団をつぶしたのは、ティンである。
捕えられ、道具として扱われていた捕虜達は、その過程でティンの姿を目視している。
もっとも、究極の状態の中できちんと把握できていたか、といえば答えは否。
彼らの目には神の使いが自分達を助けにきた、と映っていたことであろう。
あるいみ、その感覚は間違ってはいないのではあるが。
しかし、ティンが盗賊団をつぶしたという事実はフェナス達は知らない。
「…まあ、たしかに、な」
一日でも早く、できうるならば目的を達成したい、とおもうのは仕方がない。
こうしている間にも捕えられている存在達がどのような目にあっているのか想像に難くない。
「ま、レニーのこともありますし。疲れたらいってくださいね。休みつついきましょう」
「わかった」
自分は足に自身がある。
しかし、レニエルはまだ幼い。
それに何よりいまだにその身を自在に操ることすら難しいかもしれない。
それがわかっているからこそ、ティンの言葉に同意しつつも、
そのまま何を話しつついけばいいのかわからずに、しばし無言でひたすらに道なき道を進んでゆく――
気のせいであろうか。
すでに日は陰ったのか、周囲をみればみるほどに漆黒の空間が広がっている。
にもかかわらずに、自分達が進む方向に限り、薄明かりがともっているように感じられる。
何よりも周囲を見渡しても横にあるはずの木々すらも見えない漆黒の空間になっている。
にもかかわらず、進む方向の木々や大地がしっかりとぼんやりとながら見えているのはどういうわけか。
このあたりに生息しているのが普通の木々であることから、自分達に協力してくれている。
という可能性も否めなくはないが。
しかし、周囲の木々より感じる感覚は、いつもとは異なる。
それは森の中を進んでいるときからずっと感じていた違和感。
レニエルに対して、敬意を示すのならばまだわかる。
しかし、この地に生息している木々達はどうもティン・セレスとなのった少女に対しても敬意を示しているように感じる。
だたの魔術師ではないのか?
自然界より敬意を示される存在といえば、ごくごく限られている。
すなわち、精霊王と契約している存在。
そういった選ばれた存在ならば自然界における全ての存在がその存在に対して敬意を示す。
そういえば、とおもう。
目の前の少女は、精霊王達の真名を知っていた。
普通なら知りえるはずもなく、通称として広まっている名をしっているかいないか、というところなのに。
しかし、しかしである。
精霊王達が姿をけしてはや二百年以上。
対するティンの外見はどうみても十代そこそこ。
もっとも、外見と実年齢が伴わない種族がいる、というのはフェナスとて身にしみてわかっている。
実際、自分達の種族もその部類にふりわけられる。
長寿たる種族ならば外見と実年齢が伴わない、というのは通常的におこりうる。
しかし、みたところ、エルフのようにもみえない。
何かの特殊な術を用いているようにもまったくみえない。
しばらく進んでゆくと、やがて周囲が鬱蒼とした木々ではなく、今度は竹林へと姿を変える。
そしてその先にきらきら輝く何かが竹林の合間を縫って見え隠れしているのがみてとれる。
「そろそろつきますよ」
すでにつかれたレニエルはフェナスがおぶって進んでいる。
周囲が暗闇につつまれた後も歩き続けていったいどれほどの時が経過したであろうか。
それすらもわからない。
やがて竹林を抜けると突如としてぽっかりと開かれた空間が広がっており、
その中心に小さな湖がコンコンと湧き出しているのが見て取れる。
そして、その湖の中心に小さな盛り上がった丘のような場所があり、
その丘の周囲にはきらきらと金色の光の粒が絶えず舞うように満ちている。
「これは……」
思わずその光景をみて絶句しているフェナス。
話しには聞いたことがある、でもしかし、いやまさか・・・・・・
フェナスが一人、混乱しているそんな中。
『おひさしぶりです。ティンク様。お目にかかれまして光栄です』
ゆらり、と目の前の泉の水面が光輝いたかとおもうと、次の瞬間。
そこに水色の姿を模した一人の女性がたたずんでいたりする。
「久しぶり。ケティヒ。あ~。まだクリノは成長してのいのね~。
ということは、クロアもまだ成長してないってことか。
だからあんな不浄なる気が侵入してきていたわけか」
思わずちらり、と丘の中央に小さく生えている小さな『筍』をみつつも
目の前に浮かぶ水で出来ているとしかいいようがない『人』にとはなしかけるティン。
グリーナ大陸。
そこに存在している、といわれている、かの地を守護せし存在。
クリノと呼ばれる存在と、クロア、と呼ばれし存在。
それらがどういった姿をしているのかいまだかつて認識できたものはいない、とされている。
一説には聖なる地においてその身を大地にゆだね、大陸を見守っている…といわれている伝説上の存在。
『もうしわけございません。休息の間を付かれている形となっておりまして……
あちら側からの瘴気などはクレマティス様がどうにか抑えてくださっていますので、
かろうじてこの地はどうにかもっているようなものですが……』
ティンのことを、ティンク、と呼んだ水の女性は申し訳なさそうに答えてくる。
しばし、そんな二人のやり取りを眺め、唖然としているフェナス。
水の…精霊!?
目の前の女性はおそらく、まちがいなく水の精霊。
精霊王がどこかに消えた…正確にいえば捕えられた後、人の前には姿をみせなくなった。
ともいわれている精霊が目の前にいる。
しかも、あっさりとでてきたような気がするのはおそらくフェナスの気のせいではない。
「あ~。あっちの瘴気はやっぱりクレマティスが頑張っているからか。
となるとだいぶ疲労してるかな?」
かの正確をかんがえれば、役目放棄は絶対にしていないであろう。
しかし、彼とて食事をする必要性はある。
おそらくだいぶ疲れがたまっているであろうことは容易に予測ができる。
まあ、彼のことなので、まず瘴気に取り込まれたりすることはないであろう、とはいいきれるが。
「…あ、あの?ティンさん?えと…その、そちらの方は…水の精霊・・様…ですよね?」
思わず恐る恐る、二人の会話に割ってはいるすら何となく畏れ多いような気がする。
しかし、聞かなければ先にはすすめない。
それゆえに恐る恐る問いかけるフェナス。
そんな彼女にときづき、
『おや。これは【森の民】の方ですか。…あら?【輝ける王】もご一緒ですか?
お初におめにかかります。私はケティヒ。この泉を守護する水の精霊です』
フェナスの背後に背負われている少年が【何】なのか一目で見抜き、
ゆったりとした動作で挨拶してくるケティヒ、となのった水の精霊。
「とりあえず、私たちは聖殿に向かおうとおもってね。
で、とりあえず、今日はここで休ませてもらおうとおもって。問題ないわよね?」
そんなケティヒとなのった精霊ににこやかに語りかけるティンに対し、
『問題どころか。こんな場所で心苦しいばかりです。
しかし、申し訳ありません。あなたさまのお手をわずらわせることになろうとは……』
精霊からしてみても、このたびのことは非情に心苦しい。
そもそも、彼女の手を煩わしてしまったことこそ、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。
精霊に敬語を使われているティンの姿にかなり驚きの表情をうかべざるを得ないフェナス。
普通、精霊にここまで下でにでられる存在などそうはいない。
いくら精霊王と契約している存在ですらここまで彼らが下でにでるか、といえば答えは否。
それに…ティンク?
ティン・セレス、と目の前の少女は確かなのっている。
ティンク、という名には聞き覚えがない。
否、あるといえばある。
しかし、その可能性は瞬時に頭の中で切り捨てる。
ありえない。
そう、ありえるはずがない。
この【世界】そのものの名。
【ティンクセレクタ】…世界の名の一部と同じ。
そんな馬鹿なことがありえるはずがない、のだから。
ティンと水の精霊による会話は驚愕しているフェナスとは対照的に、
淡々としばしの間語られてゆく……
次回でようやく「クレマティス」の登場・・ですね。
彼のイベント?を得てようやく聖殿へv
まあ、その間の鍾乳洞の中での出来事もありますが。
・・・一話を20Kでくぎってるせいか、10話ではなく20話くらいにいくかな?
いや、普通今までが私は基本的に40K前後を一話、にしてたもので…(汗
何はともあれ、ではまた次回にてv
…次回は相変わらずいつになるか不明・・・