ACT-17 ~緑の神殿~
かなり長い間ほったらかしている自覚あり。
・・・なんか最近他の作品にばかり打ち込み気力が・・・
(メモ帳にちまちまとうちこみばかりやってる今日この頃・・)
この作品・・・ひとまずあと二話のちにようやく敵さんの本拠地です・・
な、ながかった・・・
今回もまた話が進んでません・・・
きりのいいところ(話の切り替え)まで一気に投稿してみます
ちなみにそのつづきはいまだに完全に打ち込みおわってないので
またいつになるのかふめいです・・・
WOLD GAME ~緑の神殿~
湖の表面を覆い尽くす緑の光。
その光はある一点を中心に淡くそれでいて円を描くように光を放っている。
結局のところ、厨房にこもったティンをあわててクレマティスとレニエルが追いかけて船内にとはいり、
そんな彼につづいて甲板にでていた船員達もまた船内の厨房へと出向いていった。
彼らにとっては主でもあるレニエルに問いかけてもきちんとした明確な答えはかえってこず。
かといって竜王、と自分達の中で年長者であるホセが断言した以上、クレマティスにきくわけにもいかず。
結果としてティンに直接きくという方法を彼らはとり簡単な事情を把握した。
曰く、捕らえられていた水と土の精霊王達はすでにやはり予測はしていたが解放された、ということ。
ティンが探していたという捕らわれていたものも解放され、
かの地にとらわれていたものは今現在は水晶宮にて保護されている、ということ。
彼らは落ち着き次第、それぞれ元いた場所に竜族が責任をもって送り届ける、ということ。
それらの情報を【緑の疾風】の一員であり、また森の民でもある彼らはティンから聞きだした。
レニエルやクレマティスがティンのことを様づけでよんでいるのはかなり気にはなるが。
誰ともなく本能的に聞くことははばかられ、それに関しての突っ込みは今のところは存在していない。
「さてと。ステラ」
『は、はいっ!何でしょうかっ!?あ、あの?ティンク様?ランメルとスベルグから伝言をうけて。
あの地の一部から私の加護を無くしましたけど…今回の呼び立てに何かかんけいが?』
先刻、この場にやってきていた二精霊達に対しティンはある命令…もとい、お願いごとをしている。
精神感応にて会話を交わしたので気づいていたものはいない。
ティンのつぶやきとともに、目の前の水面が一瞬もりあがり、
瞬く間に一人の女性の姿を形成する。
「あれとこれとは話しは別よ。この下にあの二人がいるでしょ?
レニエル達もつれてくから。クークのほうの守備も問題ないみたいだし」
あの地に住まう愚かなものがそのことに気づくのにそうは時間はかからないであろう。
まあ、ティンからしてみればあと二人を解放したのちに、
かの地にはそれなりの処置を施すつもりなのでさほど問題視はしていない。
かの地にすまう何もしらない人々とて、無知とは罪ということを知る必要がある。
すでにもはやかの地において正常なる生き物は存在していない。
いるのは人間などといった知能ある生物のみ。
それ以外はほとんど魔獣が闊歩する大地となりはてている。
まだどうするのかは誰にもティンは決定を話してはいないし伝えてもいない。
ちょうどいい器がいることもあるし、かの者にはそれなりに処罰を与える必要もある。
それゆえの決定。
だけどいまそれをこの場にていう必要性はさらさらない。
「「…まさか…水の精霊王スティル様?」」
誰ともなく茫然とその姿を目にしおもわずつぶやいている様がみてとれる。
それもそのはず。
普通にいきていれば精霊王などといった存在にあうことはまずありえない。
彼らがいらく森の民だとてそのような崇高なる存在に出会える確立などごくわずか。
だからこそ目の前の光景が信じられない。
否、信じることがまずできない。
しかも、目の前の少女、ティン・セレスは一言のうちに水の精霊王をこの場に召喚した。
それは常識から考えてもありえないこと。
「水の中を普通に散策していくのも考えたけど。さくっと直接乗り込んだほうがはやいしね。
というわけで、この円状の中の水を全てのけてもらえるわよね?」
水面上の光の円形の範囲はさほどひろい距離ではない。
かるく船が一隻か二隻ほどはいるかどうか、という程度。
この地にて水の力を使用したからといって地下に捕らえられている彼らに気づかれることはまずありえない。
力が動いたということは彼らなりに感じているであろうが、
彼らも彼らであるものたちを盾にとられている以上、静かに幽閉を甘んじてうけるしかなくなっている。
『了解しました』
それと同時、ざざざっ。
目の前の水面がいきおいよく渦をまき、やがてぽっかりと湖の一角から水が失せるかのごとく、
ちょっとしたぽっかりとした穴のような空間が出現する。
水を司るステラの力により湖の一部にちょっとした空間が出来上がったような形となっている。
そしてなぜか水の橋らしきものがそれと同時に形成され、
それはティンク達ののっている船から湖の底にむけて伸びているのがみてとれる。
一瞬の出来事であったがゆえに、おそらく何がおこったのか理解できたものがいるはずもなく。
この場できちんと理解しているのは、ティンとそしてクレマティス、そして現象を起こした精霊王のみ。
レニエルも何がおこったのかはよくいまいち理解しきれてはいない。
「クレマティスは彼らと今後の話しあいもあるでしょうし。
かの地にいくのは私とレニーと、あとはランメルとスベルグね。
――ふたりとも、とりあえずこっちにきなさいね」
その気になれば世界のどこにでも具現化することは可能である。
それが精霊とよばれしもの。
さらにいえばその体をいくつも具現化させることも可能である。
最も必要性がなければかれらはそのように自らの体をいくつも具現化させるなどといったことはまずしない。
『――ここに』
ティンが声をかけると同時、先刻、いきなりあらわれ、そしてまたいきなり消えた二つの人影が出現する。
どうみてもティンがあきらかに精霊王とおもわしきとてつもない存在を簡単に召喚しているようにしかみえない。
事実、あるいみその通りなのだが。
ティンが普通の人間だとしか認識していないもの達にとっては理解不能。
「…竜王様。いったいあのティン・セレスという少女は……」
「あ~。あのかたはやはり話されてないのか…我の口からは説明はできぬ。すまぬな。
それはそうと、ステラ殿。加護をなくす、という話しは我らはまだ聞かされてなかったのだが……」
ホセが恐る恐るといった風にとクレマティスにといかけてくるものの、
下手に本当のことを許可なくいうわけにはいかず、さらっと話題をかえるべく、
先ほどからきになっていたことをいまだにその場に具現化している水の精霊王にとといかける。
そんなクレマティスの質問に対し、
『はい。あの御方からはかの王国の中心部から我らの加護を引き上げるように、とのことでして。
中心地帯にはすでに普通のものは暮らしていないのでさほど問題はないかと』
自分達の加護を失った大地は時をおかずして不毛の地にと成り果てる。
死の大地となるまでそうは時間はかからない。
あの地にはすくなからずまだ生命体といったものたちが生活している。
自然の変化に気づきかの地かに脱出できればいいが、
それ以外だとそのまま大地とともに死へと道筋をたどってゆくであろう。
「じゃ、いきますか。レニー。あなたは感じるままに進んでごらん?
この地にあなたを呼ぶものがあるのはわかるわね?」
「は、はい。ですけど一体…?」
そこまでの知識はまだ思いだせていない。
レニエルの問いかけに対しただかるくほほ笑み、
「それじゃ、留守番はおねがいね。クレマティス。ステラは私たちがはいったら元通りにするように」
『はい』
長き時間、この場所の水をとどめておくことはできない。
それによって発生する歪みはかならずどこかにひずみを生みだす。
一時的なものならばまだしもそのひずみも小さくてすむ。
いまだに唖然としどう説明をもとめようか悩む人々をそのままに、
そのまま戸惑いを隠しきれないレニエルをともない、
光を帯びた水の階段にと足をかけるティン。
そんな彼女に続いてあわてるようにおいかけてゆくレニエルと、
そんな背後をふわりふわりとういてゆく人影が二つ。
しばしそんな彼らをとどめることもできず、ただ流されるままに眺める船員達。
とにかく目の前でおこなっている事実がわからない。
そもそもどうして簡単に名をつぶやいただけで精霊王などといった崇高なる存在が現れるのか。
しかもティン・セレスとなのっている少女に敬意をどうみても示しているのか。
竜王や精霊王達が説明しない以上、彼らには事実を知る術もない……
水でできているとおもわれる階段を下りてゆくことしばし。
視界にはいっていたはずの湖面の船はすでにみえなくなり、
周囲にみえるはただただ水の壁。
どれくらい歩いたかはわからない時間。
この湖の深さははてしない。
光もとどこかないほどの湖の底。
向かうはその底にあるといわれているとある建物。
かつてこの地にあった文明が祀っていたとある神殿。
この地においては災害以外ではなかった出来事においても壊れることなく、
ただ眠りについたのみで原型をたもっているのは、かの地がひとえに祝福と加護をうけていたからに他ならない。
本来ならば右も左もわからないほどの真っ暗な空間。
そのはずなのだが、共についてきている光の精霊王の力によって、
ティン達の周囲はほのかに灯りをともなっている。
円形を描く光は松明などといった代物と異なり、光が消え去ることはまずありえない。
ぼんやりとした光の先にうかんでくるのは真っ黒い物体ともいえるとある建造物。
暗闇の中にあるがために全容はわからないが、とりあえず今現在ありえる建物とは形式が異なっている。
それだけは暗き影の姿形からも理解はできる。
レニエルの光り輝く緑の光と暗やみにおける漆黒の闇。
そして光の精霊王ランメルが創りだしている光。
それらは会い混じり何ともいえない幻想的な光景をかもしだしている。
やがて水でできた階段は終わりをつげ、ゆっくりと湖底とおもわしき場所にとたどりつく。
その一角に何やら黒い建造物らしきものがあるのがみてとれる。
道はどうやらそこにむかってのびており、目的の場所もそこで間違いないらしい。
さらにいえばその中より不思議な感覚をレニエルは感じ取っている。
「さてと。じゃ、いきますか。ランメルは松明代わりね」
「……はい」
どこの世界に光の精霊王を光源かわりに使うものがいるであろう、
という突っ込みをもらすつわものはこの場にはいない。
この場にいるのは、ティンとレニエル、そして光の精霊王たるランメルと、
そして闇の精霊王たるスベルグのみ。
竜王であるクレマティスは船上にて留守番を命じられたがゆえにこの場にはいない。
しばらくおりてゆくと薄い空気の膜のようなものがあり、
そこを境にしてあきらかに空気が断然異なっているのが手にとるようにわかる。
周囲にはいたるところに石柱らしきものが存在しており、
足元もまた石が奇麗に敷き詰められているのがみてとれる。
灯りで照らしている範囲はさほど広くない。
それはあまりに全体を先に照らすと面白くない…もとい、必要最低限の距離だけでいい。
というティンの意見にともない、ランメルが光の調整をしているからに他ならない。
レニエルの体からは常に緑の光が発せられているものの、その光は周囲全体を照らすほどではない。
どちらかといえば暗闇でぼんやりと光るとある夜光虫のごとく。
何か石には様々な文様らしきものが刻まれているような気もしなくもないが、
しかし今はそれらをいちいち確認している暇はない。
そのまま石の道が続く先にあるひときわ大きな建物のうちの一つにむかい、
ティン達はそのまま足をすすめてゆく。
「この部屋は一体……」
この建物の中にこのような場所があったことに驚きを感じきれない。
建物の中を進むことしばし。
やがてたどりついたとある部屋。
どこまでもつづくような高い天上。
今までみたきた部屋や廊下などと異なり、この場所にはいっさいの装飾らしきものが存在していない。
どこまでも白一色でしかない壁にみあげるほどにどこまでもたかい天井。
自分達がこの建物の中に入ったと同時、湖の中に突如とできた穴はふさがれた。
そのせいなのかみあげた天井部分の高い部分にみえるのは、ゆらゆらとゆらめく水のゆらめき。
どうやらこの部屋の天井はそのまま本来ならば突き抜ける形になっていたらしい。
その部屋の中央部分にはふわふわと浮かぶ一つの巨大なる水晶柱。
六角錐の巨大な水晶はしずかにただその空間内にと浮かんでいる。
そしてその下にあるはこれまた一抱えくらいはあるであろう水晶珠。
白き台座の上に安置されているそれはしずかに光もたたえることなくそこにある。
この場にランメルが同行していなければ暗闇に足をとられ前にすすむこともままならなかったであろう。
それほどまでにこの場には光、というのもが一切存在していない。
もっともそれはこの場だけにとどまらず、建物全体にいえることなのであるが。
「レニエル。その水晶に手を触れて」
「水晶に、ですか?」
意味がわからないが、しかしティンのいうことに逆らうこともできず、また逆らう必要性も感じない。
いわれるままに水晶へと手をかざす。
刹那、レニエルの緑の光と水晶が共鳴するかのごとくに強く輝きだし、
次の瞬間。
その光はやがて部屋全体を覆い尽くすほどに強くなり、やがて周囲全体にとひろがってゆく。
ざざざ。
先刻まで静かに波打っていたはずの湖面が突如として激しく風もないというのに荒れ模様となりはてる。
船の周囲だけでなくどうやらざっと見た渡したかぎり、湖全体の湖面がさざなみだっているのがみてとれる。
波は収まるどころかさらに強まり、船上においては立っているのすらままらならないほど。
おそらく小さな小舟などが湖に繰り出していたならば、確実に舵を取られて転覆するかどうかはしているであろう。
ある程度の大きさをもつ彼らののっている船とてそれは例外でなく、
湖面上に浮かんでいる以上、いつ呑みこまれても不思議ではない。
それほどまでに湖面はよりつよくさざなみだってきている様が見て取れる。
「ああ。はじまったな」
その様子を一人、ほとんどのものがたっていることすらままならず、
ほとんどのものが手をついたりしてかがんでいる状態の中、
一人すくっと甲板の上にたちつつも湖面をみつつつぶやいている一人の青年。
「青竜様。いったい何がおこって……」
伊達に永くいきているわけではない。
このような揺れを経験するのは本体である樹木にて今まで嫌というほどに経験している。
ゆえに今現在まともにたっているのは、クレマティスとホセの二人のみ、
という何ともあるいみ船乗りとしての立場からしてみれば情けない状態になっていたりする。
「かつての聖殿が復活するようだ。…くるぞ」
それと同時。
ざざざっ。
より強い波の音と水音が周囲にと響き渡る。
みれば湖底より何か巨大なものが浮かび上がってきているらしく、
影がゆっくりと浮上してきているのがみてとれる。
その影はだんだんとより濃くなっていき、やがてそれらは水を押しのけゆっくりと、
湖の表面上にとうかびあがってくる。
それと同時、浮かび上がってきたもの。
それは湖のいたるところにて見受けられ、何かが浮かび上がってきたのは嫌でもわかる。
それらは石柱のようであったり建物のようであったり。
浮かび上がってきたものは様々。
湖だというのにちょっとした滝の落ちる音がただ静かに周囲にと響き渡る。
建造物が浮かび上がってくると同時に大量の水もまた持ち上げられ、
そしてそれらは建造物よりすべるように再び湖へともどってゆく。
それはちょっとした滝のごとくに音をたててそれらのものより流れ落ちているのがみてとれる。
浮かび上がってきた建造物は淡い緑色の光に包まれており、
やがて建物全体が湖面上に出現すると同時。
湖全体が強い緑色の光一色にと包まれる。
眩しいまでの光ではあるが不快に感じるような光ではない。
どこか懐かしくもかんじる光に包まれ、おもわずそれぞれが目をつぶる。
目を開くと同時、湖面上に先ほどまではなかったはずの何かの神殿らしき建造物が浮かんでいるのが目にはいる。
それこそ文字通り、突如として湖上に出現したといっても過言ではない。
しかし驚くのはそこではない。
それらの建物の全てが緑の草木に覆われている、という事実。
湖の中に忽然と出現した緑の建造物。
唖然としないほうがどうかしている。
何がおこるかわかっていたクレマティスはともかくとして、
その光景をしばし呆然としながらも眺める人々の姿。
先ほどまでさざなみだっていた湖面はいまだに波は落ち着いていないものに、
さきほどのように激しい揺れを伴うものではない。
「…クレマティス様…あれはまさか……」
「緑の神殿。かつてティンク様がこの地を消し去ったときに当時の輝ける王との話しあいの結果。
湖の底に封じられていたそのほう達、森の民にとっての聖なる神殿」
ティンがどうしてかの神殿を復活させようとしたのかまでは、クレマティスもわからない。
おそらくは、かの地より精霊の加護を消し去っていることと何か関係があるのであろうが。
しかしそれはあくまでも予測。
そもそもこの地が消滅するまでこのようなことになるなどと当時の誰もが想像できなかった。
始めは何がおこったのかは理解できなかったまでも、
やがて目の前にある緑の建造物が自分達が伝え聞く聖なる神殿であることを漠然と感じ取り、
やがてゆっくりと、それでいて確実に驚愕の声が船全体を包み込んでゆく。
「この聖殿を復活させたということは、新たな理をこの世界に設けるつもりですかね。
あの御方は……」
おもわずそうぽつりとつぶやくクレマティスの声は驚愕した人々のざわめきの声にただただかき消されてゆくのみ。
光と闇。
それは相いれないようでいて、表裏一体のもの。
二極とはよくいったものであり、その二つの属性を使用することにより、
本来ありえないはずの出来事をいともたやすく現象としてひきおこす。
光と闇の屈折率。
今現在、この湖そのものがその屈折率に覆われており、
第三者からこの湖をみてもいつもの湖面とかわりがないように視えている。
湖面上に繰り出したもののにのみ今現在、湖の上に浮かぶ神殿は視えるようになっている。
湖の中に突如として出現した緑の建造物は異様という以外の何ものでもない。
光の屈折率と闇の浸透率。
どこまでも闇が深いがゆえにこそ光もまた強くそこにある。
そしてそれは逆もまた然り。
周囲にみちる力の波動。
それまで意識を閉じてとにかくひたすらに自分達が悪用されないように、
また眷属達に被害が及ばないようにとのおもいから、小さきものに捕らわれるという選択をしていた。
それが正しいかったのかどうかはわからない。
すくなくとも世界が疲弊し、自然における力が涸渇することのないように措置はとっていた。
今までこちらの意思に任せていた他のものが干渉してくるなどありえなかった。
だというのに感じるのはより強い光と闇の気配。
ゆえにこそ意識をゆっくりと浮上させる。
ゆっくりと意識を浮上させてまず感じるのはこの地に緑の力が満ち溢れている、ということ。
それが示すことは、この神殿の中心地たる場所に【輝ける王】が出向いた、ということに他ならない。
たしか先代が眠りについて意向、卵がかえる気配はなかったときいていたのだが。
彼らが知っている情報は百年ばかり前のもの。
それ以後はその意識を眠りにつかせていた彼らは知るよしもない。
世界に意識を沿わせて状況を把握すればそれも可能であろうが。
目覚めたばかりの彼らは今現在の状況を把握するのに精いっぱい。
しかも、何やら気のせいではなくものすごく悪寒がするのはこれいかに。
「ようやく目がさめた?オンファス。バストネス?」
ぞくりとするような身ぶるいしたくなるほどの忘れようにも忘れられないとある声。
どうしてこの声が今ここできこえるのか理解できるはずもなければ、したくもない。
直接心に響いてくるのでなく、直接聞こえて(・・・・)きたような気がする。
小さな手の平にのるほどの真っ赤な色をした小さな小鳥。
そしてまた、これまた小さな子猫にしかみえない真っ白い猫とも犬ともいえない小さな動物。
幽閉されていた場所は異なれど、周囲に満ちた力に気づき、同時に表にでてきてみた。
それと同時に聞こえてきた声は絶対に忘れように忘れられるはずもない絶対的なもの。
おもわず硬直する彼らの気持ちはわからなくもないが、
しかし現実はそうはあまくない。
そもそもこの数百年、直接彼女が出向いてこなかったというのも奇跡に等しい。
ゆっくりと振り向いたその先には見慣れた一人の少女の姿が見てとれる。
服装はいつもみていたものとは異なっていれど、その気配を間違えるはずもない。
極限まで抑えられているその気配はおそらくは世界に繋がりをもつ存在でなければ絶対に気づかないであろう。
『テ…ティンク様ぁぁ!?』
思わずうわずった声をあげる彼らは傍から見れば紅き小さな小鳥と小さな子猫もどき。
そうとしかとれない彼らがじつは精霊王の二体であり、火と風の精霊王である。
そういっても真実を知らぬものからみればぜったいに信じざる事実。
真っ白いふかふかのおもわずほおずりしたくなるほどの柔らかな毛並みは、
世界の風を当人いわく表現している、とのことらしいが。
かたや小さな小鳥は炎の化身を示しているらしく、この世界のものたちには火の鳥として認識もされている。
もっともその火の鳥とよばれしものの中でも目の前にいる存在は頂点に位置する存在であり、
文字通り、火の精霊王バストネスが地上にてとることのおおい姿。
風の精霊王オンファスと火の精霊王バストネス。
彼らは常に気まぐれでその姿を地上にいきるものにとかえてよく世界を視察していた。
結果としてそれゆえにあっさりと捕らわれてしまったという事実もあるのだが。
精神世界面にのみから世界を身守るだけならばおそらくこのような結果にはならなかったであろう。
しかしこの世界に属する存在達は率先して世界にかかわるようにそのように創られている。
ゆえにこれは一概に彼らだけの責任、というわけではないことをティンは一応理解している。
しかし理解と納得は別物。
ゆえに多少怒ってしまうのは仕方がない。
「さてと。二人とも?いいわけがあるなら聞きましょうか?」
にっこり。
『んみぎゃぁぁぁぁぁっっっっっ!』
にこやかにほほ笑むティンとは対照的に、しばし何ともいえない絶叫が、
しばしその場にと響き渡ってゆく――
「しかし、ここが緑の神殿、ですか」
話しにはきいたことがあった。
しかしその神殿は失われて久しいとも聞き及んでいた。
王としての教育を受ける中で聞かされていた真実。
よもやその神殿がこのような場所にあったなどレニエルからしても驚愕を隠しきれない。
そもそもこの湖はいくども船の中ではあったものの見知った場所。
そのような間近に自分とかかわりのある聖なる場所が眠っているなどと誰が想像できようか。
水晶に触れた後、光に包まれ気づけば自らがいるのは緑の空間の中。
とても心地よい空間の中でより力が増してゆくのが手にとるように理解ができる。
天井より降り注ぐ太陽の光が自らの力をより昇華させるかのごとくに強いものへと変化させていっている。
二体の精霊王達を迎えにいってくるといって先ほどティンはこの部屋を後にしていった。
どうやら気づけば自分は水晶の上に浮かんでいた水晶の中に今現在はいるらしく、
自由に身動きが取れない状況となっている。
しかしそれは悪い意味ではなく、自分の体ごと力の構築がなされていっているのが感じられる。
今までは輝ける王の卵、すなわち後継者としてでしかかなったその精神体的な構造。
そして器となっている体の構造。
それらすべてが【王】としてのそれに変化していっているのが理解できる。
この地は森の民にとっても聖なる地としてあがめられていた地。
それは言葉通り、聖なる王、すなわち彼らの王が王としての体を得るためにと滞在していた地。
中央に設けられている水晶は世界全ての力を一点に集め、
鍵となるのは【輝ける王】がもつ純粋たる力。
王以外のものではその力は解放されることはなく、
この地が封印されてからのち、この地を訪れた【王】はレニエルが始め。
湖底に沈んでいたとはいえ力の蓄積はゆっくりとではあるがたまっていっていた。
この部屋にはいれるのもまた、王に連なる存在以外は侵入することすら不可能となっている。
しばらくここちよい流れの中に身をまかしていたそんな中。
何ともいえない絶叫ともとらえられる悲鳴らしき声らしき声が聞こえてくる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・聞かなかったことにしよう。そうしよう」
それが何を意味しているのか、嫌が応にも理解してしまう。
ゆえに何も聞かなかった、聞こえなかったことにしてあえて無視をすることにきめる。
下手にかかわりをもち自分のほうにまでとばっちりがまわってきてはたまったものではない。
歴代の【王】としての記憶の中にとばっちりをうけて理不尽な目にあったことが幾度もある。
ゆえにレニエルのその決定は誰にも責められるものではない。
王の目覚めとともに永きにわたり眠りについていた聖なる神殿もまた復活する。
それはこの世界にどのような変化をもたらすのか、今はまだ答えられるものはひとりもいない――
次回でようやく精霊神の登場・・・