ACT-13 ~水と土の精霊王~
ようやく精霊王さん達(二名のみ)の登場ですv
精霊王だ、というのに影が薄いのはお約束。
今回はあまり話が進んでいない自覚あり。
とりあえずは精霊王(水と土)の精霊王の解放、です。あしからず・・
※今回は27kbです
コラム宮。
正確にいうならば、ここはコランダム宮殿、という名称で創られた。
以前、省略して呼んだことからどうもコラム、という名で定着してしまったらしきこの宮殿。
もっとも、それにより精霊神の名までその名で定着してしまったようではあるが。
まあそれは他の精霊王達もなぜか真名と異なる名が普及していることからさして問題ではない。
この宮殿の特徴は全て名が指し示す通り、とある鉱石により出来ており、
その結晶の中に含まれている不純物の性質と特性により様々な色へと変化する。
つまり、同じ鉱物であっても混じっている不純物の率によっては様々な色合いにと変化する。
この宮殿は基本的に真っ白な宮殿と傍からみれば映り込むが、時と場合によっては、
光の加減によってはこの宮殿そのものの色合いもその場に応じて変化する。
ゆえに、この宮殿は『神々の楽園』とも呼ばれていた。
しかし今はその面影はなく、おそらくその呼び名を知っているのもはごくわずかであり、
神話、もしくは伝承の中でのみ語り継がれている。
当然のことながら、普通の存在達が傷をつけられるような物質ではなく、
この宮殿を構成している物質を傷つけられる存在はごくごく限られた力ある存在達のみ。
いくらマガイモノの力を得ていようともどうやら内部構造にまでは手をつけられなかったらしい。
見て取れるのは後からつけた様々な器具や装飾品、といった品々。
もっとも、装飾品という類の代物はほんとうにごくわずかしか存在せず、
ほとんどが何らかの実験につかうのであろう、特殊な術を施している巨大な【筒水晶】や、
…どうやら水晶に特殊な術形式を伴う陣を書き込み、ちょっとした水槽替わりにしているものらしい。
それらがいくつも並べられている部屋を抜けた先にあるものは、
これまたずらり、と床に並べられている土属性をもつ精霊石。
その上に敷かれている布のようなものは、精霊石の力によって無人ながら勝手にとある方向へと進んでいる。
「…ベルトコンベアーもどき?」
おそらくそれをみてぼつり、とつぶやくティンはおそらく間違ってはいないであろう。
まあここまでこういった知識を考えだした存在にあるいみ尊敬せざるを得ないが。
少なくとも、今のこの世界でそこまでの考えを持ちえる、ということはあるいみすごい。
…もっとも、その知能を別のところにむけれてくれるのであればティンとはして申し分なかったのだが。
水晶でできているであろう水槽の中には幾多もの生物が入れられており、
液体の中につけられているそれらはどうやら生きてはいるらしく、息をしている泡のみが生存を物語っている。
皮のあるいみ動く床といって過言でないその【道】はその先にある地下への穴へ続いており、
そこに乗せられているのは完全に枯れ果てた、としかいいようのない様々な姿形をしている存在達。
強いていえば全ての力を吸い取られ、本当の意味で【干からびた】といっても過言のないものたち。
すでにそこに命は存在しておらず、ただただ精気を失った器の核となった部分がのこるのみ。
ざっと確認した限り、この地下においてはこれらの器の核の残骸といっても過言でないモノに、
人工的な処置を施し、自分達の兵士…すなわち傀儡へと合成していっている。
いわゆる合成獣ともいうべき生命体へ。
「前もそうだったけど、今度もなんでまた生命を冒涜するに至るかなぁ……」
彼らの考え的には、自分達こそ、すなわち人類こそ神に選ばれた聖なる種族。
ゆえに他種族は自分達より下であり、ゆえに自分達がどのようにしてもそれは神の意思に他ならない。
という何とも傲慢な考え。
だからこそ頭が痛くなる。
そもそも、どうすればそのような間違った方向にすすむのやら。
自分ははっきりいってそのような方向性に進むように、とは設定もしていなければ、
またそのような方向性に向かう、とも思ったこともない。
…まあ、すこしばかり多少、そういう輩がでる可能性を考えなかったわけではない。
…もしかしたらこのあたりの結果はそのときにふとよぎった思いが影響しているのかもしれない。
そんなことを思いつつ、
「…本格的に、精霊達の声を聞こえる巫女とか、設定したほうがいいかな?」
偽りの神託をうけたといって困ったことにならないように、
神託というか精霊の声をきいた存在には何らかの特徴が体にでるように仕向けるとして。
そうすればすくなくとも語り巫女などといった存在はでてこないであろう。
それをするならば、この世界にない文字、もしくは絵で印をうかばせる必要性がある。
「…まあ、そのあたりもとりあえず彼らを救いだしてから…かな?」
独断専行で行ってもいいが、やはり一応彼らにも釘を差しておく必要はある。
そもそも、時間率をかなり変えている以上、いつも自分が目を届かせられるか。
といえば答えは否。
あくまでもできうればそこにいる存在達で随時対応してほしいのが本音。
そうでなければ体がもたない。
そんなことをおもいつつも歩みを進めることしばし。
やがて視界にみえてくるのはちょっとした大きめの扉。
ぎぃぃっ……
「「何ものだ!?」」
何ものも何も。
目の前にある扉を大きく開け広げると予測通りというか何というべきか。
そこにいる数名の人影。
彼らは自分達の行っていることに対して微塵も疑問を抱いておらず、
むしろ自分達のために他者が命を捨てるのは当たり前。
とおもっている考えが自然と流れ込んでくる。
いくら感覚を完全に【検索】にしているとはいえ、こうも簡単に他者の考えすら流れ込んでくるのは、
それは相手の考えがあからさまに偏っているということに他ならない。
「何ものって。とりあえずあなた達にとっては【断罪者】といったほうがいいかしら?」
彼らに同情する余地はさらさらない。
そもそも自分達がおこなっていることが世界にどのような影響を及ぼしているのか。
そんな簡単なことすら考えない輩にわざわざ説明するつもりもない。
「くっ!人形達は何をしていた!?」
相手側…すなわち、部屋にいた研究者や術師達からしてみれば、いきなりの侵入者。
ここにいたるまでかなりの人形を使いこの場の守りは固めていたはず。
にもかかわらず、あっさりと見知らぬ誰かがこの場に侵入してきているのはこれいかに。
上層部から誰かがここにやってくる、という連絡はうけていない。
突発的に研究過程と実験成果を見極めるために遣わされた派遣員でもなさそうである。
一応、彼らは上層部にあたる者達とは一応面識をもっている。
そうでなければこのような神殿の奥深く、いってみれば関係者以外断ち切り禁止。
としている場所にいられるはずもない。
扉からはいってきたのはどうみても見た目十代そこそこの少女。
漆黒の長い髪をミツアミにし首のあたりから前に少しばかり下げている視たことのない少女。
服装からして旅人何か、なのであろうが。
そもそも普通の旅人がこんな神殿の奥深くにまで入り込めるはずがない。
だとすれば考えられるのはどこかの国の間者、もしくは王国諜報部の関係者。
ここまでこれた、ということはそれなりの実力をもっている魔道士、もしくは魔術師と考えたほうが妥当であろう。
すばやく対抗するために、それぞれが武器にはめ込んでいる精霊石にと力を通し、
不意打ち的にその力を解放しようとしているものの、
「とりあえず。あなた達は反省部屋行き。【聖雷の矢】。【Select3(セレクトスリー)】」
ざっとその場にいる人影…部屋の中にいたのは十名ほどの黒きフードを纏った人間達。
中には女性もいるようだが、そんなことは関係ない。
そもそもここにいる、ということはこの計画に異議を唱えずに逆に賛同している、ということなのだから。
ゆえに問答無用でとある言葉を紡ぎだすティン。
その場にいる術者達もまた何がおこったのか理解できないであろう。
刹那。
『う…うわぁぁっっっっっっ!?』
突如として彼らの体のみを青白い炎が埋め尽くす。
先ほどまでティンが操っていた炎とはまた異なり、このたびの炎はきちんと熱さも感じれば痛みも感じる。
ちなみに当然普通の炎ではないので水などをつかっても当然消えることはない。
「あなた達はこれまでにも、他の生き物に同じようなことをしていたのでしょう?
なら自分達がそのようなことをされてどう思うか。考えたこともなかったでしょうしね。
しばらく同じ痛みを感じつつ、自分達が今までおこなっていた行動を顧みなさいな」
いきなりのことでその場にいた人間達は何がおこったのか理解できないであろう。
しかし、真実は一つ。
突如として自分達の体が炎につつまれ、そしてその炎は間違いなく自らの体を焼き尽くし始めている。
それが肉体だけの痛みでなく精神的にも痛みを感じるのは彼らの気のせいか。
しかし彼らは気づかない。
それが気のせいではなく、魂そのものすらをも焼き尽くしている、というその事実に。
もっとも、この状態で気づけたとすればそれはそれですごいものがあるであろう。
周囲に響き渡るのは何ともいえない悲鳴と叫び。
しかしそんな彼らの悲鳴をことごとくさくっと無視するティン。
そもそも、彼らとて今まで捉えた生命体が命乞いや悲鳴をあげても容赦なく実験を繰り返していた。
それを知っているからこそティンは彼らに容赦するつもりはさらさらない。
自分がやられて嫌なことは他者にもやってはいけない。
それはあるいみ常識中の常識。
その常識がこの【セレスタド王国】の中では完全に抜け落ちてしまっている。
絶対的な宗教、という盾をふりかざし、他の意見をことごとく無視して進んでいった結果ともいえる。
そのような王国の中で生まれ育った民もまた哀れ、としかいいようがない。
そもそも始めから謝った概念を物心つくころから叩き込まれ、
ゆえに自分達以外は全て劣っているのでどう扱ってもかまわない。
という認識のもと成長を余儀なくされていたりする。
周囲が周囲であるがゆえに、真実をしっても当然その真実に目を向けようとはしない。
…中にはおかしい、と感じ抗議するような輩がいれば、そんな輩はすぐさま捉えられ、
神への供物、という名目のもと実験体へとまわされる。
この国の中での実験は神へ対しての供物、という認識であり、
ゆえにどのような残虐非道なことが行われているかなど、はっきりいって国民の間には知られていない。
むしろ、神への供物になるのだから愚かなる身であっても誇るがよい、という何とも傲慢な考え。
それがこの王国の今現在の特徴であり、現実。
いまだに何やら響き渡る阿鼻叫喚、といってもいい嗚咽と悲鳴をさくっと無視し、
そのまますたすたとその場の床にと描かれている特殊な模様にと手をつける。
この床にかかれているのは逆五紡星を中心としたいくつかの拠点を示す陣と、
そしてそれらを構成しうる特殊な陣。
陣、とは精霊の元となっている各種ともいえる核、すなわち原子核を示しており、
遠目からみればただの模様でしかないが、
よくよく細かくみれば細かな数値というか記号がびっちりと書き込まれているのがみてとれる。
この【陣】に【力】を加えることにより、実際にその効力は具現化するにいたる。
精霊王といった柱であるものに伝えていた知識であり技術であったのだが、
とある精霊王が人にこの技術を伝えてしまったことから多少この世界は狂い始めている。
もっとも、きちんとこの知識を有効利用している種族がいないこともない。
しかし、あからさまに人、という種族はその行為がいきすぎた。
過去も、そして今もまた…人は幾度もおなじ過ちを繰り返す。
過去から学ぶ姿勢がなければいくら年月がたとうが同じこと。
いずれはその自分達の考えにより自らが滅ぶなどまったく思っていないのであろう。
精霊王達の力もまた自分達よりも格下、と位置付けている人間には何をいっても無駄。
彼らがその気になればこんな小さな国といわず人間という種族のみを奇麗に滅ぼすこともいともたやすい。
その事実にこの王国のものたちは気づいていない。
もっとも、大人しく捉えられてしまった精霊王達にもその勘違いの一端を推し進めてしまった。
という概念はある。
だからこそ、ティンからしてみれば彼らにきちんと始末をつけさせたいのが本音。
自然の力の前にはどんな種族もまた無力に等しい。
そんな自然の力の具現化ともいえる存在を生み出すことによりその被害を最小限に押しとどめよう。
その思いゆえに精霊王達、といった存在は誕生している。
ティンが床にそっと手をおいたその刹那。
床にかかれている文字の羅列がほのかに輝きを増し、
次の瞬間。
パキイィッンッ!
済んだ音ともに何かが壊れる音が部屋全体にと鳴り響く。
この部屋は装飾もほとんどなく、天上は見上げるほどにどこまでも高い。
建物の中心でもあるこの奥の間はちょうど建物の天井部分の真下にあたり、
ゆえに天上もまた床から吹き抜け具合に吹き抜けている。
ここで発生した【力】はこの【地の場】を構成している逆五紡星による結界の中心となっている。
今、ティンが行ったこと。
すなわちそれはこの地の場こと迷いの森に展開されていた結界を無にしたに過ぎない。
それにより今まで妨げられていた【地】の力が今まで涸渇していた大地に注ぎ込まれる。
そしてそれは地の力だけでなく【空】の力もまた同様。
例をあげるならば、乾ききった大地に突如として大雨が降り注ぐがごとく。
それでも精霊王が実際に手だし出来ない今、小精霊達の力でのみの影響となるがゆえに、
急激な変化はさほど見受けられない。
しかし、それはこの場にいるティンにのみわかる事実であり、
いまだに炎につつまれ、床に転げまわっている輩達が知るよしもない。
周囲に満ちるのは、先ほど崩壊した陣の欠片。
それらはきらきらと輝きを増し、やがてそのまま天上にとのぼってゆき、
そのまま建物の外にでると同時、周囲へと溶け消えるようにとけきえる。
もしもこの場に第三者がいるならば、それはまるで光の洪水。
そう表現していたであろう。
光の粒子が細かく舞いあがり、空に舞い上がる様はあるいみ神秘的といえば神秘的といえる光景。
しかしティンからしてみればこのような光景ははっきりいって珍しくも何ともない。
そもそも、【視える】ように可視化したのはほかならぬティン自身。
以前にもこのように実際に目の当たりにしたことがあるゆえにまったく動じることもなく、
「さて。と、クーク達は…奥の部屋というか、この地下、か」
感じる気配はこの真下から。
ゆえに。
「構造改築」
この床を構築している物質、コランダムの分子配列を少しばかり変更し、
床であったそれらの物質を地下へと続く階段にと構造を変化させる。
ぽうっとティンがつぶやくと同時、ティンの手にはめられているブレスレットがほのかな輝きを伴い、
その輝きはそのまま床にと吸い込まれてゆき、やがて光が触れた場所にぽっかりとした穴があき、
光はきらきらと輝きを伴いながらも、その穴の地下へ、地下へと進んでゆく。
やがて光が穏やかに収まった後にみえてくるのは、さきほどまではなかった光景。
先ほどまでこの場には魔方陣といっても過言でない何かの陣らしきものが描かれていた。
しかし、それらの中心にあたる場が今現在ぽっかりと穴があいており、
その穴より地下へと続くであろう階段らしきものが見て取れる。
よもや今この場でティンがこのように構造を改造したのだ、と一体だれが予測できようか。
もっとも、ティン以外にいるこの場の存在達はいまだに自らの肉体を炎に包まれ、
その事実に気づくこともなく身悶えている。
ゆえに自分達のいる部屋の中ではっきりいってありえないことが起こっているなど夢にもおもわない。
むしろそこまで気をむける余裕すら彼らには残っていない。
人間、誰しも我が身のみがかわいいもの。
ましてやそれが逃れられない痛みと絶望を伴えば……
まだ気が狂わないだけあるいみマシなのであろうが、おそらくそれも時間の問題…なのであろう……
しかし、彼らは知らない。
このような状況に陥っているのは自分達だけではない、ということを。
先ほどティンが紡いだ言葉は、この神殿全体に効果を及ぼしており、
この場において実験に携わっていた全ての存在達をことごとく炎にて包んでいる、ということを……
コッコッ……
耳触りともいえる悲鳴をも物質に吸収するように先ほど少しばかりいじっておいた。
陣を破壊し、陣を構成していた様々な物質を世界に解き放ったときに、
外部より物質そのものに別の特性を付け加えた。
本来ならば、熱や音などを吸収する力は、コランダム、という物質そのものには存在しない。
しかしそれらを付属することにより、多少この神殿はあるいみ過ごしやすくはなる。
ティンからしてみれば耳触りな悲鳴などが壁や床に吸収されることにより静かになる、という思惑が強いのだが。
建物自体を構成している物質そのものが音などをも吸収しはじめたがゆえに、
階段をゆっくりおりてゆくティンの耳には耳触りな叫び声は聞こえない。
足音もまた、小さく響いたのちに、
まるで吸い込まれるかのごとくにそのまま足元の階段の内部へと吸い込まれてゆく。
まっすぐに階段を創りだしたのでは目的の場所から遠くなる。
ゆえにらせん状にして地下へと続くようにとしむけている。
そのままらせん状ともいえる階段の中心をゆっくりと舞いおりてもいいのだが、ここはやはり気分の問題。
それに何よりも目的の場所はさほど深い位置に存在していない。
さすがに百メートル以上も地下に潜るようになるのならば、
あえてティンも歩きではなく浮遊してゆくことを選んだであろう。
ゆっくりとしかし確実に足を踏みしめつつ、地下にむかうことしばし。
本来ならば真っ暗であるはずの空間は、ティンが施したほのかな明かりによってほどよい明るさを保っている。
やがてぼんやりと視界の端にみえてくるのはほのかに鈍く輝くとある物体。
それらが巨大な水晶の柱である、と理解するのにそう時間はかからない。
巨大な水晶の柱は二本あり、それらは左右対称にそれぞれ位置づいており、
その中心にはおそらく地上、すなわち神殿の床にある陣と直結していたのであろう。
しかしその陣もさきほどのティンの構成解除によってすでに効果を奪われ、
そこにはただかつて陣があった、という痕跡しかのこってはいない。
水晶の中にたゆたうように存在しているのは二つの物体。
正確にいうならば、片方は人の姿でありながらも人にはあらざる姿、というべか。
対するもう一つの姿はといえばなぜか気にいっているらしい、
長くうねうねとしたその体をぐるりとどぐろを巻いたような格好となり目をつむっているのが見て取れる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
思わずそんな二人の姿をみてコメカミに手をあてるティンを一体誰が責められるであろう。
彼らが【何】であるか知っていればすくなくとも、ティンの動作もすぐに理解できる。
そもそも、陣の構成をも解除して、さらにはこの場にみちている逆結界も解除した。
というのに。
なのに…なのに、である。
「何あなた達はいつまでねてるのよっっっっっっっ!ステラ!クーク!!!!!!」
その場に何ともいえない強き口調のティンの声が響き渡ってゆく……
何が……
唖然、とするしかない、というのが本音。
捕らわれている仲間、そして他の存在達を救うべく実験室と思わし場所にとび込んだ。
案の定というかすぐさまに追われ、それでも負けるわけにはいかず、
どうにかぎりぎり応戦していた。
先刻目覚めた王の力を利用しようにも、ここには本来あるべきはずの聖なる力が存在しない。
あるのは全て歪んだ力のみ。
緑の一つでもあればレニエルの力によってどうとでもなったのだが。
追い詰められ、自分もまた戦う覚悟を決めるしかない。
そうおもったその矢先。
突如として目の前の追い詰めていた存在達全てが炎に包まれた。
それも前振りもなく突然に。
聞こえたのは、ティンの声。
【聖雷の矢】。【Select3(セレクトスリー)】
どこからともなく響いてきたティンの声とともに、突如として炎に包まれる数多の存在達。
それは人を問わず自分達にむかってきていた全ての種族に対し牙をむいているらしい。
「……さすがというより他にないですけど……」
思わずその圧倒的な力の一部をまのあたりにし、ぽつり、とつぶやくレニエルの姿。
「え?え?な、何?!何が……」
「ティンさんが聖なる炎を操ったようですね。今のうちに皆を解放しましょう。フェナス」
「……あのティンさんって一体……」
どうやら先刻、聖なる炎を操ったのはまぐれ、というわけではないらしい。
しかも離れているにもかかわらず、聖なる炎を操れる、というのは一体全体どういうことなのか。
しかも、今聞こえた声はあきらかにティンのもの。
この場にいないにもかかわらず、すぐ近くにいるかのように声は確かに感じ取れた。
まるで…まるで、そう。
常にティンが傍にいてその言葉を紡いだかのごとくに。
「今はとにかく。捕らわれの人々をたすけだすのが先ですよ。フェナス」
「わ、わかってます!」
この炎の効果もいつまでもつかわからない。
ゆえに内心戸惑いつつも、なぜレニエルが冷静なのがどこかで不思議におもいつつも、
今はともあれ捕らわれの存在達を解放すべく、フェナスもまた行動を開始してゆく――
「「んきゃぁぁっっっっ!」」
突如として魂そのものに響くような、忘れようにも絶対に忘れようがない【声】。
意識をどうにか世界にむけていたのだがその意識が強制的に表にと覚醒せざるを得ない。
ゆっくりと本体として創っていた器に意識をもどし、目をひらいたその先に視えたのは…
「「……え゛」」
まさに絶句、というより他にない。
汗をかく、という動作は彼らには当てはまらない。
しかし、まさにこれは冷や汗を流す、といっても過言でない状況といえる。
水晶の中にたゆたっている自分達の目の前…正確にいうならば眼下にみえる一つの人影。
服装は上下にとわかれており、その腰にくくりつけられている袋のようなもの。
ベルトのようなものにくくりつけられているのは袋だけでなく小さな剣らしきものも垣間見える。
くるぶし辺りまであるズボンは淡い黒色をしており、袋と同じような小さな刺繍のようなものが刻まれているのがみてとれる。
羽織っている上着は淡き紫いろ。
そもそも、この世界にこのような色合いをだせる存在など滅多といない。
というか精霊の加護をもってしてでなければこの色合いは絶対にだせない色合い。
漆黒の長き黒髪を三つ編みにしその髪を手前にさげている見た目十四かそこらの少女。
耳元には小さな金色の飾りのようなものがはめ込まれており、それにはかなりの力が込められているのは一目瞭然。
両手は胸の前にて組まれており、おもいっきり見た目不機嫌な様子がみてとれる。
組まれている左手の中指にみてとれるは淡き光を放つ銀色の指輪。
そして何よりも組まれている左手の手首につけられている色とりどりのブレスレットらしきもの。
その色とりどりの石らしきものが石ではなく【力】を凝縮している代物だ、と理解するのにそう時間はかからない。
そもそも、そのような代物をもっている存在など…普通はありえない。
そう、普通ならば。
「「テ…ティンク様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」
その姿を目の当たりにし、水晶の中にたゆたったままである、というのに驚愕の声を紡ぎ出す。
ダラダラと汗をかく、というのはこういうことをいうんだろうな。
そんなことを心の隅で思いつつも、それでも必死にどうにか理性を保とうとするのはそれが彼らが役目をもつ存在であるがゆえ。
「さて。と、クーク?テスラ?言い訳があればきくけど?
というかいつまでそんな無意味な檻の中にはいってるわけ?あんたたち?」
そう紡ぎだすティンの声はおもいっきり低く、それでいて有無を言わせない。
怖い。
というか怖すぎる。
自分達からしてみれば彼らの自滅をまっていてもいいかもしれない。
そう結論づけていたのだが…どうやら【創造主】はそうは思ってはくれなかったらしい。
…まあ世界が疲弊しはじめていたのは自覚していた。
いたが…よもや実際に出向いてこられるとは。
はっきりいって予測していなかった。
世界を任されているものならそれくらい予測してもいいだろうが、少なくとも彼らはその予測がたてれらなかった。
あるいみ平和ボケしていた、といってもおそらく過言でないであろう。
いわれてはっと我にと戻り、あわてて自分の器を捉えていた檻である水晶からするっと抜け出す二つの影。
一人はその姿は人とさほど変わりがないものの、その手足から伸びるはどうみても人のそれではなく。
その手より伸びているのはどうみても蔦、としかいいようがない代物。
それらは体全体を覆っており、あるいみ蔦の服装のような代物のような形を醸し出している。
対するもう一人は姿形をいうならば、巨大な蛇、としかいいようがない。
ちなみに全身の色は真っ白であり、その瞳の色は真紅に色とられている。
「な…なななんで、あなたさまがこんなところに……」
「……もしかして、おこっていらっしゃいま…す?」
それぞれが紡ぎだす声はおもいっきりかすれているといっても過言でない。
「当たり前でしょぅがっ!!!!!何ただ人質とられただけであっさりと幽閉されてるのよ!
あなた達にはこの世界というか惑星をよく導く役目を担わせてるでしょうっ!
そのためにあなた達はあるということを忘れたわけではないでしょう!?
それとも、何?自身の在り方に疑問があるなら別なものにその役目をすり替えるけど?」
面倒だがもし彼らがその気ならばそのほうが手っとり早い。
「何のためにこの地を任せるにあたり、別の場所で研修させたのかしらねぇ~……」
そうつぶやくティンの言葉は今までレニエル達に対して紡いでいた雰囲気とは全くことなる。
聞いているものが聞けば完全にこの場にて硬直するか、もしくは畏怖し固まってしまうような代物。
それほどまでの力が声には含まれている。
そもそも、研修云々、という言葉の意味を理解できるのはおそらくこの場にいる精霊王のみ。
「まあ、力を利用されないように、力のみを別の場所に移したことだけは認めるけど?」
目の前の彼らはあくまで器であり、その力は別の場所に保管されている。
それはいくら何でも人にあまりある精霊王の力を扱わすわけにはいかない、という思いから
精霊王達が自らの力を結晶化し、別の場所へ保管しているに他ならない。
その点のみはティンとて認めてはいる。
いるが黙って静かに幽閉されていたことを思えばそれとこれとは話しは別。
「ステラとクークだけでなく、オンファスとバストネスも捕らえられてるみたいだけど。
あちらはどうもアダバル湖の底に封じられてるみたいだけど。申し開きがある?」
そのために、その力の余波でここしばらく、かの湖においては巨大生物が大量発生している。
強き力が一か所に永くとどまることによりおこりうる一つの副作用。
「「・・・・・・・・・ありません・・・・・・・・」」
ティンにそういわれればというか彼らからしてみても申し開きができない。
そもそも、たしかに強き行動にでなかったがゆえに今のような結果となっている。
たしか以前も強くでなかったがゆえに目の前の御方に出向いてもらったような記憶がある。
だからこそ恐縮せざるを得ない。
「まずは、あなた達が力を預けている、土竜将、水竜将から力を戻してもらってきなさい。
話しはそれから。あとクレマティスにもあとで合流するように伝えるように」
ざっと確認しただけで、誰に力を預けているのかは一目瞭然。
ゆえに、力を預けている聖竜の武将である存在に力を返してもらうように、と提言する。
もっとも、提言、というよりはあるいみ命令といっても過言でない。
そんなティンの目の前にはただただ恐縮しまくっている【精霊王】である二人の姿。
しかし、いくら精霊王とて目の前のティンに逆らえるはずもない。
そもそも、彼らにとって目の前のティンは母であり、ゆえに逆らえるはずもなく。
彼女が出向いてきたこと自体が彼らにとって畏縮する他どうにもならない。
「さて。とりあえずここであなた達の解放は果たせたから。
とりあえず周囲に力を解放しますか」
精霊王達が捕えられている状態での力の解放はあまり好ましくない。
第三者がそれらの力を扱える、と他者に知られるのはティンからしても好ましくなければ、
逆をいえば自らが降り立ってきていることを知られるわけにはいかない。
そうなればそれでなくても間違った考えを抱いている【帝国】の【宗教】により強い力を与えかねない。
それこそ、神の意思のもとにといって世界侵略を初めても不思議ではない。
今は水面下でそのようなことを行っているようだが、もしも存在ががわかれば表だって行動に移す。
それだけは断言できる。
しかし、精霊王が解放され、それらの力のみを解放すれば誰の目にも精霊王達が力を行使した、とうつる。
それこそがティンの目論み。
とはいえ、この地に住まう人間達を許す、というのか、といえば答えは否。
そもそも自分達が正しい、と他者の視点から視れなくなっている存在達に何をいっても無駄。
というのはティンとてよく判っている。
自分達のみが最強なのだ、と思いあがっている…またそのように教育をうけている国民達。
彼らにはきついお灸が何よりも必要となるであろう。
この宮殿の中にいた人々のように炎に包んで痛みと苦しみを与えることも可能なれど、
しかし日々の生活の中で人間はどれほど自然の恵みに支えられて生きているのか。
それをまず知ることから始めなければ先へと進めない。
「構造反転」
目の前にいる二人の精霊王達に指示を出し、すっと片手を空にと向ける。
刹那。
精霊王達を捕らえていた水晶が瞬く間に光の粒子と化し、
それらは一気に空に昇ったかとおもうと、その光の粒子はエレスタド王国全体に降り注ぐ。
水晶を媒体にしたティンの属性変化。
それは人間にしか作用を及ぼさないあるいみでは無害ともいえる術。
しかし別の意味からしてみればこれほど恐ろしい術はない。
今、ティンが放ったのは、本来人が持ちえているはずの属性の変化。
すなわち…人は生きてゆくためには必ず水を摂取しなければならない。
だがしかし、水を摂取すればそれらは人体に害となりえる属性の変化が施されている。
そしてまた、大地よりはぐくまれる草木などといった野菜や果物といった代物も然り。
口にするだけでそれらは猛毒となり、その命を蝕む結果となる。
今まで人間が当たり前に摂取していた品々。
それら全てが人類に対して牙をむく、といっても過言でないこの術。
この地における民は自らの生命を維持している食べものが大地の恵みからできており、
また命をつなぐ水も自然の恵みのたまものである、というのを完全に失念している。
全ては自分達の力のみで成しえている功績だ、と信じてやまない。
真っ先に被害を受けるのは力のない弱者であろうが、しかしそこに一応救いの道は見いだしている。
【自然の声】を聞けたものはこの地より別の地へ移動させる術も一応混ぜている。
別の地、というのは当然ながら無人の島であり、そこに移動した人々は自給自足を強いられる。
しかし、この地、すなわちエレスタド王国内にいる限り、
自然の容赦ない仕打ちはこの地に住まう人々に襲いかかる。
ちなみにこの術はこの地に住まう普通の動植物にはまったくもって影響しない。
あくまでも影響するのは邪ともいえる考えに陥っている人類、という種族のみ。
この地の人類が滅びるのが先か、それとも彼らが自分達の今までの行動を顧みて反省するのが先か。
それはおそらく時間との勝負、であろう。
少なくとも、この術は身分問わず全ての人類に平等に降りかかるように仕向けている。
すなわち、いくら頑丈な建物の中にいても、当然影響は免れない。
ノドがかわいたとして水をのめば逆にそれは激痛となり体をむしばむ結果となる。
お腹がすいて何かを口にしたとしてもそれは同じこと。
このたび行ったのはあくまでも土属性と水属性のみの反動であり、
ゆえに、いまだ水と風に対しての反動ともいえるお灸は化していない。
つまるところ彼らが心より反省しなければ彼らの命はあるいみ風前のともしび、といっても過言でない。
もっとも、自らの過ちに気づくことなく滅びをむかえるのならばそれはそれで仕方がないが。
そうなった場合、それらの魂はそれなりの対処を施す必要があり、
ゆえにそういった輩の魂は記憶を持たせたままとある場所にと転生させるように仕向けている。
自らが捕食者の立場になり判ることもある。
完全に反省しない限り、その輪廻の輪から逃れることはまずできない。
それがこの世界の理の一つ。
しかしその現実を知っているものはそれを口にすることを許されていない。
すくなくとも、自らの意思で自らの過ちを正す心を持たなければ意味がない。
それゆえの制約。
ティンが今紡ぎ出した言葉の意味を察し、その場にて固まるしかない二人の精霊王達。
水の精霊王ステラは巨大な白蛇の姿を模しており、
また土の精霊王クークは人型なれどその容姿はどこか木々を彷彿させる姿を模している。
その気になれば彼らには元となる形、というものは存在しないがゆえにどのような形を成すことも可能。
いまだ固まるそんな二人に視線を移し、
「とりあえず、ここからでるわよ?二人とも」
「「は、はいっっ!」」
姿勢を新たに正し、ティンの言葉にすぐさま反応しているクークとテスラ。
精霊王に対して絶対的な信頼と尊敬をむけている存在がみるならば、
あるいみ異様ともいえる光景がそこにある。
しかし、まがりなりにも精霊王とティンとではその存在意義そのものからして異なっている。
そもそも、ティンが存在しなければ、精霊王達もまた存在しうることはなかった。
しかしそのことに対して突っ込む第三者はこの場には…いない……
次回にてティンとフェナス達、さらにはクレマティス&精霊王の合流です。
・・・あとの解放すべきは、火と風の精霊王。
フェナスにはしばらくティンの非常識?に付き合ってもらう予定です・・