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ACT-11 ~青き炎と輝ける王~

さてさて、こちらもまた時間があいてすいません。

というかまたまた物語、すすんでない自覚あり・・・

このたびもまたメモ帳において約30Kbとなっております。

とりあえず、今回は「輝ける王」の主たる説明…のようなものにあたります・・




「……何?ここ……」


こんな場所は知らない。

全ての命の息吹が感じられない。

このような場所があるなど、信じられない。

否、命はたしかにあるのであろう。

しかし、その全てが細い。

か細く、それでいてかろうじて生命を保っている、そんな感覚。

小さな悲鳴が心に響く。

助けて、助けて。

誰か…タスケテ。

誰にともなく願われているその声はすでにもう意識すらないのかカタコトにただそれだけを紡ぎだす。


「レニエル。大丈夫ですか?」


森にはいってすぐに思わずその異質ともいえる空間に圧倒され、

その場にて硬直するレニエルに対し心配して声をかけているフェナス。

ここは、死の匂いに満ちている。

自分でもかなりくるのに、純粋なる力といっても過言でないレニエルはさらにきついであろう。

ゆえにいつもの愛称ではなく、正式な【名】にてレニエルにといかけているフェナス。

踏みしめる土にも精気がまったく感じられない。

まるで何かに押し殺されているかのごとくに。


「あ~。これはクークの力を逆流させて土という土から精気全てを奪い取ってるわ。

  ステラの力も逆流させてるから水分もまったくこのあたりからは感じられないし」


伊達に土の精霊王と水の精霊王をこの場の結界にて捉えている、というわけではなさそうである。

水分とそして精気の全てを奪われたこの地における植物等全て。

それらは全て瘴気に蝕まれ、【帝国】による実験区域の一角として利用されているらしい。


まったく、いつの場所、いつの時代においても【人】はどうして自らの首をしめることを発明するのか。

意図的に【そう】したわけでもないのに、不思議と知能をもった種族はほとんどが同じ道をたどる。

もっとも、理論上のみでそれをおこなった場合、

何がおこるかを予測し、行動に移さないものも多々といる。

だがしかし、

よくに目がくらんだ存在は必ず後には自らの破滅すら誘いかねない【技術】を扱おうとする。

そう、今この地における【エレスタド王国】のように。

全てが正常の状態とは逆の状態となりはてているこの場所。

つまりは普段は浄化されるべき力もこの場には逆にたまってゆくわけで……


ギ…ギ…ギィィ…


そんな会話をしている最中、四方から何かがきしむような音が響いてくる。

周囲を取り囲む無数、ともいえる枯れ果てた木々。

その木々の中心には小さな結晶のようなものが埋め込まれており、

ゆらゆらと枯れているはずの木々は

ゆっくりとその根っこを足のようにしてティン達のほうへむかい距離を狭めてきている。

さらにいえば、その無数にもあるとおもえし枝は蔓のように細くなっており、

ゆらゆらとまるで何かをつかむかのごとくにゆらいでいる。

その枝の先が鋭くとがっていたり、ギザギザなまるで何かを刻むのに便利のような形をしていたり。

そういった細かなところまで目をむければ歩いてきている枯れ木の容姿は他にもいいつくせない。

つまり、本来在るべき姿の木々、ではなくあきらかに何かの力が加わっている、と見て取れる。

枯れ木の空が上部に二つと下部に一つあることから、三つの穴がある、というだけで、

その幹がまるで人の顔のように見えるのだから、人の視界、というものはあるいみ面白い。

三点が三角の形を形成しているだけで、人は面白いことに、それを人の顔とみなす傾向がある。

そしてそれはどうやら【人】あらざる存在にも有効な法則であるらしく――


「って、何ですか!?これは!?」

「ま…まさか、話しにきいたことがあるが、これは【屍木マラヤ】か!?」


精気を失った木々に別の何かしらの【邪気】ともいえる悪意ある気を埋め込んだもの。

悪意などをもった【念】と呼ばれしものが他者の空っぽとなった器にはいりこむ現象は知られている。

いるが滅多とそういうことはまずおこりえない。

それらを防ぐためにも一般的に死者は火葬して埋葬することになっている。

普通の動物などが死した場合、それらを食料とする別の動物がその死体をきちんと始末する。

しかし、草木や木々が枯れ果てた…

しかも周囲にそれらを浄化するだけの力がなければ結果はいうまでもなく。

目の前に広がっている光景のように、空っぽとなった器には様々な【念】や【気】が入り込む。

ましてや今、目の前にいるこれらの【屍木マラヤ】は人工的なもの。

「あ~。このあたり一帯は全部実験場として使われてるみたいね~」

完全に精気を失っていない木々も利用されている。それらは力がないがゆえに強い力に抗えない。

か細く救いをもとめる声が切なすぎるほどに悲哀を帯びている。

しかしそれらの【声】も聞こうとしなければ聞こえない。

草木における【王】ともいえるべき【レニエル】とてその声は完全に捉えきれていない。


「さてと。とりあえずお二人に質問。彼らをこのまま実験体として生きながらえさせるか。

  それとも、一度【昇華】することにより救いだすか。浄化はまだ彼には無理でしょう?」


さらっと二人に対し問いかけるティンの言葉に思わず目を見開くフェナス。

たしかに神獣とすら知り合いであるらしいティンには【レニエル】の力など始めからしっているのであろう。

しかし、直接に知っていることを告げられればどうしても警戒してしまう癖がでてしまう。

伊達に【輝きの守護】を受け持っているわけではない。

そんなフェナスの心の動揺を知ってかしらずか、


「…すいません……」

知らず誰にともなく謝ってしまう。

その懺悔の言葉はティンにむけてのものなのか、はたまた周囲の木々にたいしてのものなのか。

それすらレニエルには曖昧であり、どちらにむけての懺悔なのかいまいち理解できない。

おそらくは両方、なのであろう。

自分に力があれば彼ら…同族ともいえる【邪気】に操られた木々を救いだすこともできるであろうに。

しかしまだ自分にはそれだけの力がない。

否、力の使い方がよくわかっていない、といったほうが正しい。


「ん~。まあとりあえずまだ、精気がのこっている木々はどうにかなるとして。

  しかし、残っていない操られている木々が多いのも難点ね。

  あと人工的な魔獣も多々といるようだし。で、二人からすればどうしたいですか?

  このまま彼らと対峙しつつ、黙々と進んでゆくか。

  それとも先ほどいったどちらかを選んで苦痛を早くおわらせるか」


すでに精気を失っている木々はただの抜け殻の器にしかすぎない。

しかし、それは逆をいえば死者を冒涜している行為である、としかいいようがない。

瘴気に蝕まれたそれらの体は他への流用がまったくきかない。

逆をいえば蝕まれているものが近くにあればその瘴気はいまだ精気に満ち溢れているものへと伝染する。

どれかを選べ、といわれてすぐに選べるものではない。

自分達の手で同胞である彼ら…

いくらすでにその【心】がない、とわかっていても手にかけるのは心苦しい。

かといって、ティンのいった【昇華】という言葉の意味もわからない。

何となくとてつもない力のような気がするのはフェナスの気のせいか。

そうこう話している最中にも、ゆっくりといつのまにやら三人は完全に取り囲まれており、

ゆらゆらと三人に向かって木々の枝がのびてきていたりする。

いつのまにか上空も木々が折り重なり、

空からも逃げられなくしており逃げ道をふさいでいるのがみてとれる。

どちらにしても、戦うか否か、という選択を迫られているのは必然。

自分一人の力でどこまでレニエルを守りきれるかわからない。

しかし、守らなければならない。

自らの命と引き換えにしてでも。

しかし一人が対処できる数は限られている。

その間にレニエルの身に何かあればそれこそ本末転倒。

ゆえに、しばし考えた後、

「…この場を切り抜けられる方法が何かあるんですか?」

自分はかなりあせっているのにティンの様子をみるかぎりまったくもってあせっている様子はみえない。

それゆえの問いかけ。

「その様子では迷っている、という感じね。ま、いきなりの選択だから仕方ない。か。

  とりあえずこのまま道をふさがれていても面倒だし。さくっと済ましてもいいかしら?」

その、さくっとすます、の言葉の意味はかなり不明。

しかしながらこの状況下でティンの言葉にうなづかずにはいられない。

状況は違えど、ティンと初めて出会ったときもかなり危険な状況下であったことを思い出す。

あのときは突然変異ともいえる巨大クラリスとの戦いで今にも船ごと沈められそうになっていたが。

無意識のうちにこくり、とうなづくフェナスの行動をみてとり、かるくうなづいた後、


「さて。と。じゃ、さくっといきますか。面倒だから一気にいきますよ?

  【【聖雷のラマラーヤ】。【Select2(セレクトツー)】」

『…え?』


ティンの紡いだ言葉の意味を計りかね、思わず同時につぶやくフェナスとレニエル。

今、【ラマ】、といわなかったであろうか。

ラマ、それは【聖なる雷】、という意味合いをもつ。

しかし、しかしである。

そのような力を扱える存在など…神につかえし存在以外知られていない。

そもそも、雷を操れる存在がいるなど信じられない。


もしもフェナス達が初めてティンに出会ったとき、最後までティンの行動をみていれば、

船を襲っていた巨大クラリスを倒したのも落雷によるものだった、と理解していたであろう。

しかしあのとき、フェナス達はあまりの眩しさに目をつむり、何がおこっていたのかを見逃している。


レニエルとフェナスがその意味を計りかねしばし動揺しているそんな中。


ゴロゴロ……


どこからともなく突如として鳴り響く雷鳴の音。

そして、それと同時。


ゴロゴロ…ビシャァァッン!!!!!!


刹那。

無数、ともいえる稲妻が周囲一帯に降り注ぐ。

それはあまりに眩しすぎる光景で思わず目をつむってしまうほどの衝撃。

普通の落雷とは異なっているらしく、常にあるはずの衝撃派などが一切合財感じられない。

振り仰いでもみえない空より発せられてくる無数の稲妻はことごとく周囲を取り囲んでいた木々に直撃し、

それらの木々は落雷の直撃をうけて青白い炎をあげつつ燃え上がる。

不思議なことに、落雷の近くにいる、というのにまったくもって熱くも何ともない。

ただ、落雷による轟音が耳を突き刺すだけでそのほかは何の現象も感じられない。

ありえない。

さらに周囲の木々が燃えているにもかかわらず、間近にいる自分達はまったくもって熱くもない。

よくよく周囲を確認してみればどうやら落雷は自分達の周囲だけでなく、

このあたり一帯に降り注いでいるらしい。

ところどころからみえている青白い炎。

しかしそれらの炎は別の木々に燃え移ることもなく、そのままその場にて燃え上がる。

炎に包まれた木々はもがくように炎から逃れるかのようにうごめいているようではあるが、

やがてゆっくりとその体を炎に焼きつくされ、青き光の粒子となってはじけとぶ。

ふとみればどうやら大地に生えていた…これもまた精気を失った草花、なのであろう。

それらもまた青白い炎に包まれている様子がみてとれる。

薄暗い、というかほとんど前すらみえないほどの森の中。

いまだに昼間だというはずなのにこの暗さはかなり異常としかいいようがなかったが、

落雷によって発生した青白き炎にて周囲は昼間さながらの明るさに包まれている。

もっとも、その明るさが青き光のもと、という注釈はつくが。


「あ…あの?ティンさん?これは一体……」


自分達の周囲を取り囲んでいた木々が突如として燃え上がる様はあるいみ異様。

それでいて怖い、とおもわないのはどういうわけか。

燃えている青き炎はなぜかみているだけで心が安らぐ。

おそらくはそういったこともあり恐怖を感じないのであろう、となんとなく予測はつくが…

それでも、今、ティンが何をしたのか、という疑問はのこる。


「ただ周囲のすでに精気も心も失った【抜け殻】でもある木々の浄化と、

  あとはそれらに取り込まれている【核】の昇華を行ってるだけですよ?」


木々などに埋め込まれている特殊な【核】ともいえるそれらは、

帝国により人工的に生みだされた代物。

先日、村長の息子に埋め込まれていた代物と同じものであり、それらを埋め込まれたものは、

自我をもっていても人為的に魔獣にとかえられる。

それを埋め込まれたものは埋め込まれたものの魂そのものを糧とし成長をつつげ、

やがてはすべて埋め込まれた【器】そのものを喰らい尽くし一つの結晶にと再び戻る。

命を喰らいつくすたびに結晶化を繰り返すそれは、喰らい尽くした数だけその威力もまた倍増する。

この落雷による炎の特徴的なことは、傍目には普通の落雷にしかみえない、ということがあげられる。

すなわち、近くにいればその異常性がよくわかるが、遠目からみているだけでは普通の落雷による火事にしかみえない。

この山脈のふもとは元々大気が不安定ということもあり、多々とよく雷雨は突発的におこりうる。

それでもこの逆五紡星内においてはその結界の効果でそれらの力もまた逆に取り込んでおり、

【外】では雷雨が降り注いでいても、結界すべてにそれらの力が吸収され、

大地にまでその恵みの雨が降り注ぐことは絶対にない。


「これで少しは周囲に明るくなりましたし。とりあえずいきましょうか」

「いやあの!私のききたいのはそうでなくてっ!」

何か絶対に話しをはぐらかされているような気がする。

ひしひしと。

思わず叫ぶフェナスに対し思わず顔をしかめ、

「ここでのんびりしてたら、帝国側からの調査員達がきかねかませんよ?

  相手が混乱している間にさくっと目的の場所に少しでも近づかないと」


この聖なる雷による炎はこの世界の法則にまったくもって介入しない。

すなわち、たとえだれがどのような手段をもいちても逃れることができない炎。

この炎が人工的、また自然的に収まることは絶対にない。

青き炎により包まれたものはその存在そのものが完全に昇華されるまで燃え尽きることとなる。

基本的にこの炎は【精気】を含む【心】までは燃やさない。

逆を言えば、魔獣の発生源ともなっている自然界において還元しきれない代物。

それらをも完全に昇華できうる力をもつ。

もっとも、今ティンが行った【術】はさほど威力のない代物なので、

あくまでもこの付近一帯、すなわち結界内部における代物限定、となっている。


おそらくフェナスもレニエルも気づいてはいないであろう。

この雷は結界を構成している拠点にも降り注ぎ、その拠点内部も今現在、炎に包まれている、という事実を。

当然のことながら、そこに捕らわれている存在に【炎】による影響はない。

ないがそこに関してのみでいえば、普通の炎の色と同じように少しばかり変えてある。

すなわち、そこに滞在している数多の研究者たちからしてみれば、

落雷によって研究施設が被害をこうむった、としか傍からみればうつらない。


「…今、ティンさん、【聖なる雷】操りましたよね…?」

戸惑いつつもこれだけは確認しなければならないであろう。

世界創造時に語られていた、お伽噺や神話の中でのみでてくる聖なる雷。

ゆえにこそ雷は神の力の具現化として今現在まで畏怖される対象となっている。

空より降り注ぐ数多なる稲妻はまさに神の力の具現化、といっても差し支えがないかもしれない。

そんなことをおもいつつもといかけるフェナスであるが、

その思いがじつは全ての事実を示している、ということにまではさすがに気づかない。


「ここは一応、稲妻に神聖さをおいてますからね~。さて、と。どうやら道がひらけたようですよ?」

さらっとフェナスの言葉を肯定するわけでなく、かといって否定するわけでなく。

少しばかり含ませた物言いをした後、にこやかにすっと前方を指し示すティン。

先ほどまでティン達三人を取り囲んでいた木々は全て炎に包まれ、

今現在、まさに光の粒子となり辺りにはじけ飛んでゆく光景がみてとれる。

地面に降り注いだ光の粒子は地面に細く淡い光の道をつくりだし、

それらはまるで意思をもっているかのように様々な方向にむけて一つの線を紡ぎだす。


「人工的に逆結界を創りだしているのならこちらもまたそれを打ち消せばいいだけですし」

せっかくなので利用できるものは利用する。

ぽそっと紡いだティンの言葉の意味をフェナスもレニエルも当然、理解できるはずもなく。


青き光の道が辿りつく先は、結界の拠点となっている箇所と対局側にあるとある地点。

中央より寸分たがわない対局にある位置にと集った光は新たななる結界の拠点となり、

人工的に創られた歪んだ結界を打ち消す力となる結界を簡易的に創りだす。

人工的に創られた結界と、あるいみ純粋なる自然の力においてつくられた結界。

どちらが効果を発揮するかといえば当然答えは後者。


しかし今の今、そこまで詳しい説明を二人にする必要性はまったくない。

ゆえに、フェナスの問いに完全にこたえるわけでなくさらっと会話をはぐらかし、

「さ、いきましょうか。相手側が本格的に動き出す前に」

いいつつも、そのまま何ごともなかったかのように、

いまだにティンの目前にと浮かんでいる球体が指し示す矢印が向かっている方向にすたすたと歩き出すティン。

しばらくはその場にて放心状態になっていたフェナス達ではあるが、はっと我にともどり、

こんな場所でティンを見失ってはもともこもない。

聞きたいことは山とある。

その問いかけに答えてくるかどうか、という疑問はあるが。

すくなくとも、とてつもない【力】をティンが保有しているということだけは理解ができた。

もしかしたら本当に神の使いなのかもしれない。

そんな可能性をさらに心の中において強めつつ、あわててティンをおいかけるべく、

「と、とにかく。ティンさんをおいかけましょう。レニー」

「あ…う、うん」

フェナスとは違う意味であるいみ茫然としていたレニエルもまた曖昧にうなづき、

フェナスに手をひかれティンをおいかける。


先ほどから確かに聞こえている声。

この地に入ったときより曖昧で何か感覚はうけてはいだか、その声の実体は定かではなかった。

しかし、炎に包まれた数多ともいえる草木から聞こえる【声】が確かにレニエルには聞こえている。

それらは救いをもとめていた声から、ようやく解放されることへの安堵の声。

そして……


―― 我らに救いの手を感謝したまう。大いなる母よ。


たしかに、それらの【声】の全てはそう伝えている。


大いなる母。

……世界神セレスタイン?まさか…ね。


草木達、すなわち大地に根付く種族がそのように表現するのはたった一人の存在のみ。

それを知っているからこそレニエルとしては首をかしげざるを得ない。

伝承にのこっている世界神の姿はとても曖昧で、真実の姿、というものはなきにひとしい。

精霊王や神獣といった聖なる存在ならばその姿をしっているのであろうが、

その【本来の姿】は基本的にまったくといっていいほどに知られていない。

何しろ様々な時々においてその姿は千差万別、といった伝承すら伝わっている。

どこまで真実なのか、それともただの伝承なのか。

それはレニエルにはわからない。

ただ、いえることはただ一つ。

レニエル自身の本能が告げている真実。

ティン・セレスという少女。

それは普通の【人】ではありえない、ということであり、【世界】により近しい存在である、ということ。

なぜそう思うのかはわからない。

それは直感。

彼女の傍にいればいるほどその思いは強くなってきており、逆をいえばそれ以外はありえない。

というどこか不思議めいた確信のようなものが確かにある。

しかし混乱を招くだけであり、自分のその予感がどこからくるのかもわからない以上、

自分を常に見守ってくれているフェナスに相談することもできない。

ゆえに数多とはいってくるそれらの【声】を耳にしつつ、

大人しくレニエルはフェナスに手をひかれ、ティンの後をついてゆく――



この世界において、雷、というのは神聖な存在として認識されている。

それはこの世界を作り上げた経緯にもよるものであるが、

精霊王達全てがそろったときでないと普通は彼らとて雷を自在に行使することはまず不可能。

一般的によく知られている魔硝石の雷属性の石は普通の雷属性とは少しことなる。

雷、と認識されてはいるものの、あくまでもそれは雷に近い属性をもつ性質でしかない。

もっとも、魔硝石の雷属性における石と聖なる存在として認識されている【雷】はまた異なる。

というのは誰でもしっている常識中の常識。

さくっと雷使ったけど、別なほうがよかったかな?

先ほどの大多数なる落雷を操ったことによりフェナスとレニエルが疑問におもっているらしい。

もっとも、隠す必要性もないのでティンからすればさくっと手っ取り早い方法をとっただけなのだが。

いまだに周囲はほぼ、足元を問わず青白い炎に包まれており、あるいみ炎の中を進んでいる状態だ、

というのにまったくもって熱さも何も感じない。

それがこの炎における性質だ、とティンは把握しているものの、

おそらく何も知らないフェナス達はおっかなびっくりしているであろうことは容易に予測がつく。

まあ、説明するより実際に経験したほうが手っ取り早く納得がいくであろう。

そうおもったがゆえにあえて詳しくは説明していないティン。

実際に先に説明していてもおそらくその説明の意味すら理解不能であろう。

あくまでもこの【炎】は基本的に普通の物質などには影響しない。

草木が炎に包まれ燃え上がっているのは、それらがすでに普通の物質ではなくなっている証拠ともいえる。


炎があまりに多すぎて、ティンにそれ以上の問いかけをしたいのは山々なれど、

その光景に圧倒されすぎてただただひたすらに進むしかなかったレニエルとフェナス。

足元にすら燃えている小さな青き炎をなるべくよけつつ進んでゆくことしばし。


「あらら~」


ティンは気にせずに炎の中すらつっきっていたが、やはり精神上、炎の中を歩くのは好ましくない。

足元や周囲を気にかけつつ進む最中、

ふと目の前のティンが立ち止まり何か声をあげているのを聞きとり思わずその場にて立ち止まる。

ティンが視線をむけている先。

ティンの目の前にふよふよと浮かんでいる球体上に記されている矢印が示す方向。

その矢印が示す方向になぜか巨大な青い炎の壁が出来上がっていたりするのはこれいかに。

しかも今までみてきていた炎よりも格段に強い青き炎が

周囲全体をまるで壁のように取り囲んでいる様がみてとれる。

ティンからすれば呆れておもわず声を発したに過ぎない。

そもそも、たかがこのような幽閉の場に瘴気を利用した別の結界を創りだしているなど。

人工的とはいえそれに伴いあつかった命の多さがようとして知れる。

瘴気の壁を創りだす原料は至って簡単。

生きとしいける存在の強い【力】をてっとりばやく取り出すためには、

悲しみや苦しみ、といった負の感情をあおるのがてっとり早い。

それらの念を強くすることによりまた、それらの念が絶頂に至った時に命を絶つ。

そうすることにより、行き場のなくなった念はその場にとどまらずほとんどの場合暴走する。

そのとき、その念に行き先を人為的に指定していれば念は年月を問わずその効力を発揮する。

いわく、この世界でも時折つかわれている呪術にもよくこの方法が使われている。


「これだけのためにいったい無駄な命をどれだけ死に至らしめたんだか……」


呆れる、としかいいようがないあまりの愚行。

しかし知識があるがゆえにそう思うだけであり、それらの知識がないものからしてみれば、

目の前には巨大な炎の壁が存在しているようにしか垣間見えない。

そう、この場にいるレニエルとフェナスのように。


「…フェナス。何か僕、苦しい……」


この場に満ちている【気】はレニエルの気質とは正反対といっていい代物。

それでも、炎によってある程度は中和されゆっくりとではあるが浄化されつつある【念】。

この場に満ちている【念】ともいえる【邪気】は全てを憎み、恨むもの。

それらの【気】が結晶化された石がこの炎の壁の真下。

すなわち、大地全てにこれでもか、というほどうめつくされている。

この炎はそれらの念を浄化するべく燃え上がっているに過ぎない。

普通、そういった【念】は特殊ともいえる、人がいうところの第六感がなければ感じることは不可能。

かつては全ての生命体がもっていたその感覚を今現在、人は忘れ去ってかなり久しい。


そんなレニエルのつぶやきをききとり、


「あ~。この場にみちている怨嗟の念ともいえるものはたしかにレニーにはきついかも。

  とりあえずどちらにしてもここをくぐらないといけないわけでもあるし。

  レニー。せっかくだから、この炎との同調を試みてみる?」

さらっと何でもないように言い放つティン。

そんな彼女の言葉を聞き咎め、

「いやあの。ティンさん!?レニエルに何をさせる気ですか!?」

思わず悲鳴じみた、かつ批難じみた声をあげるフェナス。

この炎の性質が何かをきちんと把握していれば、ティンのいいたいこともすぐさまに察したであろうが。

今のフェナスはとにかくレニエルの身を守ることに思考が埋め尽くされ、

そのあたりの柔軟な思考力が働いていない。


「え?そもそも、輝ける王の力の一つ、でしょ?【邪気】の【浄化】は。

  この青き炎は聖なる炎。輝ける王が扱う【命の息吹】とほぼ同質のものですよ?

  もっとも、【王】があつかう炎は緑であり、これは青、という違いはありますけど」


ティンが扱っているこの炎の主たる属性は【水】。

水の性質により全てを包み込み浄化しているに過ぎない。

ゆえに、普通にさわってもこの炎は熱くも何ともない。

きっかけが稲妻による落雷だったとしても、起こりうる現象は自在に変化させることは可能。

だからこそこの方法を選んだティン。

この地は水の加護すら奪われている。

すなわち、大地そのものが枯れ果て死にかけている。

それでもまだかろうじて息吹を繋ぎとめているのは近くに流れている川があるがゆえ。

そしてまた、時折山脈より降りてくる霧が小さな息吹をかろうじてひきとめている。


「……命の息吹まで知っているとは…ほんとうにあなた、誰、なんですか?」

普通は知りえるはずのない、一族の中でもかなり機密事項といっても過言でないその能力。

それをさらり、と言い放つティンの正体が気にかからないはずはない。

「幾度もいってますけど。私は【ティン・セレス】ですって。それ以外の誰でもありませんよ?」

とりあえず、ここでは。

そう最後の言葉を心の中でのみ付け加え、

「で、どうする?レニー?やってみる?今ここで感覚だけつかんでおいたら、

  後々いろいろと役立つこともあるだろうし。今なら多少は私も誘導して教えられるしね」


それらの能力を完全に教えるものができるのはすでに【森の民】の中には存在していない。

よくて精霊王達の助力をうければどうにか能力を誘導してもらうことは可能ではあろうが、

おそらく、森の民の性質上、そこまで精霊王達に迷惑をかけられない、と辞退するのが目にみえている。

ちょうどいい例が目の前にある。

それゆえのティンの提案。

実際に【似たもの】に意識を同調させて習うほうがはるかに知識だけで習うより手っとり早い。


「…命の、息吹?僕の中にあるという特殊な力の一つのことですか?」

話しにはきいている。

しかしそれがどのような力なのか今いちよく理解できていないのも事実。

たしかに自分の中には様々な力が満ちているのは何となくではあるが感覚でわかる。

それらをきちんと使いこなせていない、というのもわかっている。

フェナスの心配はわかりはすれども、レニエルからしてみれば、少しでもはやく皆の役に立ちたい。

それが本音。

それでなくても、今まで何もできなかった自分を守り慈しみ、あるものは命すらかけて自らを守ってくれた。

それを知っているからこそ、今度は自分が役立ちたい。

自分にそれだけの力がある、と漠然とながらわかっているからこそ切実にそう思う。

「本来、【輝ける王】には様々な力が備わっていますからね。再生の力然り。

  また未来に紡ぐ浄化の力然り。今私が扱ってるこの聖なる炎は水の属性を用いてますけど。

  なので今までここに来るまで不可抗力で炎に触れてしまっても熱くも何ともなかったでしょう?

  あなたが扱う性質は【土】であり、それにともなう【深緑の力】ともいえるものですね。

  水と土は相性がとてもいいんですよ。なので力の流れというか波動も似通ってますし。

  もしもやってみよう、という気があるなら、この目の前の炎に軽く手をかざしてみて?」

「レニエル!それは危険ですっ!」

横のほうでフェナスが叫んでいるが、しかしレニエルからしてみれば、これは危険な行為、とはおもえない。

なぜかわかる。

だからこそ、

「大丈夫です。フェナス。なぜかわかるんです。これは危険ではない。

  むしろ僕の力が自分で自在に扱えるきっかけとなるなら、僕は自ら進んで申し出をうけたいとおもいます」

それは本音。

少しでもはやく、皆の役にたち、そして救える命を救いたい。

まだ世界を知らない自分だけども、自分に課せられている使命の重要性くらいは把握している。

そのために今までいろいろと学んできた。

もっとも、自力で動けるようになっていまだ日が浅いのでその学んだこともまだ少ないといえば少ないが。


「【輝きの守護】たるフェナスさんの心配もわかりますけど。

  だけども危険を恐れていては彼の成長の妨げにもなりかりませんよ?

  そもそも、危険を知らずに成長していけばおのずとそこに隙が生じかねませんし。

  まあ、浄化の力は王の力の初歩の初歩、ですし。すでに目覚めていてもおかしくない能力ですよ?」

それは本音。

本来ならば自らが動けるようになったときに自然に身についていてもおかしくない能力の一つ。

それでもレニエルがそれらを自由に扱うことができないのは、彼が育ったのが広大なる大地、ではなく。

隔離されているといっても過言でない小さな鉢植えの中であったがゆえ。

大地とその身を共有することにより自然と身に着くはずの能力。

本質の中には含まれてはいるが、大地とその身を共有していなかったがゆえに、

いまだにその力に目覚めていないレニエル。


「…守護…って…私のことをしって…?」

「フェナスさんの態度をみていればおのずと判りとおもいますけどね。

  それに、森の民の皆に【頭】と呼ばれていましたし。

  森の民で【頭】という意味をもつものは、【守護せしもの】にほかなりませんし」

あの場にてすでに森の民の守護せし存在であることはわかっていた。

別に聞かれなかったがゆえに答えなかっただけであり、説明する理由も別にない。

フェナスからしてみれば、

始めからそれだけのことでこちらの正体というか本質を見抜かれていたことに驚愕せざるを得ない。

ということは、あの船にのっている最中に

すでにティンは自分のことを把握していた、ということに他ならない。

それでもティンがそれを船にのっていた最中、口にださなかったのは、問わなかったからか、

はたまたわざわざ言う必要がない、とおもったからなのか。

…おそらく、両方、なのであろう。

たしかに、自分達は海賊、となのっていた以上、

わざわざティンからそのような問いかけをうけるいわれはない。


いまだに驚愕さめやらないフェナスをさくっと無視し、

「じゃ、レニー。やってみましょうか。まず、この炎の壁に両手をついてみて」

「あ、はい」

断る理由はどこにもない。

なぜか大丈夫である、と心のどこかで確信がもてるがゆえに言われた通りに行動する。

ゆっくりと目の前に広がるどこまでつづくかわからない青白き炎の壁。

それに両手をそっとつけると、どこかここちよい冷たさすら感じるのは気のせいか。

たしかに見た目は青き炎、でしかないのになぜかこの炎から感じるは【冷たい】感覚。


「とりあえず、魂の奥に封じられていた力を導いてゆくから。

  意識を心の奥底にむけて感じるままにその力を流してみて」


力を流す、といわれてもいまいちよくわからない。

しかしおそらく、本能が示すままに行動するように、ということなのだろう、と漠然と理解する。

ぴとり、と壁に両手をつけているレニエルの肩にそっと手をそえるティン。

ティンが行うのはレニエルの中にて眠っている力の解放。

本来ならば自然と解放されているはずのそれらを本来あるべき姿へと導くための行動。

直接に【ティン・セレス】の力に触れることにより、眠っていた力は一気に覚醒を果たす。

そもそも本来、【輝ける王】は【世界】に対してより敏感でもある存在のひとり。

精霊王や神獣に続き、輝ける王は大地の王、といっても過言でない。

ゆえにティンの力にも無意識のうちに反応し呼応するかのごとく一気に力が解放される。

自らの中に感じる今までたしかに漠然としか感じなかった本来あるべき力の流れ。

それらが今、自分の中に濁流のような奔流となって駆け巡っているのが理解できる。

しかし、なぜだろう。

その力の制御の仕方もなぜか自然と判っている自分がいる。

しかしそれはごくごく当然で、

本来ならば自力で動けるようになったときにはすでに覚えていなければならないこと。

それらの情報もどこからともなくレニエルの中にと流れこみ、様々なことを一気に理解する。

それはまるで知識と力の奔流ともいえる流れ。

小さな川の流れが突如として大きな川の流れに合流し、そしてその流れは海へとたどり着く。

そんな不思議な感覚が今、レニエルの中に確かに芽生えている。

いまだに小さな川の流れから大きな川の流れにしかすぎない力の奔流。

しかしそれはいずれは母なる海へとたどり着く奔流にとなるのであろう。

そのときこそ彼が【王】として本当の意味で覚醒を果たすとき。

そこまで理解し、はっとする。

両手をついている冷たい感じをうける青き炎より感じる力の流れ。

その流れの本質が自らの中にある一つの流れと同等に近い性質をもっていることを瞬時に理解する。

なぜかはわからない。

だけども、わかる。

そうとしかいいようのない、不思議な感覚。


「命は大地に。大地は命をはぐくみ、そして命はめぐる。あるべき形はあるべき姿へ」


無意識のうちに流れ出すその言葉。

旋律のように歌われたその言葉はゆっくりとレニエルのつきだされた両手より、

緑の輝きをもってしてゆっくりと青き炎の中にと吸い込まれてゆく。

青き光と緑の光。

先ほどまで一つの光でしかなかったその壁は今や二つの色合いをもつ光の壁と成り果てる。

自分で今、何の言葉を紡いだのかよく理解できない。

だけども、今の言葉が全ての本質を示している、となぜだか本能的に理解する。

そう、全てはあるべき本来の姿へ戻り、そして還ってゆく。

それが世界の理。

世界のあるべき姿。

それらを修正する力を持たされたいくつかの柱たる存在。

そのひとつが自分であり、それは【輝ける王】という存在である。

誰に教わったわけではない。

もともと本来知っていたはずの知識が魂の奥底から押し出されてきた。

感覚的にそう表現するしかないそんな不思議な感覚。

そんな無意識ともいえるレニエルのつぶやきを横でききつつ、


「どうやら魂の中に眠っていた力の覚醒は無事にすんだみたいね。

  まあ、あとは自分で力の調整になれてゆくしかないんだけど…って、あれ?

  フェナスさん?まだもしかしてかたまってます?もしも~し?」


自分達がどうやってレニエルに力のことを伝えるか。

魂のおくそこに力が眠っているのはわかっていた。

しかしそれを覚醒させるだけの手段をフェナス達はすでに持ち合わせていなかった。

力をもっていた存在はレニエルを逃すときにすでに犠牲となっている。

それなのに、目の前のティン・セレスと名乗っている少女はいともあっさりと、

レニエルの魂の奥底に眠っていた力をひっぱりだした。

…それも、ただレニエルの肩に少しばかり触れた、ただそれだけの行為だけで。

ゆえに驚愕せざるを得ない。

そのようなことができる存在。

そんな存在はフェナスは知らない。

強いていえばレニエルの力を第三者が覚醒させられるとするならば、

おそらくは精霊王達くらいであろう、そういわれていた。


精霊王、神獣、そして輝ける王、それらは世界の三柱ともいえる主要たる存在。

その一つがかけても世界は成り立たない。

しかしその三柱のことをきちんと理解しているものは、三柱たる本人達以外はありえない。


「もしも~し?フェナスさん?大丈夫ですか~?」

目の前で起こされたあるいみ奇跡としかいいようのない出来事。

ゆえにしばし再びその場にて固まるフェナスの姿が見受けられてゆく……



今回、ほとんど主人公はなんとなくティンではなくレニエル&フェナスサイドのような気も(自覚あり

次回でようやく神殿さんに突入ですv

とりあえず精霊王さん達をすべて救い出すにはもうすこしかかります・・・


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