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ACT-10 ~迷いの森へ向かって~

ようやく敵陣地~

このたびはこの世界の時刻の呼び方をちらっと載せてます。

時計、といった高価な品はこの世界には身分の高い人々の一部のものしかもってません

とりあえず、まだ話がすすみませんがようやく精霊王たちのとらえられている森へ向かいます


※今回は約30KBです



遥か見上げるかなたより流れ落ちてくる様はまさに圧倒的というより他にない。

しかし、それは傍からみている場合において、そのように言えるわけであり……


「んきぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!」

「うえええっっっっっっ!?」


何ともいえない言葉になっていない叫びが聞こえているものの、

それらの声は周囲の水音に物の見事にかき消される。

ポロロン、ポロ、ポッン……

彼らの叫びとは裏腹に澄み切った音色が水音とともに響いているが、

その音色は周囲の大気にとけこむかのように水滴となって地表へと降り注ぐ。

地表数百メートルの上空より一気に大地に降り注ぐ水の奔流。

轟音ともいえる滝の音が周囲の音全てをかき消している。

しかし、三人が乗っている【箱舟】は水の流れに完全に沿っているわけではない。

ふわふわと多少なりとも浮力を伴い、ある程度水の流れに逆らいつつも落下している。

ゆえに船にかかる重力は普通に落下するよりもかなり軽減しており、

感覚的にはちょっとした急降下における衝撃をうけている程度でしかない。

しかしその事実を知っていればさほど混乱しないであろうが、フェナス達はその事実を知らない。

ゆえに、突如として視界が開けたその先にみえたのは、

眼下にみえている雲と、そして大地すら見えない落下している滝の流れ。

そしてさらにいうならばその滝の流れに自分達ののっている船もまた沿っている。

それらが指し示すこと、すなわち。

自分達ののっている船ごとこの滝を落下する、という事実を瞬時に理解し、

何ともいえない叫びが二人の口より発せられる。

二人の口より叫びが発生するのとほぼ同時、船はゆっくりと滝にと差しかかり、

そのまま地表へむけて急降下。


当然のことながら船全体に特殊結界が施していることもあり、

乗客に負担がかかるほどの衝撃はかからないようになっている。

高度と流れによる速度からしても、落下するまでの時間はごくわずか。

ちなみにこの早さは船全体の制御を変化させることにより決めることが可能。

すなわち、ゆっくりと落下を楽しむ場合はスピードをより遅くすることも可能となる。

水晶そのものが舵であり、

また制御装置でもあるがゆえに、水晶一つでどのような操作も可能となっている。

ゆえに、この【箱舟】は【遊覧船】としても十分に利用可能。

異なるのは他の【箱舟】とは異なり、普通に空を飛んで移動などが出来ないという事実がある。

大地、もしくは着水している場より少しばかり浮くことは可能なれど、

普通の大気中のみに浮くことはまずできない。

しかし、【Select1(セレクトワン)】によって召喚される箱舟がそのような形式であるだけで、

他の【Select・NOセレクトナンバー】にて召喚した箱舟は、

空中を飛ぶことができるものから、宇宙空間をも移動できるものまで存在している。

あくまでもこの【Select1(セレクトワン)】によって召喚される【箱舟ノア】は遊覧船用に創られており、

長時間利用するような仕様にはなっていない。

同じ箱舟、といってもその用途に伴い仕様は異なっている。

もっとも、そのことを知るものは精霊王、もしくは竜王といった世界を任されている存在達のみ。


なぜか放心状態になっているレニエルとフェナスをひとまず下ろし、

…もっとも、話しかけても反応がないので仕方なしに再び風を纏わせ船より降ろさせたティン。

「召喚。解除」

ゆらっ。

ティンが箱舟の召喚を解除するのと同時、箱舟の周囲の空間がゆらり、と揺らぎ、

次の瞬間、川の上に浮かんでいた【箱舟】はそのまま虚空の中へと溶け消える。

正確にいうなれば、元あった場所にと空間を移動し戻ってゆく。

召喚の解除、すなわち元のあるべき位置に戻す必要性がある場合、

解除により自然と空間そのものが彎曲し、離れた場所同士が繋がる仕組みとなっている。

無事に滝を下り終え、その先に流れる川にとたどり着いているティン達一行。

滝を下る途中でなぜかフェナスとレニエルが放心状態になってしまい、

きちんと地上に着水したのちも正気を失ったままま放心状態が続いている。

船が完全に元の場所に戻ったのを確認したのち、

「さて…と。【冷水コール】」

いまだに放心状態のままでその場に転がっている二人をみつつ、

ため息と同時に軽く手をかざし、一言つぶやくティン。

と。

ぽっ。

ティンの前にて転がっている二人の頭上にちょっとした大きさの水の球体が出現する。

すっとティンが手をかるく下げるのと同時。

パシュッ。

ティンの手の動きに合わせ球体はそのまま空中より地上へとおりてゆき、

その場にころがっているフェナスとレニエルの体それぞれを包み込む。

水に取り込まれるときに何やら小さな音がしていたりもするが、

それは少し離れた位置より聞こえてくる滝の音にかき消されていたりする。

「「…んきゃぁぁっ!?」」

いきなり、といえばいきなり体に冷水を浴びた形となり、思わず叫びはっと我にともどるフェナス達。

さもあらん。

何しろ今、ティンが行ったのは氷水よりも冷たい水を形成し、

その水の中に二人を放り込んだ、といっても過言でない。

いきなり冷たい水の中に放り込まれて、意識を取り戻さない輩がいるはずもなく。

…もっとも、彼らだからこそ無事なわけであり、他の種族、

特に人間などにこれを行えば逆に心臓発作などをも誘発しかねない行為ではあるのだが……

「あ、やっと気づきました?あの程度で気絶って…まだまだ修業がたりませんね」

いいつつも、パチン、と軽く指を鳴らすと同時。

バシャっ。

フェナスとレニエルの体を包んでいた水の球体がそのままその場にはじけ飛ぶ。

さすがにいきなり冷たい水の中に放り込まれたがゆえに、意識はしっかりと戻っているらしく、

「って、いきなり何をするんですかっ!普通の人なら死んでますよっ!」

思わず抗議の声をあげるフェナスはおそらく間違ってはいないであろう。

絶対に。

「…はっ!?ぼ、僕は…って、あれ?いつのまに…って、ここ死の国?」

抗議の声をあげているフェナスとは対照的に、何やら自分が生きていることが信じられないのか、

茫然とそんなことをつぶやいているレニエル。

「冷や水をかぶせたほうがてっとり早いでしょ?

  まさかあの程度で気絶するとは私もおもってませんでしたし。

  あ、あとここは死の国ではないですよ?レニー。もうここは帝国領土内です。

  山脈のふもとに広がる迷いの森の傍、です」

ティン達の横には並々と山脈より湧き出ている滝水によって出来た川が流れており、

その流れをそっていけばいずれは海へと繋がっている。

このあたりは水が豊富、ということもあり、また山脈のふもと、という理由もあり、

鬱蒼とした木々が生い茂っているのが見て取れる。

かつて火山が噴火したときにできた溶岩の上に木々が茂ったものであり、

この地においては通常普及している方位磁石なるものもまったくもって通用しない。

常にこのあたりには磁場が満ちており、ゆえに方向感覚が狂うものも数知れず。

もっとも、わざわざそういった道具を使わずとも方向をしる術は自然の中に確実に存在する。

「…え?帝国内の…迷いの…森?」

その言葉をきき、思わず聞き間違いかとおもいといかえすフェナス。

かの地で迷ったものは二度と生きてはもどれない、と人間達の中ではよくいわれている。

ちなみに獣達の間でもそのようなことが伝えられているらしい。

迷いの森の中には多々と魔獣が存在し、さらに迷った生き物の魂すら悪鬼になってしまう可能性が高い。

悪鬼、とはいわゆる生き物の魂がその負の心をもってして生きているものを自らと同じ立場。

すなわち、死者へと引き込もうとする輩の総称。

ティン達いわく、【悪霊】とも呼んでいるそれらは、力がつよければ強いほど、

誰の目にも視える存在としてそこいらに存在している。

そして目的ともいえる【聖殿】もまたそんな【迷いの森】の中にある、ともっぱらの噂。

一般的に【聖殿】として公表されている仮初めの施設ではなく、本当の意味での聖なる場。

逆をいえば幽閉の間、ともいうべきか。

「とりあえず、聖殿を封じている五か所の結界。それをまず解除しないと。

  私だけならそのまま結界内部にもはいれますけど、フェナスさん達は入れませんしね。あれは」

ティンにはどのような結界も通用しない。

むしろ全てが無効化される。

しかし、この世界に産まれて存在しているフェナスとレニエルについてはそれらの結界は正常に作用する。

かといって、一つ一つ結界を解いていけば相手側に気づかれる可能性は高い。

下手をすれば今捕えられている存在達の存続すら危うい。

「…まあ、聖殿にいってから解除、でも遅くはない…か」

戸惑いを隠しきれないフェナスとは裏腹にぽそり、とつぶやき、そのまますっと左手を前にだす。

構造解析クリエイト

ティンがつぶやいたその刹那。

ぽうっ。

ティンの手の上にくるくると回る球体のようなものが出現する。

その球体の中には五つの点をもつ星とその中心に点らしきものがみてとれる。

「逆五紡星による結界か~。というかこの程度のもの、その気になればさくっと解除可能でしょうに」

それは本音。

というか彼らの力をもってすればこの程度の結界はものともしないはずなのに。

捕えられている存在達の命を優先した結果、唯々諾々と捕えられているこの在り様。

点を線として逆五紡星の形を形作っているその光は黒く光を放っており、

その光は何だかみているものを不快にさせるような感覚を伴っている。

その球体の上部にこれまた光の矢印のようなものが突起物のごとくについており、

それがとある方向を指し示しているのがみてとれる。

「さてと。聖殿の位置はこっちか…?二人とも、どうかした?」

ふと気付けば二人して唖然としてティンをみている様子が視界にはいる。

ゆえに首を多少かしげてといかけるティンに対し、

「どうか…って、それ、何ですか!?」

何もない空間から突如としてティンの手の平の上に出現した…

今ではティンの目前をくるくると何もせずとも廻りつつ浮かんでいる球体をみて思わず叫ぶフェナス。

どうもここしばらく叫んでばかりのような気がするのはおそらくフェナスの気のせいではないであろう。

しかし叫ばずにはいられない現象が続いているのだからそれはそれで仕方がないといえる。

「新たに手が加わった場所を解析してそれらを形に表しただけだけど?」

ティンが始めから【知りえる】ものは限られている。

世界は常に様々な手が加わり変化している。

特に構造物などに関しては日々変わっているといっても過言でない。

変わらないのは世界の仕組みとそのありよう。

「【霊力の流れ】を感知しつつ進んでもいいけど、これで示したほうが間違いないですしね」

実際、このあたりには不自然なまでの力の流れが感じ取れる。

それはこの【世界】に反する力の流れ。

ティンだからこそそれらがわかるわけであり、普通はその流れの違和感など感じ取れるはずもない。

さらっと言い切るティンの言葉にどこからどう突っ込んでいいのかわからないフェナス。

さきほどの【箱舟】のことといい、先日の【精霊】、さらには【神獣】のことといい。

目の前の少女についてはわからないことだらけ。

それでもなぜかはわからないが、彼女が悪意あるものではない、というのは断言できる。

逆をいえばなぜかわからないが出会ったときよりどこか懐かしい感じを抱いているのもまた事実。

その懐かしい感じはフェナスよりもレニエルのほうが強く感じており、

ゆえにレニエルはどちらかといえば

ティンのすることに対してなぜか違和感を抱くことなく受け入れていたりする。

「【霊力】の流れ…って……」

先ほどきいた、神獣、クレマティスと名乗っていたかの存在の言葉が脳裏をよぎる。

『何があっても驚かないように』

たしかそのようなことをいっていた。

かの崇高なるものが敬いの言葉をつかっていたことも気にかかる。

まちがいなく、目の前のティンは普通の魔術師、もしくは魔道士などではない。

しかし、ならば魔術師以外にさらっと高度な術を使いこなせるものがいるのか?

そう自分に問いかけてみるものの、答えは否。

世界と繋がりをもつ精霊の加護をうけ、

さらには契約を履行しなければ【世界の力】ともいえる【術】は使えない。

それはこの世界における常識中の常識。

「あの?その球体に浮かんでいる星の光とその上の矢印のようなものは?」

戸惑いの声をあげているフェナスとは対照的に、ふよふよと浮かんでいる球体に興味があるらしく、

首をかしげつつもそれでいて目をきらきらさせつつ問いかけるレニエル。

世の中、様々自分の知らない事が多々とある。

【船】よりほとんど出たことがなかったがゆえに、

この短期間で様々なものを見聞きしているレニエルとすれば、

何もかもが新鮮でそれゆえに興味をひかれる。

ふわふわと手も添えずに浮かんでいるちょっとした大きさの球体。

それの中心に浮かんでいるのは黒き点を拠点とした黒き光の線にて繋がった星の形。

そしてその星の中心にこれまた鈍く光り輝く点のようなものがみてとれる。

「これはこの地における精霊達を捕らえている結界の位置を指し示しているもの。

  この中心が目的地の聖殿の位置ね。

  それでもってこの矢印が指し示す方向が聖殿のある方向よ」

何やらさらっとこれまたとてつもない内容。

かなり重要なことをさらり、と目の前の少女はいっていないであろうか。

ゆえにその説明をききさらに頭をかかえざるをえないフェナス。

聖殿の位置や結界の拠点となっている【場】を示す【魔道具】など聞いたこともない。

そもそもそんなものがあればとっくに精霊王達は幽閉から解放されている。

すくなくともどこに捕えられているかがわからないがゆえに各国も動けないでいるのだから。

そんな便利な品があればこっそりと間者にでもその品をもたせ、

それぞれの国が協力し精霊王達をたすけだしていても不思議ではない。

「すご~い!そんな品物があるんですか!?話しにきく魔道具ってやつですか!?」

魔道具、とは精霊の加護をうけ世界の力の一部を行使できる、といわれている特殊な品のこと。

話しにはきいたことはあるが実際に目の当たりにするのは初めて。

ゆえにきらきらと目を輝かせて問いかけるレニエル。

この場でこの異常性に気づいているのはまちがいなくフェナスのみ。

「ん~。私からすればこういった品は当たり前のものなんだけどね~」

事実、ティンからしてみればこのような品は差して珍しいものではない。

もっとも、この世界においてこのような特定の場所を指し示す道具はいまだに開発されていない。


「いや、当たり前って……」

さらっとさらにいいきるティンの言葉にさらに絶句するより他にないフェナス。

目の前の少女はどうみても人のそれ。

もしも伝説にある神の使いならばその背に光の羽がついているはず。

しかし、しかしである、もしも本当に神の使い、ならば容姿を変えるくらい簡単なのでは?

そう。

自分達が本体である【体】から今の体に変化させているように。


「とりあえず。この矢印が示す先に目的の場所があるわけですけど。

  フェナスさん達はどうします?聖殿に私は用事がありますけど。

  フェナスさん達は聖殿より他の結界地点に用事があるのでは?」


彼らの仲間が主に捉えられているのは結界の拠点ともなっている五か所の地点。

さらっというティンの言葉に思わず目を見開くフェナス。

自分達の目的は一度もティンに話したことはない。

彼らの仲間が捕まっていることも話してなどはいない。

もっとも、森の民がかの【帝国】に捕えられている、という話しは有名なので知っていても不思議ではない。

ないがその民がどこに連れていかれているのか知っているものはまずいない。

フェナス達とて永き年月の果てにようやく仲間が捕えられている箇所をしったばかり。

それも幾人もの犠牲を得て判明した事実。

それをさらっと始めから知っているように言われれば、

今まで自分達が知られないように気をつけていたのが馬鹿らしくなってしまう。

裏を返せば始めからティンは全てを知っており、ゆえに二人の同行を許した、とも考えられる。

「…いや。私たちも聖殿のほうにいこうとおもう。

  どちらにしてもそれ以外に方法はないとおもいますし」

確かに捕えられている同胞のことは気にかかる。

だがしかし、一か所に出向きその場にいる仲間を救出できたとしても、

その他の場所にいる仲間の安否はわからない。

下手をすれば拠点となっている施設にいったばかりに他の施設にいる仲間に危険が及ぶ可能性も。

たしかに仲間をたすけだすのはフェナス達一族、森の民の悲願ではある。

だがしかしそれ以上の悲願は、聖殿に捕えられている精霊王を解放すること。

そのためにこの数百年、森の民の種族は様々な手段をもちい行方を追っていた。

…その過程で森の民が相手の捕獲対象になってしまったのは予想外ではあったが……

「そうですか?まあ、いいですけど。ですけどここから先は覚悟しておいてくださいね?

  聖殿にむかうにつれて【霊力の流れ】が狂っているのでそれなりに強い魔獣なども多発してるでしょうし」

世界における力の流れが狂っている。

ゆえに結界内部においては様々な【理】からはみ出た生き物が誕生しているらしい。

無理やりに他の【命】を利用し流れを歪め、この結界を創りだしているかの国。

その報いは必ず自らの身に降りかかる、というのに力のみを求めた人々はそのことには気づかない。

そもそも、魔獣は本来自然界において昇華しきれなかった力が結晶化し実体化した存在といって過言でない。

自然界の浄化能力そのものが狂っている場所においては当然のことながら歪みと淀みはたまってゆく。

結果として【迷いの森】は別名、【死の森】とすらいわれるほどに【死】の力が充満している。

森における精霊達もまたすでにその【霊力】を穢され、ほぼ力をふるえない。

逆に【歪み】の力に翻弄される駒と成り果てている木々も多々とある。

本来ならば同じ【種族】に位置するフェナス達【森の民】と大地に在る【植物】は相性がよく、

逆に力を借りることすらできる間柄。

しかし、かの【森】の中ではそんな世界の常識すら通用しない。

ティンの言い分もわかる。

何よりかの森の危険性はフェナスとて仲間が命がけで伝えてきた念波で十分に理解しているつもりである。

「わかりました。…しかし、何も準備しなくても大丈夫なのですか?」

何かですます口調になってしまうのは仕方がない。

ティンがもしかしたら【神の使い】かもしれない、という疑念を持ってしまった以上、

今までのように普通に接することなどフェナスとしてはできはしない。

何より【神】はフェナス達一族にとってはいわゆる【母】のようなもの。

自分達をはぐくむ大地が【母】ならばそれらを生みだした【神】はさらなる【大いなる母】であろう。

「?」

いきなりのフェナスの口調の変化に首をかしげるレニエルをみつつ、

「ま、下手に固くなられても面倒なんだけどね~。こちらとしては。

  とりあえず、まあ向かいくる輩は浄化…もとい排除してゆきますけど。

  きついようならいってくださいね?」

自分の正体に何となく予測がついてきたのか口調を改めているフェナスをみて苦笑せざるを得ないティン。

もっとも、その予測が間違っていることは容易に予測がつくが、

まあ、使いと勘違いしているならそれはそれ。

そのほうが面倒なことにならなくてあるいみよい。

自分はきちんと【名】にてこの世界にとっての【何者】なのか、というのは指し示している。

こくり、とティンの言葉をうけてうなづくフェナスを確認し、

「というわけで。レニー。今から私たちは【迷いの森】にはいっていきますけど。

   その自分自身の目で何がおこっているのかしっかりと確認してね?

   あなたはおそらく知らなければならないこと、だから」

そう。

彼は知る必要性がある。

【歪み】に取り込まれてしまった同族がどのような結末を迎えるのか、ということを。

そして、そんな彼らを守る力を【輝ける王】は与えられている。

それは【浄化】ともいえる能力。

【穢された歪み】のみを消し去る聖なる力。

彼にまだその自覚はない。

しかし、いずれはその役目を担うべく【王】として覚醒する。

そのとき、取り込まれた存在がどのように変わるのかを知識としてしっているのと、

実際で見知っている。

それだけでも今後において役にたつ。


そんなティンの言葉にティンの横にてさらに驚愕の表情をうかべているフェナス。

かの【精霊】が【輝ける王】と言っていたことから、おそらく知っているのかもしれない。

そうはおもってはいたが、今まで彼女がそのことに触れたことは一度足りとてなかった。

名前を名乗ったときにも何の変化もみせなかった。

しかし、今の言い回しは始めから名前を聞いた直後から【レニエル】が【何】なのか知っていた模様。

つくづく自分の洞察力のなさを思い知らされる。

これでは、【王】を守る【盾】の役目も果たせない。

ティンが特別だからかもしれない、という言い訳は通用しない。

今、【王】を失えば、森の民は確実に滅びの道をたどることとなる。

それだけは何としても避けなければならない。

だからこそ本当ならば安全な場所で自分達に全てを任せてほしかったのだが……


「うん」

話しには聞いたことがある。

穢れに捕らわれた存在がどのような存在になるのか。

しかし話しをきくのと実際に経験するのとではまた違っているのであろう。

世界がここまで光り輝いている、というのも船の上からでは知るよしもなかった。

自分が【何】なのか知ってこのようにいっているのか、はたまたまだ幼い自分は知る必要性がある。

とおもっていっているのか。

そこまで詳しいことはレニエルにはわからない。

しかし、いろいろ自分の目で見聞きし、知りうることは何よりも必要。

何も知らないままでは先へと進めない。

今まで一族は【知る】ことをしなかった、とおもう。

ただ【守り】に徹していた。

ゆえに精霊王が捕えられたときもすぐさま対処ができなかった。

そしてまた、同族が捕えられていったときも。

それではだめなのだ、と思う。

だからこそ自分の目で耳で、そして足でいろいろ見聞きする必要性を感じていた。

ようやく動けるようになっている今こそその自分に課した課題を果たすとき。

ゆえにティンの言葉に対し大きくうなづくレニエル。

そんなレニエルの態度に満足しにこやかにほほ笑み、

「でもあまり無理はしたらだめだからね?さ、じゃ、いきますか。

   日がくれたらそれこそ森の中は危険、ですからね」

今はまだ太陽が上空にあるがゆえに周囲は明るい。

近くに高い山脈があるせいで太陽の姿は垣間見えないが。

フェナスとてそんなティンの言葉に反対する道理はない。

そもそも、夜の森に入り込む、など自殺行為もいいところ。

普通ならば周囲の木々が危険を知らしてくれるが、

おそらく迷いの森の木々はそのような心すらもはや持ち合わせてはいないであろう。

中には強い意思をもつ存在はまだその自我を保ってはいるであろうが…

そんな強い自我をもつ同族がいったいぜんたいどれだけ生き残っているのか。

それはフェナスにもわからない。


それぞれがそれぞれに様々な思いを抱きつつ、

三人は川より離れ、その先にみえている森へむかってその足を進めてゆく――




いまだに太陽はおそらく上空に差しかかるか、もしくは少しばかり差しかかり始めているか。

おそらく周囲の明るさから察するにそれくらいの時刻であろう。

人の世界でいうならば時のころは昼のヴァレリー。

ゆえにまだ日はたかく、ゆえに周囲もほのかに明るい。

やがて日が陰り夜の帳につつまれる前に森にはいり、安全なる場にたどり着く必要性がある。

もっとも、森の中に安全な場があるかどうかは誰にもわからない。


この世界の時刻はそれぞれの刻にあわせてそれぞれの名により区別されている。

昼の刻、夜の刻、と呼び称されはするが、それぞれにおける大まかの時刻はほぼ同じ。

ヴァレリーの刻、というのはとある世界においては昼の二時、を指し示す。

この世界における刻の区切りは二十四に別れており、それぞれ十二を一区切りとして考えられている。

とはいえ、【分】という概念はいまだにこの世界には存在していない。

刻の概念をもっていたのは元々、精霊王達世界に通ずる存在達、といわれている。

それらがいつのまにか世界に広まり今では一般的となっている、と伝承ではなっている。

ある世界の法則において説明するならば、

1刻【ネオトス】。2刻【ヴァレリー】。3刻【トウキ】。4刻【ウェリン】。5刻【タレン】。6刻【ミアジル】

7刻【ヴェゼリ】。8刻【ビリジン】。9刻【サフロ】。10刻【トロイ】。11刻【イライト】。12刻【イネス】。

以上のような刻限の名において示される。

もっとも、ここまで細かな時を刻むのは特殊ともいえる場でしかなく、

ほとんどの民においては【ミアジル】、【イネス】そして【トロイ】といった刻限のみ。

一番鳥が鳴く刻限が【タレン】であり、二番鳥が鳴くのが【ミアジル】。

ちなみに、夜鳥ともよばれる【夜の帳:ナクライト】が初鳴きするのが、

日も暮れかける【ミアジル】であり、二番手になくのが【ヴェゼリ】の刻限。

普通に過ごしている人々はそれらの鳥により大まかな時刻を知り生活の一部と成している。


「太陽が沈みきる前にとりあえず森に入るのに依存はないですよね?」

念のためにフェナスとレニエルに確認をとる。

おそらく噂に名高い【迷いの森】に入る、ということもあり緊張しているのであろう。

二人の表情はどことなく固い。

「しかし、森にはいっても…迷いませんか?」

噂では森に一度はいれば森に漂う様々な魔獣や悪鬼達が迷い込んだ命あるものを迷わせ狂わせる。

そのようにいわれている。

川の周囲をたどれば森の近くまでたどり着くことは可能。

しかしそれは聖なる山ともいえるアロハド山脈より湧き出ている地下水脈。

それに連なる川が流れていることから川の付近に穢れし存在は近寄れない。

しかし、川から離れれば一転、そこはすでに魔獣の巣窟。

「案内版ともいえるこれがありますからね」

レニエルの言葉に答えるようにいまだにふわふわとティンの目の前に浮かんでいる球体を指し示すティン。

先刻、ティンがどこからともなく取り出した球体はいまだにとある方向を矢印にて指し示している。

その方向はティンいわく、目的の聖殿であり聖廟がある位置を指し示している、とのことなのだが。

しかし嘘ではないのであろう。

それだけはなぜか判る。

そもそもそんな嘘をつく必要もなければ、なぜかそれに関して疑う心もわいてこない。

元々、レニエルは他人を疑うことを知らない心の持ち主といっても過言でないが、

それとこれとはどうやら勝手が異なっているらしく、このたびの一件についてはフェナスとて同じこと。

なぜか疑う余地がない。

否、疑えない。

疑う気になりかけても、心のどこかでその疑いは間違っている、という心が働く。

このようなことは産まれてこのかた一度もなかったこと。

おそらく、その心は【自然界】の心をうけた無意識のうちの反応、なのだろう。

それだけはわかる。

自分の意思とは裏腹に心に思い浮かぶこと、すなわち【自然界の心】に他ならない。

いくら大地より離れているとはいえ、基本、彼女達【森の民】の本体は大地に根付いてこそありえるもの。

ゆえにいくら大地からはなれてもその繋がりが簡単に切れるはずもなく、

永き年月を得ても心の繋がりは絶えることなく続いている。

それは人によっては直感、ともいうべきもの。

しかしその直感が今まで間違っていたことは一度たりとてない。

それは一族における歴史からも証明されている。

「それってどこにいても場所を指し示すんですか?」

「この中心の点が精霊王の光を指し示しているんですよ。

  もっとも、周囲の光が精霊王が放つ光をさえぎっているのが見て取れますけど。

  だからこの光は何かとてつもなく鈍い、でしょう?」

まるで強い光を無理やりに何かで遮ったかのような黒く鈍く輝く点が確かに球体の中には存在している。

この球体も不可思議としかいいようがなく、手を球体にのばしても、

そこに何も存在しないかのごとくにすっとその手は球体をそのまま突き抜ける。

そもそもこれは立体映像のようなものなのでそこに実体は伴わない代物なのだが、

そのようなものに対して認識のないフェナス達にとっては不思議な物体としかいいようがない。

「拡大してみたらよくわかりますけど。どうやらここに捕らわれているのは二精霊王達みたいですね。

   ステラとクークの気配ですね。これは」

ここには二人以外の気配は感じられない。

おそらく別の場所に幽閉されているのであろう。

まあ、それがどこなのか用意に予測はつく。

しかしそれを今ここでフェナス達に説明する必要はない。

水の精霊王と土の精霊王。

土と水といった精霊王が捕えられているがゆえにこのあたりの土壌の質は果てしなく悪い。

まだ加護をうけている水がながれている川の近くならばましといえるが、

その川の水の加護をうけられなくなった大地は目に見えてやせ細っている。

それは力を逆に流していることにより、全ての力が結界を維持するために使われている結果であり、

ゆえにこの地において新たな命は望めない。

そこまでひどい負の空間がこの場には出来上がっていたりする。

「人はどうして自らのよくのためならば他者の命をないがしろにするのかしら……」

それは何もこの世界においていえることではない。

むしろティン達のいる世界でもそのようなことは多々とおこりえていた。

全ての命が平等にいきる世界。

始めのころはうまくいっていたのに、

ある程度の知能や文明を持ち始めた人類がなぜか毎回同じような過ちを繰り返す。

過ちから学んで二度と愚かなことをしないように心掛けるのならまだよい。

しかし同じ過ちを二度、三度も続けていればさすがに呆れるより他にない。

ここまで蔓延してしまった負の連鎖はそろそろこのあたりで断ち切らなければ、

おそらくそれに付随した心弱きもの達が我も我もと続いてしまう可能性が高い。

「…ま、全員をたすけだした後に関係者達にはそれなりに処罰はうけてもらいますか」

何やらぽそり、とある意味恐ろしいことをいっているティンであるが。

そのティンのつぶやきは幸か不幸かフェナスとレニエルには聞こえていない。

「…つまり、土の精霊王様と水の精霊王様が捕えられている…と?

  それでそこまでわかるのですか?」

自分達にはただの光にしかみえないそれでそこまで確定できるものなのか。

ゆえに思わず驚きながらもといかけるフェナス。

神獣であるクレマティスが言っていたとおり、毎回驚いていては精神がもたない。

ゆえに【彼女だから】という概念をもって接していかなければ、

今後も理不尽極まりないことは多々とおこるであろう。

心のどこかで割り切れてはいないが表面上はそのように割り切りつきあってゆくしかない。

内心の心の動揺をどうにか押し殺し、戸惑いつつもといかけるそんなフェナスに対し、

「あ~。そういえば、精霊王達の【光の色】はあまり認識されてないんだっけ?

   まあそれは仕方ないけど。強い光だからただ眩しい、という認識しかないでしょうしね~」

基本的に彼らにはそれぞれ特性である【色】を持たせている。

とはいえその力の大きさによって光もまた大きくなるがゆえに、

認識できる光はどの精霊王も同じ強烈な光、という認識でしかない。

そんな会話をしつつも、やがて大地が川の加護をうける範囲から外れたらしく、

目にみえるほどに先ほどまで大地に生えていた小さな草木が枯れ果て、

さらには大地そのものがひび割れている様が目の前にひろがってゆく。

その先に鬱蒼と茂る森らしきものが目にはいるが、それもさらにちかづいてゆくと普通の森ではない。

というのが一目瞭然。

昔はそこに生えている木々は通常の木々が生えていたのであろう。

しかし、今そこに生えている木々はそれぞれの形が歪にまがりくねり、

さらにはかろうじて葉っぱらしきものがあるにはあるが、

それらの葉の色も全て黒、もしくは茶色に彩られている。

木々も触れれば瞬く間にもろく崩れ去るものから、朽ち果て簡単に折れるもの。

ゆらゆらと何か木々が動いているようなものが視界の端にはいるような気がするのは気のせいか。

ごくり、と思わず無意識のうちにノドをならしたくなるような光景が目の前には広がっている。

森の近くまでたどり着くと、その先は果てしない暗闇に包まれており、

いまだに明るいはずなのに森らしきその中はなぜか光が一筋もはいりこんでいない様子が見て取れる。

「これが…迷いの森…別名、死の森……」

この地に入り込んだ同胞がそのまま取り込まれてしまったという話しもきいた。

なすすべもなく仲間が取り込まれてゆく様を見捨てて逃げ出すより他になかった仲間達。

今もまだ生きているのかすらわからない。

しかし彼らの寿命から考えれば生きている可能性も捨てきれない。

生きているかぎり、そして【王】がいる限り、いずれ助けだせる可能性も捨てきれない。

話しにはきいていたが実際にその光景を目の当たりにし思わず茫然とした様子でつぶやくフェナス。

「…命の息吹が…一切感じられない…もり?」

そんな場所は今までなかった。

そこにたしかに森は存在しているはずなのに、そこに命の息吹がまっくたもって感じられない。

強いていうならば静寂。

まさにそのひとことにつきる空間が目の前には広がっている。

ゆえに戸惑いを隠しきれずにつぶやいているレニエル。

そんな二人をみつつ、

「さ、二人とも。入口で茫然としてないで。さくっといきますよ。

  たしかにこの中は光の加護もはいりこみませんけど。

  ここからはすでに暗黒結界の中。心してくださいね」

この森すべてが逆五紡星の結界の中に組み込まれている。

ゆえにこの結界の効果はある程度の上空まで作用している。

山の頂上から見下ろせば巨大な黒き星がこのあたりに存在しているのが見て取れるであろう。

もしも、フェナス達が滝より船にて落下するとききちんと目を見開いて目視していたならば、

その過程においてこの地を包んでいる黒く光る星の存在を確認できたであろうが。

しかし気絶していたフェナス達は当然そんなものはみていない。

森の入口付近において思わず立ち止まるそんな二人をそのままに、

そのまますたすたと歩きはじめてゆくティン。

ティンにとってはこんな結界はあるいみ子供だましのようなもの。

ひとまずこの結界の中だけ、ならばフェナスやレニエルも入り込める。

もっとも、入り込んだとたんに捕獲対象、として認識されることとなるが。

まあそれらも覚悟の上でついてきているはず。

ゆえにそれらを説明することなく、そのままティンは森の中へと足を進めてゆく――

次回で森の異常性を上手に表現できるかどうかが微妙…

脳内にはきちんと光景はあるんですよ?あるんですけどねぇ・・・

まあ、まだ幼き【王】には頑張ってもらう予定です

・・・さて、こちらは楔の気分転換がてらにうちこみしてるので、

次回はまたいつになるか不明です・・・



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