ACT-8 ~神の使い…聖獣~
サブタイトルを悩んだ末に無難なところに
とりあえず更新のんびりまったりと打ち込みしてるゆえに遅くなってすいません・・
今回もまたまた話はすすんでないです
ようやく洞窟の入り口…
まあ、次回でさくっと洞窟は抜ける予定(あくまで予定)です。
ピション……
どこからだろう。
とてもここちよい水の感触。
ああ、この感覚。
いつも動けなかった自分に向けられていた温かな感情と、定期的に与えられる新鮮な水。
「…ん…あれ?」
ぼんやりとした意識を覚醒してみれば、そこはどこか見知らぬ場所。
あれ?船の中じゃ…
そうおもいかけ、
ああ、そういえば、謎の少女とともに仲間を助けるために、とおもって一緒にきたんだった。
今自分が置かれている現状をすぐさまに思い出す。
ゆっくりと開けた目に移り込んできたのはフェナスが自分を見下ろしている姿。
「あれ?フェナス?」
みればどうやら自分はフェナスの膝を枕にして眠っていたらしい。
そのことに気付いて思わず顔があかくなる。
この状況ははっきりいってかなり恥ずかしい。
どうやらフェナスの膝を枕にして丸まるようにして眠っていたらしい。
まるで母のぬくもりを求める子供のごとく。
「お目覚めになられました?」
向けられてくる視線がとてもここちよく、だからこそ恥ずかしくなってしまう。
…自ら動けるようになって、自分できちんと行動できるようになったのに、
まだ彼女にはどうやら迷惑をかけているらしい。
「うん。…って、ここ、どこ?」
感じる空気がとてもここちよい。
魂の奥底にある神聖なる空間に似通ったその空気。
ゆえにおもいっきり横になったまま上半身を起こし背筋を伸ばす。
吸い込む空気も多少ひんやりとしているものの、どこにも穢れはかんじられない。
どこまでも神聖なそれは、精霊達が加護をしている特殊な空間を思わせる。
「レニーは歩くのに慣れていませんでしたからね。途中から私がおぶったのは覚えていますか?」
「う…うん」
かなり渋ったが、自分のせいで足の進みが遅くなるのも嫌なので、
あえてフェナスの提案にのったところまではおぼえている。
レニエルが自らの記憶をひっぱりだしているそんな中。
「あ、レニーも目がさめた?とりあえず、もうすぐ日がのぼるし。
二人とも、そこの泉で水浴びしてきたらいいですよ。
そういえば、何か朝食、いります?いるなら用意しますけど?」
常に亜空間収納パックの中には必要最低限以上の食べ物をいれるようにしてある。
もっとも、その中にはこの世界には存在していない食べ物なども多々とはいっているのだが。
そこはそれ。
どうやら泉の傍で眠っていた…といっても、一人はレニエルを守るためにほとんど寝ていないが。
とにかく二人が目覚めたのを確認し、
竹林の中へちょっとした用事があっていっていたティンがそんな二人に声をかける。
このあたりの竹林の精霊は自分達の王がまだ幼いこともあり、その力のすべてをもってして、
このあたり一帯に簡易的な結界を施している。
ゆえに、このあたりには普通ならは近づくことすら許されない。
一歩、竹林に足を踏み入れただけで、その存在はしばらく竹林の中において迷うこととなる。
もっとも、聖なる地で誰かが死ぬようなことがあってはならないので、
自然と竹林の出口に誘うように処置を施していたりするのだが。
しかし、意思ある精霊が宿っている竹、というのもそうそういない。
ゆえに、一応注意するように伝えるために林の中にはいっていっていたティン。
とりあえず、ケティヒにより強い力の媒体を渡しておいたがゆえに、
ここが侵略される心配はあまりないではあろうが、念には念を、というのがティンの信念。
「いえ、大丈夫です。でも…いいんですか?」
精霊が宿っている神聖な泉。
さらに正確にいうならば、
この泉の中央には、この地を守護せし存在の一角である、クリノと呼ばれし存在が眠っている。
正確にいえば眠っているというよりは今現在は成長過程にあり、ゆえにまどろんでいる状態。
その状態はフェナスとてよりよく理解している。
そんな神聖なる泉に自分達がはいっていいものか、
というか精霊の許可もなしにそのようなことをしてもいいものか。
ゆえに戸惑いを隠しきれない。
「いいのよ。ケティヒには話しはとおしてあるし。それにあなた達なら何の問題もないでしょ?
何しろ、二人とも森の民、なんだから」
逆をいえば、森の民である二人が泉につかることにより、よりクリノに注がれる力は増えることとなる。
…正確にいうならば、レニエルがつかることにより力は格段に強化される。
輝きの王、と呼ばれし存在。
レニエル。
彼の存在は自然界にとって、また植物達にとっても希望に他ならない。
まだ完全にその力を発揮することはできないものの、いずれは完全にその力を自分で発揮するようになるであろう。
もっとも、覚醒を果たした後に、嫌でもティンの正体が一体【何】なのかを理解することとなる。
ゆえに、今現在のレニーにわざわざティンも説明するつもりはさらさらない。
「…?ケティヒ?」
眠っていたがゆえに、その名前には聞き覚えがなく、ただ首をかしげるレニエルに対し、
説明していいものか迷いつつ苦笑だけにとどめ、
「ならお言葉に甘えさせていただきましょう。今日もしばらく歩くようなんでしょう?」
聖なる泉の水を体内に吸収することにより、より能力もたかまる。
彼らは基本、普通に水につかるだけで、その肌より水分を吸収することが可能。
もっとも、大気中の水分も吸収することができはするが、それらは自らの意思でコントロールが可能。
「まあ、お昼ごろまでにはつけるかな?」
話しあいの末、迷いの霧がかの近くに道が繋がることになっている。
本来、この周囲に常に漂っている霧は、侵入者の感覚を狂わし、
その力をもってして別な方向にと導くもの。
時折、その霧に魔力をこめ、短距離ならば簡単な空間移動も可能、となっている。
もっとも、それらを行う場合は、大気中の霊力をかなり扱うことになるがゆえに、
滅多と精霊達は行わないが。
このたびにおいては、その力の提供者が別にいる。
ということもあり、彼らの力の疲弊には結びつかない。
むしろ、ティンが力を発揮することにより、逆にこの地の精霊達により力が補充される。
ティンが提案した条件はただひとつ。
彼らに霧を発生させてもらうこと。
ただ、それだけ。
その霧に霊力を充満させることにより、フェナス達に気づかれることなく、
短距離ではあるが空間移動を行ってしまおう、という魂胆。
すでに、この泉以外の周囲にはゆっくりと霧が深くたれこめはじめている。
朝霧、とでも表現すればいいであろう。
うっすらとした明かりの中、霧が発生し、周囲を真っ白な空間にと変化させていっている。
「そうですか。…しかし、霧が深い、ですね…大丈夫なんですか?」
あまりに霧が深いと前後不覚になり迷う可能性が高い。
この状況で出発しても大丈夫なのか不安におもい、とりあえず確認の意味をこめて問いかけるフェナス。
「まあ、この霧は害意あるものだけに反応する性質のものだし。
フェナスさん達は別にこのあたりに対して害意はもっていないでしょう?」
自然を傷つけようとする輩やこのあたりの生態系を狂わそうとする敵意あるものには容赦がない。
しかし、そうでけなればこの霧はだたの霧でしかない。
つまり、まったく関係なのいティン達にとっては普通の霧と同様、
別段、何も気をつける必要性はさらさらない。
「は…はぁ……」
精霊と知り合いであることにも驚愕したのに、さらっと何かとてつもないことをいわれ、
ただただ何といっていいのかわからない。
しかし、その言葉に嘘はない、となぜだか確信がもてる。
精霊が敬意を示している謎の少女。
それだけでも十分、信用するに値する。
しばしそんな会話をやり取りしつつ、
とりあえず、二人してその身を泉で一度、清めることに――
よく、地上の海、とは誰がいったものであろうか。
周囲を見渡せど霧が深く、その霧はどうやら竹林の上のあたりにまで及んでいるらしく、
霧に反射して鬱蒼としている竹林の中においても白い光が充満している。
といっても、霧に太陽の光が反射し、きらきらと輝くその光景は、
まるで光の中を押し進んでいるかのごとく。
もしも空からこの場を眺めたならば、雲を突き抜ける山脈の下。
そこにもまるで雲のごとくに広がる霧の海を垣間見ることができるであろう。
本来、常にこの場はこのような深い霧に覆われており、ティン達がこの地にやってきたときに、
霧がなかったのは森に立ち入った時点でティンがその来訪をわかるようにそっと木々に伝えたからに他ならない。
それゆえに一時的に霧は取り払われていた。
その歩みの妨げにならぬように。
ティンの波動はこの地にいきるものにとっては特殊すぎるもの。
その大いなる波動を間違える輩はまずいない。
それでも、フェナス達が気づかないのは、あくまでも外見にとらわれているがゆえ。
伊達に知能をもった輩はどうしても、その内面ではなく外見で判断してしまう。
物事の本質をなかなかにつかめない。
もっとも、その身に透視できないように結界を纏っているティンの事情は、
知ろうとおもっても知りえることすらできないであろう。
「は~。すごい、霧、だな」
油断をすれば白い空間にそのまま放りだされてしまいそうな、それほどまでに深い霧。
ゆえにその光景を眺めつつも足をすすめ、周囲の竹の感覚だけを頼りにひたすら歩くフェナス。
迷子になってはいけないから、というのでフェナスとレニエルは先ほどからずっと手をつないで歩いている。
これほどまでに霧がふかければ、どれほどあるいているのかすらわからない。
しかし、霧、というのは基本的、その主成分は水。
水と大地、そして適度な光。
ゆえにフェナスとレニエルからしてみれば、この条件はあるいみ幸運、といえる。
普通にあるいていても、自然と周囲に満ちている霧から必要なだけ水分を吸収することができ、
光も適度にあることから、つかれも感じない。
基本、彼らの種族は光と水があれば多少の栄養素がなくてもどうにかなる種族。
しかも、この霧にはかなりの【力】が秘められているらしく、霧に囲まれているだけで、
何だか力が湧いてくる、そんな感覚におちいってしまうほど。
実際に、彼女達の力は満ちているのだが、その事実に気づくことなく、
「そうですね。でもとてもここちがいいです」
感極まったようにつぶやくフェナスに続き、深呼吸しながらもにっこりといっているレニエル。
そんな二人の様子をみつつ、
「そろそろ、この霧をぬけますよ。この場を抜けたら洞窟はすぐそこですから。
とりあえず、洞窟の入口のところで一度休んでからいきます?それとも中でやすみます?」
洞窟の中にも多々と休める場所は存在している。
しかし、それは通常の状態ならば、という注釈がつく。
今、どのような状態になっているのか、実際に確認してみなければ何ともいえない。
どうやら周囲の竹の精霊達がいってくるには、洞窟の入口付近に今現在はいるらしい。
ここ百年以上、そこから動いていないと報告は一応うけている。
いるが当事者から話しを聞かなければ何ごとも進まない。
そんなことを思っているとは微塵も表情にださず、
背後からついてきている二人にむかって振り向きざまに確認をこめてといかけるティン。
ティンがそう問いかけたとほぼ同時。
さぁっ。
先ほどまで前も後ろも、横もまったく霧の白い空間しか見当たらなかった景色。
今までの光景がまるで嘘のようにさっと白く輝く空間が取り除かれる。
ばっと背後を振り向けば、そこには霧の壁がしっかりと存在しており、
どうやらとある一角を起点として霧の発生条件が決まっていることが見て取れる。
背後を振り向けど、そこには霧の壁ともいえるべき、奥すらみえない真っ白い壁が存在しているのみ。
先ほどまで歩いていた竹林の姿は影も形も確認できはしない。
それほどまでに白い霧は深く、深く垂れこめている。
その白い壁は見上げてみればどこまでもつづくかのごとくに続いており、
どうやらかなりの高さまで霧で覆われているらしい。
そのことにある意味感心しつつも、逆にあるいみ納得してしまう。
おそらく、この霧はあの泉の聖地を守るためのものであり、
自分達があの地に入り込んだ時霧がなかったのはたまたまだったのか、
はたまた何かの意思がはたらいたのか…それはわからない。
しかし、この霧があるからこそ、あの泉の聖地は発見されることなく守られていたのであろう。
そう簡単に予測がつく。
かつて、彼女達が暮らしていた地もそのような森の聖地であった。
しかし、王が死去し、次が誕生するまでの間、その隙をつかれて侵略されてしまった。
それでも、かろうじて【王の卵】を持ち出せたのはあるいみ幸運、といえたであろう。
ふと、今はかつての面影すらとどめない故郷のことを思い出し、感慨にふけるフェナスとは対照的に、
「とりあえず、ここからもみえますよね?あそこの山のふもと。そこに入口があります」
みればたしかに、森の先に存在している山のふもとのような壁のようなものが見て取れる。
切り立った断崖絶壁のようなその岩肌は、周囲の何も寄せ付けない雰囲気を醸し出している。
にこやかに、とある一点を指し示すティン。
ここからでは木々にさえぎられ、そのふもとに何があるのかはわからないが、
しかしその壁の周囲に水晶らしきものが垣間見えているのは気のせいか。
ふとそんな疑問をいだくフェナスに対し、
「あの地は水晶を含んだ地脈でもありますからね。
なので洞窟の中も水晶と鍾乳洞とが混合してとてもきれいなんですよ?」
実際、そのようにしたのはほかならぬ彼女自身。
きらきらと洞窟内に設けられている光りゴケがそれらをほどよく照らし出し、
いわば幻想のような光景をかもしだしていたりする。
その光景をふと思い出し、口元に笑みを浮かべ、
「ま、百聞は一見にしかず、ですよ。さ、いきましょうか」
霧が晴れたことにより、ようやく空に青空がみえている。
しかし山の近くということもあり、当然太陽の姿はみえないものの、
霧を抜けてみれば、周囲はどうも薄暗くなってきていることから
どうやらかなりの時間、あの霧の中を歩いていたらしい、と自覚する。
霧は常に太陽の光を反射していたがゆえに、どうしても感覚的に感じる時間の概念が狂っていた。
ゆえにどれほどの時間歩いていたか等、フェナスもレニエルも自覚していなかった。
霧を抜けた段階で、かなりの時間歩いていたことに気づき思わず驚きの表情を浮かべている二人に対し、
にこやかに話しかけているティン。
ここからも切り立った山肌はしっかりと目視することができる。
すなわち、もうさほど目的の場所まで距離がないことを指し示している。
口にだしていないのに、こちらの不安を見透かされたようで、そこまで自分は表情がわかりやすかったか。
と思い、自らを戒めるフェナス。
そしてまた、
「どうやらかなりの時間、あるいていたんですねぇ」
そのことに逆に驚きの言葉を発しているレニエル。
霧の中をあるいている間、なぜか疲れを感じなかった。
おそらくは、あの霧に自分達の力の源となる【力】が含まれていたのであろう。
そういえばこころなしか体調もすこぶるよい。
常に線上にて生活していたときよりも、体の感覚がかなりはっきりと感じ取れる。
そんな二人に対し、
「とりあえず、じゃ、いきますか」
今現在、洞窟の中がどのようになっているのかまではティンとてわからない。
それゆえに、二人を伴い、それ以上説明しないままにと、
視界にはいる山肌にむかい、ひとまず足を進めてゆく――
「「…すごい……」」
思わず漏れ出した声は二人同時。
木々が生い茂る場を抜けるとやがて見上げるほどの切り立った岩肌に、
それでいて、その周囲に生えているのか、それともつきだしているのか。
様々な色彩をもっている水晶の原石らしきもの。
紫、青、桃、黄、黒、赤等。
小さなものから大人の背丈ほどもあるであろうかとおもわれる原石らしきものが
ところせまし、と周囲にあふれかえっている。
そしてまた、切り立った山肌の地面と接触しているあたりの部分。
そこにちょっとしたぽっかりとした空洞らしきものがあいており、
おそらく、何ものかの手が加わっているのであろう。
その穴の周囲には奇麗に整えられている同じ大きさの水晶が奇麗に一直線にとならべられており、
まるで水晶の道のような雰囲気を醸し出している。
実際、その目的でこのような配置になっていたりするのだが、
始めてその光景を目の当たりにするものは大抵、そのあまりの美しさに絶句する。
周囲には魔力が満ち溢れているらしく、その魔力に反応して、
水晶の原石達はよりきらきらと簡易的ではあるが輝きを放っている。
水晶と魔力は愛称がよく、ゆえによく魔力の媒体、としても使用される。
もっとも、ここにある水晶はこの地に満ちている魔力と呼応しているだけであり、
各水晶群に特殊な力が宿っている、というわけではない。
きのせいか、山肌にぽっかりと開いている穴の周囲には、
どうみても模様?とおもえるような水晶の配置となっており、
ちょっとした特殊な芸術のようにもみえなくもない。
よくよくみれば、その山肌に埋め込まれているのか、もしくは生えているのかは不明なれど、
大小様々な色彩の水晶の原石達がとある一つの生物を表現しているように見えなくもない。
そして、それは、穴の左右、そしてその上部分にとそれぞれ、左右は対となるように、
そして上の部分のそれらは見降ろす形で形勢されている。
「「…竜?」」
それらはどうみても竜の姿にしかみえない模様。
両脇の竜にみえるそれらは何かそれぞれ対となるようにその手に何かの球をもっているように、
その部分のみの水晶が奇麗に丸く形どられ、よりその模様が何ものかの手によりつくられている。
という信憑性を物語っている。
それゆえに思わず同時につぶやいているフェナスとレニエル。
あの霧を抜けて人がここまでたどり着ける、とはおもえない。
ならば精霊達がこのような模様をわざわざ作り出すか、といえば答えは否。
ならば別の何ものかがこれらをここに刻み込んだに他ならない。
しかし周囲に何ものかが暮らしている痕跡はまったくない。
「ここはクレマティスの守護聖域だからね~。さ、いきますか。
ちなみに、この穴がこの山脈をつきぬけている鍾乳洞の入口ですよ」
ここより奥にはすでに雲をも突き抜ける山脈群しか存在していない。
普通ならば、その山脈をこえるには、遠回りして海路を通ってゆくしかない。
しかし、ティンが示しているこの道は、山脈の地下を通るものであり、
ゆえにわざわ山を一周しなくとも、そのまま目的の場所にたどり着くことができる。
その名は、昨日の【泉】で聞いた。
ここでその名を再びきくとはおもわなかったが。
しかし、しかしである。
この話しの流れからして…まさか、その名をもつものもまさかまた精霊…とかいわないわよね?
そんなことを思わずフェナスは思うが、しかしあくまでも推測。
あの精霊に出会っていないレニエルにきちんと説明できるかもどうかわからない。
結局のところ、かの地を出発するまで、あの精霊は二度と姿をみせることはなかったのだから。
つまり、裏をかえせば、ティン・セレスに挨拶するためだけに姿を現した。
と考えたほうが無難である。
湖にて窮地にたっているところをすくってくれた魔術師…の認識であったが、
もしかしたら違うのかもしれない。
そもそも、精霊達に敬意を示される魔術師などいまだかつてきいたことがない。
精霊王と契約を交わした、という魔術師ならば名前は絶対に世間に知られている。
しかし、ここ数百年、精霊王は人前に姿をみせたことすらない。
その理由はいうまでもなく……
「ここが、入口…なんですか?」
どうみても普通の洞窟…といったら多少の語弊があるが、
入口付近にどうみても何ものかの手がはいっている飾り細工のようなものがある場所が、
どうして普通の洞窟である、といえようか。
戸惑いつつも問いかけるレニエルに対し、
「まあ、入口、といえば入口だけどね。さ、いきますか。
あ、つかれてたらここでしばらく休むこともできるけど、どうします?」
おそらく、あの霧に含まれている【力】もあり、二人はさほど疲れていないどころか、
逆に元気がありあまっているであろう。
そう予測がつくものの、とりあえずレニエルとフェナスに問いかけるティン。
自分一人ならばこんな道を通らずともさくっと移動も可能なのではあるが、
同行者が加わっている以上、普通の陸路をゆくしかない。
もっとも、ティンがここにきたのは、クレマティスの状態を確認する目的もまたあるのだが。
「レニーはどうする?」
あくまでフェナスとしてはレニエルの意向を尊重したい。
それゆえに、レニエルに対してといかける。
そんなフェナスに対し、
「僕のほうは大丈夫です」
そもそも体調的にも何の問題もない。
むしろ元気が有り余っているようにも感じられる。
「というわけだ。私たちのほうは問題ない」
遠慮していっているのではなく本気でいっていることを悟り、心のうちでほっとしつつも、
その表情を表にだすことなく淡々とティンに対して返事を返す。
「わかりました。それじゃ、いきましょうか」
いいつつ、洞窟の中にはいってゆこうとするティンに対し、
「しかし、洞窟の中での光源確保はどうするのだ?」
おそらく山脈が山脈。
どこからか太陽の光が入ってきているなどと都合のいいことはないはず。
つまり、いくら鍾乳洞というのが事実だとしても、洞窟内はかなり暗いであろう。
かといって、閉じられた空間内で炎などをつかえば何がおこるかわからない。
「ああ、それは大丈夫ですよ。この洞窟。ある場所からきちんと光りゴケが自然群生してますから」
「「・・・・・・・・・・・は?」」
光りゴケ、とはすでにこの世界では滅多と見なくなったあるいみ幻の植物、といわれている品。
実質的には菌類に入るのであるが、その姿形、として世間一般では植物として認識されてしまっている。
嘘かまことかはわからないが、精霊王達がその住み家としているとある神殿にその植物は群生、
しているらしい。
もっとも、精霊王達のその神殿をみたものはまずいないのだが。
まあ、暗いのが面倒、という理由でそのようにしたのはほかならぬティン自身、ではあるのだが…
そのことは別に説明する必要はまったくない。
さらっと答えた後、そのままそれ以上のつっ込みをまつことなく、
すたすたとぽっかりと開いている穴の中へと足を踏み入れてゆくティンの姿。
「おいていきますよ~?」
「あ、ああ」
すたすたと先にすすみつつも、いまだに入口付近で躊躇している二人にと語りかける。
そんなティンの言葉にはっと我にもどり、あわてて、レニエルの手を握り、
洞窟の中にと足を踏み入れてゆくフェナス。
「・・・・?」
何かこの奥から強い力を感じるのは僕の気のせいでしょうか?
一方、一人その感覚を感じ取り、多少なりとも首をかしげているレニエル。
それぞれがそれぞれ様々なことをおもいつつも、三人はそのまま洞窟内部へと進んでゆくことに。
入口にと装飾されていたとしかおもえない水晶でできた竜。
この世界の竜には二種類あり、【竜】とよばれしものと、【龍】、とよばれしものがいる。
【龍】と呼ばれしものは、一般の人々にも認識されており、
時には人に害を及ぼすこともあり、知能をもった誇り高き龍、という認識でまかり通っている。
一方、【竜】、とよばれし存在はといえば、それらは精霊神の使い、ともいわれており、
その姿もまたどちらかといえば大型の蛇に似通った形をしている。
その長き体に四本の手足。
竜の属性によって色彩は様々で、逆にその姿をみることができればいいことがある、
とすらいわれている神聖なる存在。
そして、入口に装飾されていた姿は文字通り、神聖なる竜の絵姿としかみえなかった。
洞窟の中に足をふみいれると、うっすらとで入口のほうから明かりが差し込んではいるものの、
中はどちらかといえば薄暗い。
洞窟の横幅もちょっとした広さがあり、三人が並んで歩いていても余裕があるほど。
斜め下にむかって洞窟の道らしきものは続いているらしく、
その下のほうからほのかに明かりらしきものが漏れ出してきているのが見て取れる。
ゆっくりとした傾斜の道の角度は歩くのに疲れもせず、かといって早歩きにもならずといった角度であり、
普通にあるいていてもあまり疲れない程度。
足元の土もさほど固くもなくそれでいて柔らかくもなく、
踏みしめる感触は大地のそれとあまり変わり映えがしない。
異なるのは天上、そして左右より、ところどころ水晶の原石らしきものがつきだしている、ということくらいであろう。
ザァァ……
ふと歩いているとどこからか水の音らしきものがきこえてくる。
しかしこのような場所で水音などするものなのか。
それゆえに、思わず首をかしげるレニエルとフェナス。
そんな二人にと気づき、
「ああ。この水音ですか?これは地下水がこの下に地下水脈となって流れてるんですよ。
この山脈の地下には雪解け水などがたまってますからね」
実際、この山の頂上部分は常に万年雪が積もっている。
ゆえにいつも溶けだした雪解け水が地下にとたまり、豊かな地下水をうみだしている。
それらは山の内部を通り、やがて山肌より滝のごとくに大地に降り注ぐ。
そして降り注がれた地下水は川となり、それらは泉、または海にむかってながれゆく。
地下水がある云々はまあわかる。
わかるが、どうしてここまで水音がしているのか。
その答えを二人としては知りたいのだが、どちらにしろ説明しなくともすぐにわかること。
ゆえにそのまますたすたと立ち止まることなく歩みを進めるティン。
進むたびにだんだん水音が強くなってきて、始めは軽い音だったそれが、
進むにつれ、
ズドドド…
何だかかなりの量が流れているのではないか?とおもえるような音にとかわってくる。
やがて、進むにつれ、だんだん視界の先が明るくなり、
あるくことしばし。
やがてその視界の先がぽっかり開く。
そこはどうやらかなり広い空間になっているらしく、ぐるり、と周囲を見渡しても左右の壁が視えないほど。
その壁にはいたるところに光りゴケらしきものが群生しているらしく、
その空間全体がほのかにほどよく光っており、視界にまったく困らない。
ふとみてみれば、どうやら先ほどまでの轟音は、壁の一角より流れ出ている水の音だったらしく、
まるで滝のごとくにゴウゴウと音をたてて、水が壁より湧き出しているのが見て取れる。
そしてその水はそのまま一つの流れとなり、地下だ、というのにかなり広めの川を作り出していたりする。
しかも、光があり、さらには水があるせいなのか、
その周囲にちょっとした木々もまた生えていたりするのが何とも不思議といえば不思議な光景。
開かれた空間のいたるところに水晶の原石群が顔を覗かしており、
さらには滑らかな洞窟の天井や壁面には
この地の主たる成分である石灰岩の溶食によってできた特徴的な溶食形態が見うけられる。
といってもここはいまだに完全なる鍾乳洞の入口付近になるのであろう。
地表における溶食形態はさほど目立つようなものはなく、
どちらかといえば三角錐のような突起物が多々とめだっている。
それらの突起物は滑らかな金色っぽい輝きを保ちつつ、
それでいて、天上から絶えず落ちてきているとおもわれる水滴らしきものをうけている。
思わずその幻想的、ともいえる光景に絶句するものの、
ふとその場にて違和感を感じるフェナスとレニエル。
よくよくみれば、開かれた空間の一角。
なぜか段差になっている場所があり、それらは巨大な岩のように見えなくもない。
まるで、先にすすむのを拒むかのような形のこんもりとしたその巨大な何か。
それらはどうやら奥につづくとおもわれる穴の前の部分に存在しており、
それを超えてゆかなければこれより奥に進めそうにない。
しかし、しかしである。
その山のようなそれにはなぜか滑らかというか艶やかな輝きをもついくつもの小さな何か、
が存在し、さらにいえばそれより感じる圧倒的な何かの気配。
洞窟の天井部分にすら届くのではないか、というその巨大な何か。
二人が絶句しそれより感じる気配に圧倒されているそんな中。
「あ、いたいた~。クレマティス。お疲れさま~」
のんびりとしたティンの声が、【それ】にむかって発せられる。
と、同時。
ズッ…ズズズ…
洞窟全体が揺れるような振動がおこり、次の瞬間。
『…ティンク様!?どうしてこのような場所に!?』
ゆっくりと巨大な顔らしきものを頭上よりもたげてきたソレより発せられてくる声。
それから声が発せられたのかどうかすらわからない。
しかし、なぜかわかる。
直接心にひびいてくるようなその声には圧倒的な力が含まれている、ということが。
ゆえにその場にて硬直するより他にない二人に対し、
「どうして。って。なんか面倒なことになってたからね。
しかし、クレマティス。あなたも律義よねぇ。わざわざあなた自身でここの瘴気の浄化を図らなくてもいいのに」
彼の眷属に命じても問題はないはず。
なのに彼自らがおこなっている、ということから彼のまじめさ具合がうかがえる。
『我はここを守るべき責務がありますゆえ。
しかし、申し訳ありません。あなた様の手をまさか煩わせる結果となるとは…
……我としては見きりをつけたほうがいい、とはおもったのですが…
何ぶん、彼らが否、といっていたものでどうしようもなく……』
今でも自分達が解放されると眷属達に被害が及ぶ。
とばかりに唯々諾々と捕えられている現状。
それを思うと思わずため息をつかさざるをえない。
よくよくみれば、何かの巨大な山のようにみえたそれは胴体、であり。
長い蛇のようなその胴体はかるく数千年の樹齢を得た大木ほどの太さがあり、
その背にはびっしりと背びれらしきものがついており、
そして腹側以外にびっしり全身をうめつくしている巨大な鱗の数々。
手足とおもわしきそれらは、前部分と後ろ部分、二か所のみについており、
その指の数は三本。
指の先に生えているとがった爪は何ものをも切り裂く頑丈さを持ち合わせている。
頭の部分に生えている角らしきそれらは金色にと輝いており、
その存在が通常の生物ではないことを暗に指し示しているようにみえなくもない。
口を完全に動かしていないにもかかわらず、伝わってくる『声』。
しかし、それからしてみれば当然、といえば当然のこと。
「でしょうね。彼ら、甘いからねぇ。ま、とりあえずそのあたりの話しはまたあとにするとして。
とりあえずさくっと用事だけでもすませようとおもってね。
あ、あと竜玉に力を補充しておくからそれに任せてわざわざここにいなくてもいいわよ?」
本来、瘴気の浄化程度ならばちょっとした竜玉一つでどうにかなる。
にもかかわらず、竜玉をも、眷属をもつかわずに我が身をもってして瘴気を浄化していたこの【クレマティス】。
「…あ、あの?…もしかして…聖竜…様、ですか?」
聖竜。
それは精霊達とは別に自然界を見守っている、といわれている四代元素と同等の位置にといる聖なる存在。
もしくは神竜、神獣、ともよばれ、世界神の使い、ともいわれている聖なる存在。
…そんな存在である竜とさらっと親しげに会話しているティンを信じられないようにみているフェナス。
昨日の精霊のことといい、このたびの神獣のことといい。
どうみてもそれらは神話などにでてくる神獣の姿そのもの。
この洞窟の入口に刻まれていた姿そのもの。
恐る恐る問いかけているレニエルとは対照的に、その場にて硬直するしかないフェナス。
『…うむ?輝ける王、か。いかにも。我はクレマティス。
この地をまもる霊獣なり。まだ幼き若き王よ。汝がこの地に出向いた目的は何ぞ?』
どくり。
問いかけられ、魂そのものが震える感覚に陥ってしまう。
しかし、自分に対してといかけられたその問いに答える義務が自分にはある。
それだけはわかる。
それゆえに。
「僕は…いえ、私は私の役目をはたすべく、仲間の救出にむかうべくこの地にでむきました。
何ごとも受け身でいるわけにはいきません。私は私の果たすべき使命を行うためにここまきました」
そう。
自分が動かなければ話しにならない。
守られているだけ、それでは一族の未来はない。
今こそ変革の時。
自ら考え、そして全てをうけいれ、そして成長してゆく。
今まで自分達の一族にかけていたもの。
『よくぞもうした。しかし、よもやティンク様と共に来訪するとはおもっていなかったぞ』
「クレマティス。どうでもいいけど、先を急いでいるんだけど?
あ、そういえば例の船はかってに使っても問題ないんでしょ?」
これ以上会話をさせていては余計なことを話しかねない。
ゆえにさくっと会話の続きをさえぎり、クレマティス、と名乗りし【竜】へと問いかけるティン。
『それは問題ありませんが…では、その地まで我が案内いたします』
そう、クレマティスと名乗った竜がつぶやいたその刹那。
周囲にまばゆいばかりの光が満ち溢れる。
「改めて、人型にて失礼いたします。ティンク様」
あまりの眩しさに目をつむっていたフェナスとレニエルが目を開いたその視界に入ってきた光景。
それは…
それまでいなかった黒き髪に黒き瞳をもつ二十歳そこそこくらいであろうか、
異様に整った顔立ちの青年がその場において、ティンの目前で膝まづいている姿。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
その青年が【何もの】なのかすぐさま理解し、しばしその場にて再び沈黙し硬直するしかないフェナス達。
ありえない。
そう、絶対にありえない。
神の使い、ともいわれている霊獣である竜族が。
なぜにどうして、ティン・セレスの目前でひざまづいているのか。
しかしそのありえないことが実際に今目の前にておこっている。
ゆえに、しばし二人の思考は完全に停止状態となりはててゆく……
ようやくクレマティスさんの登場!
ちなみに、この竜。
実は竜王だったりする裏設定v
クレマティスの竜形態の容姿は日本古来における伝説の竜と変わりありません。
中国の伝説よりどちらかといえば日本の伝説より、とおもってください。
・・竜形態の顔の表記もしたほうがいいかな?
とはおもったけど、ひとまず割愛……