クマが乗っています
これはつい先月、北海道を友人と旅行した時の体験だ。
友人が親の車を借りていろんな観光地を巡っていた。
夜になり、泊まるホテルに向かう山道。細い道なので対向車も後続車もいない中、前方を走る車のステッカーが目に入った。
<クマが乗っています>
「なんだ? あのステッカー?」
「クマが乗ってるってよ」
相手の車は今では中古で底値で買える年代のスズキのアルトだ。美しい緑色のカラーが鮮やかにヘッドライトに浮かんだ。
「草生えるわ。俺さ、こういう誰それが乗ってますってステッカー貼ってるやつ嫌いなんだよね。ちょっと煽ってるやるか」
「いいね。びびらせてやろう」
友人は前の車に車間を近づけ、蛇行しながらハイビームにしてクラクションを連打した。緑のアルトはしばらく無視して運転していたが、突然急ブレーキを踏んで、車を停止させた。
「お、降りてくるか?」
ドアを開けて何か黒い塊がいきおいをつけて降りてきた。
俺たちは絶句した。運転手は、3mはあろうかという巨大クマだったのである。
「おいてめえら! 何煽ってきてんだコノヤロー!」
しかも喋る!
ボンネットにのしかかり、車はゆさゆさと揺れた。俺たちは顔面蒼白になりながら、恐怖で固まるしかなかった。クマが運転席の窓に詰め寄ってきた。割られたら終わる。そう思った。と、アルトの後席のドアが開き、小さなクマが降りてきた。
「母さん、もうやめよう! これ以上はしなくていいじゃない」
「我が子が言うなら許してやるか。おい、お前ら、これに懲りたらこのステッカー貼ってる車を煽るんじゃないぞ!分かったな!!」
窓を閉じていてもはっきりと聞こえるドスのきいた声でそう言われ、俺たちはうなずくしかなかった。
クマたちはアルトに乗り込み、去っていった。
「今の見たか?」
「いやありえねえって。俺たち夢でも見てたんだろ」
しかし、車を降りて確認するとボンネットには爪でえぐられた生々しい傷跡が残っていた。警察に通報しようにも信じてくれるわけないうえに、煽り運転していた証拠がドラレコに残っているので、二人で話し合い普通のクマに遭遇して襲われかけたというストーリーをでっちあげることにした。
友人は車に乗り込むと、放心したようにつぶやいた。
「北海道のクマは車も運転するんだな。あいつら未来に生きてやがる」




