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思い出のオルゴールの螺子を巻いたのは年賀状

作者: 秋村 百合華

 年の暮れ、古い年賀状を整理していた。古くからの友人、もう付き合いのないクラスメイト、定例文が書かれた親戚…その中から、一枚の葉書に手を止める。幼馴染の綾人からのだ。綾人が大学進学のため上京した年に送られてきた年賀状。

 綾人とは、家が近所で、物心つく前からの付き合いだった。

 幼い頃で思い出すのは、シロツメクサがたくさん咲く野原でお姫様ごっこをしたこと。ふわふわのドレスを着たつもりで、舞踏会へ。今振り返ってみれば、よく付き合ってくれたと思うけど、王子様の綾人は、飽きずにくるくると一緒に踊ってくれた。

 小学生に上がっても、ごっこ遊びは変わらない。秘密基地を作ってはサバイバルごっこ。基地に入るための合言葉は何だったっけ。木枯らし吹くなか、拾ったいい感じの棒を振り回しては、日が暮れるまで遊んだ。

 中学生になると、自転車通学。あの頃、二人乗りは定番だった。突然の豪雨にシャッターの閉まった店の前で雨宿りをしたっけ。雨に濡れた制服にドギマギしたことが妙に覚えてる。

 高校生になった私達は、いつからとなく一緒にいる時間が長かった。夏休みは綾人の家の縁側に寝転がってアイスを食べた。ガラスの風鈴の音が今でも耳に残る。

 高3の冬、地元に就職が決まった私と上京を決意して受験勉強を頑張る綾人は二人だけのクリスマス会をした。生クリームとチョコレートで飾り付けたホットケーキを私が作り、綾人はプレゼントにオルゴールをくれた。近所では買えないクリスマスギフトを、わざわざ遠出して用意するなんて、綾人らしくなくて笑っちゃう。でも本当に嬉しかった。

 それなのに…。オルゴールの音を聞くことはもうできない。

 この年賀状をもらった年の春に綾人は突然この世から去った。交通事故だった。

 気持ちをどこにぶつけていいかわからない私はひたすらオルゴールを鳴らした。そして螺子を巻きすぎて、壊してしまった。修理に出す気力もなく、棚の上の方にオルゴールを閉まったことを思い出し、そちらに目を遣ると蓋がギリギリ見える。

 でも、オルゴールを手に取るにはまだ傷が癒えていないみたい。年賀状一枚でこんなにも思い出が音のように流れ出ちゃうんだもの。綾人との思い出はもう少しの間、心の奥底に閉まっておきたい。いつか、ちゃんと向き合える日まで。

小説家になろうラジオ大賞、全タイトル使用に一度は挑戦してみたい。そんな思いでタイトルを眺めていたら、年の瀬のせつなさと相まって、生まれたストーリーです。

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― 新着の感想 ―
主人公は綾人を好きだったのかな その気持ちに気づいていたのかな 切ないです.... おもしろかったです
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