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第114話 騎士達の想い


 客人を見送った後、円卓に座り直すモーン王とその重鎮。


「どの様に見たか?」


 問い掛け耳を傾ける、騎士国の王として決断の前に必ず行う儀式となっている。

 重鎮達は口々に語りだす。


「ああもずけずけと、とは思いもしましたが総じてこちらの痛いところを突かれてしまいましたなぁ」


「しかも論破や侮蔑を狙うわけでもなく淡々と語り切られましたな」


「現状打破の難しさにも考慮しておった、“人が簡単に生き方を変えられない様に制度を変えるのは容易ではない”であったかな」


「“人に寿命がある様に統治制度にも寿命がある”とも例えていたな」


「そして“人が病に伏せる様に統治が病む事もある”とも……治療法も複数提示しておったよのう」


「“腐った土台の上には碑は立たぬ、されど土台から立て直すのは並大抵の事ではない”でしたか……再起不能になる前に手を加える重要性も説かれておりましたなぁ」


「思想の継承……確かに伝統として円卓に座し話し合う姿勢こそ受け継ぎましたが……当家も武家の習わしか、父も儂も親子の会話と言うものは不得手としてましたわ」


「代々受けこぼして、一から築き直した物が多いのは無駄とは言わぬが効率が悪いとも断ぜられましたな」


 とどの詰まり、制度を正しく延命させるのは前提となる背景の理解、そしてその思想の理解の継承がされなければ度重なる曲解の果てに貶められ時代の遺物・徒花として後世に嘲笑の的にされる。

 新しい時代の制度の踏み台として槍玉に上げられるのである。


 モーン王は常日頃から我が子らには王位を継がせたくは無いと考えていた。

 まともに統治に携わるなら時間などいくらあっても足りない、一言で言えば割に合わない生き方を強いられるからだ。

 遣り甲斐はある、難事を乗り越えて親友とも兄弟とも言える十二の重鎮と肩を叩き合えた時は他に変えられない喜びと充足感を感じる。


 ただ、それにドップリと浸かり過ぎていた事を痛感する。

 統治者として善政を敷いた自負はある、過去の名君と呼ばれた王達に名を連ねるのに恥じないとも自惚れていた。

 だが次世代との語らいに不足が無かったかと問われれば、接げる言葉に詰まる。

 顧みれば父親と言う役割は統治者のそれとは全く違う素養が求められていた様だ。

 思えば父として訓示を垂れた記憶はあっても親子の会話をした記憶がない……例え相手が息子だとしても同じ時代の風を受ける同胞、その同胞に膝折り目線を合わせてその声に耳を傾けた事があったであろうか。

 飜えれば自分の統治は重鎮達と肩叩き合いたいが為の自己満足に過ぎないのではないかと。

 そしてそれに重鎮達を付き合わせてただけではないのか、と。


 本日の論客は何度も思想の継承こそが肝要と繰り返していた、それでも人同士では失われるものはゼロには出来ないとも。

 だからこそ統治に於いては手を抜かずに現状の制度の舵取りは必要であり、次世代の制度を模索する努力が必要なのだと。


 “もしかしたら親子の関係と似てるかも知れませんね……親を演じるだけでは親になれず、子を演じるだけでは子になれず、親が親である価値観を子に伝えて、子が子である生き方の答えは今ここだと……そういった語らいが必要なんでしょうね。多分どちらも普遍的な正解ではないのでしょう、親の世代はやってきた実績がありますけれどいつまでもそれが正解であり続けられる保証はありませんし子の世代は往々にして間違った道に魅力を感じがちです。同じ時代の風を受けた同胞として、お互いの意見を冷静に検討できる関係性こそ目指すべき姿なのかも知れませんね”


 拝聴中、僅かに逡巡した隙を突いて一番秘していたい処を突くとは老獪な話術……いや、恐らく彼の者が持ち得てる智慧とはそこまで、否それ以上に醸成されて居るのだろう。



 

「我が長子には皇太子の任を外れてもらう、元より血統継承など形骸的なもので各役職には次代の指名権のみを明文化した初代の先見に打ち震える限り。次の世代の者達と語らい尽くし、それでも王になりたいならば望む者にくれてやるわ!」


 畏まる我が重鎮、我が朋友達。

 国策を翻した国賊など死罪が妥当、されどもそれすら言及せずに“貸し1”とした度量に今は甘えよう。

 人の親になると言うのは、弱くなるのと同意義語なのであろう。

 だが同時に家族を守る為なら修羅にもなれるのであろう、勿論踏み外せぬ道理はあるのだろうが彼等は言外に好きにしろと言い放った。

 ならば統治者の特権として好きにやらせてもらおうぞ、だが息子には相応の罰と試練を与えようぞ。


「お主等にも思うところは多かろう?我に付き合わせた自覚はあるが、付き合ったのはお主等も同罪よ!我らの受け継いだ武器は語り合いよ、それを家族に振るえきれなんだ不明を恥じようぞ!悔いようぞ!」


 一意専心、騎士道に生きると軽んじていた家族との語らいこそ大事だと説き伏せられた。

 大事も小事も同じだと……否、どちらも大事だと諭された心持ちだ。

 脛に同じ傷持つ同志が故に阿吽の呼吸が頼もしい、願わくば手遅れで無い事を……




 

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